夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 本当に都合のいい恋人さんなのは、どっちにとってなんでしょうね。




城塞都市パーシャルⅠ

 

 山越え谷越えはるばると。

 

 あの遺跡があった湖から西へ向かってあの泡移動で飛び立って一直線、プリナちゃんの話だと大陸の三分の一くらい横断したらしい。

 なんでそんな旅をしたかっていうと、彼女さんのお願いだから聞かない選択肢なんてなかったってだけ。

 

 折角ダンジョンから脱出したんだからまず人の居るところに行こうってのはあったんだけど、ずっと封印されてたプリナちゃんがあそこの近場でうろうろしてて、万が一にも目立ったりしたらどんなトラブルが起きるか予想がつかないとか。というか『異世界人と昔の人間』っていう今のこの世界の常識を全く知らないコンビなもんだから目立たない訳がないって。

 その点西の果てなら、封印される前の情報だから今もそうかは微妙だけど、険しい山に囲まれて他国と断絶してる可能性が高くて、あの封印遺跡のことも全然ピンと来ない人ばかりかも知れない。当時他国の応援もなくて蝕巣(フォーカス)も大量に放置されてたから失陥している可能性もあるけど、もしまだ最前線として機能してたら常識に疎く素性が怪しくても腕利きの抗魔士(イムニティ)ということで受け入れられる余地があるかも知れない。

 

……っていう感じでていねいに解説してくれたんだけど、正直「色々考えてるんだなーかしこいプリナちゃん可愛いなー」ってほへーってなるばっかりだった。おばかでゴメンよぉ。

 ただまあ俺よりはこの世界のことを知ってて、先のことをちゃんと考えてるっぽい提案なんだからそもそも拒否する理由もない。それにできたばっかりのカノジョを置いて何が何でも人里に出たいってほどでもなかったから、もうしばらくは二人きりの旅行を続けるのも全然ありだった。

 

 それに旅って言っても基本はプリナちゃんの出したでかい泡に二人で入って、それに運ばれてぷかぷか空を飛んでくだけ。

 手を繋いだり腕組んだり抱き着いたり抱き着かれたりしていちゃいちゃしながら、異世界の自然豊かな大地を上空から見渡すのどかで幸せな時間だった。

 

 薄暗い中に射し込む朝焼けが、照りつける真昼の陽ざしが、真っ赤に染める夕暮れが、ぼやけた輪郭だけ闇に浮かび上がらせる月光が、好きな人と二人きりで眺めるぜーたくなパノラマに鮮やかな色を着けてくれる。

 時々家とか畑とか牧場とか人間の生活が見える場所もあって、ダンジョンの外はこんな平和なんだなーって和んだり。

 

 

「ミュート。景色もいいですけれど、私のこともちゃんと見てくれないと嫌、ですよ?」

「はい見ます!じーっ」

「……うふふっ。よろしい♪」

 

 

 わざとらしくぷくって頬っぺた膨らませるプリナちゃん可愛いをやったり。

 ていうかこれも俺が前に意識ないと思ってたこの子に語ったシチュだしセリフも同じだよ再現してくれちゃってるよああああ!って嬉し恥ずかしくて内心転がったり。

 

 

「ひゃっふー!!滑るよ超スベってるよー!!っておわぁっ!!?」

「冷たっ……くすっ、あははっ」

 

 

 あとは頂上が雪に覆われてる超高い山を越えた時に、せっかくなので魔法のカバンからドロップアイテムの盾を取り出してスノボーごっこを楽しんでみたり。

 ひっくり返って二人して雪にまみれて、何故だか無性に可笑しくて笑顔でばさばさと新雪を舞い上げてみたり。

 

 

 

「ひゃっふーーーー!!!」

「きゃああぁぁっっ!!!……でした?」

 

 あるいはその山を下ってく時に見かけた、何百メートルもありそうな高さの滝にそってプリナちゃんが泡を操ってフリーフォール体験させてくれたり。

 

「ぜっきょうマシン?というのはこれでよいのでしょうか。『遊園地』という概念はよく分かりませんが、あなた様が語ってくれた『遊園地でーと』はやってみたかったので」

「いや最高だわ。地球のどこにもあんな高くて速いフリーフォールとかないし!」

「………よかったです」

 

 

 

 そんな山あり谷ありの楽しい旅だった。……あれ、山あり谷ありってそんな意味だっけ。

 まーそれは別にいいとして、目的だった方角へ川を下っていった先にあったのは。

 

 超でっかい、城みたいな街。

 

 

「すっげー……」

「まさか、ここまで」

 

 

 雲よりちょっと下かな?くらいの高さから見下ろしてるのに、数えきれないくらいの家が建っているのとそれをぐるりと城壁が囲んでるのがはっきり分かる。

 しかもその壁をふち取るみたいに川の流れが分かれて、日本の城のお(ほり)みたいになってる。みたいっていうかたぶん本当に堀なのかな。壁際から向こう岸まで、でかい橋を渡るかいくつも浮かんでる船を使わないと街に出入りするのは普通なら無理そうな幅だった。………プリナちゃんはこの通り飛べるし、俺でも多分跳び越せるけども。

 

 それでもスケールに圧倒されるのには違いない。しかもその川からたくさん水路が枝分かれしてる。城壁の外に拡がる畑、牧場、畑、牧場、畑、畑……街そのものの何十倍の広さもあるそれらに水を行き渡らせてるんだろう。

 ぶっちゃけファンタジーの異世界ってことで持っていた、ある意味ナメていたイメージよりはるか上の発展具合。俺はそもそもそんな頭良くないけど、この街にどんな現代人が迷い込んでも、知識チートとか絶対無理って一発で分かる光景だった。

 

 

「この化外の地で、城壁を作れるほど拡大し、やがてその外側に人の営みを持ち出すまでに至っている。周辺の蝕巣(フォーカス)をほぼ完全に抑え込み、人里近くに蝕魔(インフェクター)が現れないのが当たり前になっているということ。

………時間は、やはりそれだけ流れたのですね」

 

 

 隣の彼女は彼女で、違う感想だったみたいだけど。

 目を細めて街を見下ろすプリナちゃんの横顔は、なんだかさびしそう―――というにはちょっと乾いたような印象だった。まだこの子のことは超絶可愛くて性格が天使なこと以外全然知らないけど、何か思うことはやっぱりあるんだろな。

 

 つっても、俺達のやる事は変わらない。

 

「景色はそろそろいいからさ、一緒にあそこ入ってみよう!突撃だっ!」

「おー!ふふっ、ええ突撃しましょうミュートっ」

 

 空気を変えようとちょっとテンション高めに誘うと、拳を上げてノッてくれる可愛い彼女さん。

 その小さくて丸い拳にコン、と俺の拳をくっつけると、嬉しそうにほにゃっとするのがやっぱり俺の心の急所にまっすぐ刺さるんだよなー、って。

 

 

 

…………。

 

 どんな小さな触れ合いでも、彼と交わす悦びに優劣はない。

 

 こうして手の甲を重ねるのも、指を絡めるのも、腕を組むのも、抱き合うのも、初めて交わしたあの口()けも。

 そのどれもが等しく何物にも代えがたい幸福に満ちたやり取りで。

 

―――花弁が凍って砕け散るような、生命の許されない極寒の天頂において二人きり、(わらし)のように雪上で()れる。

 

―――断崖の大滝を相応の高度と速度で落下しながら、僅かたりとも私の害意を疑わない。制御を誤る心配もせずに、呑気に楽しかったと笑う無垢な信頼。

 

 私は一向に構わないし大歓迎なのだけれど、これが『異世界』とやらの当然なのだろうか―――おそらく否。

 

 

 あの程度の寒さや落下なんて、封印遺跡での戦いの日々で味わった危機の比ではなかったというだけのこと。暗い水底の廃棄場で生き残り続ける中で、きっと彼はヒトとして大切なナニカが壊れかけている。

 

 下級獣魔(ディズィー)―――人を殺す。

 中級獣魔(ヴォミット)―――街を壊す。

 上級獣魔(ヘマテミシス)―――国を滅す。

 

 下に行くにつれて当然単一の個人で当たるような相手ではないのに、あの遺跡にはそういった上位個体が百をとうに過ぎる程に蠢いていた。『私』が封印される場所というのは即ちそれだけの瘴気が沈殿する魔境だった。

 

 それを単身、二百日以上を生き残る?しかも逃げ回ることもせず、迫り来る蝕魔(インフェクター)を全て迎撃し続けて?常人はおろか、一般的な抗魔士(イムニティ)でもきっと数刻も耐えられはしない。

 

 断言してもいい、彼は外れる(こっち)側の存在だ。

 

 それこそ化物と愛し合うに相応しい化物。

 仮にそんなことを彼に言う他人が居るなら藻屑に散らせるだけだけれど、否定のできない事実ではあるのだろう。彼と私が“お似合い”ということなら、褒め言葉ですらある。

 

 

 それで満足できたなら、よかったのに。

 

 

(ごめんなさい、ミュート)

 

 “お似合い”なんて前提も前提。なまじ満ち足りた愛情を知ってしまったからこそ、最上を求めてしまう浅ましさが暴走する。

 

 化物と愛し合う化物?冗談にしても性質(たち)が悪い。彼はこれでもまだ、抗魔士(ニンゲン)の範疇だ。だから―――。

 

 

 

 遺跡から出て断絶山脈の先の西に向かったのは、あの遺跡の近くだと忌まわしいヒトガタの蟲達の系譜が増殖していて彼を汚す可能性があるのを危惧したという理由が大きいのだけれど、それだけでもない。

 実際に辿り着いてみると予想より人々が(たくま)しくて、あまりに発展した都市となっていたけれど、あそこの住人から感じる抗魔士(イムニティ)達の気配の多さからしてそう大した誤差ではない。

 

 千年の月日が巡ろうと、如何に優勢であっても人類の最前線なのは変わらない事実。なら目的とするモノはそこに履いて捨てる程ある。

 

 

―――異世界の稀人。カスミ・ユウト。ミュート。

 

 我が最愛の恋人は、私と共に過ごしたこの旅の日々を人生で一番幸せな時間だと言ってくれている。きっとそこに嘘はない。

 然れども、一度闘争を日常とし魔物との殺し合いを旨とし続けた雷光の化身が、命のやり取りに最適化した魂をそう容易く元に戻せるものだろうか。平穏を愛するただの常人のような振る舞いをいつまでも続けられるものだろうか。

 

 

(ねえ、ミュート。そろそろまた、蝕魔(エサ)を狩りたくて疼いてくるのではないですか?)

 

 

 否。断じて否。戦場に馴染んだ心と体を治すには、戦場に馴染むのに掛けた時間の数倍あっても足りないことを『■■リナ■』は知っている。

 その疼きを鎮めないまま突き進み獲物を食らい尽くした果てが何なのかを、自分の肉体で以て知悉している。

 

 “お似合い”では物足りないから―――“同じ”になって欲しいから。

 

 

 

 ヒトとして大切なナニカが壊れかけているなら、ちゃんと全部壊しきってあげたい。

 

 

 

 人類最前線、最西端城塞都市パーシャル。

 ここならきっと、蝕巣(えさば)には事欠かない。

 

 





 恋愛とはエゴの押し付け合いとは言いますが、プリナちゃんがミュートくんのリクエストにNGなしなのはそもそもヒロイン役としてシナリオ通りに振る舞うこと自体が自分の快楽だからなわけで。
 じゃあそれ以外の部分でお互いの在り方に自分のエゴをごりごりに捻じ込もうとしているのはどちらかと問えば、圧倒的に―――。

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