夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
追撃入りまーす。
想いを打ち明ける前に終わっていた恋。
裸にリボンを巻いて求愛するような仲の男が居る女の子に対してアプローチを掛けるなど、普通は無理だろう。
実る可能性皆無なのに告白という非常にエネルギーを消耗する行為に対して気力が湧かないというのもある。が、それ以上に恋人が居る相手に横恋慕してコナを掛ける行為が非倫理的、不誠実、何よりみっともないというのは基本的に万国共通の観念。自分を客観視した場合に見栄やプライドで二の足を踏むのが普通というものだ。
しかし、“普通”から外れて自分を客観視できない人間、倫理道徳をためらいなく捨ててしまう人間が居るのだから世に不倫や浮気というものが溢れているわけで。
C・ビオラセウムは典型的な前者だった。
「幼い頃からずっと君が好きだったんだ!エルギノーザ、僕とパーティーを組んで欲しい。もちろん、恋人として」
何年も前から聖都で騎士として修行して戻ってきたらエルザと恋人になって『予言の年』の諸々を終えたら籍を入れて子作り―――と脳内で人生設計までしていたビオラである。
なお当のエルザは何の約束もしていない模様。ビオラの認識では幼馴染として互いに両想いだと勝手に確信していたからそれで問題なかったのだ。まあ、『帰って来たら伝えたいことがある』なんてセリフを言われて色恋の話を連想しなかったエルザに原因が全くないとは言わないが、孤児上がりのシスターにそういった方面の思考を要求するのも酷というものだろう。
ともあれずっとエルザと恋人になるのを当然の未来だと考えていた彼が、今更引くに引けずに告白を強行するのも不自然ではない。もしかしたら『プレゼントはわたし』なんてのも何かの間違いかもしれないのだし―――いや実際主語が間違ってはいるけど。
不自然ではないのだが、しかし当然ながら告白される側のエルザには知ったことではない話な訳で。
奇しくもかつてプリナの妄念と交感して『エルギノーザ』の精神が砕け新たに生まれ変わった公園で、買い物を終えて一応話とやらを聞くだけ聞いてみたエルザに、プラスの感情が湧く筈もなく。
(―――え、この人なに
そして自らを『ご主人様のペットモンスター』と認識している彼女は、旧知の幼馴染に対して迷いなく「獣畜生に恋愛を語る
シスター帽と服で隠している獣耳と尻尾以外は人間の姿形をしていたとしても、エルザの本質は■■だ。自らの意思でバケモノの血を啜りバケモノと化した、人類種の天敵だ。
飼い主であるご主人様にならいざ知らず、それ以外の特殊性癖の変態に欲情の視線を向けられたところで侮蔑の念しか覚えない。ましてや聖教会の騎士がなどと、呆れてものも言えないとはこのことである。
当然、回答などハナから決まっていた。
「えっと、誤解の余地の無いようにしっかり答えますね?
――――ごめんなさい無理です不可能ですお断りしますありえないです」
「…………は?」
先程の洋裁店に引き続き、またもびしりと固まったビオラ。その間抜け面をジト目で睨むエルザだが、今回の発言に関しては明確に悪意があった。
というよりエルザはこの時怒っていて、思いっきり不機嫌だった。
エルザが一番好きなことは
だがそれはそれとして、ミュートがプリナといちゃついているのを眺めるのも幸せだと感じる。
ミュートのことが大好きでミュートの理想通りになんでもやってくれるミュートの好みに完全合致した可愛い恋人と陸み合う時の彼は、これ以上ない至福を全面に表現している。主が幸せなら当然ペットであるエルザも幸せ。愛する相手が他の女ばかり見ていて
裸の体に可愛らしくなるようにリボンを巻き付けるには、エルザが手伝ったとしても入念な練習が必要なのは自明のこと。早めに家に帰ってミュートにとって最高の『プレゼント』になるようにプリナとエルザで創意工夫を頑張らないといけない。
これもご主人様の幸せの為。その為の“犬”馬の労を苦にしないどころかペットとしての本懐だとして全身全霊楽しんで行うのがエルザの流儀。
そんな風にこれからのことを考えて上機嫌で気分が良かったのに。
―――ミュートの幸せのために頑張る大切な時間を削ってまで話を聞いたのに、役に立つ情報どころか大したことのない用事で時間を無駄にされた。
―――今のパーティーを抜ける、飼い主の下から離れるという一考にも値しないお願いをされて主従の絆を軽んじられた。
―――あまつさえその理由がミュートの所有物であり家畜である自分を恋人にしたいなどという気色の悪い変態性癖からだと面と向かって言われた。
エルザは温厚な……というよりミュートに関わること以外をどうでもいいと思っている無関心故の寛容な女だが、目の前でこうも不愉快な真似をされて大人しく黙っているようなら人類種の天敵になど堕ちてはいない。
とはいえ正式な教会の騎士に任じられるレベルの
エルザに恋をしているなどという戯言を
“嫌がらせ”で“多少の不快感”を与えたいという、その程度の悪意はあった。
「くっ……、何故なんだエルザ……!」
「何故も何も、これまで一緒に
『一緒に戦ってきた仲間を一方的に捨てるなんて最低』―――おぼろげな傷の残影が思考の端を掠めた気がするが、そんな些末事に構わずたたみ掛ける。
「そもそも何故、いまさら?あの孤児院で何年も一緒に居てそんな話をしましたか?ビオラ君が聖都に留学に行ってから、エルザがソロで活動していた時期もありました。
エルザが「はい」って言うかもしれない時機をわざわざ逸しておきながら、エルザと一緒のパーティーになりたいなんて何故今更言えるんですか?」
「それは立派な騎士になってからって、だから今こうして―――」
「今までそばにいて一緒にがんばることもできなかったキミが、何故今更好きになってもらえるなんて思ったんですか?」
「――――っ!?」
何故、というのは便利な言葉だ。
「あなたに悪いところがあるから探してごらん」という攻撃的な意図を、さも悪意がないかのように包むことができる。
返答に窮して詰まった相手に対し、さも善意であるかのように見せながら追撃を掛けることができる。
「問いを変えましょうか。何故、立派な騎士にならないとエルザを誘えないんです?」
「それは、だって立派な騎士になるのが僕の夢で」
「答えになってませんよ?何故、夢を叶えてからでないとエルザを誘えないんです?」
「ぁ、えっと………」
「孤児だから。親に要らないと捨てられたから。だから誰かに肯定してもらわないと、自信が持てなかった。自分が誰かから好かれる人間だなんて思えなかった」
「ひ……ッ!?」
刺し穿つような傷口の切開。
唐突に、全ての表情を一度消して能面の顔で暴き立てる。
生まれから来る卑屈な思考は過去の『P・エルギノーザ』をトレースすれば言い当てるのは
かつて『自分は恵まれている』と必死に自分に言い聞かせながら、除霊のボランティアに打ち込んだ記憶。そうやって誰かから感謝されることで、共に命を懸けた仲間からすら捨てられた自分が『無価値ではない』ことの証明に必死になっていた頃の脅迫観念。
今ミュートのペットモンスターとして全てを彼に
エルザからすれば知ったことではない。そんな自慰行為に勝手に巻き込むな、という話でしかなく、不快にさせた代償としてその傷を
「これは次があるなら、という忠言になりますが。
――――他人からもらった肩書がないと女の子を口説けないような男は、最低に情けないですよ?
――――仮にそれで釣れる女の子なんて、肩書で男を見るようなのしか居ないの分かりますよね?」
「あっ……、あっ……、」
「昔馴染みのよしみです。せめてビオラ君が次はまともな恋が出来ること、祈らせてもらいますね」
そう言って指を組んで祈りの仕草。シスターとしてそれはもう
『私はあなたとの恋なんてあり得ない』、と何よりも雄弁に語る祈りを。
「あっ、あっ、ああああああ゛あああ゛ああ゛゛ああ゛ぁぁぁぁっっっ!!!」
揺さぶられた挙句の恋心を全否定。
騎士服を着た孤児にできたのは、意味を為さない叫びをあげながらただ逃げ出すことだけだった。
そして気配が完全に離れたところでエルザは祈りの姿勢を解き。
「ぶい、なのですっ!」
どこへともなく、指二本を立てた両手を顔の横に持ってきて、ご主人様伝来の勝利のポーズを決めるのだった。
「あっあっあっあっ」脳が壊れる声ノルマも達成!
………なんかどっかの凄惨姫フレーバーが混ざってた気もする。
>無関心故の寛容な女
わんこの言動で誤魔化されるけど、この子の精神とか価値判断はジェネリックプリナちゃんなので。ニンゲンを
>“嫌がらせ”で“多少の不快感”を与えたい
わりと心の致命傷なのでは……?悪堕ち済なのでオーバーキルも致し方なしか。
>ご主人様伝来の勝利のポーズ
エヘ顔ダブルピース。エルザちゃんは可愛いなあ(直前までの所業から目を逸らしながら)