夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
ふねでぷかぷか、だいたい4時間くらい。
川を下る便だからこの時間で、上りだと5割増しくらい掛かるって船員さんは言ってた。
ちなみにこの船、魔石でスクリューを動かしてるのと、上りは水流の抵抗を抑える魔道具が組み込まれたファンタジー仕様の船なんだってさ。前半は元の世界の船も同じな気もするけど。
「ミュートさん、もう少しで到着するみたいです!」
「じゃあちょうどいいところで切り上げますかー」
『では、これでコールしますね』
「わぅ!?」
「………わぁ、エルザの手札すっごい事故ってる」
でもまあこれくらいの時間だったら船の中探検したり川沿いの景色を眺めたりエルザと雑談したりプリナちゃんといちゃいちゃしてたらそんな退屈ってほどでもない。
入港のために船員さん達や荷物運びの人達がいそいそと持ち場に移動し始めたので、今のゲームを最後に船室で広げてたカードを片付けることにする。
トランプみたいなのはこの世界にもあって、こうやって3人でちょこちょこ遊んだりしてる。ここがなんかのゲームの世界なら、カジノとかも実装されてる系だったのかな。
マークは見慣れた4種類じゃなくて5種類あるし、代わりに数字は1から9まで。プラスでジョーカーっていうかワイルドっていうか、そういう系のも1枚。慣れるまでは少し戸惑ったけど、だからってそれでやることってあんまり変わらないよね。
今やってたのはババ抜きとポーカーを混ぜたようなゲーム。手札9枚を引いて要らないカードを捨てて山札から同じ枚数再ドロー。全員一巡したら、今度はそれぞれのプレイヤーが一人相手を指定して、3枚まで要らないカードを渡しつつ同じ枚数ランダムにもらうことができる。これが終了したら、同じ数字とか連番とか、あとはそれらが同じマークかとかでポイントをつけて一番高得点の人が勝ち。………なんか麻雀も混ざってないかなこれ。
捨てたカードは公開情報で相手の手札の状況がちょっとだけ分かるから、運だけじゃない頭脳戦要素が入る。つまりプリナちゃんが圧倒的に強いわけだけど、うまく手加減してくれてるのかそんなに俺の勝率は悪くなかった。気遣いのできる女の子っていいよね。
エルザには容赦ないけど。ゲームIQが俺と同レベルな分、一人戦績が悲惨なことになってた。
「なんつーか、どんまい?」
「わぅ………ミュートさんは楽しめましたか?」
「え?うん、楽しかったけど」
「えへへ。なら全然問題なしです!」
メタメタに負かされてこれを言えるエルザもすごい子な気がする。
シスターさんだからなのかなあ。
そんな俺達のカードゲーム事情は置いといて。移動とかお泊りの部屋でこういうことするのは旅行の定番だからなんかいい感じなんだけど。
目的地についたら、やっぱりそこの新しい景色を見る楽しみがあって。
「おー、港町。……港町?」
たくさんの船着き場とサイズも形も色々なたくさんの船。市場があって、その向こうにもずっと街並みが続いてる発展した都市。潮の匂いを含んだ風が吹き抜けていく景色は、あの城壁に囲まれた街とは印象ががらっと変わるものだった。
ただ、俺達がここに来た理由が理由で。
「すごいことになっちゃってます……」
変に傾いたままのデカい船とか、遠目に見える波避けの石壁が歪んだり崩れたりとか、津波でも来たのかって思うような荒れ具合だった。
『水辺の人工物というのは、浮力……“水に入って軽くなること”を前提に作られています。
それが想定されない高さで地上に露出してしまえば、自重で崩れる。まして長期間海水に浸っていれば脆くもなっている』
そう言われるとただの津波や台風とかだったら、逆にここまでならなかったのかもしれない。備えもあったと思うのに。
“たかが海面が2メートルくらい下がっただけ”でも、いきなりそうなればこんな惨状にもなるわけだ。
「ひゃぁ。……うん?」
『大変そうだなあ』とか、『持ち主の人大丈夫かなあ』、とか。地震や土砂崩れでめちゃくちゃになった映像を見る時の、現実感のないのーてんきな感想をふわふわと浮かべてると、俺達以外にも客が居たのか先に船から降りていく男女ペアの二人組の後ろ姿が見える。
両方とも髪の色がはっきり分かる紫色だし、中級くらいの
「ククク……我が眠りを妨げるのは潮の芳香」
「もーせっかくの船旅なのに、フィオっちってば着くまでずっと寝続けるとか。
あんな硬い床でよくぐーすか寝れまちゅねー♡」
「ええい、その赤ちゃん言葉でバカにするのをやめろアージェ。
これは違う、来る旅路に備え英気を養っていたのだ!」
「はいはいえーきえーき」
「なんかキャラ濃いなあの二人」
「あー、彼らですか。二人なのは珍しいですねえ」
「知っているのかエル電」
「でん……?」
いや、元ネタ知らないけど。雷電で画像検索すると将軍とかいうお姉さんしか出て来ないし。
「Cランクパーティー『ワンダーブラッド』です。
普段はディジーさんっていう、おっとりした口調でフィオさんに毒を吐くアージェさんの双子の妹も居るんですけど、あの調子で目立つので結構有名です。
Cランクパーティーって時点でかなりギルドでも上澄みですし」
「本当に濃いなあ」
個性はデカいけどあんまり直接関わると疲れそう。まあ、たまたま旅行先と行きの船が一緒になったからって、そうそう接点ができるわけじゃないだろうけど。
横から見てる分には新鮮な二人の後ろ姿をぼーっと見送ってると、その先で声を掛けるおじさんがいた。
「お勤めご苦労様です!」
「む?」
「お初にお目にかかります、
「えー?フィオっちってば着くなりポリちゃんのお世話になるようなことしたのー?」
「するかっ!」
「けーらちょー?」
「治安維持組織の偉い人ってことですよミュートさん」
「おおっ」
「男女二人組の
「………ふっ。いかにも、ギルドきってのエース『ワンダーブラッド』とは我らのことよ!!」
「(はて、事前に聞いていた『サンダーラット』というパーティ名と微妙に違うような。伝達ミスか)おおっ。歓迎しますぞ、まずは夕食会の準備をしております、ご案内するのでどうぞこちらへ」
「うむ、苦しゅうない」
「うーん、なんか違うような。ま、いっか☆」
そして去っていく例の二人と、言われてみると警備隊の服っぽいきっちりしたのを来たおじさん。
「「『………」」』
俺とエルザとプリナちゃん、三人顔を見合わせる。
これ、どうなの?そういうことですよね?そうなりますね?―――無言のコミュニケーション成立。
とりあえず船から降りてみたけど、さてこれからどうしよう。迎えに来てくれた人、なんか勘違いして行っちゃったっぽいんだけど。
突然のことに混乱するしかない俺達に、声を掛けてくれる人がいた。
「HEY、俺っち達の街プロステへようこそだZE!YOUらが観光ガイドを依頼した、男女二人組の
「………OK!!」
「ミュートさん!?」
『っ!?』
エルザとプリナちゃんがびっくりした感じでこっちを見てくる。可愛い。
いや、言いたいことは分かるけど。多分このいかにも海の男って感じの軽装で日焼けしたあんちゃんが、さっきの二人組が予約してた観光ガイドさんなんだろうけど。
まあここは乗っかった方が面白そうだし、バレたらバレたでその時「てへぺろ」すればいいかなって。せっかくの旅行だし、お偉いさんの接待とかよりこの兄ちゃんと一緒の方が楽しそう。
「GOOD!ノリノリだねえ、AGAってこうぜ!
俺っちはトレポネーマ・デンティコラ。デンてぃでもコラちゃんでも好きに呼んでくれYO!」
「じゃあデンてぃで」
「COOL!迷いのなさはいいことSA!
さて、宿まで案内するからついて来てくれ、絶品の魚料理が待ってるぜ、口パクパクさせながらな!」
「あいこぴー!」
テンション高い兄ちゃんに俺達もついて行く。
っていうかさっきのおじさん達もう見失っちゃったし、こうしないと今日の晩ごはんも宿もあてがないからね、しょうがないね。
「……いいのかなあ」
『ふふっ。ミュートが楽しそうなら、なんでも構いません』
「そうですね!」
こうして、到着早々アクシデント発生しながらも、俺達の旅行は始まったのでした。
>エルザには容赦ない
プリナちゃんにはミュートくんもエルザちゃんも思考パターンが丸わかりで表情からも全部読み取れちゃうので、駆け引きの要素が入った時点で負ける要素がない。
本気でやると遊びにならなくなっちゃうので、ミュートくんがそこそこ勝てるレベルまで手を抜いている。エルザ相手にも別に全力で勝ちに行ってる訳ではないのだが、気を遣うのが面倒くさくて手加減もしないので結果ぼこぼこになっているのである。
>雷電で画像検索すると将軍とかいうお姉さんしか出て来ない
よくAI画像生成のおもちゃになってるヒロインだから、総数がもう…。
>『ミュートが楽しそうなら、なんでも構いません』
構わない訳がないのだが、ストッパー不在。初の旅行でミュートくんも浮かれまくってるが、全肯定二人がお供なので。