夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 チラっとだけ答え合わせのお時間。
 中二言動は最初からわざとらしいから、こういう情報開示を違和感なくやる時に相性がよくて助かる(過去作でさんざん幼女を便利に動かしてきた人の所感)




侵魔化《アラージ》Ⅴ

 

 深夜のクロストリディウム邸。

 昼間にギルドの強制執行チームが押し込みに入った際の騒動とうってかわって、重苦しい沈黙が支配している。今まで都合よく扱ってきた抗魔士(イムニティ)というものがどれだけ常識の埒外(らちがい)にいる存在かを突き付けられた恐怖と、それによりローコストの稼ぎがとても使えたものではなくなったにもかかわらず、家財全てを徴収されることになった将来への不安。そんなものが突然降りかかった常人の住民は誰も安眠などできはしない。あと数日で己の寝床ではなくなるベッドの中で、息を押し殺して緊張に身を縮こまらせているのが偽りの静寂を生んでいるだけだ。

 

 そんな内情まで全て把握した上で、(はす)向かいの屋根からその家を見下ろす影が一つ。いや、その後ろにもう一つ。

 

「……む、エルザか?」

「遅くまでおつかれさまですフィオさん。あ、これ差し入れです」

「受け取ろう。……干物チップス?なんだこれは」

「プロステのおみやげものですけど、この街にも(おろ)してたみたいで。

 ミュートさんあの港街のこと気に入っちゃってて、応援のつもりかたくさん買っちゃったんですよね」

「余りものの在庫処分か。いい度胸、というか酒のアテではないか」

「うち、誰もお酒飲まないんですよね……」

「おい」

 

 月光の下に尊大な言動の美青年と、垂れ目童顔の首輪付き修道女。立っている場所は雨の日に屋根裏の漏りがひどそうな朽ち(ヒビ)の目立つ集合住宅の屋上。情景としては頓珍漢(とんちんかん)で、しかし取り合わせとしては奇妙な整合となっている。

 

「見張りですよね?」

「連中が自棄(ヤケ)になって夜逃げでも始めたら面倒だからな。

 ギルドへの支払いの踏み倒しなど起こってみろ。面子(めんつ)()けて、城壁外の農牧地区画まで(しらみ)潰しに捜索しなければならん」

 

 

「それも大変ですけど、別に本旨(ほんし)ではないですよね。むしろ見張っているのは、ダニ親娘の方じゃなくてボツリヌスくんの方」

 

 

 心のこもらない理由付けをわざとらしく語るフィオジェネスに、エルギノーザは常と変わらない明るい声音で否定を刺す。

 

「………。ふん、疑問形ですらないあたり、“裏”を知る側という訳か」

「どうでしょう。『侵魔化(アラージ)』程度が“裏”と呼べるほど、この世界がペラッペラの薄さなら―――ええ、それはそれで幸せな話だと思いますが」

「ククッ。有象無象共に突きつければそれだけで世が混沌に墜ちる真実をして“浅瀬”か。

 聖教会(英雄狂い)(ともがら)にしては随分冒涜(ぼうとく)的な知識を持っているようだ。孤児院ではそんなことまで教えているのか?」

「まさか。よりにもよってこの夢現世界(パラソムニア)で、一番現実を見てなくて夢だけ見ている方々に扱える知識(ばくだん)ではないでしょう?上層部はどうか知りませんが」

(もっと)もだな。―――しかし、先の『ダニ親娘』などという暴言といい、強者(ミュート)に媚び取り入る三下仕草は擬態か?犬真似の割に被っているのは猫とはな、くくく」

 

 

 

「………?犬とか猫とか知りません。エルザはミュートさんのペットであって、それ以上でも以下でもないですよ?」

 

「……、………。分かった、貴様がうちの“自称妹ママ”(ディスガラクティエ)の同類ということは、十分にな。だからそんな澄んだ目で見るなこっちの正気が不安定になる」

 

 

 

 何故か頭痛をこらえるような表情で眉間を押さえるフィオを(いぶか)しげに観察していたが、自称ペット娘は一度終わった話題を転換してここを訪れた本題を提起する。

 

「それで、コトは本当に起きそうですか?起きるとして、いつぐらいになるでしょうか?」

「我らがあの家を出る時には既に兆候が表面化していた以上、確実に起きるだろう。“人類悪”としての習性に耐える気概があの小僧にあるとも思えん。

 すぐの暴発はなかったなら、機はおそらく明朝遅く。あの『ダニ親娘』は“一睡もできない”ということすらできないだろう。故にひと眠りし、目が覚め、そして変わらない現実に絶望し。―――改めて現実感をはっきり抱いて向けるのだろう。“お前はバケモノだ”という恐怖を、あの小僧にな」

「都合のいい金蔓扱いとはいえ、これまで“受け入れられていた”両親に一転拒絶された彼に、もはや息子(ニンゲン)で居たいという(わず)かな意思は完全に消える……なるほど」

「とはいえ予想は予想。外す可能性もあるから、コトが起こるまでは三人交代で常時見張りだ。(わずら)わせてくれる」

「そしていざその時になれば『奴隷扱いしていた抗魔士(イムニティ)の息子についに反抗されて無理心中になった愚かな一家』という形に見えるように“処理”、世は全てこともなし―――本当に、おつかれさまです」

 

「……それがギルド長との契約だ。生まれの因業を背負った我が、アージェとディジーともどもこの街に受け入れられる為に必要な泥仕事。

 この街にとっても誰かがやらねばならん火消しの闇。ジンジヴァリス……あの男にとっては真実を知り、相応の実力があり、弱みもあるこの身が都合良かったのだろうな。あの双子を巻き込むつもりは当初なかった、というのは繰り言だが」

 

「あはは。ちゃんとおにーちゃんしてるじゃないですか。それは彼女達だって好き好んで巻き込まれに来ますよ」

「む………」

 

 自分達を蝕魔(インフェクター)の脅威から守ってくれる抗魔士(イムニティ)が、その精神状態次第で外敵と同種のバケモノに変わる。破滅の魔に抗う闘士が反転して異形に転ずる事象、『侵魔化(アラージ)』。

 

 こんなことを公にすれば、民衆は疑心暗鬼に駆られ社会秩序は機能不全を起こすだろう。安全だった筈の城壁の中、いつどこの誰が魔物になるかも分からない、と。

 パニックなどという言葉では済まない。隣人が隣人を疑い、どれだけ凄惨な暴動が発生することか――――ギルド長(ヴァリス)とフィオ達の認識はそこ止まりであることを、『ワンダーブラッド』の絆を温かく称える体を取りつつエルザは確認した。

 

 実際、“恐怖”の発生する余地を最小限にするため事実を公には伏せる、対処としてはそれで正しいのだ。真実がもっと碌でもなく、救いのない理由であるというだけで。

 

 人々の認識で現実が歪むこの夢現世界(パラソムニア)において、『バケモノと互角に殺し合う存在などバケモノでしかない』『もし奴らがこちらに敵意を向けたら、自分達は一方的に虐げられる』という弱者達の“恐怖”もまた、実体化するには十分な“総意”を形成してしまっている。

 己という一個人の強固な妄想(デルシオ)で世界法則を改変する、そんな抗魔士(イムニティ)にとって、有象無象の漠然とした不安など強烈な自我でもって弾きのけることは本来容易い。が、自己を保つための精神が何らかの理由で正常でない場合。

 たとえば、千年物の怨霊との交感で魂が塗り潰され、その愛執の対象が『ペットモンスターが欲しい』と言っていたことでバケモノになることを喜々として受け入れたどこかの少女のように。

 

 

 自分達の命を守ってくれている存在に与える呪い。恩を仇で返すにも限度すらない最悪の構造。

 

 

 世界を救った少女に対して最大級の賞賛と感謝と、そして同等の不安と猜疑(さいぎ)を向けた『無力な民衆』がいて。

 世界を救っても、愛する家族も仲間も全て失い、戦った理由も信念も全て折られ、『何もかもどうでもいい』と無気力になった一人の少女がいて。

 

 

 至高の英雄姫を『災イ凶ツ姫』へと変えたのは、皮肉にも彼女が救ってきた全て。無辜(むこ)なる民草、即ち罪の無い者などそこには誰一人いなかった。

 

 

 ならばかく在れと望まれて堕ちたバケモノはバケモノらしく、バケモノの愛し方をする為に。

 

 

「明日の朝ちょっと遅め、ですね。じゃあその時間にまた、ミュートさん連れてきますね!」

「……奴に、この真実を教えると?危険ではないのかそれは」

「あはは、リスクはないことはないんでしょうけど。でもだいじょうぶです。

 

――――『それでミュートがどんな風に歪んでも、絶対に愛せますから』」

 

 

 伏せたままでも関係を紡ぐのに何も問題はないのに。己が“そう”であると知らせることに繋がる情報なのに。

 『彼女』はこの救いのない真実を、最愛の彼に開示することを選択したのだった。

 

 

 

 

 

 そして、翌朝。

 

 フィオとエルザの予想はある意味で的を外していた。父親と母親の精神状態の推移は概ね正しかったため、時系列にずれはなかったが。

 

 ボツリヌスという少年の自我など、とうの昔になくなっている。まだ幼い時分、『いい子でがんばっていればおねえちゃんと同じように愛してくれる』と信じて両親の奴隷扱いに耐えていた時期もあった。だがそんな儚い期待などとうに擦り切れ、今そこに居るのは両親の命令に従う残骸だけだ。

 命がけで蝕巣(フォーカス)を探索し、その戦果を全て巻き上げられても何一つ不満を抱かぬ、ただの人形同然の存在。故に息子(ニンゲン)で居たいという心など遥か以前に消え失せて久しい。

 

 だが両親は奴隷同然とはいえ確かに彼を“息子”として扱っていた。故に彼はニンゲンとして留まっていた―――昨日、ミュートに超人の外れ具合を突き付けられるまでは。

 抗魔士(イムニティ)の脅威を実感したことで、父も母もボツリヌスに対して認識を改めた。『その気になればいつでも自分を殺せるバケモノ』だと。そして恨む理由などいくらでもあるのだから、『いつか自分を殺すバケモノ』だと。

 

 両親の命令に忠実な“人形”は―――故に、そのオーダーを忠実に実行する。

 

「いやあああぁぁぁっっ!!!?」

 

 

 いつか殺す。いつ殺す?今、すぐにでも。

 

 

 ありふれた住宅街の中の一軒、朝日が山向こうから顔を出し人々が労働への途に就く頃、姉ティターニの悲鳴を聴きながら。

 

 

「オとうさン、おカあサん、あそボ?」

 

 

 残虐に、凄惨に。鮮血と肉と骨と臓物を家中一面にばらまいて。

 両親が恐怖したとおりの行いをそのままなぞり、『下級侵魔(インフラム)』と化した少年は、かつて両親だったモノを解体してぶち撒ける作業に熱中していた。

 

 まるでおもちゃ箱をひっくり返す幼子のように。

 

 





【悲報】クロケおねーさんの査定作業、大半ムダになる

“自称妹ママ”(ディスガラクティエ)の同類
 エルザはプリナちゃんにエルギノーザされちゃった結果のペット化だけど、逆に素でそれと同類のディジーちゃんとは一体……?

<破滅の魔に抗う闘士が反転して異形に転ずる
 多分アラージっていうかドイツ語発音(ローマ字読みに近い)だとみんなピンと来ると思われ。
 免疫機能(immunity)対象エラー(allergy)を起こして総体を傷つける。まあ、ただの言葉遊びですね。本来言葉遊びにしかならなかった筈なんですね、この夢現世界(パラソムニア)でなければ。

<罪の無い者などそこには誰一人いなかった
 侵魔化(アラージ)の真実と併せて過去英雄姫ちゃんの死体蹴りポイント2丁へいお待ち。いや、そのせいで妹ちゃんが…と考えると更にもう1ポイントか。
 もう地雷しかない気がしてきたこの子。

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