夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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港湾都市プロステⅡ

 

「なあギルド長さん。いくつか質問いい?」

「当然だな。答えられる範囲で答えよう」

 

 海面を下げて港町に被害を与えたモンスター(推定)を見つけてやっつけろ。

 ギルド長から依頼されたこの話、エルザがヤル気満々だし受けてみてもいいんだけど、いくつか聞いとかないといけないことがある。

 

「まず、エルザレーダーでも原因のモンスター見つけられなかったらどうすんの?もうその時点でお手上げな感あるけど」

 

 水に関わる話だからプリナちゃんの領域でもあるけど、そこは秘密なんで触れないってお約束は流石にそろそろ分かって来てる。実際救助依頼では大活躍の魂感知式エルザレーダーと比べてどれくらいお役立ちする索敵性能なのかは、あんまりプリナちゃんにも確認してないし。

 

 そんでこの質問は予想してたのか、メガネギルド長さんはうなずきながらすぐに答えを返してきた。

 

「正直な話、それなら一週間ほど現地に滞在してもらえばそれでいい。成功報酬はなくなるが前金のみで十分な額を用意しているし、旅費と滞在費もギルドで持つ。

 『港湾都市の為に抗魔士(イムニティ)ギルドが特記戦力を派遣した』、最も重要なのはその事実だ。無論、原因を排除し流通の阻害を解消してもらえればそれに越したことはないが」

「え、いいの?」

「政治の話、ですね」

 

 あとでエルザに聞いた話だけど、「君が困ってる時にこんなに頼もしい戦力を提供してあげたんだよ。もちろんお返しに、商品を安く売ったりしてくれるんだよね?」みたいな話らしい。正確にはもっと色々思惑があるってことだけど、詳しく追及したい訳でもないし追及しても多分ちんぷんかんぷんな予感しかしない。

 

 

「じゃあもういっこ。救出依頼、しばらく俺達がいないけどいいの?」

「構わない」

 

 

 こっちも予想してたらしく即答だった。

 即答過ぎて、なんかさびしく感じるほど。これまで迷宮から帰れなくなってた冒険者達を少なくとも十人以上は助けてて、俺達けっこう仕事したと思ってたんだけど。

 

 そんなちょっとダウンしたテンションを見抜いてたかは分からないけど、フォローっぽい理由をギルド長は語ってくれた。

 

「そもそも塩漬けのまま取り下げが当たり前だった救出依頼の消化は、其方(そちら)の善意に寄りかかっている部分が大きい。確かに助かりはするが、そもそも十分な対価も代償も払えない状態で相手の『善意』を前提として体制を構築するのは、健全とは程遠いだろう」

 

『………』

 

 なんかプリナちゃんがほんのちょっとだけびっくりしたみたいな動作した。今の言葉、なんか引っかかったのかな。普通のこと言ってるだけだと思うんだけど。

 

「ついでに言えば、そちらも感じているかも知れないが……『サンダーラット』の活動開始以後、救出依頼の発生頻度自体が少し下がっている」

「んー、言われてみれば?」

 

 ダンジョンから帰ってこないパーティーは最初週1回ペースくらいだったのが、2週に1、2回くらいかなーって感じでしか変わってない気がする。

 あ、でもこの調子で何か月も続いたら死んじゃう数もだいぶ変わってくるのか。

 

「でもなんで?『ピンチになっても助けてもらえるかも知れない』って思うようになっちゃったら、むしろ突っ込み過ぎるやつも居る気がするけど」

 

 もしそうなったらさすがにそういうやつらを助けるのはちょっと嫌だなあとか思ってたんだけど。

 頼られるのならともかく、無責任にこっちをあてにしてくるやつの面倒を見たいと思うほど俺はボランティア精神あふれてるわけじゃない。プリナちゃんやエルザを付き合わせてるんだからなおさらだ。

 

 でもギルド長は頭痛をこらえるように少しうつむきながら首を振って、「逆だ」と言った。

 

「『サンダーラット』に助けられた結果、貯蓄の5割を失ったその後が噂になっている。特に十分な装備を買い直せず以前の活動に戻れないまま落ちぶれた連中のな」

「まあ悪目立ちするよね。立ち直ってまともに過ごす人のことより、荒れてやらかす人の方が話のネタになりやすいし」

「………時々妙なところで察しがいいですよねミュートさん」

 

 そりゃ元の世界で炎上系動画やつぶやきなんてあちこちで貼られてるのを見てたから、『まともで常識的なことだけ言う人は埋もれて目立たない』くらいは分かってるし。

 あとびみょーに失礼なわんこはあとで軽くお仕置きしとこう。

 

「それがどうも重石になっているようだ―――『救出依頼の世話になれば、自分もああなってしまう』、とな」

「ええ……。死ぬよりマシじゃん。別に2ランク下のダンジョンまで活動レベル下げたって、普通に生きる分には十分食っていけるんだし」

「まともに考える頭があるなら全くもってその通りだ。だが、『死』より具体的で視覚化されたリスクをその目で認識して、やっと慎重さというものを会得(えとく)する阿呆は、(こと)(ほか)数多かったらしい」

 

 『死ぬかもしれない』ことよりも『貧乏暮らしになるかもしれない』ことにビビって慎重にダンジョン探索するようになった抗魔士(イムニティ)がそこそこ居て、生還率が今はちょびっと上がってるらしい。

 逆じゃねえの、とは俺も思う。ギルド長が呆れ返った感じになってるのも分かる。

 

 ただ―――そいつらがどうしてそんな考え方になるのかも、なんとなく分かる。

 

「しょうがないんじゃない?本当に死にそうになるまで、誰だって危機感はずっと足りないままでしょ」

「…………」

 

 危ないことをしていたり失敗フラグに気付いてないシチュでちょくちょくコメントされてる昔のマンガのセリフ。

 アレのあおり性能が高いのは当たり前だ。誰でもいざ自分がその時になる直前まで、死をちゃんと認識して恐怖するなんてことないんだから。だってその恐怖を抱えて普通に生きていけるほど、人の心は強くない。

 

 

「―――ちょっと、うらやましいよね」

 

 

 俺はあの遺跡で暗闇の中何度も死にかけて。眠り姫のプリナちゃんに話しかけ続けることでなんとか正気でいられた。

 

 自分の方がかわいそうとか現実を知ってるとか言うつもりはない。イキりとか、イヤみとか、そういう上から目線の感情じゃない。

 モンスターと命がけで戦っていても、無意識に『自分がまだ死なないと思っていて』、自分の財産が半分消えることの方がはっきりイメージできるから怖いと思える感性。きっとそれは、俺にはこの先一生取り戻せないもので。

 

 理由はどうあれ自分の命を大切にできる選択をした人たちを、笑ったりバカにしたりする気分にはなれなかった。

 

『……あなた様』

「エルザは、いっしょです」

 

 プリナちゃんが肩に手を置いてくれて、エルザが逆の腕を(かか)えるように抱きしめる。

 こんなぜーたく者の立場で、誰かをうらやましがるものじゃないんだろうけど、さ。

 

 

 

…………。

 

 空振りならそれでもいいという、ある意味いつもの救出依頼と変わらない条件であること。僅かだが救出依頼の頻度が減少傾向であり改善の兆しがみられること、それもあって自分達の不在に後ろめたさを覚える必要がないこと。

 

 それらを確認し、ギルドで用意していた港湾都市行きの船便チケットを受け取ったカスミ・ユートとP・エルギノーザ、そして『正体不明』が応接室を退出するのを、ギルド長ヴァリスは見届ける。

 扱い一つで都市を崩壊させかねない爆弾。災害級抗魔士(イムニティ)である彼の先ほど垣間(かいま)見えた少年性に対する洞察を、ただ胸の内にしまい込んで。

 

 望むと望まざるとに(かか)わらず、そこにあるだけで影響力を振り撒くあの天災を無難な方向に誘導する義務がヴァリスにはある。だが、“普通”で在れたのならそれでよかった―――そう(にじ)み出た嘆きを利用しようという選択肢は、彼の矜持(プライド)の許す範囲にはない。どのみちそんなことをすれば間違いなく『正体不明』の激怒を買っただろうが。

 

 しかし、身に秘めたあの山砕く暴威とどこまでも相反する人格の純朴さは何なのだろうか。別段人の悪意に触れずに育ったという訳でもなさそうなのに。

 

「あのー、ミュートくんたち、もう行きました?」

 

 実用に(きょう)さない以上まさしく興味本位の思考を(もてあそ)んでいると、実質『サンダーラット』の専属担当官となっている受付嬢クロケがおそるおそる応接室のドアを開けて覗き込んできていた。

 普段眼を大きく見せるためにしている目元の化粧は、どちらかというと黒ずみを誤魔化すように濃さを増している。

 

 そして、彼女の期待しているところを把握しているヴァリスも、ことここで意地の悪い焦らしをするような性質ではないので次の質問まで先回りして回答する。

 

「ああ。正午過ぎに出航になる。帰りのチケットは一週間後で押さえているから、それまで彼らがこの街に戻ることはないだろう」

「~~~~っ、なら」

「その間、貴官は休暇で構わない。存分に英気を養え」

「ありがとうございますギルド長閣下万歳!」

 

 へへー、と大げさに感謝のお辞儀(じぎ)をするクロケの動作を口元一つ動かさない無表情でスルーするヴァリス。

 普段彼女がどれだけギルド長(ヴァリス)の陰口を言っているのか、“戦友<上司”な恋する同僚から筒抜けだし、Bランク抗魔士(イムニティ)の耳で直接聴いたこともある。見え見えの追従をされたところで寒い芸にすらなっていなかった。

 

 だが彼女は間違いなくギルドの職員で、大事な大事な被害担当艦(ミュートくん係)である。アクティから「精神的にそろそろ危ないかもです」と報告を受けて、手入れの必要性は感じていた。

 

 

―――そう。今回の『サンダーラット』派遣について、エルザの推理した港湾都市プロステに対するギルドの政治的思惑のあれこれは当然ある。あるのだが、それ以上に、クロケをいい加減休ませようとしていたところにちょうど良さそうな遠出案件があったので振っただけというのが最も大きい理由だった。

 

 

「新作の服、これでやっと心おきなく見に行けるぅ~~っ。

 ホテルも予約して、スパでのんびりしてめいっぱい奮発してディナーコース!いい出会いとかもあったりして、うふふ」

(………口減らし前日に精一杯ごちそうを食べさせてもらえる農民の子を見ているとこういう気持ちになるのだろうか)

 

 ポルフィロモナス・ジンジヴァリスは部下への気遣いができるギルド長である。

 これからの遊ぶ予定を色々考えてひとり言が漏れるほど浮かれたクロケを、一週間後には容赦なく元の被害担当艦(ミュートくん係)のお仕事に連れ戻す気満々だが、たまに休暇を取らせてあげる程度には優しいブラック上司なのである。

 

 

 





>健全とは程遠い
 相手の『善意』に全力で縋りつきましょう、と説く教会とは相性最悪なギルド長のリアリズム。他力本願の否定はこの世界の信仰の正反対なので、人間に何一つ期待してないプリナちゃんがほんのちょっとびっくりするレベルである。

>びみょーに失礼なわんこはあとで軽くお仕置き
「………わぅ♡」

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