夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 頭スカスカな主人公も嫌いじゃないんだけど、一人称で書くと使える語彙が著しく制限されるのがやりづらい。(たとえば『ごい』とか『いちじるしく』なんて、この主人公は読めないし意味も知らないだろうし。。。)
 平易な単語だけで描写しようとした場合、気を抜くとすぐ幼稚な文章になりそうになる。

 なんで裏視点の方が断然書きやすいので多用することになりそう。
 ふふふ……我は古のside遣い……!(割と最近でも見る気がするけど)




ストレプト湖底封印遺跡Ⅲ

 

 なんか昔のレトロなRPGであるよな、何もないはずの廊下をぶらついてたら急に「もんすたー が あらわれた !!」とか言って戦闘シーンに入るやつ。

 ランダムエンカウントって言うの?いやいやそのデカブツ今まで画面のどこに隠れてたんだよってツッコミしか出ないんだけど、昔はむしろそればっかりだったって言うんだからちょっと信じられない。

 

 ただまあ、あれはあれでラスボス撃破後にどれだけ歩いても魔物は出なくなって、一般人がのほほんと突っ立ってるような光景になると「ああ、平和になったんだな」って分かる演出ができるのは悪くないと思う。―――結局何が言いたいかって?

 

 

「……うわぁ。平和になったんだなー???」

 

「す、少し張り切りすぎてしまって……」

 

 

 今まさにリアルタイムでそんな感じ。とりあえず二百回以上は起きて化物をぶっ飛ばしてお姫様を拝んで寝てまた起きてを繰り返した日々が嘘みたいに、虫一匹も見当たらない。

 

 あの封印の間の結晶も砕け散ったし、それでプリナちゃんも解放されたしでもうこんな薄暗い遺跡迷宮の底にいる理由もない。あの大波で『外』まで化物達を流し切ったプリナちゃんには脱出ルートも分かったらしいので、いま二人で―――可愛い可愛い最強お姫様(プリナちゃん)と、ふたり並んで!!―――ダンジョンの出口に向かって歩いているところなんだけど。

 あれだけうじゃうじゃいた怪物を、たった一度の津波で全滅させたっぽい。さっき言ったとおりの、戦闘のせの字もなさそうな平和な時間だった。カビ臭さごときれいさっぱり洗い流された通路はツルツルピカピカ。

 

 俺のこれまでの苦闘の日々は何だったんだろうと思わせるような圧倒的な実力。それを「つい」で寝起きの一発とばかりに振るった彼女は、一番間近で見ていた俺をこわばったような焦ったような顔で見上げてきて―――。

 

「可愛い」

「………はい?」

 

 

「可愛くて最強なお姫様とか一周回ってもうべたじゃなくてオンリーワンだよな。しかも頑張りすぎて他が活躍するチャンスとか話の盛り上がりとか全部奪い取っちゃって、『やっちゃった』みたいな顔でちょっと沈むの、控えめでよき。その控えめさ、控えめに言って天使だと思うから、控えめに言わなかったらなんて言えばいいんだろな。理想のおよめさん?」

 

「――――っ」

 

 

………、…………。

 

…………やっちまったああああぁぁぁぁぁっ!!!??

 

 ついいつものくせで口からあふれたけど、プリナちゃん起きてるんだってばよぉっ!!

 そりゃ今までの恥ずかしい毎日の妄想も全部全部聴かれてたっていう衝撃の事実は明らかになったけど、そこにさらに面と向かってアホを重ねるとか何考えてんだよやっちゃったのはどう考えても俺だよと。

 

 いくら「さすが封印されし裏ヒロイン、公式チートユニットかお助けキャラかな?」って感じの実力としかもそれを振るった後であわあわするっていう萌え属性がただでさえ可愛いプリナちゃんに乗っかってたのが判明したとはいえ、………いやでもこんなの知って興奮しないのは無理があるから俺はわるくないのでは?あ、嘘、可愛いプリナちゃんに悪いところがあるわけないので俺が悪いです。

 

 そんな具合で混乱してキョドる男、霞悠斗ことミュート。キモいドン引き発言をくり返す全世界最バカ決定戦優勝候補に、女神より可愛いお姫様は花が咲くように微笑ってみせた。

 

 

「――――はい。あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです」

 

 

 そんな殺人的な可愛い発言をしながら手を握って、指と指を絡めて。ちっちゃくてすべすべしてて柔らかくて暖かくて、天国に魂が消し飛びそうになる俺を優しく引っ張ってくれる。

 

「だから早くこの蝕巣(フォーカス)から出ましょう、ミュート。ここはあなた様と愛し合い睦み合うには、あまりに暗く澱んでいます」

 

「う、うん」

 

 恥ずかしくないわけでも緊張していないわけでもないんだろう、少し震えながら斜め前を進むプリナちゃんの横顔は真っ赤っか。俺が『でんきだま』(エ○キボール)で照らす光の中、影のくっきりしたシルエットと、まっさらに白くてところどころ虹色に光る長い髪。

 いつか語った理想を実行してくれている―――二人で歩いてて恋人つなぎするけど恥ずかしがってちょっと速足で引っ張ってくるシチュとかよく思い出したら以前語ったわ―――けなげさもあって。

 

 どんなに『くらくよどんで』いる場所でも、この子さえ居れば幸せだなぁって。

 

 俺はそんな当たり前のことを、もう何百回目かも分からないくらい噛みしめていた。

 

 

 

 

…………。

 

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

 

 繰り返す。

 

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

 

 繰り返す。繰り返す。

 

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

 

 心の臓に、脳の髄に、血に肉に。

 刻み付けるように、殴り書くように、焼き焦がすように。

 

 

―――――理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい理想のおよめさんになりたい

 

 

 肌が真っ赤に染まる程の怒りと、情けなさと、後悔と、嘆き……その全てをも容易く呑み込む愛情を籠めて。

 少女の思考にはそれしかなかった。それしか要らなかった。

 

 だって、なんて浅ましい。

 (ようや)く彼と話し、彼に触れることができる―――その歓喜のままに振るってしまった『水』の夢能(デルシオ)。「救世主たれ」と祈ら(呪わ)れて備わった力は、寝ぼけた頭で起動したあの程度の“水鉄砲”ですら抗魔士(イムニティ)としてあまりに懸絶している。

 

 史上生きとし生ける全てに比して、競える存在すら居ない理不尽なまでの暴威。それを目にする者が浮かべるのは、超越者への畏敬か、本能的な恐怖か、あるいは『それがあるなら人々を救うのも容易いに違いない。やった、自分は助かった!』―――勝手に彼女の在るべき行動を都合よく定義する、エゴに塗れた醜悪極まりない歓喜。

 よりにもよって、彼がそんな自分本位で愚劣な壁蝨(ダニ)達と同じロジックを抱くのではないかと怯えてしまった。疑ってしまった。

 

 そんな惨めな女に可愛いと言ってくれるような、愛おし過ぎるひと。

 嗚呼。百の詫びも、千の賞賛も、この胸の内で滾々(こんこん)と溢れる激情を彼に伝えるひとかけらにすらなりはしない。

 

 けれど幸いなるかな、少女が自らの愛情を表現する手段に迷うことはなかった。

 だって彼が理想とする女の定義は、出逢ってから毎夜毎夜に余すことなく既に語ってくれている。その全てを余すことなく記憶している。

 

 ならやることなんてたった一つしかなかった。

 

 彼に好かれる為に?彼を喜ばせる為に?―――否。

 媚びて?演じて?―――否。

 

 

 愛されるのだ。彼が愛するに相応(ふさわ)しい、『理想のおよめさん』になるのだから。

 

 

 だって憧れた。『英雄姫』ではなくただの少女として好きな人と結ばれて過ごす素敵な恋物語、彼はそのヒロインに私を選んでくれた。

 それはとっても幸せなことだったから。

 

 だから、なりたいです。

 

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

 

 繰り返す。好きな人と手を繋いで歩いて嬉しくてでも恥じらう女の子に『成り』ながら、ずっとずっと繰り返す。

 

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

 

 全てを憎み全てを呪い全てに倦んだ、枯れた死霊……暗く澱んだ本性を塗り潰すようにひたすら繰り返す。

 

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいです。

 

 繰り返す都度に消えていく。正気とか、認知とか、理性とか、己の根幹を為す精神的な構成要素がぐずぐずと溶けて剥がれ落ちる。そんな感触を憶えながら、彼が理想とする『おんなのこ』へと無理やり思考回路を歪め捻じり嵌めて詰めて形を整えていく。

 

 

―――あなた様の理想のおよめさんに、なりたいから。

 

 

 『本当の自分』なんて不純物(ゴミ)、捨てて何も惜しくない―――少女はそんな当たり前のことを、もう何万回目かも分からないくらい噛みしめていた。

 

 

 





 絶望して闇落ちしていたヒロインが愛に目覚めて変わる。
 うん、どこからどう見ても心あたたまる純愛ストーリーですねこれは。

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