夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
衝撃の真実()に対するミュートくんの反応。
「あー、これそーいう系なのね………」
数日ぶりのギルドに行って、救出依頼をこなして、助けた子の親に依頼料を取り立てる為に、突撃お前の全財産をやって、ちょっともめて。
そんな次の日の朝、いつもより早い時間に朝ごはんが用意されてて、いつもより早い時間に家を出て、毎朝通ってるギルドじゃなくて昨日の家に向かう。
いつもより早い時間に起こしてきたエルザに、「事件が起こるニオイがします!」って言われたから。お前は犬か。わんこだった。
別に朝のルーティーンはここ数日頭がサルになってめちゃくちゃだったのを昨日戻したばかりだし、規則正しい生活なんてエルザがそう世話を焼いてくれるからなってるだけで元々こだわりはない。この世界に来る前はゲームや動画で夜ふかし当たり前だったし、あの遺跡だと時計どころか太陽が出てるかどうかさえわからない生活してたんだから。
なもんで、予定変更でギルドに行く前に遠回りするのに嫌って言う理由はない。自分でも趣味はあまりよくないと思うけど、昨日深く関わったあの家庭の件に何か変化があるなら当然気になるし。何よりプリナちゃんもどこかしんみょーそうな感じで「行きましょう」って言うんだからもう決定だった。
で。
「―――役者は揃った、ということか。既にして幕は上がっている」
「昨日ぶりです、ミュートさん、エルザさん。今のところ予定通り、予想通りです」
「ここまであたしらの推測がぴったり的中って、あのおっさんおばさん底が浅いなんてもんじゃないでしょ。水たまり?」
目的地の家の近くには『ワンダーブラッド』の三人も居て、それよりも。ダンジョン以外で感じない筈のモンスターの気配と殺気、そして血のにおいが家の中からしていた。
『いやあああぁぁぁっっ!!!?』
「ガチで事件じゃねーか!?」
たぶん昨日会った少年の姉っぽい悲鳴が上がれば、鍵のかかった玄関を叩き折って中に入る以外の選択肢はない。
「においやば…っ」
遺跡のモンスターでグロ耐性カンストしてるから俺はなんともないけど、家の中はブチブチに引き千切られた死体が散らかるスプラッタ劇場状態だった。昨日のおっさんおばさんが夫婦そろって内臓も骨もNGなしの大公開。モザイク抜きでカメラを向けられる場所がどこにもない。
「………」
部屋のすみっこの床に黄色いシミを追加してる、へたり込んでガクガクと震えてる姉、はまあいいとして。
この『汚部屋』をアートしたっぽい少年は、乱入した俺達を人形のような目で見ていた。
たとえの表現じゃない。本当にガラスみたいな、イミテーション感ばりばりの『目玉のようなもの』が両目に置き変わってて、安いビー玉みたいな瞳がこっちに向けられている。昨日そう見えたのは見間違えとかじゃなかったんだな。
「あー、これそーいう系なのね………」
「え、なんかリアクション薄くないですミュートさん!?」
色々察して出たコメントがこれだったのはボキャ貧なのでご勘弁。エルザから即ツッコミが入ったけど、まあこの世界の人からすれば“衝撃の真実”なのは当然か。
エルザもプリナちゃんもこのことを色々悩みながら教えてくれようと考えたんだろうけど………うん、日曜朝のヒーローものやRPGゲームで何度も見たパターンでショックを感じないのはなんか申し訳ない。
「おニーさンだ。昨日オトうサんをイジめテたひと」
「えっと、盛大におまゆうなんだけどツッコミ待ち?」
「やッつけナイと」
で、なんでかモンスター化したっぽい少年は意味の分からない理屈で俺をターゲットしてきた。いや、だったらお前が今日やったばかりのことはなんなんだよ、とマジレスしても多分意味なさそう。
とりあえずちゃんと状況が分かるまで、下手に黒焦げの炭にするわけにもいかないし。
「あんまりこういうの自信ないんだけど、なっ」
「……っ、………っ??」
俺に飛びかかるつもりだったのに、その場から何秒待っても動かない―――いや動けない少年(仮)。踏み出そうとした足に、振りかぶろうとした腕に、稲妻が弾けて
弱い代わりに即座に出せる電撃を動作の起こりに合わせてぶつければ、こうやって相手を縫い止めることはできる。あの遺跡でボスクラスとタイマンしてる時に、回復薬とかステ強化アイテム使うスキをひねり出すのによく使ったなあこれ。
問題はモンスター化したせいか昨日より強くなってはいそうだけど、Eランクが多少強化されたところで元のレベルが違い過ぎて、こんなスタン攻撃でさえ少年をHPゼロにしかねないこと。そもそも俺が手加減のうまいキャラだったら昨日みたいな事故は起こってない。
だから、話は手短に。
「理由の説明とかは今はいいからさ、これ元に戻せるの?」
「原理的に“あり得ない”です」
「……治療手段は知られていない。そもそもこういったケースでギルドの方針は、『速やかに隠密裏に処理すること』だ」
即答したエルザと、それにちらりと視線を向けながらフィオが『そんなことを試そうとするやつ自体いない』っていう追加の回答。まあ実際人間に戻れたところで、どれだけ最低な仕打ちを受けたとしてもこの少年は実の両親をその手で殺してしまってる。そんな彼に居場所を与える人がいるとは思えないし、昨日まで他人だった少年のために俺もそこまで付き合えない。
そもそも元に戻せるか自体、俺より事情を知っている人達が『無理』だと断言してて。そして放っておけばこいつはきっと他の人間も殺し始める。モンスター……『
「やっぱそうかー。………ごめん父さん母さん、これからちょっと
当たり前だけど、子供の時にヒーローだったあの天才物理学者みたいにはいかないらしい。
「代わるか?そもそも我が正当なる処刑人である」
「いやいいよ、ありがと。確かにやりたくはないけどさ―――俺が助けた相手が人殺してるんだ。俺がケジメつけないのは、ダメだろ」
なんとなく話の流れで分かってたけど、『ワンダーブラッド』はこういうことに備えた暗殺・証拠インメツの役目を負ってるらしい。この言動で本当に陰の実力者なのはちょっと認識バグりそうになるけど。
「強者の
「
うん、他のことはあたしらがやっとくから―――早くその子、楽にしてあげて」
「……ウご、け、ナナ、い」
電撃の浴びすぎで麻痺って脱力する、少年の形をした
ここで他人任せにする甘えを出したら、俺はとんでもなく弱くなる予感がある。そう言うと自分のためにこの少年を殺すみたいで嫌になる。生まれてから親に愛されず、おいしいものもきれいなものもない人生、幸せを何一つ知らないままだった彼を。
『――――』
まあ、今俺の決断を真剣に見守ってるプリナちゃんが、もしここで人殺しをやったら俺を嫌いになるとかだったらかなりひよってた気がするけど―――こうしてフィオ達とふいんきの似ているところを感じれば分かる。逆だ。プリナちゃんも多分、彼らと同じように人を殺したことがある。なぜかエルザも。
それがどんな事情でも、俺はプリナちゃんもエルザも嫌いになんてならない。それは向こうもそうだって、それくらいにはこっちに来てできた新しい“家族”を信じてる。
だから。
「あばよ、少年」
「あ。ぴカピか、きれイ――――――」
うだうだ迷って時間を引き延ばすような残酷なことはしない。
「え。……フィオっち、今の見えた?」
「……ととと、当然」
「当然見えなかったんですねあにさま」
『電磁加速、でしたか。超高速の上段回し蹴りで頭部を消滅。
痛みを感じる暇もなかったでしょう。あなた様の手向けの慈悲に敬意を』
最速の一撃で首から上を吹き飛ばす。ぶち抜いた右足を床に着けると、まとっていた電流がそこから抜けていった。
「ミュートさん!……その、平気ですか?」
初めての人殺しは、正直いつもモンスターを殺すのと大して変わらなかった。手応えとしてあんまりに軽すぎたっていうのもある。それでも人殺しをしたっていう事実が、何か決定的な線を踏み越えたような感覚は確かにあった。
強く後に引きずりそうなものでは、残念ながらなかったけど。ねぎらってくれるプリナちゃんや心配してくれるエルザに軽口を返せるくらいには。
「ま、問題ないよ。―――バケモノに改造された元人間を容赦なく蹴り殺すヒーローを半世紀以上応援してる国の子だから、俺」
「殺伐!!?」
『ミュートの居た国は、本当に平和だったのですか……!?』
蹴りを選んだのは、ヒーローの流儀でやればちょっとでも罪悪感が軽くなるかなって下心もあったけども。
まあでもあの子について言えば、せめて殺した俺がちゃんと覚えて刻んでおくくらいしないと、さすがに救われないとは思うから。
「………来世は、いい親のところに転生できるといいな」
一瞬の衝撃で首だけ吹っ飛ばしたから、立ったままな首なし死体に目をつぶって手を合わせる。別に仏教徒じゃないしお経もロクに知らないけど、死んだ人の魂が安らかなよう祈る。いつも救助が間に合わなかった死体にやるよりも、ちょっと深く。隣でエルザとプリナちゃんも一緒に祈ってくれるのを気配で感じながら。
俺がこうして異世界転移してる以上、転生だって起きることはあるのかもしれない。無責任にそう期待するぐらいはいいだろ?どうせ殺した責任とか助けられなかった責任とか言われてもそんなの知らないんだから。
そんなことを考えながら目を開けば、『モンスターのドロップアイテム化』はとっくに終わっていて。
血まみれの床に落ちていたのは、あの父親に渡したのと同じ消耗品の
………その後は、後始末を『ワンダーブラッド』に任せて、ギルドに行って。話が通っていたらしくあのメガネギルド長に呼ばれて「このことは誰にも言わないように」って密室で口止めされた。
次の日からはいつもの日常。あの一家が消えたってそんなの関係なく世界は回る。俺も、この街も、何一つ変わらない毎日だった。
これが令和育ちの『殺すKAKUGO』……!(たぶん違う)
>人を殺したことがある。なぜかエルザも。
エルザが人を殺したなんて、そんな“歴史”はないはずなのに変ですねー。
>「
思い込みで強くなってるやつらなので、「できない」「勝てない」「俺じゃなくていい」って考えると当然弱くなる。ミュートくんに救助された後で落ちぶれてる人たちって、財産半額没収以上にこの要素が強かったり。
>「超高速の上段回し蹴り」
カ○トのラ○ダーキック……?
>「バケモノに改造された元人間を容赦なく蹴り殺すヒーロー」
言い方ァ!!