夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 胡散(うさん)臭い黒幕(?)登場。
 多分クッソ汚いやつしか生えないとは思いますが、それでもいいという筋金入りの方はキマシタワーを建ててみてください。




礼賛騎士ビオラセウムⅡ

 

 時間はミュート達が港街への旅行からの帰路、自分達と取り違えられた『ワンダーブラッド』の二人と船上にて親交を結んでいた日時に(さかのぼ)る。

 

 

 縦長に伸びる大陸の南方に位置するスタフィロ国州。四大州連邦に名を連ねているものの、実質は最大版図ストレプト国州の属国領に近い小国である。その或る海岸線にて。

 分厚い雲に負けぬほどきつい陽射しに照らされた、入り組んだ岩の岸辺。それを一望する小高い崖の上に建てられたコテージに、二つの人影があった。

 

 一人は(ひさし)の下のウッドチェアに深く身を投げ出し、照り付ける陽光から逃れて眠そうにあくびをしながら揺られている少女。歳の頃はミドルティーンといったところで、それなりに整った丸顔をだらしなく脱力させている。ただし、『明るい』と断言できてしまう色合いのブロンドヘアをざんばらのショートにしていて、ギルド等級で言うAまたはB級上位の抗魔士(イムニティ)であることが一見で把握できる。

 未成熟な肢体はそのシルエットを隠すようにゆったりした丈の長い道士服が覆っているが、身に秘めた暴威は一定の知識人からすれば瞭然のこと。その寝姿も周囲に与える印象は野生動物のそれに似て、かつ数十倍は鋭いものだった。

 

 もう一人はデッキの柵にもたれて海を眺める女だが、こちらは一言で表現するなら『奇妙』だった。

 背丈は先の少女より高いが、幼気(いたいけ)とも妖艶とも取れる顔貌のおかげで年齢の当たりが掴みづらい。それよりも特筆すべきは色彩。黒髪は並外れた身体能力も夢能(デルシオ)と呼ばれる特異な超能力も持たない常人であることを本来示すものだが、一筋だけ銀のメッシュが左前側頭に走っている。奇怪な金色に輝く瞳もこの世界では他に見ないものだ。

 

 年齢不詳・正体不明の怪人物。だが寝転ぶ少女にとっては既知のものでしかなく、さりとて親しいと呼べるほど気安くもなく。二人の間の空気は受容1割・無関心9割といった微妙な温度感で停滞していた。

 

「海の水、もとに戻っちゃったねえ」

「ん、解決したならそれは何より。我が国の海辺の民も、今回の被害で大変だったから」

「おや、そういうことを気にするとは意外だね。貴女は蝕魔(インフェクター)との戦い以外に興味がないものと思っていた」

 

 戦闘狂と揶揄(やゆ)された少女は眉根をゆがめると、ウッドチェアから上半身だけを起こしてローブ姿の女を睨む。

 

 

「この身の責務の一つに対して愉悦を感じていることは否定しない。

 でも、私が自身の立場と民草に無頓着であると決めつけられるのは不愉快。私に教育を施した者達、ひいては母様―――陛下への侮辱にも値する。今すぐ撤回すべき」

 

「……くくっ、これは失礼した、エピデルミディス“姫殿下”。撤回しよう」

 

 

 相手の立場を理解していてなお慇懃(いんぎん)無礼を地で行く態度だったが、少女の側もこの女に強く言い寄るのは無駄と理解している。発言を撤回させただけでよしとしてぷいとそっぽを向いた。

 

 多分に嫌悪を含んだ会話相手に構う気配もなく、女は眼下の崖にぶつかっては散る波飛沫(しぶき)を眺めながら言葉を続ける。

 

「しかしねえ。ボクとしてはこの状況は手放しに喜んでばかりもいられないのさ」

「どういうこと?」

 

「不自然なんだよ。この海面低下を起こしたのは、始原蝕魔(マルフォーマ)第二の闇“海を枯らすもの(ブロウザ)”。神話の御代より千年後、つまりあと一年先の予言の年に蘇る『英雄様』によって退治されるべき大いなる闇。

――――そう“信じられている”存在が予言の年を待たずして倒された、ということさ。本来あり得ないだろう?だって救世主が蘇る年にはまだなっていない」

 

 芝居じみて手足を大きく動作しながら女は確信を持って断言する。燦々(さんさん)と照らす日差しの下、見るからに暑苦しい法衣(ほうえ)を纏っていながら汗一つかいていないのは、どこか人形めいていて。

 

「そうは言っても現に海面は元に戻っている。そんな大仰(おおぎょう)な化物を倒す猛者(もさ)が他に居たというだけの話ではないの?」

「居るものか」

 

 ぐらぐらとチェアを揺らしながら、いかにも『適当に考えました』と言わんばかりに投げつけられる、ただし至極真っ当な指摘。それを即答で否定し、語りは止まらない。

 

「世界を滅ぼす五つの闇は砕かれ、民衆は英雄ソブリナスによって救われる!

 それが信仰。故に筋書。つまりは“摂理”だ!………逆説的に居る筈がないんだよ、英雄の代わりに戦い、その栄光に取って代わろうとする存在など」

「………あっそ。じゃあ何?その第二の闇さんは急に人類への慈悲に目覚めておとなしくなってくれたとでも?」

「まさか。人類という総体を(むしば)む病魔、蝕魔(インフェクター)の悪意はそんなヌルいものじゃないというのは貴女も知ってのとおりさ」

 

 まともに会話が成り立つ相手ではないし、成り立たせる努力を(つい)やすほどの義理もない―――延々と自分に向けた演説をされては耳障りと受け流し体勢に入ってしまっている姫に、女はそれでも粘り付く。

 

 “知識の無い者”“自分と異なる価値観”を見下す自称知者特有の不遜(ふそん)が顔に浮かんでいるが、(とが)めだてするにも面倒な手合いだ。一応『同姓』のよしみとして、先ほどのように女王である母への侮辱に繋がるもの以外は知らぬふりを通すのが吉と考えているが、それすらお見通しとばかりに“にちゃあ”と笑っているのが生理的に気持ち悪かった。

 

 そんなこちら側の快不快に一切頓着(とんちゃく)することなく、得意げに曰く。

 

「『英雄様』にしか倒せない蝕魔(インフェクター)が倒されているなら、それはつまり彼女が既に目覚めているということだ。どんな“バグ”かは知らないが、今の時点で目覚めていたとしても、来年の時点で蘇って降臨するという信仰(シナリオ)とは辻褄(つじつま)合わせが可能だからね。

………………だが」

 

 そこまで述べたところでぴたりと大袈裟(おおげさ)なジェスチャーが止まる。一瞬で動と静が入れ替わり、だからこそその“震え”は顕著(けんちょ)に伝わった。

 声が震え、息が震え、筋肉が震え、心が震え、女は噛みしめるように言の葉を垂れ流す。

 

 

「ここまでしながら名乗り出ないなんて、いつまでも奥ゆかしいことだねソブリナス。

 無駄さ、そんなことで世界がキミを放っておかないのはキミが一番よく分かっていることじゃないか!

 ああ、今キミはどんな顔をしているのかな。愛を失い、絆を失い、慈悲を失い、信念を失ったキミの顔はどんな顔だったかな。また存分に見せておくれよソブリナス。ふふ、ふふふっ、くふふふふふ……っ!!」

 

 

 やがて頼んでもいない語りから空想上の相手への妄言へとシームレスに移行する姿に、コメントなど一つしか出てこない。

 

「きっしょ」

 

 一人芝居の世界に入り込んでいても一応こちらに意識を向けていたのか、女はまたころっと元の演技過剰な仕草に戻して話題を戻した。

 

「ははっ、ひどいねえ。まあいいさ、こういう事情だからね、少し礼賛(らいさん)騎士達には『英雄様』が既に蘇っている可能性があるという前提で色々探ってもらおうと思っている。

 どのみち来る予言の年に備えて、司教会の方針で各地に浸透を続けていることだしね」

 

 教化・布教・改宗という、侵略の口実の黄金パターン。どこかの十字教がどこかの世界で悪意と不幸と惨劇を至るところにばら撒いたのと同じ手口を使うついでに相乗りするという、実に敬虔(けいけん)な信徒らしいやり方。

 この夢現世界(パラソムニア)の住人たる姫にその悪辣(あくらつ)さの程は知れずとも、そこに善意と呼べる何かは一欠片(ひとかけら)も存在しないことくらいは直感できる。だが。

 

 

「ご随意(ずいい)に。アウレウス大司教猊下(げいか)

 

 

 記録によれば聖教会発足以来一度も名前の変わっていない最高権力者。

 その“気まぐれ”に口を出せる理由も権力も、たとえ一国の姫といえどS・エピデルミディスは持ち合わせてはいないのだった。

 

 

 





 この連載ももう半年くらいなんですねー。
 半年くらい経ってるから最初の頃に出て来た単語なんてみんな忘れてくれてるでしょ(適当)

………スタフィロ国州のアウレウスなんて言ってる時点で医療関係者の方は即座にツッコミ入れる案件な気もしますが。


>「それが信仰。故に筋書。つまりは“摂理”」
 『ルール』を知ってる側ではある。

>「民衆は英雄ソブリナスによって救われる」
 一体何リナちゃんによって救われるというんだ…(反語)

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