夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 今回は全力でほのぼの!




港湾都市プロステⅥ

 

 それから二日間、俺が港の作業手伝いのボランティアをやってる間、エルザが街の両側の海岸線の探索をやってくれたわけだけど。

 

「報告です!ぜんぜん蝕魔(インフェクター)の気配は感じませんでした」

「空振りだったかあ。ごめんなエルザ」

「いえいえそんな!」

 

 エルザレーダーはダンジョンまるまる一つカバーできて、10キロくらい先の気配でも探知できる。それに引っかからないってことは、相手が魂を持たない系のモンスターか、そもそもこの街周辺にはいないか。

 どっちにしたって場所が分からないなら倒しようがない。海面が下がって滅茶苦茶になったこの街の人達には悪いけど、それをやった犯人を見つけ出すのは無理、ってことになる。

 

「ほんとおつかれな」

「わーふー……♪」

 

 半日走りっぱなしだったエルザと半日海辺で色々運んだり積んだり退()けたりしてた俺とプリナちゃん、ホテルでシャワーを浴びてさっぱりしてからの報告会。

 ぱたぱた動こうとするエルザのしっぽを軽くにぎにぎして、やわらかい毛の感触を楽しむ。体勢的に表情は見えないけど、リラックスし切ったぽえぽえ顔なのは声の調子から想像できた。

 

………ベッドに伏せてこっちに尻(っていうかしっぽ)を突き出す姿勢は正直女の子としてどうよ感はあるけど、エルザがなんにも気にしてる様子がないのでツッコミ入れづらい。えっちなのはいけないと思います、尻派じゃないのでよく分からんけど。

 

「てゆーかそんだけダッシュしてダンジョンもゼロなもんなの?」

「パーシャルと比べるものでもないでしょう。あそこは曲がりなりにも“最前線”です」

 

 普段居るところだと、街を出て適当な方向に進んでいけば何かしらのダンジョンにぶち当たる。それがないのは違和感なんだけど、むしろあの街が異常なんだってプリナちゃんは言う。

 モンスターからのドロップアイテムを商品にして儲けるなんて、潰しても潰してもキリがないほど周りがダンジョンであふれかえったあの街だから考えられることで、街の周辺のダンジョンなんて狩り尽くして平和な街として発展したい、っていうのが普通の発想なんだって。

 

「いざって時何も戦力がないのもまずいから、遠めの内陸側にEランクとFランクの蝕巣(フォーカス)はわざと一つずつ残してるみたいですけど」

「んー、なんか中途半端な感じもする」

「今回みたいに、本当に困ったら取引先(パーシャル)に泣きついて戦力派遣のお願い、ですからねえ」

「住み分け、ということでしょうか。軍事力は他に任せて経済発展を優先させると」

 

 それ、合理的に見えて、「自分達を守る力が他人任せって怖くないの?」ってへーわけんぽーなんてものがある日本の元国民としては思う訳ですが。

 

「大丈夫?本当に困った時に、どこまでも足元見られたりしない?」

 

 

「あはは、“大丈夫”ですよ。本当に困った時は英雄様が助けてくれるって、千年も言い張り続けてきたんですから。

 今更大丈夫じゃないなんて―――そんな自己否定、できるわけないじゃないですか」

 

「………」

 

 

 意味はいまいち分からないけど、エルザのこの言葉からはブラックジョークのふいんきが感じられた。プリナちゃんも無表情で沈黙してたから多分そうなんだと思う。

 

 

「わぅー♪」

 

 

 それをしっぽすりすりされて超リラックス状態で言うから、だいぶ「えぇ…」ってなったけど。

 

 

 

 そんな話はともかく、旅行4日目ど真ん中。

 予定通りボランティアは切り上げて、今日の行先は商店通り。ちゃんとオシャレな屋根があってショッピングモールみたいになっててすげえってなった。

 

「そろそろおみやげとか考えないとだもんなあ」

 

 帰り際にとか思ってるとリュックに入りきらなくて大変なことになったり、出発時間気にして慌ててるせいで変な判断したりするんだ。どう考えてもゴミにしかならないウケ狙いキーホルダー買っちゃったり(しかも大して面白くない)、買わないといけない人の分買い忘れて自分用のを泣く泣く回すことになったり。俺は詳しいんだ(n敗)

 まあこのファンタジー世界だと旅行の着替えとか含めて全部大容量の魔法のかばんに収納できるし、おこづかいに困ってるわけでもないからそんな気にしないでもいいんだけど。

 

「ゆっくり色々見て回りながら選びたいよね」

「エルザも買いたいものがあったので!後でちょっとだけ別行動いいですか?」

「おう、好きにしなー」

 

「HEYブラザーズ、サイフのヒモはしっかりな!ここは世界中の商品が集まるびっくり箱さ!!」

 

 観光ガイドのデンてぃもテンションノリノリで絶好調。店の一つ一つ、どんなものを置いてるかから店主のキャラ解説までオーバーに語ってくれて、それでいて「じゃあのぞいてみよう」って気になるように語らない部分もある。その絶妙さ加減、プロのガイドって本当に相手を楽しませるプロなんだなってなる。それ以上に、本当にこの街を愛してるって伝わってくるのがほっこりする。

 

 名状しがたい表情の木彫り人形、独特っていうか毒々な臭いのする香水、なんだか不安定な気持ちになるキィコキィコ音を出す時計。―――や、この辺は特に印象に残った品々ってだけで、面白いのとか楽しいのとかかわいいのとかおいしそうなのとかよりどりみどりの商店街なんだけども。

 

「そうだエルザ、なんか買って欲しいのあるか?普段世話になってるからさ」

 

 もちろんプリナちゃんも、と視線で合図しながら、ちょっと前に考えてたエルザへのプレゼントチャンスかなと思って話を振ってみる。

 

「本当ですか!?ミュートさんからのプレゼント!?」

 

 ぱぁっと輝くような笑顔になって、事前に想像してたリアクションだけど本当素直でかまいがいのあるわんこシスター。

 それはいいんだけど。

 

「じゃあじゃあ、ぜひこれを!できればミュートさんの手で()めて欲しいです!!」

 

「えぇ…」

「OH、Blur・・・俺の眼がおかしくなっているようだぜブラザー」

 

 迷わずペット用の首輪をセレクトして満面の笑顔でおねだりするのはちょっとどうかと思うぜシスター。……あ、またちょっとデンてぃの口調が伝染(うつ)った。

 いやまあ、断ってその笑顔をくもらせる訳にはいかないから買って着けてあげるんだけどさ。デンてぃもなんだか生暖かい目で親指立てながらその光景を見守ってくれた。

 

 

『………(これっ、これですっ!)』

 

 一方でペアのネックレスをちょっと遠慮がちに、でもぴょんぴょん跳ねながらジェスチャーでアピールするプリナちゃんはいつも通り最強に可愛いなあ(現実逃避)

 

 

 

 という4日目を楽しく(?)過ごして、5日目。

 今日はデンてぃのガイドは要らないって伝えておいた。

 

 せっかく海辺の街に来たんだ、ビーチで遊ぶイベントは外せない。

 エルザが海岸線ダッシュの時に良さそうな砂浜を見つけてくれていたから、そこで3人きりで遊ぶことにしていた。街から40キロは離れてるから誰かが迷い込む心配はないし、二人も気兼ねなく白い髪とケモミミをオープンにできる。

 

 ボールとかパラソルとかマットとかお弁当とかスイカとか、必要なものは昨日の商店街で確保済。エルザが別行動したのも、服屋で水着を買うためだったみたい。こしょこしょデンてぃとやり取りして離れてったかと思うと、残った陽気にーちゃんはやたらいい笑顔で肩組んで俺をちょっとえっちなアイテムのお店に連れてった。合流した後、かつてないジト目でエルザはこっち見てきた。プリナちゃんもこっち見てきたけどやっぱり何考えてるかは正体不明ヴェールで分からなかった。

 

 まあちょっとかまってあげるとご機嫌になってくれるのがエルザの一番いいところ。そしてこの忠犬エル公(首輪付き)は、プリナちゃん分の水着もちゃんと買ってきてくれたらしい。有能。

 

 そう、プリナちゃんの水着。

 

 

 プリナちゃんの、水着!!

 

 

 スポーティーとガーリーの融合っていうか、最上級なバランスを誇るスタイルをきゅっと締めて強調しつつも愛らしさを忘れさせないリボン飾りやフリル飾り。それでいてサイドはヒモでセクシーささえアピールしている。色はちょっと大人ででも露骨なエロには走らない青寄りのバイオレット。何よりヤバいのは、海仕様ってことなのか白い髪をゆるっとサイドテールにした上でリボン絡めてあみあみしてる。身体はちょっと背伸びした思春期ガールでコーデしてるのに首から上で可愛さ極振りはギャップでぎゃふってなるあああ可愛い可愛い可愛い!!

 

「ミュート、どうですか?」

「完璧で究極のマーメイド」

「……ふふっ。言葉の意味は分かりませんが、すごく褒めていただいているのは伝わります」

 

「よかったですね、プリナ様!」

「エルザもよくやった!グッジョブ!可愛い!」

「~~~♡わふっ」

 

 オレンジ色のちょっと際どめのセパレートの上にパレオと麦わら帽子な、夏色少女って感じのエルザもセンスは良くてこの子がプリナちゃんの水着姿を運んでくれたと思うと感謝しかない。

 

「よしじゃあ早速遊ぶ、ぞ……」

 

 

 そして。

 

 

 ざああぁっ、って砂が巻き込まれて大量の海水が動く音と一緒に、波打ち際が逃げていく。

 

 

 この街に俺達が来ることになった理由、海面の低下。潮が引くなんてレベルじゃ明らかにレベルが違う、海底ででかい栓を抜いたような“海の減少”。

 

「えぇ、このタイミングで……?」

 

 たかだか十秒やそこらで置き去りにされた貝とかヤドカリとかヒトデとかウミウシとかがバタバタと砂浜でもがいていて、明るく楽しめるビーチとはちょっと趣向が変わってる景色になっちゃった。それに今頃街で大騒ぎっていうか前と同じ惨状になっているかと思うと、のんきに遊んでいられる気分じゃどうしてもなくなってしまう。

 

 萎える……とがっくししながら隣を見て。

 

「あわわ、あわわわわ」

「わぁ」

 

 ケモミミとしっぽを立てながらぷるぷる体を震わせる水着エルザの珍しいリアクションが気にならなくなるほどに、鮮烈な光景が目に入った。

 

 

「………うふふ、あはっ」

 

 

 俺と一緒にいる間、プリナちゃんが怒ったことは一度もない。いつもにこにこして優しい彼女さん。だからこんな彼女を見るのは初めて。

 

 顔は笑ってるけど、“乾いてる”ってイメージしか何故か表現できない。翡翠色の眼は中の黒い瞳がよく見えて、アニメ絵だと確実にハイライトが消えてるってやつ。

 何よりプリナちゃん、怒ると髪の虹色比率が上がるんだなぁ……神秘的っちゃ神秘的だけど、アラガミの祟りとかそっち系統のやつだこれ。

 

「ミュート、少しごめんなさい」

「はいっ」

 

 

「これをやったの、ちゃんと場所は掴みましたので。

 少し、沈めてきますね?」

 

 

「ご健闘を!!」

「行ってらっしゃいです!!」

 

 

 俺に出来るのは、エルザと並んで敬礼しながら見送ることだけでした。

 

 

 





 最後以外はちゃんとほのぼの頑張れたと思うんだ…(屍
 次回、全力で楽しみにしてた海イベントを台無しにされて激おこプリナさん。

>「自分達を守る力が他人任せって怖くないの?」
 生殺与奪の権を以下略ってコミュ障鬼狩りにーさんが言ってた。

>「“本当に困った”時は英雄様が助けてくれる」
 英雄様のように他者を守り救うことを美徳として「やさしいせかい」に人々を教え導く代わり、根本的な部分で他力本願思考を植え付ける宗教。疼痛用の麻薬か何かかな?気楽に吸えよ(スパー

>「今更大丈夫じゃないなんて―――そんな自己否定、できるわけない」
 シスターエルザちゃんの自虐ネタ。既に信仰心ゼロである。
………なんかどっかの9条バリア教の方々にも刺さ(ry

>俺は詳しいんだ(n敗)
 たぶん一度や二度の失敗じゃない人のセリフである。

「完璧で究極のマーメイド」
 なんか違うの混ざってる。正しくはゲッ〇ー………あれ?

>怒ると髪の虹色比率が上がる
 プリナちゃんの時代で虹色=禍々しい色。モンスター成分が上がってるってことなわけで……。


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