夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

52 / 52

 衝撃の真実()に対するミュートくんの反応。




侵魔化《アラージ》Ⅵ

 

「あー、これそーいう系なのね………」

 

 

 数日ぶりのギルドに行って、救出依頼をこなして、助けた子の親に依頼料を取り立てる為に、突撃お前の全財産をやって、ちょっともめて。

 そんな次の日の朝、いつもより早い時間に朝ごはんが用意されてて、いつもより早い時間に家を出て、毎朝通ってるギルドじゃなくて昨日の家に向かう。

 

 いつもより早い時間に起こしてきたエルザに、「事件が起こるニオイがします!」って言われたから。お前は犬か。わんこだった。

 

 別に朝のルーティーンはここ数日頭がサルになってめちゃくちゃだったのを昨日戻したばかりだし、規則正しい生活なんてエルザがそう世話を焼いてくれるからなってるだけで元々こだわりはない。この世界に来る前はゲームや動画で夜ふかし当たり前だったし、あの遺跡だと時計どころか太陽が出てるかどうかさえわからない生活してたんだから。

 なもんで、予定変更でギルドに行く前に遠回りするのに嫌って言う理由はない。自分でも趣味はあまりよくないと思うけど、昨日深く関わったあの家庭の件に何か変化があるなら当然気になるし。何よりプリナちゃんもどこかしんみょーそうな感じで「行きましょう」って言うんだからもう決定だった。

 

 で。

 

「―――役者は揃った、ということか。既にして幕は上がっている」

「昨日ぶりです、ミュートさん、エルザさん。今のところ予定通り、予想通りです」

「ここまであたしらの推測がぴったり的中って、あのおっさんおばさん底が浅いなんてもんじゃないでしょ。水たまり?」

 

 目的地の家の近くには『ワンダーブラッド』の三人も居て、それよりも。ダンジョン以外で感じない筈のモンスターの気配と殺気、そして血のにおいが家の中からしていた。

 

『いやあああぁぁぁっっ!!!?』

「ガチで事件じゃねーか!?」

 

 たぶん昨日会った少年の姉っぽい悲鳴が上がれば、鍵のかかった玄関を叩き折って中に入る以外の選択肢はない。

 

「においやば…っ」

 

 遺跡のモンスターでグロ耐性カンストしてるから俺はなんともないけど、家の中はブチブチに引き千切られた死体が散らかるスプラッタ劇場状態だった。昨日のおっさんおばさんが夫婦そろって内臓も骨もNGなしの大公開。モザイク抜きでカメラを向けられる場所がどこにもない。

 

「………」

 

 部屋のすみっこの床に黄色いシミを追加してる、へたり込んでガクガクと震えてる姉、はまあいいとして。

 この『汚部屋』をアートしたっぽい少年は、乱入した俺達を人形のような目で見ていた。

 

 

 たとえの表現じゃない。本当にガラスみたいな、イミテーション感ばりばりの『目玉のようなもの』が両目に置き変わってて、安いビー玉みたいな瞳がこっちに向けられている。昨日そう見えたのは見間違えとかじゃなかったんだな。

 

 

「あー、これそーいう系なのね………」

「え、なんかリアクション薄くないですミュートさん!?」

 

 

 色々察して出たコメントがこれだったのはボキャ貧なのでご勘弁。エルザから即ツッコミが入ったけど、まあこの世界の人からすれば“衝撃の真実”なのは当然か。

 エルザもプリナちゃんもこのことを色々悩みながら教えてくれようと考えたんだろうけど………うん、日曜朝のヒーローものやRPGゲームで何度も見たパターンでショックを感じないのはなんか申し訳ない。

 

「おニーさンだ。昨日オトうサんをイジめテたひと」

 

「えっと、盛大におまゆうなんだけどツッコミ待ち?」

「やッつけナイと」

 

 で、なんでかモンスター化したっぽい少年は意味の分からない理屈で俺をターゲットしてきた。いや、だったらお前が今日やったばかりのことはなんなんだよ、とマジレスしても多分意味なさそう。

 とりあえずちゃんと状況が分かるまで、下手に黒焦げの炭にするわけにもいかないし。

 

「あんまりこういうの自信ないんだけど、なっ」

「……っ、………っ??」

 

 俺に飛びかかるつもりだったのに、その場から何秒待っても動かない―――いや動けない少年(仮)。踏み出そうとした足に、振りかぶろうとした腕に、稲妻が弾けて力が抜け(スタンす)る。

 弱い代わりに即座に出せる電撃を動作の起こりに合わせてぶつければ、こうやって相手を縫い止めることはできる。あの遺跡でボスクラスとタイマンしてる時に、回復薬とかステ強化アイテム使うスキをひねり出すのによく使ったなあこれ。

 

 問題はモンスター化したせいか昨日より強くなってはいそうだけど、Eランクが多少強化されたところで元のレベルが違い過ぎて、こんなスタン攻撃でさえ少年をHPゼロにしかねないこと。そもそも俺が手加減のうまいキャラだったら昨日みたいな事故は起こってない。

 だから、話は手短に。

 

「理由の説明とかは今はいいからさ、これ元に戻せるの?」

 

「原理的に“あり得ない”です」

「……治療手段は知られていない。そもそもこういったケースでギルドの方針は、『速やかに隠密裏に処理すること』だ」

 

 即答したエルザと、それにちらりと視線を向けながらフィオが『そんなことを試そうとするやつ自体いない』っていう追加の回答。まあ実際人間に戻れたところで、どれだけ最低な仕打ちを受けたとしてもこの少年は実の両親をその手で殺してしまってる。そんな彼に居場所を与える人がいるとは思えないし、昨日まで他人だった少年のために俺もそこまで付き合えない。

 そもそも元に戻せるか自体、俺より事情を知っている人達が『無理』だと断言してて。そして放っておけばこいつはきっと他の人間も殺し始める。モンスター……『蝕魔(インフェクター)』はそういうもんだって、何百何千と命のやり取りをくり返して俺はとっくのとうに肌に染みて理解してる。エサにするためとか、縄張りを拡げるためとか、そんな理由なんてなくただただ人間を殺すために襲ってくるようなやつらだって。

 

「やっぱそうかー。………ごめん父さん母さん、これからちょっと人殺し(おやふこう)の罪追加する」

 

 当たり前だけど、子供の時にヒーローだったあの天才物理学者みたいにはいかないらしい。

 

「代わるか?そもそも我が正当なる処刑人である」

「いやいいよ、ありがと。確かにやりたくはないけどさ―――俺が助けた相手が人殺してるんだ。俺がケジメつけないのは、ダメだろ」

 

 なんとなく話の流れで分かってたけど、『ワンダーブラッド』はこういうことに備えた暗殺・証拠インメツの役目を負ってるらしい。この言動で本当に陰の実力者なのはちょっと認識バグりそうになるけど。

 

「強者の(さが)、ですか。分かりました、我々の任務協力に感謝を」

抗魔士(イムニティ)の強さは意思の強さ。ためらえば、逃げ出せば、投げ出せば、弱くなる……か。

 うん、他のことはあたしらがやっとくから―――早くその子、楽にしてあげて」

 

「……ウご、け、ナナ、い」

 

 電撃の浴びすぎで麻痺って脱力する、少年の形をした怪人(モンスター)

 ここで他人任せにする甘えを出したら、俺はとんでもなく弱くなる予感がある。そう言うと自分のためにこの少年を殺すみたいで嫌になる。生まれてから親に愛されず、おいしいものもきれいなものもない人生、幸せを何一つ知らないままだった彼を。

 

『――――』

 

 まあ、今俺の決断を真剣に見守ってるプリナちゃんが、もしここで人殺しをやったら俺を嫌いになるとかだったらかなりひよってた気がするけど―――こうしてフィオ達とふいんきの似ているところを感じれば分かる。逆だ。プリナちゃんも多分、彼らと同じように人を殺したことがある。なぜかエルザも。

 それがどんな事情でも、俺はプリナちゃんもエルザも嫌いになんてならない。それは向こうもそうだって、それくらいにはこっちに来てできた新しい“家族”を信じてる。

 

 だから。

 

 

「あばよ、少年」

 

「あ。ぴカピか、きれイ――――――」

 

 うだうだ迷って時間を引き延ばすような残酷なことはしない。

 

 

「え。……フィオっち、今の見えた?」

「……ととと、当然」

「当然見えなかったんですねあにさま」

 

 

『電磁加速、でしたか。超高速の上段回し蹴りで頭部を消滅。

 痛みを感じる暇もなかったでしょう。あなた様の手向けの慈悲に敬意を』

 

 

 最速の一撃で首から上を吹き飛ばす。ぶち抜いた右足を床に着けると、まとっていた電流がそこから抜けていった。

 

「ミュートさん!……その、平気ですか?」

 

 初めての人殺しは、正直いつもモンスターを殺すのと大して変わらなかった。手応えとしてあんまりに軽すぎたっていうのもある。それでも人殺しをしたっていう事実が、何か決定的な線を踏み越えたような感覚は確かにあった。

 強く後に引きずりそうなものでは、残念ながらなかったけど。ねぎらってくれるプリナちゃんや心配してくれるエルザに軽口を返せるくらいには。

 

「ま、問題ないよ。―――バケモノに改造された元人間を容赦なく蹴り殺すヒーローを半世紀以上応援してる国の子だから、俺」

「殺伐!!?」

『ミュートの居た国は、本当に平和だったのですか……!?』

 

 蹴りを選んだのは、ヒーローの流儀でやればちょっとでも罪悪感が軽くなるかなって下心もあったけども。

 まあでもあの子について言えば、せめて殺した俺がちゃんと覚えて刻んでおくくらいしないと、さすがに救われないとは思うから。

 

「………来世は、いい親のところに転生できるといいな」

 

 一瞬の衝撃で首だけ吹っ飛ばしたから、立ったままな首なし死体に目をつぶって手を合わせる。別に仏教徒じゃないしお経もロクに知らないけど、死んだ人の魂が安らかなよう祈る。いつも救助が間に合わなかった死体にやるよりも、ちょっと深く。隣でエルザとプリナちゃんも一緒に祈ってくれるのを気配で感じながら。

 

 俺がこうして異世界転移してる以上、転生だって起きることはあるのかもしれない。無責任にそう期待するぐらいはいいだろ?どうせ殺した責任とか助けられなかった責任とか言われてもそんなの知らないんだから。

 

 そんなことを考えながら目を開けば、『モンスターのドロップアイテム化』はとっくに終わっていて。

 

 

 血まみれの床に落ちていたのは、あの父親に渡したのと同じ消耗品の回復薬(ポーション)だった。

 

 

 

 

………その後は、後始末を『ワンダーブラッド』に任せて、ギルドに行って。話が通っていたらしくあのメガネギルド長に呼ばれて「このことは誰にも言わないように」って密室で口止めされた。

 

 次の日からはいつもの日常。あの一家が消えたってそんなの関係なく世界は回る。俺も、この街も、何一つ変わらない毎日だった。

 

 





 これが令和育ちの『殺すKAKUGO』……!(たぶん違う)

>人を殺したことがある。なぜかエルザも。
 エルザが人を殺したなんて、そんな“歴史”はないはずなのに変ですねー。

>「抗魔士(イムニティ)の強さは意思の強さ」
 思い込みで強くなってるやつらなので、「できない」「勝てない」「俺じゃなくていい」って考えると当然弱くなる。ミュートくんに救助された後で落ちぶれてる人たちって、財産半額没収以上にこの要素が強かったり。

>「超高速の上段回し蹴り」
 カ○トのラ○ダーキック……?

>「バケモノに改造された元人間を容赦なく蹴り殺すヒーロー」
 言い方ァ!!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

愛するNPCが現実化したら勝手にギスギスし始めた挙句バカ重い責任が生えてきた話(作者:フォン・デ・ペギラパギラ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

犬耳を可愛らしく傾ける忠臣は、いつでも俺の隣にすり寄ってきてくれる。▼龍の少女の参謀は俺を宝と称して、愛らしく腕を取ってくる。▼俺のことを神とさえ慕ってくれる子もいる。▼ ▼愛していたキャラクターたちが、創り上げた組織が、すべて本物になった。▼みんなデレデレで、可愛らしく甘えてくれる。▼もちろん舞い上がった。▼ ▼でも、配信者も、攻略サイトでも言ってなかった…


総合評価:3639/評価:8.49/連載:55話/更新日時:2026年05月07日(木) 22:00 小説情報

TSメス堕ち俺っ娘スライムと作る宇宙最強ハーレム(作者:最条真)(オリジナル現代/冒険・バトル)

▼青春ボーイ・ミーツ・エイリアン異能バトル。(ラブコメとハーレムもあるよ)▼なんにでも変身できるスライムと出会い、恋に落とすことで宇宙最強のハーレムを構築していく話。▼通称:スライムハーレム▼なろう・カクヨムにも同時投稿。▼※商業活動中に付き不定期更新。▼※タイトル模索中▼カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/822139843928…


総合評価:9056/評価:9.24/連載:74話/更新日時:2026年06月30日(火) 01:53 小説情報

家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~(作者:水瓶シロン)(オリジナル現代/恋愛)

「ぎゅって、して……?」▼「構ってくれないと闇落ちしちゃうよ……?」▼ 高校入学を機に一人暮らしを始めた『御守望』は、青春を勉強とバイトに費やすような限界貧乏生活を送っていた。▼ 幼くして両親を失っている望が頼れる人は、田舎に住む祖父母くらいだが、なるべく負担は掛けたくない。▼ そのため、睡眠時間を犠牲にして死に物狂いで勉強することによって好成績を維持し、入…


総合評価:4900/評価:8.73/連載:89話/更新日時:2026年07月03日(金) 12:07 小説情報

自分の事をNTRエロゲの竿役だと思っているおじさんVS幼少期から光源氏(動詞)されたが嫌いになるわけないシスター(作者:心理的継続性を持つおじさん)(オリジナルファンタジー/コメディ)

今更転生自覚おじさん「やべぇ…NTRエロゲの竿役おじさんじゃん。作品としては楽しめるけど、現実はNGなんだよね。主人公君と結ばれて幸せにおなり。ってことで身を引くね」▼幼少期の頃から光源氏(動詞)されたが生活のほとんどを握られていたり、欲しいものは言えば買ってくれたり、ちょっかい掛けても怒らない為に嫌いではないし、なんなら結婚するんだろうなと思ってそれなりに…


総合評価:7343/評価:8.53/連載:27話/更新日時:2026年05月12日(火) 13:47 小説情報

ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】(作者:1パチより4パチ派)(オリジナル現代/コメディ)

ダンジョンのドロップにどハマりして身を崩した主人公が、過去に脳を焼いちゃった仲間や世間からの妨害(ほぼ自業自得)にめげずに社会復帰を目指す話。▼※2026年2月10日 書籍化&コミカライズ決定しました。


総合評価:7762/評価:8.21/連載:101話/更新日時:2026年08月17日(月) 22:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>