夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 文字が読めない筈なのになんで最初ミュートくん装備のステータス読めてたの?というツッコミが入ってしまった。
 これちゃんと解説した場合、よくよく考えると核心部分のネタバレに繋がりかねないんだけど、うーん……。

 今の時点で良いところ掠めてる人も居るしまあいっか(ぇ




礼賛騎士ビオラセウムⅢ

 

 虹色交じりの白の髪に翡翠の瞳。『プリナ』と名乗る抗魔士(イムニティ)の少女は、旅行から帰ってから一つ悩みを抱えていた。

 

「……これ、どうしましょうか」

 

 全ての蝕魔(インフェクター)は倒された後、死骸が光の粒として分解・飛散した後何かしらの物品を遺す。

 下級であれば灯りや暖房をはじめ生活に密着する魔道具の燃料であり、汎用性の高さからそのまま通貨代わりとして使うこともできる魔石であることが大半。だがランクが上がるにつれ、戦闘に有用な武具、抗魔士(イムニティ)の持つ夢能(デルシオ)に劣らぬ不可思議な現象を発生させる品々、毒や病はもちろん物によっては臓腑に達する深傷ですら癒す霊薬などが手に入ることもある。

 ひっくるめて遺宝と呼ばれる抗魔士(イムニティ)の主な収入源であり、プリナの恋人であるミュートは『ドロップアイテム』と呼んでいる。字面としてはそちらの方が分かりやすい表現かもしれない。

 

 戦利品という概念が文字通りの意味で結晶化したようなこの現象が「なぜ起こるのか」など、この夢現世界(パラソムニア)においては問うだけナンセンスだ。最初がどうであったかにかかわらず、大多数の人間が「そういうものだ」と認識した時点でそれは現実に機能する法則として存在することになる。突き詰めて追究するといかに不自然・不合理であろうと、ごく少数の疑念は「無駄なことを気にする愚者」が時間を無駄にしている以上の何物でもない。

 

 故に―――たとえば、全世界の海水量を優に超える質量の水を掌大に圧縮する工程に巻き込まれ、無残に視認不可能なレベルまで圧潰したとして、そんな殺され方をした死骸でもきちんと遺宝は得られるのだ。

 

 なぜ、というのは重ねて言うが問うだけナンセンスである。雷撃で灰になるまで焼かれようがきちんと戦利品を落とすというのはよく考えずとも不合理極まりないが、「そういうもの」である以上は自分が得をする限りにおいては呑み込むのが賢明だろう。

 

 そういうわけで、今プリナの手元にはあの旅行で巨大な砂のスライムを抹殺した時の戦利品がある。

 

 

黒羽々■(装備/射撃)

:精密狙撃S

:■行の魔弾A

:■■■消・逆魔時■A

弾数制限(リミッター)解除X

 

 

 称号や強化値の無い、プリナのドレスやミュートの服と同じ『アーティファクト』と呼ばれる強力な遺宝。人類を滅ぼすレベルの蝕魔(インフェクター)だけあって相応の報酬にはなるようである。

 箱型のカラクリだろうか、腕に装着するようだが動きを阻害するギリギリの大きさで、前方に延びた筒状の突起が二本。射撃武器なので筒の中から魔弾とやらを発射するものと思われる。

 

 その性能は、詳細要検証といったところ。読み取れるのは射撃装備にありがちな命中性能を向上させる『精密射撃』の上位互換、射程距離増加がプラスで付与される能力上昇補正の最上級ランク。そして最上級の射撃装備にたまに付与されている、矢玉の数の心配が不要になり蝕巣(フォーカス)攻略の効率が段違いになる便利機能。

 

 

 

 それ以外の二つは、一般に検証されているポピュラーな効果とあまり一致しない文字が使われているため判定不能。

 

 

 

 だが弾数を考えなくていい飛び道具―――つまり撃ち得ということであれば、威力次第で死蔵するには惜しい品だ。

 

 問題は、遠近問わず殺傷力に関してプリナは自身の水の夢能(デルシオ)に不足を感じたことはないし、ミュートは『格闘攻撃時すばやさに応じて打撃力が跳ね上がる』あの服の能力と嚙み合わせが悪いこと。つまり、渡すとすれば元々弓を使うエルザにということになる。

 ミュートにこれまでプレゼントというものを一回もしたことがないのに、エルザには世界に二つとないだろう最上級の遺宝を渡す、ということになる。

 

「さすがにそれは……」

 

 外で姿を隠す為の『隠蔽』能力のあるヴェール、旅行の時に買ってもらったお揃いのネックレス。そもそも今住んでいるこのゲストハウスも、日々の食事も、着替えも、全てがミュートの好意に甘えて用立ててもらっているものだ。

 

 いくら赤の他人に白い髪を見せられない事情があるとはいえ、ミュートとエルザ以外のニンゲンと接することのないプリナに金銭収入のあてなどある筈がない。必然、強引に貸し借りの話をするとすれば負債が溜まっていく一方ということになる。なんなら家事全般はエルザが片付けているので、やっていることはと言えばミュートといちゃいちゃすることだけ。

 

 

――――3桁年下の若いツバメを(くわ)え込んだ上に(やしな)ってもらっているヒモニート女。

 

 

 なんて、直接的に表現する言葉は知らないまでも。

 姫として上げ膳据え膳されていた時期もあるが、少人数で大陸中を旅して転戦した経験もある。一般的に今の状態がいかに不名誉なものであるかの自覚くらいはある。少なくともあの旅を共にしていた、可愛い妹と腹心の騎士には間違っても見せられまい。

 

 まあ見せたくても見せられる筈がないのでそれはさておくとして。

 最初は愛する人と想いを交わし生活を共にすることに茹だっていた頭も、数か月も暮らせば―――やっぱり茹だったままなので危機感があるかといえばそうでもない。

 今までどおり全身全霊で『理想のおよめさん』をやり続ける限り、ミュートの側で不満を溜めることもないと断言できる。“愛され足りない”なんて不満、(わず)かでも抱かせるほど自分の愛は軽くない。

 

 だがだからこそ、『ミュートよりエルザを優先させた』なんて思わせるような真似は、許容できる筈もなかった。大体にして、プリナはエルザのことを役に立つ雑用係兼ミュートのお気に入りの人形くらいにしか思っていないし、その“性能”を向上させるためにアーティファクトを持たせる以外の意味合いなどもとよりある訳もない。

 

 かと言ってそのことを言葉にしてミュートに説明しても、意図は三分の一伝わればいい方だろう。そのまま口に出すと……『つんでれ』だったか、なぜか照れ隠ししていると解釈される気しかしない。

 

「となると、行動。人類を根絶やしにできるランクの蝕魔(インフェクター)から得た遺宝よりもなお価値のあるものを、ミュートに先にプレゼントすること」

 

 無理難題―――とは、まったく思わなかった。何故なら価値の重さは人それぞれ。カスミ・ユートにとって何よりも価値がある存在など一つしかない。あり得ない。そうでないなんて許されない。

 

 

「『プレゼントはわたし』………でしたよね。あはっ♡

 いいですよ。全部かなえますよ。だってわたし、あなたの『理想のおよめさん』だから」

 

 

 全裸に飾り布(リボン)だけを巻いて、煽情(せんじょう)的な恰好でその身を差し出すシチュエーション。あの遺跡でこれを語られた時は、肉体から離れていたにも関わらず火照りに魂を震わされたものだった。

 愛するあなたにこの身を捧げます―――そう全身で表現する(よそお)いは、あの時語られなかったその続きを迎えるに最も相応しい。

 

 おままごとみたいな恋人ごっこも幸せだ。鳥の雛が互いの毛をこすり合うような、ふわふわして暖かな日々を共に過ごす今をくれた彼には感謝しかない。

 けれど互いを壊れるくらいに抱きしめあって、肌に爪痕を刻んで、体液を(すす)り合って、乱れて、狂って。そんな激しい愛も、そろそろ取り入れていい頃合いだろう。

 

 

 丁寧に、丹念に、装いを彩ろう。柔肌をへこませて、可愛らしい布切れを手足に巻き付けて。束縛されたの、束縛されたいの。優しくほどいて、生まれたままの私を受け取って。いやらしいところは恥ずかしげに隠すけど、結び目を引っ張ったら簡単に見えちゃう。卑しいの、ばれちゃう。

 

 

「あぁ…だめ。これはだめだわ。想像しただけで脳が(とろ)けそう」

 

 

 Vの字にした人差し指と中指を両の口角に当てながら、艶めいた笑みは妖しく。

 そう遠くない未来、恋人(エモノ)の理性を容易く叩き壊す魔性を、当然のようにその魔女は会得していた。

 

 

 





黒羽々■(装備/射撃)
 プリナちゃんが、というより『鑑定』の心得がある人がドロップアイテムを見た場合こんな風になる。マイナーな文字は判定不可能ってどういうことなんですかね(すっとぼけ)

 ちなみに伏字なしはこちら↓
黒羽々錐(クロノハバキリ)(装備/射撃)
:精密狙撃S
遡行(そこう)の魔弾A
:歴史抹消・逆魔時刑(サカシマドケイ)
弾数制限(リミッター)解除X

 ミュートくんはミュートくんで『遡行(そこう)』なんて言葉の意味も読み方も知ってるはずがないのでどのみち判定不可能ですが。
 Xは弾数無限であるということに上位も下位もないのでランク評価不能、みたいなニュアンスです。


>見せたくても見せられる筈がない
 さらっと闇が覗く……。

>『プレゼントはわたし』
 裸リボンをリクエストして好感度が下がるどころか上がるの、この子くらいなのでは。

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