夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 そろそろ固有名詞も増えてくるので世界観説明。




城塞都市パーシャルⅡ

 

 この夢現世界(パラソムニア)は、悪夢に侵されている―――。

 

 そう“語られなくなった”のは、果たしていつのことであっただろうか。

 

 世界を侵蝕する魔の脅威、『蝕魔』(インフェクター)。種族も特性も強さも千差万別と言えるソレらに共通するただ一つの習性は「人間にとって邪悪であること」。

 その魔物達がいつから現れ始めたのかは定かではない。人の世が栄え、文明が(おこ)り、大陸の至るところに国が生まれたのと時を同じくして――――それを殺し壊し滅ぼす存在が跋扈(ばっこ)し始めた。

 

 侵略した各地を無尽蔵に同族を産み出す『蝕巣』(フォーカス)へと変えながら、世界中に惨劇と悲劇をばらまいた。民衆は無念の内に息絶え、あるいは親しい友や家族を殺され(いきどお)り、故郷を灰燼(かいじん)に変えられた現実に膝を折った。

 

 そして願う。“誰か”我々を救って欲しい―――“その祈りに応える”かのように、蝕魔(インフェクター)と戦う超人が生まれ始める。

 『夢能』(デルシオ)という超常現象を操り、常人にはあり得ない肉体能力で怪物達と殺し合う者達。力持たぬ民は彼らのことを魔に抗う義士、『抗魔士』(イムニティ)と呼んだ。

 

 それがおよそ千年前の話。逼塞(ひっそく)した民衆の絶望が最も深く、故に希望もより彩られ、やがて生まれた究極至高の英雄の活躍により人類の勢力圏が取り戻されてひとまずの安寧を得るまでの物語が紡がれた時代。

 だが人は慣れる生き物だ。どんな悪夢も、そこから救ってもらえた感謝も、まったく等しく。まして生まれる前から“そう”であったのなら、それこそ今ある現実を当然のものとしか認知し得ない。

 

 この夢現世界(パラソムニア)は、悪夢に侵されている。

 そう語られなくなって久しいこの世界は、しかし未だに悪いユメの中。人々がそれを認識できずとも、“悪夢”―――蝕魔(インフェクター)抗魔士(イムニティ)の戦いは今なお続いている。

 

 

 

 これはそんな世界の片隅の話。

 

 

 

 “人類圏”とほぼ同意義である四大州連邦支配域の最西端、エンテロ国州城塞都市パーシャル。

 周辺国と峻険な山脈で隔たれたこの国はかつて“英雄”による浄化が行き届かず、中でも最前線であるこの地は現存する蝕巣(フォーカス)を数多く抱える難所である。

 

 だが人はたくましいもので、まずは倒された蝕魔(インフェクター)が落とす“遺宝”目当てに多くの抗魔士(イムニティ)が集い始めた。

 なにせそれらは金銀財宝はおろか、『どんな病もたちどころに癒える薬』だの『若返りの妙薬』だのと言った天井知らずの値が付く品すら運次第でお目に掛かれる。ただでさえ強力な抗魔士(イムニティ)達に神秘の加護を与える武具の数々も需要が絶えることは無い。

 

 故に次いで金の為なら最前線すら屁とも思わない筋金入りの商人たちが、彼ら相手に高額の商売を行えると考えて群がる。そしていつの間にか、外敵の脅威が薄くなり人間同士で群雄割拠して争い始めた中央より最前線の方がマシだと、戦火から逃れる者たちが細々と流入してくる。人口の増加と共に縄張りは広くなる。村は町になり、町は街になり、街は都市になる。時代が流れ、中央の争いが収束してこの国を含めた四大州連邦が発足した今に至れば、大陸有数の都市が完成していた。

 

 ここは人類防衛の最前線であると同時に、優れた戦士の為の娯楽と快楽に溢れた頽廃(たいはい)のヴァルハラ。蝕魔(インフェクター)を狩りの獲物と考える抗魔士(イムニティ)にとっては、金儲けの為の狩場とその使い道に困らないこの都市はまさに天国に一番近い場所。

 

 

――――そうやって見極めを誤って本当にあの世に行ってしまった(バカ)を何十人と知っている『抗魔士(イムニティ)ギルド』パーシャル支部中央第一庁舎受付嬢アクティは、その日とあるバカを前にしてどう応対したものか完全に困っていた。

 

 

「しゃーっす。ダンジョンのドロップアイテム、ここで売れるって聞いたんだけど合ってる?」

「ぇぁ、はい、だんじょん……?遺宝の買い取りなら、それはまあ……」

「おけおけ。ここに来るまでに武器屋寄ってみたんだけどさ、いやーやっぱテンション上がるねあーゆーの。男の子のファンタジー味っていうか?

 んで俺も似たようなのアホほど持ってるからちょっとくらい買い取ってくれないかって聞いたら『ギルドを介さないで買い取りなんか出来るか!』って怒鳴られちゃって。ひどくね?」

「………」

 

 当然です、と言っていいのかどうかも分からなかった。

 

 抗魔士(イムニティ)ギルドはその成り立ちから様々な役割がある組織だが、その最たるものは抗魔士(イムニティ)達が獲得した戦利品を商人達に卸す仲買業だ。

 当然利ざやを取っている為ピンハネだの中間搾取だのと陰口を叩かれることも多いが、荒くれかつ交渉の素人である抗魔士(イムニティ)達と百戦錬磨の商人達で直接商取引をさせたら目も当てられないトラブルが頻発するのが明らかである。暴力を背景に恫喝して値を吊り上げたり、あるいは無知につけ込んで稀少な遺宝を捨て値で買い叩かれたり。金銭の揉め事で暴力沙汰にでもなれば、日々魔物達と殺し合う超人とそうでない常人の間にはそれこそ惨劇しか生まれない。というか実際にそうした事例が過去に何百何千とあったからこそ、ギルドが仲立ちして安定した取引を両者に提供する今の体制が出来ている。

 

 市場相場を荒らさない為という意味でも、ギルドが遺宝の流通を管理するのは社会とそこに住む者全員の為だ。通さないのは後ろ暗いことがあると言っているようなもの。まっとうな商店であれば断固として拒絶するだろう。

 

………と、そのあたりの事情を噛み含んで『おのぼりさん』に教えるのもギルド受付嬢たるアクティの業務の一つではあるのだが。

 

 別段注意したら逆上するような狂暴な性質には見えない。それどころか『他人と会話できるのが嬉しい』と言わんばかりの人懐っこい態度からは、常人と隔絶した生物としての強さを有する抗魔士(イムニティ)特有の傲慢さも感じられない。それでもなお、ギルドが我が家と言えるほど幼少期から様々な人物を見てきた彼女だからこそ、この世間知らずの若者に対し最大級に慎重な対応をせざるを得ない要因があった。

 

「「「………(そそくさ)(ふいっ)(あーいそがしいいそがしい)」」」

(揃いも揃ってはくじょうもの~~~っ!!)

 

 そのことは、隣で素知らぬ顔で普段まともに期限を守らない書類仕事に集中し始めた同僚たちや、普段ギルドを集会所代わりにしてクダを巻いているくせにいきなり真剣に依頼板を吟味する振りをするベテランくずれどもも理解しているだろう。

 この頭部の両側で()ねた二房の先端の黒以外、目に眩しい総金髪の少年。その暢気(のんき)な声以外何も聞こえないほど受付所が静まり返っているのは、決してピークを外した昼時の閑散だけが理由ではない。

 

 

 金髪。

 たかが髪の色、という楽観は抗魔士(イムニティ)に関わる者として決して許されない。

 

 

 ギルドとしてその脅威度をFからAまでランク付けしている蝕魔(インフェクター)の等級―――古い言い方なら三段階で下級獣魔(ディズィー)中級獣魔(ヴォミット)上級獣魔(ヘマテミシス)だったか。それと同様に同ランクの相手に安定して対抗できるとして格付け認定している抗魔士(イムニティ)達もまた強さはピンキリである。

 ただしその強さは成長する。同格以上の魔物を倒せば倒すほどに、その魂を糧にしたと言わんばかりに。そして成長する程に―――その証明とばかりに髪は色を失っていく。

 

 アクティの兄だった先代ギルド長は現場叩き上げでAランクまで鍛えて、夕焼けのような朱色の髪だった。あれが強さの上限なのだと、皆が思うほどに彼は強かった。

 市井の民、駆け出しのひよっこ達―――件の武器屋もそちら向けの商売しかしていなかっただろう―――などはあまり実感が湧かないことでもあるだろうが。髪の色の薄さとは即ち、反比例してそれだけ蝕魔(インフェクター)(ほふ)ってどす黒い返り血を浴びてきたことの証左なのだ。それも雑魚ではない、小国なら単体で滅ぼせてしまうようなB級以上の上級個体をも、何度でも。

 

 ならば先代ギルド長とも比較にならない、この黄金よりも明るい髪色をした少年は、へらへらした仮面の裏でどれほど地獄の戦場で異形を殺して(コロ)して(コロ)して(コロ)してコロし尽くしてきたことか。あるいは聖教会の神父よりも温厚なのではないかとすら思える雰囲気を(まと)いながら、この城塞都市を壊滅させる暴威を身の内で弄んでいるのだ。

 

 アクティは今日ほど感情が表情に出にくい自らの体質に感謝したことはない。自分が今抱いている恐怖と怯えを見せること自体が相手を刺激することも十分考えられるのだから。

 かと言って、黒髪の常人に過ぎない彼女にこの緊張を押し殺して『普通に』振る舞うことなどできよう筈もなかった。

 

「ん?あれ?おねーさん、聞いてるー?」

 

「………っ」

 

 少年の形をしたバケモノが、カウンターに乗り出して眼前で手を振ってくる。その気になれば指の一本だけで自分を縦に真っ二つにできる存在が、目の前数センチのところに手を近付けている。

 怖い。叫び出したい。叫ぶことすら恐ろしい。

 

 生涯味わった中で桁違いにどん底の恐怖がはち切れ、限界を迎えた意識が千切れそうになる、その寸前。

 

 

「―――部下が失礼した」

 

 

(ま、ますたああぁぁぁぁーーーっっ♡♡♡♡♡)

 

 氷のような青髪に、眼鏡で切れ長の瞳を覆った長身の男が受付嬢アクティを押しのけていた。

 

 現ギルドマスター、P・ジンジヴァリス。その背中に庇われる位置にちょっとずれつつさりげなく密着したアクティに冷たい流し目を送ると、まるで温度を感じない声音で叱責を浴びせてくる。

 

「使えない愚図め、満足に説明もできないのか。邪魔だから罰として倉庫の整理と清掃でもやっていろ」

 

「………はい、ますたー♡」

 

 ぽぉ、っと頬が火照るのと同時におっきいおっぱいの奥がきゅんきゅんするのを感じながら、彼女は暗に避難していろとの従順にうなずいて指示通り奥に引っ込んで行った。

 冷たいことを言われている?そんな筈はない、その証拠にギルドの倉庫とは遺宝を管理するそれこそ貴重品の宝庫な訳で、『使えない愚図』にそこで作業させられる訳もないのは自明のことだ。むしろ“何時も通り”サディスティックな罵声の裏側に自分への気遣い100%なギャップで脳がくらくら来そうだった。

 

 

 一方で、敢えてきつい言動を心掛けているのに部下の好感度が天井を叩いていることなどつゆ知らぬ冷徹鬼畜メガネ風ギルド長。

 彼はまるで『実質攻略不可能級(Sランク)蝕巣(フォーカス)に半年以上籠り続けて生き抜いた』ような魔人と相対しながらも、Bランク抗魔士(イムニティ)としてその少年の隣に控える人影に気付いていた。

 

『……私に気付いたのがこれで一人目、推定この地の最高指揮官。これが今の最前線のレベルということなら―――ええ、やはり西方に向かうようミュートにお願いしたのは都合がよかったようですね』

 

 この場の誰もが金髪の少年一人だと思い込んでいるが―――居るのだ。もう一人、ヴェールを被った小柄な女が。

 

(私が至近距離の、それも真正面に居てなお姿を曖昧にしか感知できない。Aランク相当の隠蔽効果を持った夢能(デルシオ)或いは遺宝……ッ!!)

 

 ただでさえ単体で城塞都市を陥落せしめる危険人物がなお存在を隠そうとする―――つまり更なる厄ネタと同時に襲来しているのだという事実を理解した彼は彼で、十万に達するこの街の全市民の命運を肩に負っている事実に、その眼鏡の下で白目を剥きそうになるのを必死で堪えているのであった。

 

 





 髪の色でビビられるという、字面だけ見るとシュールな設定。

 ミュートくん異世界トリップしただけの普通の少年なのに危険なウォーモンガーと勘違いされてかわいそう――――本当に?
 なお、プリナちゃんの髪の色。

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