夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 いやー今作もやってしまいました†詠唱†のお時間です。




星を隠すもの《セプシス》Ⅲ

 

 湖の底に散らばったお宝を回収しよう!ということになって、水底探索ツアーが始まるかなーと思ってたけど。

 

「それではミュート、第三弾引上げますよー」

「あーい」

 

 水属性最強ヒロインプリナちゃん、サルベージもお手の物だった模様。そういやダンジョン中のモンスターを全滅させる津波を起こして、俺は一滴も濡れてなかったとかいう神ワザを見せたこともあるプリナちゃん、威力だけじゃなくて精密操作も超一級とかうちのおよめさんスゴ過ぎだと思う。

 俺はそんなプリナちゃんの力で湖の底から水流で運ばれて岸辺に上がってきたドロップアイテムを確認して、名前とか効果とかメモしてかばんにしまう係。何千ってモンスターが落としたアイテムなんでこれだけでも数が多くて大変だけど、とっくに湖に眠るお宝全部の数と位置を捕捉してるプリナちゃんが言うには、先の見えない作業ってほどでもないみたい。

 

「やっぱ食い物飲み物系全滅だよね」

「『だんじょん』の外まで押し流したのは失敗でした……」

「どんまい。封印が解けたばっかりで、普通こんなことまで頭回らないって」

 

 水ポチャした食べ物や薬なんかはダメになってるし、そうでなくてもこの数か月でおさかなさんがきれいに食べちゃってる。道具系も紙とかは水に濡れたら当然アウト。

 だから引き上げられるのはほとんど装備品。特にある程度の強化値がある武器防具は、数か月水に沈んでたくらいでダメになるようなもんじゃないというか、それでダメになるような装備なら怖くて使えたもんじゃない。

 あとは鉱石とか爪とか牙とか宝石とかの、素材か換金アイテムっぽいのもあるけど、こっちは名前しか分からないんで一覧に正の字つけてって詰め込むだけ。作業的にだいぶ楽なんで、こっちはプリナちゃんが回収の片手間でやってくれてる。

 

 数は絞られる。それでも湖に眠るドロップアイテムの数は当然百や二百じゃ利かない。かさばるのもあって、トラック何台あっても足りなそうな宝の山をいっこいっこ確認しながらってのは精神的に疲れる。やっぱエルザ連れて来た方がってちょっと後悔したけど、あんまりよくないよねこういう考え方。あの子のお世話好きにはいつも甘えてるけど、なんでも言うこと聞く便利なペット扱いしたい訳じゃない。

 

「しっかし、全部収納しても全然問題なさそうなの、やっぱ魔法のかばんすごいねー」

 

 こうして事前に入れるものをちゃんと見ておかないと、中にあるのが何がなんだか分からなくなるせいで今こんな作業してるんだけど。かばんの中のどれがプリナちゃんのものかも後でごっちゃになるし。自動ソート機能とかさすがに対応してないのは仕方ないっちゃ仕方ないけど対応してて欲しかった……!

 

 見る。メモる。しまう。見る。メモる。しまう。見る、メモる、しまう、見る、メモる、しまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう見るメモるしまう――――、

 

「――ート?ミュート?あなた様っ!?」

「はっ!!?」

 

 あまりに単純作業の繰り返しでなんかトリップしてた。最初のうちは「この装備強そうかなー」とか「あ、これは外れかな」とか「このアビリティ、効果なんなんだろ」とか考えながらちょっと楽しんでやってたけど、だんだん何も考えずに動作を繰り返すだけのロボット化してた。プリナちゃんの呼び掛けで気がついたら、メモってたノートが数十ページくらいびっしり文字で埋まっててなんかガリ勉ノートみたいになってる……!

 

「えっと、作業は?」

「終わりです。913個の『どろっぷあいてむ』装備の記録作業、1時間足らずで完了。お疲れ様でした」

「うわあ」

 

 改めて数字で言われるとくらっとめまいがする。ペンとノートを手に1時間近く集中が持つなんて俺としちゃ奇跡だ。個数にしても、後で読み返す気力が湧くか微妙なほど。

 ほぼほぼ無意識だったからって言ってもほんとによく頑張れたな俺。

 

「ちょっと休憩行ってきていい?」

「………どうぞ」

 

 なんか甘いものカバンから出して食べて、水飲んで、これから帰りだからちょっと用足して。ふらふらする頭をいっぺんリラックスして切り換えないと。

 そう思って湖のほとりの森に入ってく。トイレをプリナちゃんに見せつける趣味はないから、木々で完全に隠れるよう奥に何分か進んでいって。

 

 

「もし、にいさま。少しお話よろしくて?」

 

「………へ?」

 

 

 ふわっと足元が浮くような感覚があって、気が付くと視界は森じゃなくて白一色。光でまぶしいとかじゃなくて、突然白い壁に全方位囲まれたような感じ。

 その直後に掛けられた声の方向に振り替えると、淡い水色のドレスを着てシルクみたいな白い髪の女の子が、にこにこしながら俺を見つめていた。

 

 

 

…………。

 

「―――ッ!!」

 

 出逢ってから、今に至るまで。

 

 一分一秒たりとも離れることのなかったミュートへの思慕が紡いでいた“糸”、それが断ち切られたプリナの行動は即断だった。

 

 即ち、すぐさまミュートが消息を絶った地点までの森の木々を水の高速刃で斬断。足首の高さの切り株だけを残して百を超える木々がそのまま微塵(みじん)切りされ大鋸屑(おがくず)と化す中を、駆け抜け、辿り着く。すっかり見晴らしのよくなった失踪地点で匂い、足跡、空気の違和感、どんな些細(ささい)なものも見逃すまいと超人の極点たる身体機能を総動員して痕跡を探す。

 この間、わずか三秒にも満たない―――にもかかわらず、気配も場所もつかめなくなっている。これまでミュートが街で『おでかけ』していた時も片時も離れず感じていた最愛の魂の位置を追えないことに発狂しそうなほどの憤激を憶えながら、思考は明瞭だった。

 

「嘗(な)め腐って……っ!!」

 

 分かっていることは二つ。

 まずミュートの安否の心配は不要ということ。いくら疲れていて気を抜いていて突然のことだろうが、彼は自身に悪意を向けられて何も抵抗できずに害されるほど生ぬるい存在ではない。つまり、彼を何処かに連れ去った下手人は、彼に対する積極的な害意はない。

 一方で、繋がりが断絶した瞬間から即決でなりふり構わず反応したというのに、プリナは彼の行方を見失わされている。相手はプリナの思考から能力まで全てを見切った上で彼の拉致を実行しているということ。

 

 翡翠(ヒスイ)の芯の瞳孔を縮めながら歯を軋(きし)らせる、愛しの彼には見せられない殺意に満ちた表情。あの砂浜で逢瀬を邪魔された時以上の憎悪に震え、長い髪の端に至るまで虹の輝きに染める災凶姫。その周囲に、ふと人が数人収まりそうな巨大な白い繭玉が無数に浮遊していた。

 うち一つを水流の刃で切断する―――内圧で弾けて撒き散らされる紫色の液体。もろに被った草や切り株が、煙を上げながらドロドロに溶け崩れる。

 

 外から繭玉の中を確認する術はないが、もしかせずとも繭玉には猛毒と強酸の混合液が満載されているのだろう。先程はまだ密度もまばらだったから発生しなかったが、液が他の繭玉に掛かれば連鎖して破裂するくらいの性格の悪さは、だんだん距離を詰めて密集してくる大玉たちから感じられる。ただもしかしたら、繭玉のどれか一つにはミュートが捕らえられているのかもしれない……なんて。

 

「人質作戦のつもり?」

 

 断言できる。今自身が感知している四方約200メートルに数百と集まってきた繭玉の中に、ミュートが居ることは絶対にない。

 だって自らの存在理由にさえ等しい想い人が中に居て、それが判らないなどある筈がない。

 

 ならば考えるべきは、水の防壁を張ってもそれと混ざり合って薄まらずに牙を剥いてくるだろう毒酸玉の群れへの対処だけだった。

 その手段……それ以上に憂さ晴らしを意図して、プリナは手持ちで最も凶悪な札を切る。

 

 

「碧洋、雲海、月虹、雪華。無常の理を徴(しる)す流転、連なり貫くは穿岩の雫。破界せよ――――【滅鏖空雨(アセプシス)】」

 

 

 涼やかな声音の下、薄皮一枚で張り詰めた平坦さの中で詠み上げる詩(うた)。瞬間、直上にて雲一つない晴天が拡がり―――天空に描かれる虹の架け橋の下で叩きつけるような豪雨が降り注ぐ。そして。

 

 

 雨を浴びた繭玉の全てが、汚液を撒き散らすこともなく、ペンキで塗り潰されるようにその存在を消失していく。

 

 

――――雨垂(あまだ)れ石を穿(うが)つ、という言葉がある。

 

 

 雨樋(あまどい)から滴(したた)る雨粒が、何年も同じ場所に落下するうちに庭石に穴を空けることもある、転じて微細な努力でも継続することで確かな成果を上げることができるという諺(ことわざ)である。

 だがここで意味を持つのは字義通りの前者。

 

 たかが雨粒が岩石に穴を穿つのだ。ならば世界全ての水量、その幾倍でも容易く操る彼女にとって壊せないものが果たしてあるだろうか?

 

 故にこの幻想的な天気雨は、見た目と裏腹に触れたもの全てを存在ごと破壊する、毒や酸など比較にならない世界で最も危険な液体。雨を降らせる一帯はチリ一つ残さない万物消滅の抹殺空間。

 

 

「返せ。そのオトコは私のだ」

 

 

 やがて雨が止み、美しい湖畔の森は幻と消えて灰褐色の一面死の大地だけが残る。その中心で次いでプリナが発生させるのは、霧。こちらは単純に飛散した細かい水滴が空気中に滞留しているだけの霧だ。―――ただし、たった数分で大陸中央部を丸ごと覆う勢いで生み出されている。

 この世全ての水は彼女の権能の範囲内。その証拠に、過去にプリナは大陸を挟んで反対側の1万キロメートルも離れた海上の敵を事前情報なしで正確に捕捉したことがある。

 

 世界中を霧で覆えば、捜せないものなど何一つありはしないからと。ミュートたった一人を見つける為だけに、彼女は世界中を霧の中へと沈めようとしている。

 

 時刻は既に夕刻を迎え、黄昏(たそがれ)の空に星が輝き始める頃。

 

 

 だが今宵この世界の誰一人として、月と星空を眺められる者は居なかった。

 

 





>なんでも言うこと聞く便利なペット扱いしたい訳じゃない
エルザ「そんな!?ミュートさん、今まで散々尽くしたのに(便利なペット扱いしてくれないなんて)ひどいです……」
 ひどいかなあ。

>「913個の『どろっぷあいてむ』の記録作業」
 1時間切るということは1個あたり4秒未満で記録していた計算。音速の数倍で戦闘機動できるミュートくんの思考速度的にはまだまだ余裕あるけど、このノート摩擦熱ですごい高温になってそう。

>白い髪の女の子
 一体何モウトなんだ……()

>「滅鏖空雨(アセプシス)」
 †詠唱†つきで放たれる殺意の結晶。めっしてみなごろしてからっぽにするらしい。
 ちなみにやろうと思えば半径200メートルとかケチくさいこと言わず、数百キロメートルくらい広範囲を殲滅できるよ!

>「返せ。そのオトコは私のだ」
 なんか三期目グダってんなーとか思ってたけどこの一言が聞けただけで見る価値あったと思えた某アニメ。

>誰一人として、月と星空を眺められる者は居なかった
 サブタイ回収……?プリナちゃんラスボスなんだから中ボスの役目まで取り上げるのやめよ?

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