夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
異世界で最初に出会う系メインヒロインとしてそれっぽいムーブ。
内心?まあ、バレなければ一緒だし………清楚姫ペンギン……うっ頭が。
プリナちゃんの作った泡は湖の上まで浮き上がっていくと、岸までふわふわと俺たちを運んではじけた。降ろされた地面の感触は、コケの生えて冷たくて湿った固い石じゃなくて、触ってて心地よくてやわらかい草の感触だった。
暗闇に慣れきってた目は真っ白しか映さなくて、しばらくはただ湖を吹き抜ける暖かくて気持ちいい風を浴びていた。それはつまり異世界でも地球と似たような太陽が輝いてるってことで。
それですぐに色を取り戻して、目に飛び込んだ景色は。
日差しを反射してきらめく水面。風になびいてそよぐ草木。わたあめみたいな雲の浮かぶ、どこまでも広い青空。
それらの背景のどれよりも眩しくて、あたたかくて、きれいな笑顔でこっちを見てくれているプリナちゃん。
あの封印の間で結晶の中眠っていた彼女を初めて見た時と同じかそれ以上の、心臓に電撃が走ったみたいな感情が沸き上がった。
「好き・・・」
「はいっ。私も、好きですよ」
当たり前のようにこぼれ落ちた言葉に、本当にうれしそうに返してくれる女の子。わざわざ一度ヴェールをずらして素顔を見せてくれているのは、きっと俺のためだ。
だからこの笑顔を目に焼き付けないといけないのに。いつまでもしっかりはっきり覚えていられるように、この瞬間を記憶に刻んでいたいのに。
「あ、れ……っ?」
にじんでぼやける。ピントのずらされたカメラみたいにあいまいな形しか分からなくなる。涙だった。なんでか俺は泣いていて―――とっさに女の子の前で情けないと思って堪えようとして。
とすっ、と。軽い衝撃と一緒に胸に飛び込んできた温もりが、そのまま俺の背中に手を回してとんとんと優しく叩いた。
「プリナ、ちゃん……?」
「我慢しないで。吐き出して。
失望なんて絶対にしませんから、私に遠慮なんて何一つ要らないのですよ」
ささやくような声で伝えてくれる。俺の胸元に顔をうずめているのは、きっとこのみっともない泣き顔を見ないでいてくれるっていうメッセージで。
「―――ずっとあんな場所で戦い続けるの、辛かったですよね。あなた様が苦しんでいたのに隣でのうのうと眠っていてごめんなさい。でも大丈夫。だいじょうぶ。
あなた様はもう、自由なのです」
「……ぁ」
俺がずっと見せないようにしてきた弱音のところまで見通されて、そうまで言ってくれて、こらえるなんて無理だった。あの遺跡の日々の中でずっと抑えてきたドロドロした何かがあふれ出てきて止まらない。
「そとだ。外に出たんだ……もう、もう俺は……あああああぁぁぁぁっっっ!!!」
怖かった。痛かった。辛かった。苦しかった。
帰る家も、学校生活も、スマホもゲームも全部取り上げられて。ピ○様のご加護っていうチートを手に入れてモンスターと殴り合うだけの毎日に、異世界ファンタジーのドキドキワクワクなんてなくて。暗い遺跡に閉じ込められて、プリナちゃんの存在だけを支えに毎日を耐え続けて。
そっか。俺はやっと、あの日々から解放されたんだ。
体の奥からこみ上げる震えを受け止めるために全身を貸してくれるこの子は、そのことを教えるためにここまでしてくれる。
本当はちょっと後ろめたいところがあった。見た目だけで好きになった子が、俺の好みに全部合わせて動いてくれる。そんなの人形遊びと何がちがうのかって。恋とか愛とかって言えるのかって。
でも今俺の体も心も包んでくれる暖かさは、プリナちゃんの本心からの想いそのものだと思ったら。
ああもう、本当に。この子の存在そのものが、都合のいい夢みたいな奇跡で。
「 ―――」
「はいっ。私も、好きですよ」
泣き過ぎてまともに動かない喉で、何度でも変わらない真実をしゃべろうとして。声にならない声を聞き取って、世界で一番大好きな女の子は何度でも同じ想いを返してくれる。
人生でここまで何かに感謝したことなんかなかった。ここまで嬉しかったことも他になかった。
今ちゃんと分かった、プリナちゃんは最高に素敵な『俺の』恋人なんだって。
これ以上なんてあり得ない幸運を、納得と確信と一緒にかみしめて。
きっと俺は一生この瞬間を忘れないって、そう思ったんだ―――。
…………。
本当は引っ掛かっていることがあった。満たされているのに不満、十二分なのに不足、そういう類の引っ掛かりが。
“弱さ”である。たとえばこうなるまで抱えた慟哭と悲哀は、私が眠っていると思い込んでいたこれまでの時間の中で一度も、彼が語ってくれたことなどなかったこと。
分かっている、たとえ意識がなかろうと好きな相手の前で情けないところを見せたくないという意地や思い遣りからだというのは。
だがそれはそれとして、私は彼の『理想のお嫁さん』になりたいから。
上辺だけの、取り
カスミユウトという男の存在全てに、魂の隅々まで私の魂を絡みつかせ溶け合わせて癒着させる。いずれ彼の情動や記憶一切が私に紐づくようにする。
(それくらいでなければ―――素敵な恋物語のハッピーエンドなどと呼べはしないでしょう?)
そう思って誘導してあげれば。抱き着いて、優しく囁いて、慰めてあげれば。呆気ないほどにいとも容易く抱えていた弱さを吐き出してくれた。
この人、私のことを好き過ぎるだろう、信じ過ぎだろう!その愚かしいまでに注いでくれる想いが愛おしくて愛おしくて。
ああもう、本当に。彼の存在そのものが、都合のいい夢みたいな奇跡で。
いけない。幸せ過ぎてつい気が緩んでしまう。
彼の懐にぎゅうっとしっかり
まだまだまだまだ、彼のことを知らないといけない。もっともっともっともっと、ふたりで一緒にやりたい事もそれこそ彼が毎日毎日語ってくれた
―――『あなた様はもう、自由なのです』
(ごめんなさい、ミュート。私はあなた様に嘘をついています)
あなた様は解放されてなどいない。
仄暗い水底の廃棄場の中から、その主であった死霊の妄執の腕の中へ移っただけ。
激情に震えるその背中を優しく
あなた様を解放するつもりなど、永遠にない。
拙者、恋人をよしよしして抱きしめながら表情は邪悪に歪んでるヒロイン大好き侍。
しかし恋人の胸の中に飛び込んで甘えながらよく見ると口元が吊り上がってて「モウコレデカレハワタシノモノ」となっているヒロインも甲乙つけがたい。