夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 前回猛烈に何かを計算していたお姉さん?掛け算でもやってたんじゃないかな(すっとぼけ




城塞都市パーシャルⅣ

 

―――やり切った。

 

 冷徹、狡猾、陰険、血も涙もない……ギルドに所属する荒くれ達からも恐れられるギルド長P・ジンジヴァリスの内心に今満ちているのはこの五文字だけだった。

 

 突如何の前触れもなく現れた、先代ギルド長とすら比較にもならないAランク以上の超級抗魔士(イムニティ)。さらにそれが引き連れる『厄災』。対処を誤ればこのギルド支部が殲滅される―――実行に移すかはともかく可能か否かで言えば間違いなく可能―――怪物とのファーストコンタクトを一手に引き受けたのだから、心に感じた疲労感は並大抵ではない。

 5年は老けた気分だった。彼らを手配した借家に案内中の受付嬢クロケは依然そのプレッシャーの真っ只中だろうが、まあパフォーマンスのためだけに重要書類を破損しかねない真似をした罰と、あとはそんな重圧を後輩のアクティに押し付けようとした罰として当然の処置である。割合としては後者の理由が9割ほど。

 

 当の彼女はあの金髪少年を営業スマイル満開の仮面で道案内しながら、その裏でヴァリスにひたすら呪いの言葉を綴っているのだろうが、ただの常人の負の思念がBランク抗魔士(イムニティ)であるヴァリスに届く筈もないので気にすることでもない。

 

 一足先に解放感のままにしばらく一人自室にこもりたいところだったが………あいにく彼は発生した問題の先送りが許される立場ではない。ギルド買い取りとなった遺宝に頬ずりしている鑑定士デュクレイを伴って執務室に入り、鍵を掛けて密談体制に入った。

 最後に残った受付嬢のロジーはその密室の扉を見つめながら何やら息を荒げて妄想に耽っているが、ただの常人の腐の思念がBランク抗魔士(イムニティ)であるヴァリスに届く筈もないので気にすることができない。

 

 そんなギルドマスターと受付嬢達の心あたたまる絆の話はさておき。

 

「あの少年、カスミ・ユウト。どう見た」

「悪い子には見えませんわ。裕福な商家の三男坊……といったところですかしら」

「気質だけなら、な」

 

 奇矯過ぎる外見と言動はともかく、『見る』ことに関してこの都市で右に出る者のいない遺宝商人。彼の出した結論が己の見解と一致したことに安堵と苦々しい想いが半々。

 

 温厚、そして悪意に殆ど触れずに育ったかのような能天気。所作は上品さこそないが路地裏の孤児上がりも珍しくない抗魔士(イムニティ)としては圧倒的な上澄み。

 親に愛され何不自由なく育ち、かつそんな裕福な家を継ぐ為の義務感や責任感からも無縁―――善人と言えば善人だが、あの少年の言動からはそんな恵まれた環境で育った甘さが大いに感じ取れた。

 

 素直で人懐っこく、市井の民であれば敵を作ることもないであろう人格をしている件の少年。詐欺師のカモにもなりそうだが。

 なので独立組織の長として国家権力とも交渉の場で対等以上に渡り合うヴァリスにしてみれば、探るまでもなく情報を次から次へと口に出してくれた―――逆に探り過ぎないように苦労するほどに。

 

――――“踏み込むな”。

 

 彼の生い立ち、ここに来る直前に潜っていたという蝕巣(フォーカス)の情報、この辺りは確実な地雷。姿すら曖昧になるレベルの『隠蔽』を纏っているにも関わらず、横に居た存在から“八つ裂きになった自分の姿”を幻視する程の殺意が何度も叩きつけられば、その時の話題を勘案して線引きの箇所は明確だった。

 これ以上“ミュートが”ボロを出さないように情報を得たい側のヴァリスが話を切り上げて商売に移るという実にあべこべな展開ではあるが、どのみちあれ以上長引かせてはあの場の人間達全ての神経が()たなかっただろう。

 

 幸いというべきか、こちらが変に拗らせない限りは素直に話が進む相手。当座の金策と宿のあてが欲しいという目的もはっきりしていた。なのでデュクレイの見積もった遺宝の買い取り額のうち、1割を即金で支払い、残り分はギルド所有の一等地の家を向こう5年の使用料として貸し出す契約であっさりと取引は成立した。

 すんなり目的が達成されて上機嫌な少年がそろそろそちらの物件に辿り着いている頃だと思われるが、問題はそこではなく。

 

一級地(レストア)街区の戸建て。予約殺到で常に空き待ちな上、紹介状がなければ門前払いな庶民の憧れの住処ではありませんか。奮発しましたわねヴァリス殿?」

「下手に治安の悪い場所に行かれて揉め事にでも巻き込まれたら事だ。彼がスリやチンピラに絡まれたせいでその区画が消し飛んだ、などという馬鹿馬鹿しい報告を私は聞きたくない」

「心配性……と笑うには立場がありますものね貴方には。心痛お察しいたしますわ」

「ふん。それよりも、だ」

 

 ロングヘアのくるくる巻かれた毛先を指で弄る巨漢に女言葉で心配や同情を向けられても嬉しくもなんともない。

 変なナマモノを映してしまったメガネをハンカチでぬぐいながら、話題を最初のものに戻した。

 

 

「―――善人で甘ったれた『裕福な商家の三男坊』?つまりその気質を維持したまま、Bランク以上の(国を滅す)化生との殺し合いを何十と勝ち抜いてきたということだろうが」

 

「………っ」

 

 

 ヴァリスの指摘にデュクレイも思い当たったのか目を見開く。遺宝商人という仕事柄ギルド長をはじめ有力な抗魔士(イムニティ)との面識も多い彼のこと、蝕魔(ばけもの)を殺して殺して強くなり続けた者が“外れている”のは経験で知っている。

 傲慢、全能感、プライド、偏執性。常人として生きている者達が決して抱くことのない純度の狂気を、このギルド長も含め全員が心に抱えている。

 

「イカれている。“人類に対して邪悪である”―――これは蝕魔(インフェクター)共の唯一不変絶対の法則だぞ。その上位個体の屍を山と積み上げてきた男が常人の精神性を堅持しているなら、それこそ狂気の沙汰でしかない」

 

 “外れていない”なら、その事実こそ異常ということになる。

 

「あの言動が巧妙な演技だと?」

「それは分からん。私と貴様が揃って見抜けん演技というのも考え難い。

 だがアレが素だというなら考えられるのは…そうだな」

 

 戦場で好戦的な性格に切り替わる多重人格という線もないではないが、人類最前線を預かるギルド長としての勘と頭脳はもっと碌でもない仮説をはじき出していた。

 

 

蝕魔(インフェクター)との殺し合いを、遊戯(ゲーム)だとでも思ってやっているとか、な」

 

 

 

…………。

 

 いやー、この世界がなんかのゲームの世界で助かった。

 

 モンスターがドロップアイテム落として、それ売ったらお金に困らないとかさ。しかもあんな二度と使いたくもない微妙性能で“アイテム袋”にゴロゴロ転がってるような道具をいくつか渡したら、あのお嬢カマ……お嬢様?がかなりいい感じのお値段つけてくれたみたいで、1年分の食費にさらにアパート5年間貸してくれるっていうんだから。

 なろうでももうちょっと『モンスター素材の剥ぎ取りが~』とか『依頼を受けてクエスト達成して~』とかで手間かかるだろうし、全然ここでのルールとか分からない俺たちからしたらこの単純さがありがたい。

 

 

 

「はい、それではここからギルドいち美少女、クロケおねーさんが道案内しますのでついてきてください、ねっ!」

「おー。テンション高いねクロケおねーさん」

「あっはっはっー。………(もう自棄(ヤケ)じゃないとやってらんないからね☆)」

 

『………』

「(なんかあったらあたしが被災者第一号じゃん。おぼえてろおにちくギルド長めー)」

 

 

『 … … … 』

 

 

 あのメガネのギルド長が貸してくれるっていう家への案内役。書類めくりのプロな受付嬢クロケさんは、だらしなくなるギリギリくらいに制服をくずしたギャルっぽいふいんきのおねーさん。こそこそと小さい声で(…たぶん聞こえないと思ってるんだろうなー。ギルド前の大通りは色んな人の声がでかいせいで、普通の人間だと絶対聞き取れなくなる音量だから)めんどーな仕事を命令された恨み言をぼやいてるけど、原因の俺が言えることはなんもないからスルー。ごめんね。

 

 

 ところでプリナちゃんがクロケさんのことをじっと見てるのは、ギャル風が珍しいのかな。『隠蔽』で表情が見えないからどういう感情なのかも分からないけど。

 

 

 そこから20分ちょい、あのギルド長がいかにサボってる自分を無理やり働かせてくる冷酷非道なのかって演説を聞き流しながら後ろを歩いていくと、がやがやと色んな背格好の人たちが行き来してた通りから抜けて一気に静かになった。

 人ごみの中じゃなくなったっていうのもそうだけど、道ばたでおしゃべりしてる奥さんたちも無駄に声を張り上げるようなことをしないというか。お高そうなネックレスや指輪で着飾ってたりとか。家の感じも壁がきれいに塗ってあったり花壇付きの庭があったりとか。道もちゃんと掃除されてるのかゴミひとつ落ちてないし。

 

「はー。このセレブ感、いつ来ても空気が違いますねえ。あたしもいつかこういうとこ住みたいっ」

「あ、やっぱりそういう系?」

 

 よーするにここ、いわゆるコーキュージュータクチってやつっぽい。そんなとこ行ったことないからふわっとしたイメージしかないけど。そしてそのくらいには庶民さんだけども。

 しかも俺の場合、半年以上カビくさい湖の底の地下遺跡でホームレスやってたわけで。きれいな水には困らなかったし、妙に肌がつやつやする魔法のセッケンとかもドロップしてたから汚い臭いとかはないと思うけど、もし「ドブネズミめ!!」とか言われたらまーそーですねとしか言えない。ドブでピカピカ光ってた電気ネズミです、ちゅー。

 

「大丈夫?俺のかっこーとか存在とか場違いじゃない?」

「はえ?……ええと?」

 

 そんなところにこれから俺たちが住む家があるのはちょっと信じられなくて聞いてみたら、逆に何言ってるのか分かんないんですけどみたいな顔された。

 で、ちょっと沈黙したあと俺の上から下まで視線(カメラ)移動して。

 

「ミュートくんでダメなら、逆にどんな男ならオッケーなのかおねーさん知りたいくらいかなぁ」

「謎の高評価!?」

「んー、言っていいのか微妙な理由含めると色々あるけど、一番なのはさ。

―――あたしこれでもギルド職員のハシクレだから、デュクレイさんほどじゃないけど遺宝の目利きはできるのよね」

「………あのお嬢カマ、やっぱりすごいのかぁ」

 

 って違う違う。いきなりの前置きに妙な感心しちゃった俺に、クロケさんはぽんと爆弾を投げた。

 

 

「ここから見える全部の家の家財一式丸ごと売り払っても、今ミュートくんが着てる服は買えないと思うよ?」

 

「……まっじで?」

「まっじで」

 

 

『根源破滅のブリッツブロッツ』(装備/服)

 :撃砕疾爪S

 :エネルギー攻撃反射A

 :速度強化S

 

 強化値なしだけど多分ユニーク枠っぽい装備。プリナちゃんのドレスも見た限りそうだったし。

 見た目は黒と白の鳥をイメージするようなデザインの服だけど、反射能力込みでなら手持ちのどの鎧よりも防御力は高くなるし、動きやすい。何よりもう一つのアビリティが『格闘攻撃時、すばやさを攻撃力に加算する』というぶっ壊れ仕様なので火力が跳ね上がる。スピードで相手を引っかき回しながら一発一発入れていく俺の戦い方と相性が良過ぎて、これがあるのとないのとじゃ戦力が3倍くらい変わってくる。

 

………これをドロップした敵との戦闘は本当に死にかけたし、体感だけどほぼ丸一日戦ってた。装備のアビリティと同じで電撃を反射してくるとかいうクソ仕様だったし。その辺の思い入れ含めてこれだけは絶対に売るつもりはないけど、外の世界でもやばい財産だったみたいだ。

 

「はえー……」

 

 それにしたって家を何十個建てても足りないとか、ちょっと規模が違い過ぎて意識が飛びそう。ぽやんとする俺に、クロケさんがしみじみとこぼした言葉は聞こえなかった。

 

 

「とぼけてるんじゃなくてほんとに自覚ないのかぁ。

 それだとお互いに危なっかしいのは分かるけど、あたしが擦り合わせ役なのほんと恨みますよギルド長………」

 

 

『…………保留、ですね』

 

 

 





 わりとギリギリのところで綱渡りしてたクロケおねーさんもその自覚なし。


>妙に肌がつやつやする魔法のセッケン
 これで体を洗えばあら不思議、肌年齢が100分の1若返ります。……40歳の女性が10回使えば4歳分若返る訳で、売ったらどんな値がつくかはお察し。
 半年以上(=180回以上)常用してたミュートくんの今のお肌の状態もお察し。どんなセレブより肌艶がいいのに自分がドブネズミだと思ってるナマモノが居るらしい。


>もし「ドブネズミめ!!」とか言われたら
 もしプリナちゃんの前で愛しのミュートくんにそんな暴言が向けられたら?やだなー。

 都市が十万人の住人ごとまるっと水没するくらいで済めばいいですね。

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