夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 プリナちゃんが外でお話できない縛りの関係上、気付くとメインヒロインより出番多くなりかねないペットヒロインちゃん。

………そんな邪魔になって来たら死なせて退場なんてどこぞのトミノみたいな(ぇ




港湾都市プロステⅠ

 

「ミュートさんミュートさん!今日のおゆーはん、何がいいですかっ?」

「おさかな食べたい気分」

「わぅっ。じゃあ今日の買い物行ってきます!」

「行ってらー」

 

 日課で毎朝のギルド掲示板確認が終わって、大通りを抜けたあたりでエルザがぱたぱたと商店街の方に駆けていく。

 毎日の買い物に付き合うかどうかは日によって半々だけど、どっちにしてもエルザのリアクションはほんとにワン公になっていた。

 

 ついてったら隣で“おさんぽ”気分でるんるんしながらスキップで進むようになるし、ついて行かずに家で帰りを待って、「おかえりー」ってのどや頭をくしくししてやると甘えた鳴き声出しながらご満悦状態。

 抗魔士(イムニティ)のエルザに三人分の食料品の持ち運びなんて全然負担になってないし、最初は放置も悪いなと思って毎回同行してたんだけど、どっちも同じくらい楽しそうなんで荷物多くなりそうな日以外はもうお任せになってる。

 

 そのうち「いつもありがとう」でプレゼントとかした方がいいかなーって思ったりするんだけど。

 

 

 

「なんかいいきっかけとかないかな」

「きっかけ、ですか?」

 

 家に帰ってから、プリナちゃんに相談してみる。

 

 ベッドに腰かける形で並んで座って、プリナちゃんは俺の右手を取って両手でにぎにぎさわさわしてる。ほくほく顔で指を一本一本握ってみたり、手のひらの線をなぞってみたり。

 くすぐったいし照れくさいけど、可愛い可愛いお姫様に触られているのと、触ってるお姫様がすごく幸せそうにしてるのが嬉しくて気にしないふり。

 

「ほら、プレゼントってやっぱり記念日とかにもらった方が特別感出るじゃん?誕生日のお祝いとか」

「生誕した日を祝う、ですか……ふふっ。素敵ですね」

「この世界には無いの?誕生日プレゼント」

「さあ?あったのかも知れませんが、私には縁のないものでした」

 

 あれ?地雷?

 くすくす笑ってるプリナちゃんに気にしたそぶりはないけど、それは深掘りしていいのかな。

 

 そして話をしながら思ったんだけど、プリナちゃんにも何かプレゼントができるならしてみたい。彼女にあげた物が今のところ顔隠し用のヴェールだけ、ってなんか怪しい感じしかしないし。

 

「………ちなみにプリナちゃんの誕生日って?」

「ひみつです♪」

 

 そう思って聞いてみたら、人差し指を立ててちょっと首をかしげながらウィンクしつつのポーズ。可愛い。ていうかこの仕草もあの遺跡で以下略。

 

「あなた様の正確な誕生日は、世界を移動してあの遺跡で私と出逢うまでの時間感覚もなかったせいで判らなくなってしまっているのでしょう?

 ミュートの誕生日が祝えないのに、私だけそうしてなどとどうして言えるでしょう」

「プリナちゃん……」

「その代わり新年に、その年に成人になる子などが居ればまとめて祝いの席を設ける風習はあります。だから年明けの日、いっしょにケーキを食べてお祝いにしませんか?」

「うん!」

 

 しかもけなげで気づかい上手。なんだこれヒロインとして最強か。最強だったわ。

 

「……話を戻すとエルザは孤児です。自分の誕生日をそもそも知らない可能性もあります」

「う。聞きづらいなぁ、それ」

 

 よくよく考えたら地雷はこっちだった。

 「誕生日いつ?」に「知らないです!」って返されたらどう反応していいかなんて全然分かんない。

 

「なんか考えとくかー」

「私も案が浮かべば言いますね」

 

 当然だけど俺達はこの世界のイベント日とかまだ全然知らない。知ってるのはエルザだけど、「プレゼント渡したいけどいつがいい?」なんて本人に聞くのはすっごいアレな気がする。

 

 そうすると新年のお祝いとかエルザがこの家に来て半年とか、そういうタイミングになるのかな。

 そんなことを考えていたら、買い物が終わったエルザが戻ってきたわけだけど。

 

 

 

「わぅ……」

「おかえり……って、ど、どうしたエルザ。しんどい?気分悪い?」

 

 買い物袋をさげて帰ってきたエルザだけど、いつもなら「ほめてほめてー」ってシスター服を脱ぎ捨てて薄着で突撃してくるわんこが、しゅんとしたまま玄関で立ちつくしてる。

 ほんとに雨に濡れた子犬みたいなふいんきで、しかも半泣きで瞳をうるうるさせながら言うには。

 

「おさ―――」

「おさ?」

 

 

 

「おさかな、買えませんでした……」

「お、おう」

 

 

 

 そんな「なんの成果も!!得られませんでした!!」な例の画像みたいな悲壮な感じで言うことなのかそれ。いや、気持ちは嬉しいんだけど「今日はおさかな食べたい気分」にそんな一生懸命になられても困る。

 

「ミュートさんにおいしいおさかな料理作ってあげたくて、あちこちお店回ってみても全部売り切れで……ぅぅううう゛う゛う゛」

「ああっ、泣くなって!どうどう、よしよーしエルザはいいこだぞー」

 

 耳もしっぽもぺたんと垂れてて、ついにえぐえぐし始めたエルザを引き寄せて背中とんとん。前も似たようなことがあった気がするけど、泣いてる子の慰め方ってこれでいいのか?

 

「代わりの晩ごはんの材料は買って来てくれたんだろ?エルザの料理おいしくて好きだからさ、胸張ってドヤってればいいんだってば」

「わ゛う゛……ごしゅじんさまぁっ!!」

「!?」

 

 なんか動転し過ぎてとんでもないこと言い始めたんだけどこのわんこシスター。

 

 

「エルザ」

「―――プリナさま」

「ミュートはあなたを許しています。いつまでもみっともなく騒いで迷惑をかけるものではありませんよ?」

「はい。……ごめんなさい、ミュートさん」

 

 

「お、おう」

 

 そしてプリナちゃんが一声かけると一気に落ち着いた。

 なんか“圧”みたいなのが声に乗っかってて、反論しづらい喋り方。それを向けられたエルザも耳がぴんって立って気つけみたいになってる。こういうのカリスマって言うのかな。うちのお姫様すごい。

 

 何はともあれ、エルザはいつも通りその日もごはんを作ってくれた。

 ちなみにその日のメニューはチキンステーキ。おさかな買えなかったから鶏肉で代わりにしたのかな。すごくおいしかったです。

 

 

 

………。

 

 それで次の日の朝、雑談ついでにギルドでおさかな売ってなかった件をクロケおねーさんに話したところ、何故か会議室に連れられてメガネギルド長と面談することになった。

 こーゆーお呼び出しってなんか不安になるよね。なんも悪いことはやってない……はずなんだけど。

 

「まず基本的な知識として共有するが、この城塞都市パーシャルの流通はカピラリ川を水運として下流の港湾都市プロステと接続している」

「………?うーん、と?」

「ミュートさん、この街に沿って流れてるおっきな川、ありますよね?

 あの上をおふねで運んで、“だんじょん”の“どろっぷあいてむ”とか農作物を、川の先にある港町やそこを通して他の国に売ったりしてるんです。

 代わりに布とかおさかなとか、あと他の国の珍しいものを買って、戻ってくる船に積んで帰ったりもしてるんです」

「ほへー。そうなんだ」

 

 いきなり言われてぽかんとなったけど、エルザ先生の分かりやすい翻訳でなんとなくイメージが湧いた。

 

 頭良い人でも、素人に分かりやすいように喋れる人とそーでない人っているよね。

 性格的にその手間をかけたがらない人と、言い換えて正確なニュアンスが違っちゃうのを嫌う人と、専門用語を専門用語のままこねくり回すことしか能のない頭良い人を気取ったただのバカの三種類いるって学校の先生が言ってた気がするけど、このギルド長はたぶん一つ目と二つ目の真ん中くらいな気がする。

 

「その海鮮物に関してだが。大部分は漁港も併設されたあの港で出荷されているものだ。

 つまり不漁により昨日は品物がこの街に届いていなかった、ということだな」

「ふむふむ。なんか事件の香り?」

「少なくとも漁師の怠慢や不手際という話ではないだろうな―――『海面が一日にして舟一隻分下降した』、などと」

「え?まじ?」

 

 軽い気持ちで続きを聞いてたら、思ったよりもすごいことが起きてた。

 だってそれ、停めてた船が陸に乗り上げて“べきっ”とか“ばたっ”とかなりそうじゃん。

 

「まだ詳細情報は上がっていないが、港湾施設への損傷も当然予測される。

 プロステの流通に支障が生まれるのは、当然この街にとっても損害だ。そこで」

「そこで?」

 

「ギルドより『サンダーラット』への指名依頼を要請する。

 現地に(おもむ)き、原因の調査と排除を依頼したい」

 

「………急な話だなー。ていうか排除って、つまり」

「十中八九蝕魔(インフェクター)による破壊行為、と見るべき案件だ。抗魔士(イムニティ)によるテロ行為、という可能性もないではないが」

 

 まあそうだよね。能力的には例えばプリナちゃんならやっちゃえるだろうし、温暖化で海面上昇~とかはテレビとかでも散々やってたけど、海の水位がいきなり下がることが自然に起こるなんて聞いたことがない。

 やってることがそこそこスケール大きそうなんで、面倒くさいモンスターが出て来る気もするけど。

 

「あのっ、すみませんミュートさん、エルザはこの依頼お請けしたいです!」

「そーなの?」

 

 と、そこに珍しく自己主張するシスターさん。なんか眼が燃えてる。

 

 

「その蝕魔(インフェクター)のせいで昨日ミュートさんがおさかなを食べられなかったのならば!

 我が信仰に懸けて、敬愛する方に災厄をもたらす怨敵には駆逐・処刑・滅殺あるのみです!!」

 

 

「お、おう」

 

 どうしよう後半だけだったら戦うシスターとしていい感じにかっこいいのに。

 本当に、気持ちは嬉しいんだけどね。

 

 





>「ミュートの誕生日が祝えないのに、私だけそうしてなどと」
 その理由も嘘ではないけど、それ以前の問題として“英雄様”の生誕日なんてこの世界じゃまんまクリスマスとほぼ同義なんで年に一度のイベント日。ツッコんでくださいって言ってるようなものなのにミュートくんにわざわざ教えたくないわな。

>プリナちゃんが一声かけると一気に落ち着いた
 調教師プリナさんりたーんず。

>なんか“圧”みたいなのが声に乗っかってて
 心臓の弱い方と普通の方はこれだけでショック死するのでご注意ください。

>すごくおいしかったです
 小学生並みの(語彙力の)感想。

>能力的には例えばプリナちゃんならやっちゃえる
 ネタバレ:プリナちゃんは犯人ではありません。最有力容疑者ですが。

>「我が信仰」
 一にご主人様、二にご主人様、三四がなくて五主人様。

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