夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
アニメや特撮だと総集編を挟んでくるパターンのやつ。
そして「はいはい総集編ね」って見るのやめたら一番最後にどんでん返し入れてくるやつ。まあ地上波は総集編だからってCMも飛ばされたらスポンサーが困るからね。
「あらあら、変われば変わるものというか。思えばあの方が本気で誰かを憎んだところなど、見たことはありませんでしたけれど」
「どうかしたー?」
「なんでもありませんわ、にいさま。お気になさらず」
それ絶対なんかあるやつだよね。
白くてごわごわした布みたいなので区切られたスペース。なんかエレベーターみたいなふわっとする感覚が時々あるんで、プリナちゃんの泡と同じでこれも空を飛んでるっぽい。広さはそんなになくって、それこそ駅前デパートのエレベーターの中と同じくらい。
そんな密室で、その女の子は俺を観察するようにじーっと見つめながら、にこにこと笑顔を向けてくる。
正直プリナちゃんに黙っていなくなってしかも密室に女の子の二人きりとか怪しいなんてレベルじゃないから、浮気を疑われる前にさっさと脱出するのがいいんだろうけど、誘拐犯(?)相手にそうするのも気が引ける事情もあった。
そっくりってほどじゃないけど、パーツのいくつかは同じってくらいにはプリナちゃんに似てる女の子。さらさらロングの髪も、虹交じりの透き通る感じじゃなくミルクを溶かしたって感じの色合いだけど白。眼の色はプリナちゃんとおそろいのヒスイ色。
ここ数日で前フリされておいて『一体この子は何者なんだ……!?』とか言うほどさすがに俺もアホじゃない。とっくに死んだはずの人物が、ってのも人間がモンスターに変わるようなファンタジー異世界で何言ってんだって感じだし。
「ていうか背中に蛾の羽が生えてるし……」
「これはこういう衣装ですのよ?」
「へーそうなんだー(棒読み)」
プリナちゃんのとは色々違うけど、作ったのは同じ人たちだろうなってくらいには似た系統のお姫様ドレス。腕は肩から下が露出してるし生地も薄めで動きやすそうなプリナちゃんのと違って、袖まで長くゆったりしててスカートも重そうなフリルやリボンたっぷりのやつだけど、パソコンのモニタよりはデカい白くてふわふわした羽をごまかすのは無理がある。あと腕がすっぽり隠れるくらい長い袖だけど、時々ちらっとのぞくのは女の子の細い指じゃなくて、白く深い毛から生える黒い爪みたいなの。樹に引っ掛けて止まったりするための虫の腕。
モンスター化して復活……っていうよりは、ボツリヌス少年の時みたいにモンスター化してプリナちゃんの手で殺されたけどなぜかよみがえった、みたいなパターンかなあ。
プリナちゃんじゃなくて俺の方をさらってお話し体勢なのも、そういう事情だったら無茶苦茶顔出ししづらいだろうし。なら俺がちゃんと相手してあげた方がいいだろうし。
「誤魔化されてやる、といった表情ですね。警戒なさらないんですの?」
「俺を殺そうとか傷つけようとかそんな感じはしないし。あとプリナちゃんの身内だろうし」
「ふふっ。あの方が『プリナちゃん』って……!いざ面と向かって言われると改めて衝撃的というか」
「なんかダメ?」
「いえいえ。幸せそうで何より、と。―――そうですよね、あの方の本当の望みは、たったそれだけだった筈なのですから」
皮肉じゃなくて本当にうれしそうに笑ってる女の子。ただでさえプリナちゃんに顔が似てるのにこんな表情するんだから、ちょっと見た目にモンスター要素入ってるからって警戒するとか無理。
それにそんなこと言い出したらうちのわんこもケモ耳としっぽがあるし…………、……。あれ?もしかしてエルザもそうだったりすんの?
「……別にいっか」
首輪を自分からねだって頭撫でられたらしっぽふりふりして全力で喜ぶお世話大好きわんこに、あの時の少年みたいな物騒さは全然感じないし。ギルドは見つけ次第即抹殺みたいな方針らしいから今考えるとギリギリ感あるけど、うちの子は例外ってことで。
「大らかというか
「ほめられてる?」
「それはこれからのお話次第です。時間の余裕もそこまであるわけではないので単刀直入に。
――――にいさまとあの方との馴れ初めと、今日に至るまでの暮らしぶりをどうかお教えいただけないでしょうか。このとおり、お願いします」
そう言って真剣な顔で頭を下げるお姫様(妹)。なれそめってことは例の黒歴史も込みになっちゃうんで恥ずかし過ぎるんだけど……プリナちゃんの家族に頭まで下げられたらそうも言ってられない。
「いいよ、分かった。全部話す」
「ありがとうございます!」
了承したらぱっと顔を上げて嬉しそうにするその表情はプリナちゃんのそれと同じなもんだから、もともと俺が逆らえるわけなかった。
「―――って感じで、妹さんの命日のお参りに来てたところ」
ある日気付いたら異世界転移して、モンスターだらけのダンジョンでサバイバルしてたら一番奥で眠ってる可愛いお姫様を見つけて一目ぼれしたこと。勝手に脳内彼女にして理想の恋人生活妄想を毎日毎日しゃべってたこと。全部聞いちゃってたらしいプリナちゃんは引くどころか俺のカノジョになって全部叶えてくれてること。二人でダンジョンを脱出して、西の果てのパーシャルって街で同棲してること。プリナちゃんは他の住民から髪を隠さないといけないらしいからちょっと困ってたら、エルザっていうシスターが悪霊退治のために(そういえばそんな理由だっけ)うちに住み着いて、家事とか色々やってくれてること。家でいつまでもぐーたらいちゃらぶだけしてるのもアレだから、ギルドでダンジョンから戻って来ない冒険者の救出依頼を受けてること。港街に旅行に行って、ビーチで遊ぼうとしたらモンスターのせいで水が引きまくって邪魔されたんでプリナちゃん激おこ出撃だったけど、それ以外は楽しい思い出だったこと。プリナちゃんが積極的でえっちなこともたくさんしてること。街中で人がモンスターになって家族を殺し始めて、止める為に俺が彼を始末する事件があったこと。クリスマスパーティーでプリナちゃんにコスプレサンタさんしてもらって楽しんだこと。
いくつか家族に話すのはまずいんじゃないかなーって案件もあったけど、選んで話す器用さもないし『全部話す』って言った以上全部まとめてぶちまけた。最初の妄想語りの時点でドン引きじゃん、って思い当たったのはその後の話。
でもそんな話を聞きながら、白い蛾の女の子はずっと優しい笑顔のままだった。あの変なばーさんからもらった本、『千年紀』のことに関しては妙に突っ込まれて聞かれたけど。
「まずは心からの感謝を。彼女自身からも言われているようですが、あの方が今笑顔で過ごせているのは、間違いなくにいさまのおかげです」
「………うん。そうだといいな、ずっとそうならいいなって思ってる」
「どうかそのままで。ええ、この話を聞けたというだけで、地獄から迷い出て来た甲斐はありました。
―――その上で。にいさまに非常に無茶なお願いをします」
「え、な、なに?」
「私を殺して欲しいのです」
「―――!!」
意外、とは思わなかった。
目の前の彼女から感じる気配は、あの血まみれの部屋で人形の眼の少年から感じたものと同じ。いやあれより何万倍も濃い、ニンゲンに対する悪意と殺意が圧縮されてる。それが俺に向かってない、ってだけで。
「目覚めたばかりで頭がクリアなのは不幸中の幸いでした。理性を失いあの方に
―――ですが、それ以外のニンゲンは、どうしてもダメです。私の愛する人を奪い、あの方に全てを押し付けて安寧の中で大量増殖した
優しい笑顔のまま、赤い涙が頬を伝っていた。プリナちゃんと似た顔で泣かれると、心がむちゃくちゃ痛いんだけどな。
「
「それは残酷な優しさですよにいさま。命を懸けて
そんな
「………っ」
いつかプリナちゃんからも聞いたこの世界の法則。エルザが『原理的にあり得ない』って言ってたのはこういうことか。「モンスターにも優しい心を持つ存在が居て、人間と共に生きることができる」なんて考える人が多いなら、そもそもモンスター化なんてこと自体が起こらないから、って。
「例外があるとすれば、そう。たとえば何百年もかけて『立派ですばらしい英雄様』という虚構を大衆に信じさせて、『バケモノ』の認識を丁寧に丁寧に、跡形もなくなるまで上塗りすれば――――でもそんなことをされて、元となった人格が残るのかと。『間違いなく本人だ』と、そう言えると思いますか?」
「っ!?」
「
“もう”、その先に続く言葉を示すように、女の子の姿がヒトの形をなくしてく。脇腹からドレスを突き破って新しい虫の腕が生えて、羽は粉まみれで毒々しい模様が浮かび、髪の一部が逆立ったまま固まって触覚になる。
憎しみに身を任せて、心までバケモノになることを受け入れた証として。見た目までどんどんモンスターの正体を解放していく。見た目の醜さじゃなく、そうなるほどの暗く激しい感情がただ痛々しくて、目を逸らさないようにするのを必死に耐えないといけなかった。
“あの方”が誰を意味してるか考えると、俺だって目の前が真っ赤になりそうになる。でも。
「どこまで身勝手なのよッ!!あの方はただ、自分が無力に涙する人たちを救えるのならと慈悲の手を差し伸べただけなのに。勝手に
―――ごめんなさい、にいさま。私は止まれない。この憎しみと怒りに蓋をする術が分からない。それがあの方の幸せな暮らしに差し障ると分かっていても、抑えられないのです」
「だから、俺に君を殺せって?」
「不肖の妹は百も承知です。………だからって、姉様を『2回も自分の妹を手にかけた女』にするわけにはいかないでしょう?」
「―――。そう、だな」
「にいさまなら、きっと。今がまだ“千年目”でないというなら、『誰もが想像していた』英雄再臨のシナリオが狂った理由がにいさまなら。
かみさまが遊び飽いて夢見るのをやめて、それでもなお惨めに一人歩きする
―――……側だから、きっと私を殺せる。
最後にもう一度、姉様を救ってくれて本当にありがとう
最後の言葉は風に乗ってかすれて届く。空に浮かぶ
ここにきて自分のカノジョとペットがバケモノだということにやっと気づくミュートくん。でもそれどころじゃない。
>うちの子は例外
まあ晩ごはんリクエストのおさかな買えなくて泣き出したり、エロショップでエロ衣装を厳選する
>時間の余裕もそこまであるわけではない
彼ピ誘拐されたブチ切れプリナちゃんがサーチ用ミスト放出中(世界規模)。上空に退避してるけど、それに気づかれたらやっぱり位置を一瞬で捕捉されちゃうので。
――――それ以上に、正気を保っていられる時間の余裕もなかった。
>「全部話す」
ミュートくんからは元々全く認識されてないので、BSS幼馴染のくだりは当然カット。
>あの方が受けた追い討ち
「今まで散々救ってくれた貴女をボクらが怖がって、しかも色々裏切って心をへし折ったせいでバケモノになっちゃった?じゃあしょうがないね、千年かけてみんなで信仰して『浄化』してあげるから封印されてね。キレイな英雄様になって戻ってきてね。(その時は元の人格消滅してるかもだけど仕方ないよね!)」
ほい、聖教の正体と千年前に英雄姫ちゃんが封印された顛末。なお最後のカッコの中身は当然本人には伝えられなかった模様。あのさあ………。そりゃ妹ちゃんの粛清ゲージも秒で満タンになる。
>『誰もが想像していた』英雄再臨のシナリオが狂った理由
この
べ、べつにガバなんかじゃないんだからね!()
>惨めに一人歩きする
露骨に意味深なこと言って消えるムーブ。