夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 よくよく計算すると人をおんぶしながら生身で音速突破してるバカモノと、その背中で平然とコアラしながらにこにこ愛想を振り撒くバケモノがいますが正常です。




ストレプト湖底封印遺跡Ⅳ

 

 プリナちゃんと二人、恋人つなぎでゆっくり歩くのは当然最高の時間だったけども、暗くてじめじめしたこのダンジョンがいちゃいちゃするのに向かないって言われたらそりゃその通りなわけで。

 ○カ様のご加護を受けた身としてすばしっこさには自信がある。さっさと出口まで行くのに俺が彼女を運んでダッシュしようと提案すると、プリナちゃんは満開笑顔で両手をぐーぱーしながら差し出してきた。

 

「おんぶ、お願いしてもいいですか?」

「よろこんで!」

 

「では失礼します。その、重くないですか……?」

「軽いです!」

 

「……えへへ。ぎゅ~っ♡」

「ふおおおぉぉっ!!!」

 

 生 き て て よ か っ た !!

 

 またも理想のシチュをそのままやってくれる最強美少女。

 

 そうだよねお姫様だっこもアリだけど、密着してる感はおんぶの方が強いよね。肩の前で組んだ腕や腰に回されたふともも、ふにふにで柔らかくてすべすべであったかくてつやつやでいい匂いがして。しかも耳元でささやき声で「ぎゅ~っ♡」は破壊力が高すぎる。幸せなこそばゆさがたまりません。

 

 あふれる幸福のままに足を回転させて爆速ダッシュ。邪魔な化け物どももいない無人の階層を3秒くらいで駆け抜ける。体感で1階層2キロはありそうだから、秒速……えーと……まあいいや、すっごく速いって感じで。

 

「きゃ~っ!はやいはやーい!!」

「まだいけそうっ!?」

「ぜんぜんへーきですっ!しっかりぎゅってしてますから!」

「―――!うへへへ、おっしゃああぁぁっっっ!!」

「がんばってください、ミュートっ!」

 

 いやまあ、ほんとに最初はおんぶした体勢であんまり加速するのは危ないかなあとは思ってたんだけど。すぐ後ろからは楽しそうな気配しか伝わってこないし、飛ばせば飛ばすほどつかまってくれる密着感がパワーアップするからつい。

 もっともっとぎゅってして欲しいシタゴコロもあるけど、それ以上にプリナちゃんが楽しそうで俺も幸せ。好きな女の子が喜んでくれると幸せになるのは当たり前だし、しかもプリナちゃんは今日までずーっと結晶の中に閉じ込められて眠ってた。そんな子が俺のおんぶではしゃいでくれるんだ、うれしくて加速しまくっちゃうのも仕方ないよね。

 

 ただそんな調子で進んでたら、残念ながら出口までたどり着くのもあっという間。プリナちゃんの案内で数分もしないうちに見えた、ある意味ずっとずっと待ち望んだこのダンジョンの出口は―――。

 

「……水没してる?」

「平気ですよ。ほら」

「あ、そっか」

 

 それまで階層を昇ってきたのが急に下り坂になってて、道の先が水面の下に沈んでた。けどプリナちゃんは超強力な水属性のヒロイン。ふわっとひらひらしたドレスのそでを舞わせる可愛い仕草に合わせて、水かさが勝手に減っていく。

 

「ここまで運んでくれたお礼です。今度は私がこのまま湖の上まで導きますね」

「……え?つまりここって、湖の底に沈んだダンジョンだったの?」

 

 ってことはどのみちプリナちゃんと一緒じゃないと出られなかったんだなこのダンジョン。モンスターたちがいよいよ倒し切れないほど湧いたあの時だって、この子を置いて逃げ出す選択肢はもともとなかったけど、それでも。

 長い間―――プリナちゃんの言った日数によると半年以上―――一人でがんばった意味はちゃんとあったってこと。なんだか無性にこみ上げるものがあった。

 

 そんな考え事をしてたから、よく見えなかったけど。

 

 

「だんじょん?あっ、蝕巣(フォーカス)のことですよね?その通りです。

―――遥か昔に何もかもを水底に沈めて無かったことにした、ここはそんな廃棄場(いせき)です」

 

 

 電光で照らされたヒスイ色の瞳が、一瞬あらゆる輝きを呑み込むほの暗い色になった気がした。

 

 

「………プリナちゃん?」

「いえ。それよりミュート、お願いがあります」

 

 光の加減だったのかな。もう一回よく目をこらしたけど、暖かくてまっすぐに俺を見つめてくれるきれいな眼からの視線と絡まるだけだった。幸せ。

 

「なんでもします。うん、今ちゃんとなんでもしますって言ったよ」

「そこまで無茶なお願いでは―――いえ、あなた様の命懸けの戦果を無心しようというのです、多いに(はばか)りありますが」

 

 遠慮気味に、ちょっと小さな声でしゃべるプリナちゃん。

 無心……おねだり、だっけ?それに『命がけの戦果』ってのは、つまりモンスターを倒した時に色々手に入ったやつかな。

 

「なんかドロップアイテムで必要なもんでもあるの?」

「ええ。私の髪を覆い隠せる防具をお願いできますか?」

「髪かあ。なんかあったかな……」

 

 お約束的に色々なものが体積を無視して収納できて自由に取り出せるアイテムぶくろ(これもドロップアイテム)を漁りながら、リクエストどおりに頭装備を探していく。一方で俺が「なんで?」って思ったのが分かったのか、申し訳なさそうに理由を説明してくれた。

 

「ミュートの黄金も稀有ですが、それに輪をかけて『白い髪の抗魔士(イムニティ)』は、決して余人に見せるべきではないのです。

 あなた様が美しいと思ってくれた、虹の妖光が混ざっているからには絶対に」

 

 そうなんだ。

 あ、ちなみにどうでもいい情報として、○カ様のご加護の影響かどうも俺の髪は金髪になってるっぽい。日の光の下でちゃんと鏡を見た訳でもないから、なんか色薄くなったなーくらいの感覚だけど。あとなんか両サイド2か所だけ跳ねてる。多分先っぽだけ黒のままなんだろう。

 

 しかし、『絶対に』なんて言うレベルかあ。やっぱ封印された裏ヒロインだからなんか色々事情があるんだろうなー………あ、見っけ。これとかちょうどプリナちゃんのドレスにも合いそう。

 

『最果ての』『隠者の』ヴェール+81

 :精神集中A

 :天啓C

 :隠蔽A+

 

 青紫色の薄いケープっぽいけど、シスターさんが頭につけるような感じで頭からすっぽり被るものらしい。ひらひらと絶妙に波打ってるし、華やかな模様が刺しゅうされてていい感じにプリナちゃんの美少女さを引き立てるに違いない。

 あとシスタープリナは大いにありだと思う。ザンゲします、俺は毎日毎日プリナちゃんと恋人になっていちゃいちゃするいけない妄想を展開していました………!(もともと全部聞かれてる)

 

「じゃあこれで。どうぞ」

「ありがとうございます。―――どうですか?」

 

「顔を隠しても“ふいんき”で可愛いって分かるの流石のプリナちゃんだと思います!!」

「―――もうっ。面映(おもはゆ)くも嬉しい言葉ではありますが、そうではなくてですね?」

「あ、うん。髪の色も全然見えなくなってるよ」

 

 軽く髪を結ってヴェールを被ったプリナちゃんは、よくマンガの新キャラであるあるな正体不明のフードの人物みたいに顔や髪型が全然分からなくなってる。リアルになるとこんな感じなんだなアレ。

 ヴェールが隠してるのは頭部分だけなんでほっそりした体つきはそのまま見えるんだけど、やっぱりひらひらのドレスとマッチしてミステリアス感が出てるのでこれはこれでよき。

 

「ただうん、やっぱりもったいない感じはするよね。

 白のロングに光の反射ぐあいで虹色に輝く髪とか、ソシャゲの画面から出てきたみたいなファンタジー色が本当にきれいでさ。毎日毎日ずっと見入ってたくらいなのになー。

 いや逆に考えればいいんだ。俺だけがその髪の色の秘密を知ってて、ついでに素顔の可愛さの最強具合を知ってて―――つまり、俺だけのプリナちゃん感!!?」

「………~~っ」

「あ、ごめん待って引かないで」

 

 顔が隠れてても分かるくらいぷるぷる震えだしたのを見て、またもイタ発言をしでかしたのに気付く俺。誰かこのぽんこつのーみそに学習機能をつけてください……。

 ただプリナちゃんの天使具合の最強さもやっぱり健在で、はずんだ声で俺の手を取って引っ張ってくれる。ああ、やわっこくてあったかい。

 

 

「ええ、ええ。あなた様だけの『プリナ』です。さあ行きましょう、外の世界へ―――!」

 

 

 つないだ手の幸せな感触に放心している間に、空中にぽわぽわと現れて膨らんだでかい泡が俺たちを包み込んで暗い水面の中へと運んでいく。不安はない。見えなくなっただけもっと強く感じられるプリナちゃんの体の暖かさが、ただただ幸せだった―――。

 

 

 

――――。

 

 わざと二人分ぎりぎりの大きさに作った泡の中で、密着する彼の暖かさがただただ幸せだから。

 

(このままただお互いしかいない世界で、ずっと水底で彼と抱き合っていようかしら)

 

 この世に存在する全ての水は己の権能の及ぶ世界。決して絵空事ではない実現可能な願望を抑えるのにこうも難儀するとは、彼と出逢う前の自分は想像もつかなかった。

 

 白耀にして薄妖。蝕魔(インフェクター)を倒せば倒すほど身体能力も頑健さも夢能(デルシオ)も強化され、そして髪色が次第に薄淡い色のものへと変色していくのが抗魔士(イムニティ)。すなわち白色透明とは規格外の蝕魔(インフェクター)殺戮装置であることを示す上に、さらにその色に誰からも不吉の象徴と忌まれる『虹』が混ざる―――即ちこの身が何者にも手の付けられない禍つ化生であることの証。

 

 遠い過去、大事にしていたこの長い髪が白一色でなくなった日はもはや『とうとう自分の番か』としか思わなかったが、『虹』を目の当たりにした周囲の壁蝨(ダニ)共の狼狽と失望と豹変はいっそ滑稽の極みだった。

 それを彼は綺麗と見惚れてくれた。隠すのが惜しいと褒めてくれた。まして自分だけがその美しさを知っていることに優越を感じるとまで言ってくれた。あまつさえ、『自分だけのモノ』と思ってくれた。

 

 愛する殿方と結ばれて、両想いになる―――彼が語り私が憧れた恋物語はやっぱり天上の至福を与えてくれる。そう、自分はとっくに彼の、彼の為だけの『プリナ』なのだ。

 ミュートだけ、他に何もイラナイ。謝る必要なんてどこにあるのか、いくらでも私を『自分だけのモノ』と扱ってくれればいい。それだけで幸せ。それだけが幸せ。

 

 嬉し過ぎて、ひとつ困ったことに。消し散らした筈の『本当の自分(■■リナ■)』が蘇ってきてしまう。もうお前(『私』)なんて要らないのに、理性を惑わしてその溢れる愛欲を全力で彼にぶつけようと心中で囁いてくるのだけが贅沢な悩みだった。邪魔極まりない、そんな行いは『理想のおよめさん』がすることではないのだからさっさと消えて欲しい。

 

(邪魔と言えば―――)

 

 もう一つ、湖面へと浮上しようとする二人の真下、粘ついた殺意があることにも気付いていた。かつて飽きる程に慣れ親しんだ、呪いにも等しき悪意の具現。ミュートが気付かない素振りなのは、私との抱擁を堪能してくれていることもあるだろうが、要は『この世界に来てからずっと感じていた悪意』だから今更注意を払えないというだけ。

 

 この殺気の主が近づいてきた時期を考えれば、千年紀を迎える前に封印状態の『英雄』を葬り去ろうと考えた何者かだろう。そういえば蝕魔(インフェクター)で特殊な個体が出るとかいう話だったような、確か………まあ、どうでもいいか。

 

(是非にも及ばない。お前がミュートを苦しめたこと、(ゆる)す一片の理さえ有りはしない)

 

 差し向けた数千の配下が目覚めたばかりの私の力で呆気なく全滅し、いよいよ自ら始末をつけようと姿を現したのだろうが、焦れていたのはこちらも同じ。蝕魔(インフェクター)なんて“本当に”空想上にしか存在しない平和な世界で生きていた彼をこの不毛な闘争に巻き込んだ、その一事のみで万死に値する。何者だろうと関係なく、一分一秒でも命を繋いでいることが酷く(しゃく)に障る。

 そして愚かにもソレは私に対してよりにもよって水中で勝負を挑んで来た。やることは単純だった。

 

 

(ひさ) げ 】

 

 

―――ただ思うだけ。指先を動かすよりも軽い労力を代償に、世界の裏側にすら貫通するほどの深海相当の水圧という絶望的な質量が襲い掛かり、その存在を圧壊させる。如何なる刃も槌も弾く筈の甲殻は何一つ意味を為さずに粉微塵となり、丘ほどもある巨躯に詰まっていた血肉は暗闇の水底の色を変えることすらなくぶち撒けられて漂うだけ。

 

―――始原蝕魔(マルフォーマ)第一の闇『月を裂くもの(パルピティス)』。万魔を率いて天に昇り、その大鋏で月を切り裂き、分かたれた月を眼に入れた常人は全て発狂する。そう予言された伝説の怪物は今、誰に知られるともなく滅ぼされた。誰の記憶にも残らない、ひたすらに無意味な散り様にて。

 

 

「ぷはっ。わぁ……うわぁっ!!そと、外だ!そとだああぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

「うふふっ。よかったですね、ミュート」

 

―――なにせソレを殺したバケモノも、もう次の瞬間には。遂に水面から顔を出して陽の当たる光景を目にして思わずはしゃぐ恋人を、幸せな笑顔で見守り続けることにしか興味がなかったのだから。

 

 

 





 海よりも深い愛(物理=深海二万メートル相当の水圧)。

 ミュートくんのことが好きすぎるプリナちゃんほほえましいですね。

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