夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 サブタイになってるのに出て来たの4話目。
 まあ、どちらかというと1話目のコリーおばさんと同じく教会について描写する為のフックであって、そこまで扱いでかくするようなキャラではないし仕方ないんだけど。




礼賛騎士ビオラセウムⅣ

 

「相変わらず騒がしい街だ……」

 

 青みがかったグレーの短髪。そうでありながら無頼の多い、それ以上に遺宝装備で身を固めるので衣装に統一感のない抗魔士(イムニティ)に珍しい、涙滴型の紋章が胸に刻まれた襟付きのジャケット姿。

 精悍(せいかん)と言うにはやや威風が足りない青年のC・ビオラセウムは、先ほどまで散策していた大通りの光景を思い返して顔を歪める。

 

 礼賛騎士として叙任されるまで留学していた隣国ストレプト国州の聖都では、ほぼ全ての住人が信心深いこともあって独特の静けさが支配していた。

 自分より弱いものをいたわる素晴らしい教義を実践する信者たちは、欲に染まって自身のみの栄達をはかったり他者を踏みつけにすることがない。力と富があるからと抗魔士(イムニティ)が肩で風を切ることも、彼らに商人達が媚びへつらいながらより多くの利益を得ようと企てることも、常人達が妬みと劣等感に(さいな)まれながら下を向いて生きることも、聖都では無縁の光景だった。

 虚栄心と傲岸(ごうがん)さに駆られて罵り合うことも、暴力によって相手を従わせようと殴り合いや威圧に訴えることも、あの都では稀だった。一部のはぐれ者が出ても騎士が即座に鎮圧するし、そういった者達は住民全員が冷たく排斥するため居場所がない。

 なにより、自分と同じ孤児がみな恵まれた暮らしをしていた。もっとも弱い立場の、もっとも救いを必要としている子供達にたくさんの人が慈悲を注ぐ光景にビオラは救いを見て、それが世界中に(あまね)く拡がるべきと強く固く確信したものだ。

 

 

 それにひきかえ、この城塞都市パーシャルのなんと醜い在り方か。

 

 

 成程人類生存の最前線として蝕魔(インフェクター)の侵攻を食い止め続けてきた功績は認めよう。だがその為に人類全体に奉仕すべき責務を負う抗魔士(イムニティ)を必要以上に増長させ、都市運営において国家権力よりもギルドの意向が優先される有様だ。

 

 だがそれもあと一年と経たず、『英雄様』が復活した暁には全ての蝕魔(インフェクター)が世界から一掃されるのだ。であれば、用済みの抗魔士(イムニティ)が分相応以上の特権を享受(きょうじゅ)する今の在り方を維持する必要もない。否、初めから奴らはそんな資格など持っていないのだから、『英雄様』の威光の下に聖教会がギルドを解体し、あるべき姿―――あの聖都のような光景をこの地にも実現するのだと。

 

 そんな使命を与えられ、また自らもそれが最善の在り方と信じてこの地に派遣されてきた新人騎士ビオラセウム。とはいえ、今すぐに何をしろと言われている訳ではない。目下は他の抗魔士(イムニティ)同様蝕巣(フォーカス)に潜って生活の糧を得ながら情報収集と同志となる仲間を集めることとなるだろう。

 

 その第一候補となるべき相手を、ビオラはずっと前から心に決めていた。その為に朝から嫌悪感を押し殺してギルド支部に居た職員や抗魔士(イムニティ)に聴き込みまでしていたのだ。―――何故かその全てから、「正気かこいつ」と哀れむような眼を向けられたが、あんな物の道理が分からない連中がどう思うかなど知ったことではない。ない、が、揃って言葉を濁してなかなか情報を得られないのだから苛ついた。

 

 結局午前中のうちから酒の匂いを漂わせているEランクの落伍者から、目当ての相手は毎朝ギルドの営業開始時刻に来て依頼がなければ上級市民の区画で買い物をして帰っていく、という話を聞いて急いで移動してきたところだ。

 

 孤児上がりのビオラにとってこういった富裕層の場所は縁遠いものだったが、礼賛騎士の立場を得て正式な聖教の騎士服を着用している以上は見咎められる心配もない。それに、こういった区画で買い物をするということは彼女も相応に成功し生活が安定しているということ。ギルド等級で言えばCランクの自分が引き上げる労力も少なくていい、都合がいい、とほくそ笑んだ。

 

 

――――成功して上澄みの立場にある存在が、数年間没交渉だった相手のために今の立場を捨てて一緒になってくれるなどというそのおめでたさを『都合がいい思考』だと思い至ることはない。というより、礼賛騎士という立場をその信仰心から過大に美化し、同年代で自分より成功している存在などそうそう居る筈がない、そんな自分の誘いを断るなんてあり得ない、というのが無意識の思考過程。

 

 

 『物の道理が分からない』者にとってはそんな教会の肩書など紙切れ一枚にも劣る、という事実―――あるいは自分の大切に想う相手はあんな連中とは違う、という決めつけの願望を自覚することなく。

 

(見つけたっ!)

 

 P・エルギノーザ―――同じ孤児院で育った幼馴染の少女を見つけて、探し人との再会に(はや)る気持ちを抑えられなかった。

 

「エルザ!」

「………?………、ああ。ビオラくんですか」

 

 背丈はそうでもないが、シスター服越しに浮き出る体つきは女性らしく大きく成長した、特に胸が―――男性としての劣情は見栄で表に出さないように我慢していて。胸や尻に目が行って首輪の存在すらこの時点では目に入らず。

 呼び掛けからの返答に間があった理由も、『顔つきとか色々成長してるし、そもそもどんな顔だったかいまいち覚えてないんだけど、こないだシスター・コリーから帰ってくるって話があったし教会騎士の服着てるから彼なんだろうなあ。適当に知り合いの感じで受け答えすればいいんですかね?』という思考を挟んでいたからなどと気付けなかったのは……まあ遅かれ早かれなので幸いとは言うまい。

 

「話がしたいんだ。いいかな?」

「お買い物中なので、すみませんが」

「終わってからでもいい。……何を、買っているんだい?」

「リボンですよ。見て分かりません?」

 

 何か複数の商品を手に取って悩んでいるエルザに絡もうとして、ビオラは初めて今自分が洋裁店に居ることに気付く。彼女が見比べていたのは女性服に縫い付ける、あるいは髪留めや『贈答品の帯に使われる』飾り布だった。

 ただ何色もの大巻きの束を見比べては悩む姿は、ちょっとした小物の為に選んでいるようには到底思えない。

 

「そんなにたくさん?一体何に使うんだ?」

 

 洒落た店を利用するくらいには裕福そうだし、孤児院の子供たち一人一人にプレゼントでもするのだろうか。だとしたら感心なことだ。『英雄様』に憧れ、信仰を大事にしていた昔の彼女と変わらないままなのが嬉しかった。―――そんなぬか喜びを()み取って斟酌(しんしゃく)する理由が、今のエルザにある筈もなく。

 

 

 

「ミュートさんに『プレゼントはわたし』をやる為ですよ?」

 

 

 

「……………は?」

 

「裸にリボンくるくる巻いて、自分をプレゼントに見立てて求愛するんです。

 えへへ、なんだかとっても素敵ですよね!」

 

「…………は?」

 

「あ、ミュートさんっていうのは今エルザとパーティー組んでくれてる男の人です。

 とっても強くて優しくてカッコいい、エルザのご主人様なんですよ!ほら、この首輪もあの方からいただいたんです!」

 

「………は?」

 

「しかしどのリボンにしようか迷いますよね。王道に情熱の赤か、ミュートさんのイメージに合わせて黄色か。肌と髪とのコントラスト考えると暗めの紺とかベルベットとかも攻めとしては高得点ですよねえ。可愛らしいピンクの模様付きでキュートさを前面にっていうのも捨てがたいですし。あ、ちなみに参考までに訊くんですけど―――、」

 

「……は?」

 

 

 

「ビオラくんはどのリボンで『プレゼントはわたし』をやるのがいいと思います?」

 

 

 

「は―――――――」

 

 一応、念のため言っておくが、エルザに悪意はない。そもそも悪意を持って接しようと考えるほどビオラに対して思うところなど持ち合わせていない。それはそれで残酷な話だが、ついさっき急に再会した昔の孤児院仲間の内心に気付けというのはエルザでなくとも無理な話だ。

 だが主語を省いたせいで、幼い頃からの初恋で立派な騎士になって戻ってきたら告白して結ばれるのだと信じていた目の前の少女が、にっこにこの笑顔でご主人様と慕う他の男に対してこれからあられもない姿で性交をねだるのだ、という爆弾を叩きつけられたビオラの脳細胞はコンクリートばりにがちがちに硬化した。鉄筋が入っているわけではないので、ちょっとハンマーで叩いたらぼろぼろと崩れるだろう。

 

「は、はは……僕にはちょっと選べない、かな………」

「むむっ」

 

 だが重ねて言うがエルザに悪意はない。それ以上に好意もない。

 だから何の遠慮も容赦もなく、追撃の破城槌はフルスイングでぶち込まれる。

 

 

「そうです、選ばないでも全部買っちゃえばいいですよね!

 別に一回きりしかやっちゃダメってわけでもないんだし!

 参考になりました、ありがとうビオラくん!」

 

 

「―――――」

 

 破壊された脳細胞ががらがらと崩壊していく音を聞きながら、ビオラは茫然の体で固まるしかなかった。

 エルザはそんな彼の様子に気付く由もなく、候補にしていたリボンの束をまとめて抱えながら上機嫌に会計に向かうのであった。

 

 

 

「毎度ありがとうございましたー」

 

 そして一部始終を目撃していた店員は、プロ根性で営業スマイルを保って会計を終えながら二つの想いを抱いていた。

 

 一つ、店内で堂々とこれからうちの商品をハレンチな目的に使いますと公言した少女が幸せそうだから怒りにくいなあ、というものと。

 一つ、女は他にも星の数ほど居る、強く生きろ少年、というものと。

 

 

 





 フラグ回収!予定調和!
 BSS脳破壊で愉悦るにはやっぱり変に思い込みが激しかったり自分中心でばっかりものを考えてたりして感情移入したくないなーって思わせる男に限りますよね!

 どこぞの狼男くんに関しては、あれは性癖的な意味で特殊というか別次元な枠だから……。

>聖都では無縁の光景だった
 それをすばらしいと思える人間がたくさん居ます。社会秩序という意味では非常に有益です。だから信仰されるんです。やさしいせかい!
 強者であればあるほど見返りのない善行を当たり前に強制される、という前提で、ですが。“弱者様”にとっては支払った以上の恩恵がもらえるのだから、洗脳なんてするまでもなく疑う発想すら湧かないですよね。

>人類全体に奉仕すべき責務を負う抗魔士(イムニティ)
 洗脳を受けていない、または洗脳を脱した当事者にとっては「知るかバカ」の一言ですが。
 そしてその一言を一番心の底から思ってるのはプリナちゃんであるという。

>『英雄様』の威光の下に聖教会がギルドを解体
 ダイナミック皮算用。しかも既存の権力構造さえ壊したらその後自分に都合のいいように全てが進むと考えている頭ハッピーセット。なんか現実にもこんな思考回路してる人たちが居るような(危険球)

>他の抗魔士(イムニティ)同様蝕巣(フォーカス)に潜って生活の糧を得ながら
 そのくせ現体制の恩恵は恥ずかしげもなく受ける。なんか現実にも(ry

>「正気かこいつ」と哀れむような眼
 ご主人様の為にわぅわぅ言いながら媚びまくり最近首輪まで付け始めたわんこを2人パーティー(見た目上)から引き抜きたいと言い出す、しかもそのご主人様は都市をたった一人で壊滅させられる歩く災害である。
 絶対正気じゃない(確信)

>揃って言葉を濁してなかなか情報を得られない
 電撃で消し炭になりたいなら一人で勝手に自殺しててくれ、こっちにとばっちりが来たら勘弁、という思考。ちなみにゲロった酔っ払いは以前出て来た逆恨みくん。

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