夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
「ふーねー!」
トラック3~4台分くらいの大きさの船に乗って、波に揺られて。
木で出来てるわけじゃなさそうで、白いぼでーにそれっぽい模様は浮かんでない。どうでもいいんだけど、なんで船って基本白なんだろね。青にしたら見えづらいだろってのは分かるんだけど。
それで川下りしてる最中なんだけど、両側の岸までどっちも1キロ以上ありそうだから普通に海で船に乗ってるのと感覚的にはあんまり変わらない。でかいなこの川。
ただ船に乗る機会なんて旅行の時くらいしかないから、自分の乗ってるのが水の上に浮かんでるってだけでも気分が楽しくなってくる。
「ふーねー!」
「ふーねー!」
昼過ぎの便だからかもしれないけど、船員とあとは積み荷の荷物番の人たち以外乗ってなくて今この船に乗ってるのは十人くらい。あの人たちにとっては見慣れた景色をずっと眺めるまでもないのか、デッキの上は貸し切り状態だった。
だからこうやって思いっきり叫んでも迷惑にはならない、と思う。たぶん。
「ふー!ねー!」
「ふー!ねー!」
「おーよしよしいい子だぞー」
「わぅわぅ♪」
そして乗っかってくれるノリのいいエルザさん。お礼に頭なでなでするといつも気分良さそうににこにこ笑うから、なんか軽い感覚で頭のてっぺんに手が伸びるようになっちゃった。『お手』や『おかわり』を披露したペットにやってるのと同じな気もしてくるけど。
『ふー、ねー!……(ちらっ)』
そしてたまーにスキンシップがうらやましいのか、ちょっと恥ずかしそうに叫んだ後こっちに頭をちょこっと近づけてくる俺のお姫様。可愛いが過ぎる。
『これは、よいものですね。うふふ』
「ふいんきだけで可愛いのもうズルいの領域」
外だからヴェール越しのなでなで(それを言ったらエルザもシスター帽越しだけど)でも、声が弾んでるから『隠蔽』してても感情が伝わるくらい喜んでくれてるんだなって分かる。
だって今のプリナちゃん、マンガで言う『フードを被った正体不明の謎キャラ』状態にしか見えないのにそれでも可愛いの派手にすごいと思う。A+ランクのハイディング能力でもプリナちゃんの可愛さは隠せないってことだな!つまり可愛さSランク……!
『ずっと可愛いと言い続けてくれる素敵な恋人さんがいる。私は、果報者ですね』
言ってることも大体可愛いし。
「今回のこれ、お仕事はお仕事だけどさ。一週間も初めての旅行だから、楽しいこといっぱいしようね」
『はい!』
「はいです!」
船が目指すは港町。怪しい事件が起こってはいるみたいだけど、海の幸とかけっこう楽しみ。海水浴場とかあったら、もしかしてプリナちゃんの水着衣装が見られたりするかもとか下心もちょっとあったりして。
と、そういうイベントを台無しにしかねない『うみのまもの』のことが気になってちょっと質問してみる。
「そういえばこの世界、やっぱり水中モンスターとか水中ダンジョンとかあったりするの?」
「水中に
俺とプリナちゃんのやり取りを上機嫌に見守っていたエルザがぽへーとした顔で首をかしげる。あまり、というか全然聞いた記憶がないみたいな様子だった。
この世界のモンスターはダンジョンの湧きを狩らずに放置してると外にあふれてくる仕様らしい。
水中ダンジョンとかそれこそプリナちゃんでもないと攻略できない気がするし、そうなると海はモンスターのすくつ、みたいになってても不思議じゃないかなーって実は少しだけ気を張ってたんだけど。実際港町で悪さしてるモンスターは居るっぽいし。
『―――そうなる為の「恐怖」が足りていない。形作られるための「総意」がない。
であれば、海中や沖に“もんすたー”が湧くことはほぼありません。今回のケースは特殊な事例でしょう』
「?んーと、どういうこと??」
『この世界の、いえこの場合は“この大陸”に住む民の大部分は内陸、海のない場所で生まれ育ちます。彼らが「海底に船を食らう恐ろしい怪物が
「それは……」
『岸の見えない沖合で漂流する恐怖、嵐の海で荒波に全てを呑み込まれる恐怖、“人を
それを語るプリナちゃんは、『正体不明』状態なのもあって底知れない気配を出していた。
『異世界から来たミュートが会話による意思疎通を行える理由の話と同じです。
“この
しゃべってる言語が違う人が居るなんてことを誰も想像できないから、日本語をしゃべっていても言葉が通じないなんてことはないのと同じように。海のモンスターなんて想像してる人は海辺の人だけだから、みんなが想像できるものじゃないから、いない。
「それはプリナちゃんが言うならそうなんだろうけど、えっと?」
なんだろう、なんか引っ掛かる。ミステリを見ていて『このシーンですでにおかしいところがあったよね?』みたいな、後になって理由が分かるタイプの違和感。
言葉が通じるどうこうの話をしていた時は、『正の側面だけを見れば、さほど』問題じゃないみたいなことを言ってたと思う。じゃあプラスじゃない、反転したマイナスの側面っていうのは。
「うーん、分かんない!エルザは?」
「あはは。エルザは答えをもう知ってますから。
………ヒント、要ります?」
「いりゅ」
「川や井戸に落ちて溺れ死ぬ、凍え死ぬ、泥を飲んで死ぬ―――そういうことへの『恐怖』と『総意』は足りてますから、水辺の
…………。
浮かれている、とプリナは自分の精神状態をそう分析していた。
―――こんなの、あんまりだわ……!自分達が撒き散らしたゴミを、姉さまに掃除させているようなものじゃないッ!!英雄姫と持て
かつてこの真実を知った時、自分のためにそう
あの時とは状況も認識も異なるし、何故かミュートなら平然と「ふーん」で済ます予感しかしないが、ショックを受ける可能性もある真実を敢えて教える必要性がない。
それなのに雑談ついでのように漏らしてしまったのは、それだけ『理想のおよめさん』のふるまいとしてではなく、ミュートとの旅を楽しみたいという彼女自身の欲望が強く出てしまっているからなのだろう。
かつて大陸中を転戦して巡ったというのに、隣にミュートが居るというだけで心持ちがまるで変わっているのは可笑しな話だ。
行先が海辺の港町というのも一因かもしれない。
ミュートが自分の水着姿を期待してくれている、というのは言われずとも察している。どんな水着姿がいいかはあの遺跡でいくつか候補を語られているから、エルザを使って合致するものをうまく調達する必要がある。……すくーる水着、というものだけはよく分からなかったが。
そしてそれ以上に、砂浜であばんちゅーるというものが一番の楽しみだった。
彼女の
何をやってミュートを楽しませよう、細かい水滴を空中に撒いて日光をきらきらと乱反射させるか、水塊を色々な動物の形に姿を変えながらのショーがいいか、いずれにせよミュートがあの無邪気な笑顔で褒めてくれるのが今から待ち遠しい。
―――姉さま姉さま、すごいですっ。
生まれの関係から、子供の頃にそういった無邪気な遊びをできる相手はただ一人、同腹の妹しかいなかったが。
どうにも、思い出してしまう。
守るべき最愛の妹、だったと思う。
独り人類の希望を背負わされた姉を支えるため、救世の旅にわざわざ付いてきた健気で強情な妹、だったと思う。
断言できるのは………自分の妹に生まれてしまったことそれ自体が最悪の不幸だった、哀れな妹だったこと。
―――禰ェ、穢ェ、鎖ァ、魔ァ、??!??!
幾重にも折れ曲がる何本もの節足。触れた物を焼き溶かす鱗粉まみれの翅。ぎょろぎょろと何十もの視線を投げつけてくる、翡翠色の複眼。
甲斐のないことに、あれだけ慕っていた姉が妹について思い出せるのは、姫と呼ばれるにふさわしい可憐な少女の顔ではなく――――かつて自らが手にかけ湖の底に沈めた、醜悪な異形の姿だけ。
そんな薄情な姉を慕ったばかりに破滅に追い込まれた、本当に哀れな妹だった。
だーくふぁんたじー!
彼氏と海に旅行に行くことになり超ご機嫌なプリナちゃんの描写なのでほのぼのです(強弁)
ちなみに、『千年紀』の中で英雄様の妹に関する描写は一文字たりともありません(粛清ゲージ+1)
>なんで船って基本白
直後に答え自分で言ってる。夕暮れの時の赤とか夜に黒とか、周りから見えづらい色にして他の船がぶつかってきたら困るでしょ。
>可愛さSランク
凶悪さもSランク。
>
訓練された読者にはもう大体お見通しな気がする。呪術〇戦は本作に関係ないですよ!
サル通り越してダニ呼ばわりも残当っていうか、何がアレかってこの“真実”を知ったことが“プリナちゃんの”闇落ち原因ではないことなのである。
>ミュートなら平然と「ふーん」で済ます予感しかしない
だって人間の醜悪さが生んだ敵キャラなんてマンガ・ゲームだと掃いて捨てるほどいるし……。
>すくーる水着、というもの
もちろん胸のゼッケンにはひらがなで「ぷりな」である。
これくらいなら通常性癖の範疇……かなぁ?
>醜悪な異形の姿
プリナちゃんの眼の色もヒスイ色。つまりそういうこと。
千年経ってもちゃんと思い出せるあたり、トラウマ度高そうですねこれは……。