折れた剣と時に置き去りにされた化生   作:ヒフミくろねこ

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4月24日 関西呪術協会上空

 

 

最初に視界に入ったのは竜巻の壁、そして次に入ったのはその周囲に蠢く物の怪達。

 

「ほぅ、楽しい事になっているじゃないか」

 

エヴァは箒の上に立ち、眼下を睥睨する。

 

「エヴァ、出来ればいい加減状況を説明して欲しいのだが……」

 

声はすぐ後ろ、エヴァの肩に手を置き、同じように箒の上に立つ士郎のもの。  

蝙蝠をマントに変え一人で空を飛ぶ事もできたエヴァだったが、その事を態々士郎に説明する事も無く、当然のように共に空に居た。

 

「近衛木乃香が小悪党の手に落ちた」

「近衛って……」

「そうだ、京都に来て貴様が出会った男、近衛詠春の娘。そして麻帆良の学園長――近衛近右衛門の孫。極東一の魔力の持ち主で、浚われた結果は、まぁこの通りだな」

「……状況は?」

 

 士郎はエヴァの話を聞いて、ギアを一つ上げる、戦闘者としての。

 

「現時点での戦力は我々と、あそこのガキ三人だけだ。援軍予定は無し、明日には来るかもしれんが、余程の馬鹿でなければ組織を敵に回して戦える何かがあるのだろう、当てには出来ん、ま、するつもりは無いがな。敵自体は、ガキどもにとって苦戦する相手かもしれんが、雑魚だ。あるかもしれん切り札も、私と士郎を敵に回してどれだけのものだか」

 

 視界で確認できる事を省き、士郎が把握しない情報を、予測を交えて開示する。

 

「近衛木乃香を取り戻せば向こうに勝利は無い、その上で敵を潰せばこちらの完全勝利だ」

 

「わかっ――」

 

「ま、そんな事は全てどうでもいいんだが」

 

 

 これだけ話したのに全てを投げ捨てるかのような落ち。さすがの士郎も驚いた顔をするが、それも一瞬で苦笑いへと変わった。  

唯我独尊を絵に描いたようなエヴァ。それが頼もしくて、こと戦いにおいて楽観などという言葉を持たない士郎の心もどこか軽かった。

 

「士郎、良く聞け」

 

 エヴァは振り向き、不敵な笑みで士郎と視線を合わせる。

――竜巻の壁が取り払われ、そこに風と雷が複合された一条の暴風。  

――轟音と共に一人の少年が空を駆け抜ける。

 世界全てが隔絶されたように、ただ二人は見詰め合う

「――重要な事は唯一つ、私の時間が来たって事さ」

 

 世界全てを敵にしても勝ってみせる、そんな自信に溢れたエヴァの顔。

 

「――――」

 

「どうした士郎、そんな惚けた顔して。……もしかして私に惚れたか?」

 

 ふんと鼻を鳴らして冗談めかしたエヴァの言葉。  

士郎は思う、かっこいいなって。だから士郎も笑って事も無く言ってみせた。

 

「ああ、そうかもしれないな」

「え?」

 

 カクンと箒の高度が落ちた。

 

「き、貴様、な、何を言っているんだ!?」

 

 取り繕うようにわたわたしながら、頬を真っ赤に染めて慌てるエヴァを見て、士郎はまた笑った。

 

「アーアー、御主人、ナンカアツクネーカ?」

「うるさい、貴様黙ってろ!」

「マスター、そろそろ」

「ふ、ふん、分かってる!」

 

一、二度この場で深呼吸をしてエヴァは士郎へと視線を向ける。その頬はまだ紅潮していたが。

 

「士郎、私はガキどもの所へ行く、合図したら二、三発ぶち込んでやれ。茶々丸は残って士郎のサポート、チャチャゼロは私と共に行くぞ!」

「ケケケ、ワカッテルジャネーカ御主人」

「ふんっ、私を誰だと思っている」

 

 ケケケと笑うチャチャゼロ。

 

「士郎、ただ勝つ勝利など要らない、辛勝だなんて以ての外、圧勝するぞ?」

「分かった」

 

士郎の返事にエヴァはふふふと笑って箒を消した。

一瞬の浮遊感。  

砲を背負った茶々丸が両手で士郎の手を取り、その場にホバリング。  

エヴァは空を落ちながら士郎に笑いかけ、身を捻るように蝙蝠のマントを纏ってチャチャゼロと共に空を翔る。  

士郎は徐々に高度を落としながら物の怪達の中心へと向かうエヴァを見て――。

 

「士郎さん?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」

 

全域が視認出来る場所で地に足を付け、二人の少女がいる場所へと降り立ったエヴァを見る。  

士郎は視線を定めたまま一人呟く、自分は無意識に笑っていたのかと。

衛宮士郎にとって戦うという事は、常に身を賭して守らないといけないものが存在したもの。  

 

不謹慎かもしれない、でも、どうしてだろうな……。

 

士郎は戦闘に楽しみを感じた事は今まで一度も無い。  

衛宮士郎という存在は決して武芸者ではない。

一欠けらの誇りすら持たない、結果だけが全ての薄汚れた戦闘者。  

そこに自分の感情なんて無かった、いや、いらなかった。

どうしてだろう……。  

ただただ最大効率を求めるだけの機構。  

助けなければならない娘が居るのに、負ける気がしない。  

一つの慢心で全てが瓦解する、そんな事例いやと言うほど見てきた。

でも、今のエヴァの在るがままに生きているを見ていると  

 

だから、俺は――

 

それはこんな状況で一度として浮かぶ事の無かった感情。

 

温かみがあって、無為に手放す事が出来ないこの感情は……そう、楽しい、かな?

 

一度認めるとそれは確かに形をもった。  

その感情を糧に、炉に火を点そう。

幾度と無く投影した黒く艶の無い洋弓。  

番えるべき矢は全てを貫く螺旋状の剣。

衛宮士郎が真に戦うべき存在は、常に己自身。  

だったら今の俺は負けない、負ける事なんてありえない。  

今の俺なら原典にすら届かせてみせよう。

俺はどこまでも付いて行く。  

さぁ始めよう、エヴァ。

 

 

 

 

 

 

「――ガキども、楽しんでいるか?」

 

物の怪達と刹那、明日菜の戦端が開かれようとするその瞬間に、エヴァはそんな言葉と共に優雅に舞い降りた。

 

「えっ、何、誰っ!?」

「ッ!」

 

 両陣営は突然のエヴァの登場に踏み出そうとしていた足を止めた。  

物の怪達に背を向けてニヤリと不敵な笑みを見せる。

 

「そう警戒するな、折角麻帆良のじじいからの連絡で救援に来てやったというのに……」 「麻帆良のじじいって……もしかして学園長の事!?」

「……あなたは?」

 

 驚く明日菜の隣で、警戒心を解かないまま問いかける。

 問いかけられたエヴァはふふんと鼻を鳴らして、意地悪そうな笑みを向ける。

 

「桜咲刹那、貴様は級友の顔も忘れたのか?」

「え? クラスメイトって、私はあんたみたいなの知らないわよ。そもそも中学生じゃないじゃない!」

 

 腰に手を当て、声を張り上げながらハリセンでエヴァを指す明日菜。  

だがエヴァは当然ともいえる明日菜の言葉にエヴァは喉を殺して笑った。

 

「待って下さい、明日菜さん!」

「刹那さん?」

 

緩やかに波打つ金糸の髪、不敵に笑うその表情。  

始業式からずっと姿の見えて居なかった小柄な少女.

登校地獄という呪いで何も無ければ必ず登校しなければならないはずなのに……。

 

「まさか、あなたはッ!?」

「だから! 誰なのよ!?」

 

 刹那の思い当たった驚きと、未だに把握できない明日菜の叫び。

 エヴァは笑みを絶やさずに、指を鳴らして幻影を解く。  

不敵の態度そのままに、そこには小柄な少女、明日菜にも見覚えがあるその姿。

 

「これでそこの馬鹿にも分かったか?」

「って、えぇっ? エ、エヴァちゃん!? 嘘、魔法使いだったの?」

「見て分からんのか?」

「……明日菜さん、彼女は普通の魔法使いではありません」

「そうなの?」

 

ある意味間抜けとも取れる明日菜の呟きに、チャチャゼロがケケケと笑った。

 

「そうだ、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、不死の魔法使いが救援に来てやったぞ」

「……またわびさびのわからん西洋魔術師が来たのか」

 

 すっかり蚊帳の外に置かれた物の怪達の一人、大鬼が欠伸交じりにそんな事を呟く。  そんな鬼の漏らした愚痴めいた言葉をエヴァは耳ざとく拾っていた。

 

「それはあの坊やだけだ。私が貴様らに優雅な西洋魔術師って物を見せてやろうではない

か。それにだ、私が全力を出してしまうと一瞬で終わってしまうからな」

 

エヴァにとっては純然たる事実の言葉だが、物の怪達には挑発としか取られなかった。  物の怪達から飛ぶ罵声を、賞賛かの如く受け取りエヴァは不敵に笑い、チャチャゼロも獰猛に笑った。

 

「さて、貴様らは十五年ぶりの私の肩慣らしに足る存在かな?」

 

罵声が怒号へと変わった。

背後のガキどもが喚く。  

それがどうした?

視界の中を犇く化生ども。  

どいつもこいつも怒りを顕にしている。  

それがどうした、たかがこの程度の数で私を止められるとでも?

笑いが止まらない。  これほど楽しいのはいつ以来だろう。  

狙撃態勢で背後にいる士郎を感じて、また笑う。  負ける気がしない。  

完全状態の私にとって、物の数ではない、

笑いが止まらない。

 

「化生ども、私の前に呼ばれたことを後悔しながら消え去れ」

 

私の前に立つものには福音を、闇の福音を与えよう。  

そしてここに童姿の闇の魔王を顕現させようではないか。

 

「さぁ、鳴らそうか。悪しき音信を!」

「――やってしまえ、士郎!」

 

空気を切る音が聞こえたと思った瞬間、爆音、衝撃に次いで土砂と爆風。  

盛大に飛び散る土砂を障壁で防ぎながらエヴァは感嘆の息を吐いて、そして笑う。

真祖の吸血鬼の障壁をもってしても正面から受けたくは無い、質量を持った高次元の神秘の塊、その暴走なんて。  

爆心地である中心部は言うまでも無く、余波をもって枯葉のように吹き飛ばされ、無事な存在は居ない。

そしてまた同様の狙撃、いや砲撃ともいえる一撃が一発、二発と続く。  

連続する弾着で、刹那はまだしも、明日菜は小さな悲鳴と共に思わず立っていられずに膝を付く。

粉塵が収まって目の前に開けた光景に明日菜と刹那は絶句した。  

土砂を抉った三つのクレーター、蠢いていた物の怪の大半が消滅、形があるものですら折り重なるように倒れていた。

無事な物の怪は元の数の三分の一にも満たないその結果。

 

「ちょ、ちょっと、何これ!?」

「…………」

 

強い弱い関係なく、直撃すれば無事ではすまない。

戦闘の素人ではない、むしろ知っているからこそこの攻撃に刹那は震えた。

確かに同じような惨状を作り出すことは自分でも出来るかもしれない、大して間を置かずに連射できるその速射性と、狙撃という隠密性、着弾してから辛うじて方向が分かったぐらいで、これを為した人物を見つける事は出来なかった。  

もし、これを為した人が敵で、対象が自分、いや守るべき人だったらと思うと……。

 

「……エ、エヴァンジェリンさん、これはいったい?」

「ん? ああ、私の連れだ。凄いだろう?」

 

 気軽に返すエヴァの様子に刹那は返す言葉が無かった。  

驚く少女二人にエヴァは自分の事の様に鼻が高かった。  

エヴァは一歩踏み出す。

 

「おいおい、この程度で消えてくれるな。さっきの威勢は何処へ行った?」

 

エヴァの嘲笑。  

小便くさいガキが相手だと高を括っていた物の怪達は自身を奮い立たせ、咆哮を上げる。

 

「そうだ、その意気だ。これで終わりだなんてつまらんからな」

 

 エヴァは本気になった物の怪達を見て笑みを零し、側に立つチャチャゼロに命じた。

 

「さて久方ぶりの戦場だ。チャチャゼロ、思う存分遊んで来い」

「ケケケケケ、テメーラ皆殺シダ」

 

 自身の身の丈よりも巨大な刀身を軽々と掲げてみせて、チャチャゼロは地を蹴った。  手短にいた一つ目の化け物を一刀両断、それが開戦の狼煙。

 チャチャゼロにとって相対する全ての敵が自身より巨大。  

だが山のような一つ目の大鬼すら問題にしない、ならない。  

チャチャゼロはケケケと笑みを深めて、腕を駆け上がり、手にした短刀で首を掻っ切る。血が噴出す瞬間には、もうすでに別な相手に刃を向けていた。

 好んで強敵を、群がってくるものは弱者でも構わず斬殺する、絶えずその顔に笑みを張り付かせて。

 

「昨日の鬱憤でも晴らしているのか? 今日はやけにはしゃいでいるじゃないか、チャチャゼロ」

 

 エヴァの声が聞こえた訳でもないのに、チャチャゼロは高らかに笑った。  

チャチャゼロが物の怪達の中心で暴れまわるその外では、四人の烏族がチャチャゼロを大きく迂回して、四方から囲う様にエヴァへと疾風の如く走り寄ろうとしていた。  

エヴァはその存在に気づいていたが、軽く鼻を鳴らす程度で動く事は無かった。

 

「エヴァンジェリンさん!」

 

刹那も走り寄る存在に気がついて迎撃に走ろうとするが、時すでに遅く、より早くその脇を駆け抜ける烏族。

 

「調子に乗るでないわ! 童がッ!」

 

エヴァは怒声に反応してゆっくりと振り向く、その顔には嘲笑。姿形に惑わされて、本当の実力も分からない馬鹿者と言っている様で、さらに激発を。

迫る四刀の長刀。  風を受ける布の音。  半瞬の間も置かず火花が散った。

それを受けたのはエヴァの体でも、障壁でもない、愛する者の為に身を捧げて創り上げた亀甲紋の干将と白の莫耶の二刀。  

空から舞い降りた士郎が受け止めたのだ。

 

「早かったな、士郎」

「そうでもない」

 

視線を交わす事無く、前に向けたまま背中同士が触れ合う距離でエヴァは短く言葉を漏らし、士郎も短く言葉を返した。  

烏族達が次の行動を取るより早く士郎は、動く。

鍔迫り合いの状態から二刀を滑らして体勢を崩し、右の手の莫耶で胴薙ぎの一閃、そこから乱舞に繋げ残りの三人も全て屠ってみせた。  

士郎はそこがまるで自分の場所の様にエヴァの隣に立ち、遅れて茶々丸も背負っていた砲を腰溜めに構え、周囲を警戒しつつ空からゆっくりと降り立った。

 

「茶々丸さん!?」

 

明日菜の声に反応して、茶々丸は明日菜と刹那に軽くお辞儀をしてみせた。  

士郎は既に戦端を開いているチャチャゼロの方を向くと、干将莫耶を握り直す。

 

「エヴァ、俺も出る」

「ああ、気をつけてな」

「エヴァも」

 

二人は一瞬視線を交わし、士郎は駆け出した。  

エヴァは駆けて行く士郎の背中を見て自嘲的な笑みを零した。

 

……気をつけろ、か。  

他人に向かってそんな言葉をかける日が来ようとは……。  

それがまた、嫌じゃないのが、な。

 

エヴァはどこか手に余る感情に流されながらも、頬を緩ませて士郎の背を目で追う。

士郎は戦域に突入すると、迫ってきた甲冑を纏った一人の鬼の金棒を二刀で受け流して難なく屠る。  

次はと視線を上げた士郎の目に入ったのは、チャチャゼロへ向かって匕首を投擲をしようとしていた笠を被った僧侶のような風体の物の怪。  

士郎は逡巡する事無く相手に莫耶を投げつけ、それを阻止。

 一刀のみとなった事を隙と認識したのか、ここぞとばかりに物の怪が群がり、士郎を押し潰そうとする、だが翻す右手には今投げたものと寸分違わない莫耶。  

迫る物の怪達が驚愕の表情を浮かべるがもう時既に遅い。

一瞬の時を置かず干将莫耶が走る。押し潰そうとしていた物の怪達が絶命。

尚畳み掛けるように崩れ落ちつつある化生の背中を駆け上がり、狐の面を被った物の怪が頭上から迫り、両の手に持った短刀で士郎を襲う。  

手詰まり、そう思えたが布石はもうすでにあった。  

狐の面を被った物の怪が大きく震え、その場に落下。

その背中には投擲していた莫耶が深く突き刺さっていた。

波はまだ終わらない。  

背後から大鬼の強襲。人の身の丈も在る金棒の振り下ろし、士郎は受け止める事は不可と判断、何とか前へ転がり回避、横薙ぎの追撃を巨大な石斧の投影を持って受け止め、そこに飛び込んできたチャチャゼロが石斧の柄を握ると、そのまま石斧で大鬼を吹き飛ばした。

二人は視線で物の怪達を牽制し、背中を合わせて言葉を交える。

 

「ありがとな、チャチャゼロ」

「ケッ、家政夫ガヤラセタンダロ」

「俺はもし使えればって置いただけだ」

「ソレガソウダッテ言ッテンダ」

 

 士郎は噴出すように息を漏らし、チャチャゼロも楽しそうに声を上げて笑った。

そしてまた二人は背中を離して戦場を駆ける。

 チャチャゼロは小柄な体を活かし縦横無尽に動き回り、その持ち前の怪力で敵を圧倒する。  一方士郎は干将莫耶を振り回しながら絶えず戦域を把握して、共に戦場に立つチャチャゼロへの支援、後方にいるエヴァ等に近づく物の怪を黒鍵で串刺しにする。

 それは戦いと言うよりも、掃討、蹂躙と言えるもの。加速度的に敵の損耗率が跳ね上がっていく。

 

 エヴァは二人が上げる戦果に満足そうにしながら半身を捻り、背後に視線を向けた。見せられる光景に、ただ呆然としているしかなかった少女二人へと。

 

「貴様らはどうする? ぼうっと突っ立ってると士郎とチャチャゼロが全て平らげてしまうぞ?」

 

 刹那はエヴァの言葉で、いち早く自分を取り戻して口を開いていた。

 

「……エヴァンジェリンさん、状況は?」

「大体は把握しているつもりだが?」

 

 横目で士郎を追いつつ刹那に言葉を返す。

 

「西の術者、天ヶ崎千草によって木乃香お嬢様が浚われました」

「ああ、知っている」

「木乃香お嬢様の魔力を使って何かを企んでいるようです」

「だろうな」

「ネギ先生がお嬢様の奪還に向かいましたが、いち早く合流しなければ!」

「追加の戦力でも来なければ、ここの掃討も間も無く終わるだろうよ」

「ですが、何かあってからでは――」

 

 天を貫く光の一条。

 

「――何か、だな」

 

 光の柱の中に出現する巨人としか言いようの無い文字通りの化け物。状況の悪化でしかないその光景を見てエヴァは笑う。

 

「向こうも楽しい事になっているじゃないか」

「た、楽しいって! 状況分かってるの!?」

「ん? なんだ貴様には分からんのか?」

「分かってるわよ! このかも攫われちゃって、ネギもピンチで――とにかく今は大変なのよ!」

 

 激昂する明日菜をエヴァは馬鹿にする様に鼻を鳴らして笑った。

 

「違うな。私の見せ場が来たという事だ」

 

 エヴァは肩で風を切って振り向き、声を張り上げる。

 

「士郎! チャチャゼロ! もうこの場はいい、あそこへ向かうぞ!」

 

 チャチャゼロは不満そうにしながらも大剣を叩き付けて大きく後ろに跳ぶ。

士郎にはエヴァの言葉の正確な意味は把握できなかったが、チャチャゼロに習って大きく間合いを開けた。

 

「貴様らはどうする? ついでに連れてってやらん事もないが」

「是非に!」

「わ、私も付いて行く!」

 

 正体不明の巨人の出現。それが意味する事は今この時、この瞬間、近衛木乃香が利用されている事、そしてその現場に向かったネギが危機であるという事。

その二つの事実によって刹那と明日菜が焦らされるのは十分。一も二も無く頷いていた。

 

「御主人、俺様ハココニ残ルゼ?」

「チャチャゼロ?」

 

 剣呑な色を視線に乗せ、向ける先には二刀を抜刀している何時ぞや見た少女。

 

「どうも~神鳴流です~」

「月詠!」

 

 唐突な強敵の出現に、刹那は夕凪を構える。だが当の月詠は刹那から視線をはずし、チャチャゼロへと向ける。

 

「センパイどうもです~。センパイとも剣を交えたいのですが~そこな可愛いお人形さんが先約なんです~」

「ケケケ、縁ガアッタナガキ。コノ間ノ続キトイコージャネーカ」

「はいです~」

 

 じりじりと間合いを計り始める二人。

 

「チャチャゼロ、私に恥をかかせるんじゃないぞ?」

「ケケケ、御主人コソナ」

「ふん、抜かせ」

 

 この主従は視線を交わす事無く背を向け合あった。  

そして突き出すエヴァの片腕。

 

「氷爆」

 

 近寄ろうとしていた物の怪達を、行きがけの駄賃とばかりに凍気と爆風で吹き飛ばし、チャチャゼロの事を完全に視界から外した。

 チャチャゼロはエヴァに向かって軽く大剣を掲げ、エヴァはふんと鼻を鳴らし、自身を中心に影を展開させる。

 

「行くぞ、貴様ら」

 

エヴァ、士郎、茶々丸、刹那が影の中に飲み込まれていく中、ただ一人だけその場に佇む明日菜。

 

「あ、え、ええっ!? ちょ、ちょっと私だけ行けないじゃない!?」

「ん? おかしいな、貴様何かしてるんじゃないのか? ……まぁいいさ、貴様は居残りだ。チャチャゼロと一緒にこの場で遊んでろ。それにだ、私以外の援軍も来たようだしな」

 

影に消えて行こうとする時、明日菜の疑問の叫びと同時に銃声が聞こえたが、エヴァにはもはや関係の無い事だった。

 

 

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