夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 前回のあとがきにいただいた感想を返してる時、ふと「キミは生足魅惑のゲッ〇ー」とかいうパワーワードが頭に浮かんできてちょっと「ふふっ」ってなった。

………あながち間違いでもない?(今回の水着プリナちゃんの無法を見ながら)




港湾都市プロステⅦ

 

 この世界の陸地は、近海の小さい島嶼(とうしょ)を除けば大きな一つの大陸のみで構成されている。

 もとより大地球体説も地動説も狂人の戯言と一笑に付され、「それで地球は回らない」まま―――人々の総意が世界法則を歪める夢現世界(パラソムニア)においては、誰が書いたかも知れぬ一枚の大陸地図がそのまま世界の形に他ならない。海を一生その目で見たことすらない者が大多数を占める以上、海を越えた先にある新大陸など妄想の産物ですらないことになる。

 

 故に、大陸東北の岸から沖合五千キロメートル―――ほぼ大陸の横幅に等しく、船で何日もかけて航海しなければならない距離の海上に座すその化生に、他者から観測される可能性は皆無のはずだった。誰一人として、そんな何もない沖まで探索する理由など持ち得ないのだから。

 ましてや大陸の真反対側、ほぼ西端の一万キロメートル以上離れた観光地で海水浴に興じようとしていた一人の少女が、「デートを邪魔されたから」などという理由でその生態を咎め、「水の上に居るから」などという理由でその位置を捕捉し、それから僅か十数分でその眼前に出現するなど―――、

 

【空殻唐加羅搦……、ッ!!?】

 

 

「こんにちは、ごきげんよう、そして“さようなら”」

 

 

―――有り得ないという予断を、突如として視界を埋め尽くす泡の数々が否定する。

 

 家一軒を呑み込むものから掌大まで大小様々な球体。それらが不規則な軌道、速さすら一定しないまま殺到する。泡同士は互いに接触してもすり抜けるだけで干渉しない。およそ回避など至難どころか何らかの世界操作(チート)を使わなければ不可能の域に達する弾幕であった。

 

 ある意味では幻想的(ファンシー)な光景は、たかが泡と思えて視覚的にはどうしても危機感が鈍るかも知れない。だが、それらの出現と共に微かに響く高周波音………秒間百万回の振動が付与された水球は触れたが最後、対象の肉片も残さずその血で真紅へと色を変えることとなるだろう。

 殺意のみを宿す戦慄のランドリー。挨拶代わりのファンシーショーは、そのまま“さようなら”の挨拶をも包摂したものだった。

 

 だが。

 

【空っ、殻っ、加羅っっっ】

 

 ソレは、幾十もの水球をまとめて直撃しながらまるで(こた)えた様子がなかった。都市一つ、全ての建造物を灰に変えて余りある殺傷力を浴びて、シルエットに何一つ影響がない。

 

「………ふーん?」

 

 振動による崩壊が効かないなら、単純に圧倒的な威力の物理破壊へと即座に切り替える。

 自らをここまで運んで来た、時速数万キロメートルの水流をか細い線状にして放つ。『ウォーターカッター』と言えばやはり字面からは威力を推し量りにくいが、合金石材宝石問わず切断する、刀剣など比較にならない最強の斬撃武器である。圧倒的な速度それ自体が刃と化し、放たれること千八百。サイコロすら残らない斬滅結界を形成し、対象は微塵と散る……筈だった。

 

【唐搦―――】

 

 健在。粘ついた砂が絶えず体表を(うごめ)く、生理的嫌悪感を与える巨大な黄土色のスライムは洋上で全く意に介した様子もなくただ(たたず)んでいる。

 対して、一度ならず二度までも己の必殺を外された水着姿の少女は、胡乱(うろん)な目で殲滅対象を観察し、ただただ面倒そうに嘆息した。

 

「――――やはり、そうですか。いっそ清々しいほど露骨ですね」

 

 彼女は眼前の敵の正体も、自らの夢能(デルシオ)を凌いだカラクリも既に当たりを付けている。

 

―――そうなる為の「恐怖」が足りていない。形作られるための「総意」がない。

 

 今回の旅行における往きの船上でミュートに語った内容、人々の海に対する恐怖という名の共通認識の不足により、海にまつわる蝕魔(インフェクター)蝕巣(フォーカス)は発生しないという話。それとこの敵の存在は明らかに矛盾している、と一見思えるだろう。

 だが、直後にエルザがこう補足している―――内陸に住む人々にも水にまつわる恐怖は確かにあり、水辺に魔物は生まれ得るのだと。

 

 ならばここで一つ問おう。水に関して、人々がもっとも恐れる事象とは何か?

 

 大雨での氾濫による洪水?否。

 川で溺れることによる窒息?否。

 

 あまり勿体ぶっても仕方ないので正答を提示すると、水がなくなること。飢えは苦しくともある程度は耐えることができる。だが渇きは、三日と生きることが不可能になる。

 災害や事故は備えれば回避可能だが、1か月雨が降らない日が続くというそれだけで起こり得て、一度そうなってしまえば苦悶の内に死ぬことが確定してしまう絶望。

 

 そしてその恐怖が総意として具現するに値するヒントは、例の『千年紀』なる三文小説に記述があった。

 

 

 始原蝕魔(マルフォーマ)第二の闇、海を枯らすもの(ブロウザ)

 

 

 推し量るにその権能は、この世に存在する全ての水を呑み尽くすこと。

 

 復活した英雄様が倒すべきらしい5つの災厄。それらは来年に控える“千年目(ミレニアム)”に何の前兆も脈絡もなくポンと生えてくる訳でもあるまい。むしろ時機の迫る中徐々にその動きを活発化させているという方が動きとして自然。段階的な海面の低下というのも、この粘体生物がそれを引き起こす程に大量の海水を吸収するようになったから、ということだろう。

 第一の闇とやらもどこかで何かをやらかしているのかも知れないが、プリナにはどうでもいい。許せないのは、よりにもよって今日この日に海辺を荒らし、愛する人との旅行の中でも最大の目玉イベントを台無しにしたことだ。

 

 一生懸命選んだ水着を全力で喜んでくれた、今日一日でもっと自分に夢中になってくれる。海辺で無邪気に彼と遊ぶ尊くかけがえのない時間。夕暮れの砂浜で見つめあってキス、理想のおよめさんとして叶えるべきで自らもそう望んでいた彼の願望。

 

 世界中の人間全てが渇きに苦しんで死に絶えようが知ったことではないが、今日得られる筈だった至福を御破算にしてくれた報いだけは確実に与えると、そう決めている。

 

「その蟒蛇(うわばみ)具合がご自慢のようですが―――」

 

 先にプリナの攻撃が無力化されたのは、『全ての水を吸い尽くす』という特性によるもの。

 水によって行われる攻撃もまた全て吸収される。流石はシナリオによって敵対を運命づけられた存在というか、露骨なまでの『英雄様』対策だった。

 

………それで振動崩壊や斬滅結界を凌ぐのは理屈として無理がある?

 

 そう疑問が湧くのは御(もっと)もな話であるが、そも夢能(デルシオ)とはそういうものだ。この夢現世界(パラソムニア)において“そう思い込んだからそうなった”、とされる以上、術者の『できる』という思い込みが最優先であり第三者の客観的な論理的整合性など一切役に立つものではない。

 

 対するプリナにしたって、『水を操る』ことと『魂を肉体から脱して行動できる』ことに何の関係があるのかという話だが、彼女自身が出来ると思ったら出来てしまっている。なんとなく一人一種類の能力とされている夢能(デルシオ)だが、その方がイメージが具体化しやすいというだけで本来はなんでもアリなのだ。

 

 

 適当極まれりだが―――そんなものだろう、所詮delusion(もうそう)なのだから。

 

 

 人々の総意が現実を歪める夢現世界(パラソムニア)において、ただの一個人の意思で局地的とはいえ世界改変を可能にしてしまう誇大妄想狂(ギガロマニアクス)、『抗魔士(イムニティ)』という名の超人にして狂人の最果てに座す存在として。

 『この世全ての水を吸収する、故に水属性攻撃は効かない』という屁理屈に対しては、より理不尽で強大な屁理屈をもって上から叩き潰すだけのこと。

 

 

 

「この世全ての水?遠慮しなくても、もっといくらでも用立ててあげましょう。

 さしあたって、まずはその三倍ほどいかがでしょうか?」

 

 

 

【………~~~~ッッ!!?】

 

 水着姿の魔女が指を鳴らし、粘体生物を囲うように巨大な立方体の檻が大量の水によって形成される。透明なキューブの中で見た目以上に圧縮された水圧は優に山塊一つ分の加重を与える……が、本旨はそこではない。

 加圧から免れるため、“第二の闇”は猛烈な勢いで水を吸収している。海が比喩抜きで干上がるほどに大量の水を(たくわ)え、体積を2倍3倍に膨らませるが、水檻もそれに応じて水量を追加・拡張されていく。

 

【火…裸…っ】

 

 これまで泰然と(うごめ)き続けていた流砂の巨体が、ぶるぶると震えながら表面を泡立たせる。まるで、と修辞するまでもなく苦悶のもがきだった。だがことここにいたり魔女に容赦の二文字など存在し得ない。

 

「そういえばミュートの世界では、こういった大量の水を呑ませる拷問の際に行う掛け声があるそうなのです。意外と殺伐とした世界なのでしょうか?」

 

 どころか、嘲笑と共にその抵抗を煽り立てるように戯言を投げつける。

 

「いっき!いっき!いっき♪いっき♪」

 

 加速度的に膨らんでいくスライム。最早視界に収まらない規模の巨大化を為しながら、水檻も同様に拡張を続けるせいで逃れることが出来ていない。

 

「いっき☆いっき☆いっき☆いっき☆いっき、いっき、いっき、いっき、いっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっきいっき」

 

【……ッ、……ッ!!?!??】

 

 加速する掛け声(コール)に呼応するように悶絶の震えは激しさを増す。その質量からすれば衝撃波が発生する程の断末魔だが、巨躯を優に超える水檻の圧がそれすら漏らさず封じ込める。

 

 そして。

 

 

「 逝 け 」

 

【……、…………】

 

 

 弾ける。と同時に、水檻は圧倒的な逆再生で縮小する。内部の残骸ごと圧縮しながら掌に収まるサイズになった立方体はプリナの手に吸い寄せられるように漂い―――、

 

「口ほど程度、と言ったところかしら。

 まだ2倍に満たないくらいだったのだけど」

 

 ぱん、と打った柏手に挟まれて(つい)える。

 

 世界中から水という水を奪い尽くす絶望の闇―――その筈だった存在の末路は、許容量を遥かに超える水量に圧し潰される、“溺死”だった。

 

 

 





???「我を沈めたくば、この3倍は持ってこい!」
プリナ「え、たった3倍でいいのですか?」

 デートのお邪魔虫に対するプリナちゃんのノンアルハラスメント。
 攻撃を吸収する相手にはキャパオーバーまでぶち込むのが王道ですよね(なお規模

>秒間百万回の振動が付与された水球
 殺意の塊。

>時速数万キロメートルの水流をか細い線状にして放つ
 殺意の塊。

>第一の闇とやらもどこかで何かをやらかしているのかも知れない
 哀れ湖の底で圧死している蟹さん、プリナさんに“そう”だと認識してもらえてない模様。

>“そう思い込んだからそうなった”
 何度でも言いますがミュートくんにピ〇様のご加護なんてありません。本人の妄想の産物でございます。

誇大妄想狂(ギガロマニアクス)、『抗魔士(イムニティ)
 わりとシュ〇ゲよりカオ〇の方が好きだった(隙自語
 まあ原理的にはアレそのものではないんですが。そりゃ『自分は超能力者だ』と心から信じ抜いてる連中なんてイカれた人間しかいないよね、という話です。

>見た目以上に圧縮された水圧は優に山塊一つ分
 殺意の塊。

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