夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
元々のプロットなので例の事件とは関係ないですが、それはそれとしてなんか時事ネタっぽくなった。
……多分それ以前の問題として、第一声からして医療関係者からまたツッコミ入りそうですが。
「クロストリディウム・ボツリヌス名義のギルド口座の入出金記録確認したわ。確かに開設からこっち、ギルドから報酬として入金した額がそっくり全部、市銀のC・ディフィシル名義口座あてに振り込まれてるわね」
「財産半分没収な」とやったら「全部他人に預けたので口座にお金残ってませんでした」問題。そーいやそれやってへらへら笑ってた女の配信者が公開メッタ刺しされたアホな事件とかあったっけ。何がアホかって、貢がせ+借金バックレで恨まれてるの知ってて配信活動続けて、しかもライブ中継で自分が今居る場所宣伝したせいで刺されたやつ。
裁判所にオフィシャルで「確かに残虐な事件だけど、懲役20年のうち4年分くらいは被害者の責任だから16年ね」って言わせたアレと違って、今回のケースだと多分悪意があるのは金を“預かってる”親の側なんだろーなーってのは俺らも受付嬢のおねーさんも一発で察してた。
救助依頼の財産半分没収から逃げるため……っていうよりは、単純に子供の稼ぎを全部ハネるクソ親っていう意味で。
「取り分ゼロって、装備とか
「………?」
「や、エルザは君に聞いてるからね?」
「………ひろったぶんだけで、がんばってました」
下級冒険者向けの装備とかポーションとかならギルド近くの大通りの店で買えるようになってる。中級からは高級店やオークションをあたるかダンジョンでドロップアイテムに期待するしかないけど、駆け出しは店でしっかり武器防具と回復薬を準備して冒険に出発ってやれる感じだ。うーん、いかにもゲームちっく。
このボツリヌス少年はセルフで店利用縛りプレイやってたみたいだけど。
「無茶なことするわね。今まで救助依頼出されなかったのが奇跡なくらい」
「え?それくらいだったら―――」
「わぅ!すごいことですよ!店売りに一切頼らず、遺宝だけで
「お、おぅ……?」
RPGで街の探索をあんまり深くやらないプレイヤーは素でやってることもよくある制限プレイだけど、現実だとすごいことらしい。何故か急にヨイショをし始めたエルザに俺も照れる。あとでまたなでなでしとこう。
「…………」
一方ノーリアクションなこの少年、ちょっと会話するだけでも「人生何も楽しいことがありません」って虚無が伝わってくる。会話って言っても、必要な質問に必要な答えを返してはい終了、が限界な無気力さ。さっきまで丸一日以上ダンジョンをさまよって死ぬ思いをしてたのに、疲れたとか逆に興奮して落ち着かないとか、そういう今まで助けてきた人たちと全然違うフラットな反応。感性が死にまくってる。
そういう子供が命がけで冒険者をやって、稼ぎを全部親に渡してるとくれば、どういうことなのかは名探偵じゃなくても一発で分かる。
児童相談所に通報すればいいんだっけこういうの。ファンタジー世界にあるか知らないけど。
「クロケおねーさん、こういう時ギルドはどうしてんの?」
「残念だけど、不干渉ね。ギルドは遺宝や依頼達成に報酬を払うだけで、自分で使っても他人に貢いでも個人の自由だもの。ただ……」
「ただ?」
当たり前だけど冒険者ギルドが児童相談所みたいなことはやらないらしい。そういう俺にしたって「嫌なもん見たな」って気分悪くするくらいで、今日行きあっただけの他人の家庭の事情に自分から首突っ込みたいわけもなく。通報先があれば通りすがりAとして連絡入れようとは思うけど、そういうのもなさそうだし。
「
「じゃあどうすんの?」
「ちゃんとギルド憲章に規程があるわよ―――『債務者が自らの財産を第三者へ譲渡、投資または物品取引等を行い、ギルドに対する債務を逃れる意思があると認められる場合、債務者からこれを授受した者も連帯債務者とし強制執行を行う』ってね」
「………どういう、こと?」
「要は彼の親に『あんたが金払え』ってギルドが追い込みかけられるってこと」
「や、そうじゃなくて。なんかクロケおねーさんが頭良さそうなこと言ってる……?」
「失礼!?」
ギャル風とか見た目以前になんか残念なおねーさんだなと思ってたのに、ちょっと裏切られた気分でショックだった。
「…………」
そして、自分の親が自分のせいで借金取りみたいな人達に詰められるって聞いても、この子供は何も表情を動かさなかった。
どういうことか分かってないのか、分かったところで反応するような感情がないのか、その両方なのか。
ある程度関わった縁もあるし、この話がどういう決着になるのか気にならないと言ったら嘘になる。
事は察知されて財産隠しをされかねない案件なので迅速にってことでこれからすぐ強制執行に入るみたいだから、ついてって見届けたいってお願いしたら普通におーけーとのこと。
『―――(こくん)』
「―――(わぅっ)」
一応アイコンタクトでプリナちゃんとエルザに確認はとったけど、いつもどおり全肯定だった。
で、ギルドの派遣する強制執行の担当者ってのが。
「―――む、いかなる奇縁か。このようなつまらぬ児戯で汝らと再び相
「あ、ミュートくん達おつー☆キミ達の案件だったんだねー。
あとフィオっち、奇縁ってほどでもないでしょ。『サンダーラット』にお世話になった時の報酬額考えたら、踏み倒そうとするおばかさんも出る時は出るでしょうし。同じくらい頭よわよわなの?」
「ディジーは初めましてですね。あにさまとアージェがお世話になったようで。
この通り頭が残念なディジーのあにさまが何か迷惑をおかけしていないですか?」
「貴様ら……ッ」
「くふふっ♡おこ?おこ?」
「何故怒るのでしょうか。あにさまが粗相を働いたのなら妹ママがごめんなさいする、当たり前のことではないですか」
Cランクパーティー『ワンダーブラッド』。俺達のパーティー名と微妙に似てるせいで勘違いの果てにあの港街プロステの英雄になった、通りすがりのただの観光旅行客だった人たち。
なんか難しそうな言葉を使うけど三下臭ぷんぷんな残念王子様系イケメンと、そんな彼になついている(?)見た目だけ小動物系美少女なメスガキ姉妹。
前二人だった時ですら絶対忘れないくらいにキャラ濃ゆかったのに、当たり前のように『妹ママ』なんて謎の言葉を全力で遂行してそうな最後の一人が追加されたせいで存在感がすごいことになってる。
「先日ぶりです、フィオさん、アージェさん!ディジーさんもはじめまして!
今日は三人の仕事ぶり、見学させてもらってもいいですか?」
「そゆことで。あ、俺はミュートでこっちはエルザ。ディジーさんはよろしく」
「ふふ、はい。よろしくお願いします。
ああ、あのあにさまにおともだちが出来ているなど、妹ママは嬉しくて涙が出そうです!」
「ディジー、貴様の中で俺はどんな想定だ……!?」
『おともだち……?』
(プリナちゃんそこに疑問持たないであげてっ)
「…………」
出発する前からなんだか騒がしい、そんな中で。
一番当事者なボツリヌス少年は多分何も考えてない無表情のままだし、差し押さえチームの指揮を取るクロケおねーさんは頭痛をこらえる仕草。
「……あの、このチームで強制執行するんですか?」
「そうなの。これがギルドのメンツを背負った執行部隊なのよ。これが、ね」
「背負う、チョー背負っちゃうよ☆」
「クハハハッ!!我らにそのようなモノ、
「そっかー。がんばえー『ワンダーブラッド』!かっこいいぞー!」
「………成程、なかなか分かっているおともだちですね。これなら妹ママも安心です」
あ、俺が悪ノリしてるのも含めて、エルザがちょっと冷や汗流して引いてる。
まあ後で聞いた話だけど、こういう時に『ワンダーブラッド』を呼ぶのは色々事情があるとか。
まず現場で相手が暴れるのに備えてそれ以上のランクが出張らないといけない。この無気力ボーイが自分からってのはなくても、親に命令されたら差し押さえの邪魔をしようとしてくるかもしれない。そうなっても問答無用で殴り倒せる上位の冒険者が居ないとまずい。
ただかなりの金額を扱うので、信用がある相手でないと手伝わせられない。その辺この三人組はあのメガネギルド長と個人的な契約をしていて、こういうギルドの公務にランクからすれば破格の安さで駆り出せるらしい。
しゃべってると全然そんな風に見えないけど、なんかすごい三人組っぽいのでした。
>何故か急にヨイショをし始めたエルザ
ミュートくんの失言を先回りして誤魔化すスキルを日々向上させているフォローわんこ。
>『あんたが金払え』ってギルドが追い込みかけられる
権力や法とは関係ない組織のルールでこういうことができちゃうこの街のギルド、政府黙認のヤクザみたいなものである。最初からいなかったことにされちゃった誰かさんじゃないけど、嫌う人は当然嫌うよね。
>なんか残念なおねーさんだなと思ってた
そんな組織で応対業務と強制執行の判断と現場裁量を任されるエリートですそのおねーさん。いつもミュートくんのせいでメンタル圧迫されてるだけで。
>『妹ママ』なんて謎の言葉を全力で遂行して
どけ!私は妹ママだぞ!
………旅行編でこの子おやすみさせといてよかった。チョイ役出演のくせに絶対本編に侵食してたわこれ。