夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
そろそろ固有名詞も増えてくるので世界観説明。
この
そう“語られなくなった”のは、果たしていつのことであっただろうか。
世界を侵蝕する魔の脅威、
その魔物達がいつから現れ始めたのかは定かではない。人の世が栄え、文明が
侵略した各地を無尽蔵に同族を産み出す
そして願う。“誰か”我々を救って欲しい―――“その祈りに応える”かのように、
それがおよそ千年前の話。
だが人は慣れる生き物だ。どんな悪夢も、そこから救ってもらえた感謝も、まったく等しく。まして生まれる前から“そう”であったのなら、それこそ今ある現実を当然のものとしか認知し得ない。
この
そう語られなくなって久しいこの世界は、しかし未だに悪いユメの中。人々がそれを認識できずとも、“悪夢”―――
これはそんな世界の片隅の話。
“人類圏”とほぼ同意義である四大州連邦支配域の最西端、エンテロ国州城塞都市パーシャル。
周辺国と峻険な山脈で隔たれたこの国はかつて“英雄”による浄化が行き届かず、中でも最前線であるこの地は現存する
だが人はたくましいもので、まずは倒された
なにせそれらは金銀財宝はおろか、『どんな病もたちどころに癒える薬』だの『若返りの妙薬』だのと言った天井知らずの値が付く品すら運次第でお目に掛かれる。ただでさえ強力な
故に次いで金の為なら最前線すら屁とも思わない筋金入りの商人たちが、彼ら相手に高額の商売を行えると考えて群がる。そしていつの間にか、外敵の脅威が薄くなり人間同士で群雄割拠して争い始めた中央より最前線の方がマシだと、戦火から逃れる者たちが細々と流入してくる。人口の増加と共に縄張りは広くなる。村は町になり、町は街になり、街は都市になる。時代が流れ、中央の争いが収束してこの国を含めた四大州連邦が発足した今に至れば、大陸有数の都市が完成していた。
ここは人類防衛の最前線であると同時に、優れた戦士の為の娯楽と快楽に溢れた
――――そうやって見極めを誤って本当にあの世に行ってしまった
「しゃーっす。ダンジョンのドロップアイテム、ここで売れるって聞いたんだけど合ってる?」
「ぇぁ、はい、だんじょん……?遺宝の買い取りなら、それはまあ……」
「おけおけ。ここに来るまでに武器屋寄ってみたんだけどさ、いやーやっぱテンション上がるねあーゆーの。男の子のファンタジー味っていうか?
んで俺も似たようなのアホほど持ってるからちょっとくらい買い取ってくれないかって聞いたら『ギルドを介さないで買い取りなんか出来るか!』って怒鳴られちゃって。ひどくね?」
「………」
当然です、と言っていいのかどうかも分からなかった。
当然利ざやを取っている為ピンハネだの中間搾取だのと陰口を叩かれることも多いが、荒くれかつ交渉の素人である
市場相場を荒らさない為という意味でも、ギルドが遺宝の流通を管理するのは社会とそこに住む者全員の為だ。通さないのは後ろ暗いことがあると言っているようなもの。まっとうな商店であれば断固として拒絶するだろう。
………と、そのあたりの事情を噛み含んで『おのぼりさん』に教えるのもギルド受付嬢たるアクティの業務の一つではあるのだが。
別段注意したら逆上するような狂暴な性質には見えない。それどころか『他人と会話できるのが嬉しい』と言わんばかりの人懐っこい態度からは、常人と隔絶した生物としての強さを有する
「「「………(そそくさ)(ふいっ)(あーいそがしいいそがしい)」」」
(揃いも揃ってはくじょうもの~~~っ!!)
そのことは、隣で素知らぬ顔で普段まともに期限を守らない書類仕事に集中し始めた同僚たちや、普段ギルドを集会所代わりにしてクダを巻いているくせにいきなり真剣に依頼板を吟味する振りをするベテランくずれどもも理解しているだろう。
この頭部の両側で
金髪。
たかが髪の色、という楽観は
ギルドとしてその脅威度をFからAまでランク付けしている
ただしその強さは成長する。同格以上の魔物を倒せば倒すほどに、その魂を糧にしたと言わんばかりに。そして成長する程に―――その証明とばかりに髪は色を失っていく。
アクティの兄だった先代ギルド長は現場叩き上げでAランクまで鍛えて、夕焼けのような朱色の髪だった。あれが強さの上限なのだと、皆が思うほどに彼は強かった。
市井の民、駆け出しのひよっこ達―――件の武器屋もそちら向けの商売しかしていなかっただろう―――などはあまり実感が湧かないことでもあるだろうが。髪の色の薄さとは即ち、反比例してそれだけ
ならば先代ギルド長とも比較にならない、この黄金よりも明るい髪色をした少年は、へらへらした仮面の裏でどれほど地獄の戦場で異形を殺して
アクティは今日ほど感情が表情に出にくい自らの体質に感謝したことはない。自分が今抱いている恐怖と怯えを見せること自体が相手を刺激することも十分考えられるのだから。
かと言って、黒髪の常人に過ぎない彼女にこの緊張を押し殺して『普通に』振る舞うことなどできよう筈もなかった。
「ん?あれ?おねーさん、聞いてるー?」
「………っ」
少年の形をしたバケモノが、カウンターに乗り出して眼前で手を振ってくる。その気になれば指の一本だけで自分を縦に真っ二つにできる存在が、目の前数センチのところに手を近付けている。
怖い。叫び出したい。叫ぶことすら恐ろしい。
生涯味わった中で桁違いにどん底の恐怖がはち切れ、限界を迎えた意識が千切れそうになる、その寸前。
「―――部下が失礼した」
(ま、ますたああぁぁぁぁーーーっっ♡♡♡♡♡)
氷のような青髪に、眼鏡で切れ長の瞳を覆った長身の男が受付嬢アクティを押しのけていた。
現ギルドマスター、P・ジンジヴァリス。その背中に庇われる位置にちょっとずれつつさりげなく密着したアクティに冷たい流し目を送ると、まるで温度を感じない声音で叱責を浴びせてくる。
「使えない愚図め、満足に説明もできないのか。邪魔だから罰として倉庫の整理と清掃でもやっていろ」
「………はい、ますたー♡」
ぽぉ、っと頬が火照るのと同時におっきいおっぱいの奥がきゅんきゅんするのを感じながら、彼女は暗に避難していろとの従順にうなずいて指示通り奥に引っ込んで行った。
冷たいことを言われている?そんな筈はない、その証拠にギルドの倉庫とは遺宝を管理するそれこそ貴重品の宝庫な訳で、『使えない愚図』にそこで作業させられる訳もないのは自明のことだ。むしろ“何時も通り”サディスティックな罵声の裏側に自分への気遣い100%なギャップで脳がくらくら来そうだった。
一方で、敢えてきつい言動を心掛けているのに部下の好感度が天井を叩いていることなどつゆ知らぬ冷徹鬼畜メガネ風ギルド長。
彼はまるで『
『……私に気付いたのがこれで一人目、推定この地の最高指揮官。これが今の最前線のレベルということなら―――ええ、やはり西方に向かうようミュートにお願いしたのは都合がよかったようですね』
この場の誰もが金髪の少年一人だと思い込んでいるが―――居るのだ。もう一人、ヴェールを被った小柄な女が。
(私が至近距離の、それも真正面に居てなお姿を曖昧にしか感知できない。Aランク相当の隠蔽効果を持った
ただでさえ単体で城塞都市を陥落せしめる危険人物がなお存在を隠そうとする―――つまり更なる厄ネタと同時に襲来しているのだという事実を理解した彼は彼で、十万に達するこの街の全市民の命運を肩に負っている事実に、その眼鏡の下で白目を剥きそうになるのを必死で堪えているのであった。
髪の色でビビられるという、字面だけ見るとシュールな設定。
ミュートくん異世界トリップしただけの普通の少年なのに危険なウォーモンガーと勘違いされてかわいそう――――本当に?
なお、プリナちゃんの髪の色。