主人公の個性奪っちゃったみたいだから返すね 作:しおんの書棚
Side 私
二回戦第二試合は、飯田くんvs私だ。
クラス内でいえば、二人とも機動力に定評があり、スピード対決といえるだろう。
ここで、飯田くんの個性に関わる情報も、整理しておこうかな。
ターボヒーロー・インゲニウムの弟で、走行速度が突出しているヒーロー家の一員。
騎馬戦では、レシプロバーストと呼んでいたんだけど、通常の走行速度を大きく上回るさらなる加速が可能。
ただし、リスクも抱えているようで、おそらくは制限時間や再使用に制限があると見ている。
とにかく、持続的な速度では、飯田くんが一年生で一番だと、私は判断していた。
明ちゃんとの試合では、サポートアイテムで機動力というか旋回性能が上がっていたけど、私との試合では、そのゲタがない分、旋回性能は確実に落ちるだろうね。
「緑谷くん」
ステージの補修作業が、いつ終わるかわからない現状。
私はステージの壁際で、柔軟しながら考え込んでいたんだけど、かけられた声に振り向けば、そこにいたのは飯田くん。噂をすれば、というやつかも知れないね。
「本気の緑谷くんと競える機会が、やっと巡ってきたな」
「そうだね、本当に楽しみだよ、飯田くん」
私は、ずっと鍛錬してきたけれど、雄英高校に来るまで、組み手相手に恵まれなかった。ほぼほぼ前世の分だけが、近接戦闘経験だったんだ。
最近は、尾白くんや一佳ちゃんといった武術仲間ができたお陰で、多少は近接戦闘経験を積めてるんだけど、それでもたった数ヶ月。しかも、速いといえるほどの相手はいない。
だからこそ、飯田くんとの対戦は願ったり叶ったりで、通常時の戦闘は勿論のことだけど、レシプロバースト中の戦闘には、特に大きな期待を寄せていた。
そんな想いを込めて答えたんだけど、なんか不思議そう?
私が疑問に思ってるのを、表情あたりから察したんだろうね。飯田くんは、話を続ける。
「いや、すまない。緑谷くんに、そういった評価を受けているとは、思ってもみなかったんだ」
んー、もしや飯田くんは、自己評価を低く見積もるタイプなのかな? なら、正当な評価を伝えて、もっとやる気に火をつけようか!
「私が知る限り、飯田くんは、一年生で一番速い。
この対戦は、私も飯田くんも今までの成果。特に速度が発揮できて、一緒に成長できるいい機会だと思ってるよ。
それでね? 私、何事も挑戦するのが好きなの。“可能性”を拡げるようなことは、特にね。
だからさ、お世辞とかじゃなくて、本当に楽しみなんだ。飯田くんとなら、速度の“可能性”に挑めそうでしょう?」
そう伝えると、一瞬目を丸くした飯田くんは、すぐに笑顔を浮かべた。
「そうだな。ヒーローたる者、壁を乗り越えてこそだ。
より一層気合が入ったよ、いい試合にしよう。勿論、負けるつもりはないけどな」
そういって差し出された彼の手を握り、私達は健闘を誓ったのだった。
Side 飯田
緑谷出久くんの双子のお姉さん、緑谷ひびきくん。
緑谷くんの話によれば、彼と同じく火を吹き、物を引き寄せることができる個性の持ち主。
引き寄せる効果で、緑谷くん同様に速度を上げているのかも知れないが、彼女が個性を使用したと、明確に判断できる形では見たことがないな。
特徴としては、腕力・脚力・跳躍力・瞬発力に優れ、いくつかのサポートアイテムを使い熟し、尾白くんに聞いた話では武術も嗜む。
それでいて走力も、短距離でなら僕にほど近いというのだから、呆れるほどの身体能力と技術の持ち主だ。
だが、それだけではない。
ヴィラン連合なる組織に襲撃されたUSJにおいて、唯一人、ヒーローである相澤先生と肩を並べて戦った生徒。
あのオールマイトですら手こずった脳無という怪人を、少々手荒な手段を用いたとはいえ、たった一人で二度も行動不能にし、オールマイト到着までの時間を稼ぐことで、被害を防いで見せたとみんなから聞いた。
校舎と連絡がつかなくなった時も、13号先生の指示は勿論だが、緑谷くんの後押しがあったからこそ、僕は即座に走り出せたと思っている。
結果から見れば、あそこで留まった場合、オールマイトの到着が遅れて、被害が出ていた可能性が極めて高い。
羅列してみたが、今更ながら入試主席であることに納得してしまったな。
そして、そこまでになるには、一体どれだけの努力を積み重ねてきたのか。頭が、下がる想いだ。
正直にいって、身体能力や対処力では勝ち目が薄く、唯一対抗できそうなのはハイスピードを誇るレシプロバーストのみだろう。10秒以内に仕留めるしか手がないな。
そんな彼女と先程まで話していたが、それだけの能力があるにも関わらず、爆豪くんや轟くんのような強者特有の傲慢さがまったくなかった。
それどころか僕のスピードを認めてくれて、共に高めあうことが楽しみだとまで言われれば、元々全力を尽すつもりでいたが、それ以上の力を発揮できるような。いや、できるではない、してみせると心に決めれば、戦意が高まる。
兄さん、見ていて下さい。この試合で僕が、素晴らしいライバルと競い合い、勝利するところを。
今もヒーロー活動に勤しんでいるだろう兄さんの姿を思い浮かべた僕は、そう心に誓ったのだった。
Side 私
『会場のリスナー達、待たせたな! 二回戦第二試合、始めるぜ! イェア!!』
柔軟を終えて瞑想していた私は、プレゼントマイク先生のアナウンスを聞いて、身体の動きを確かめつつ立ち上がる。
『ヒーロー家のエリート! インゲニウムの弟! 飯田天哉!!』
さて、飯田くん次第だけど、基本待ちでいこう。
『
ゆっくりとステージに歩み寄り、軽く跳躍してステージ上へ。
『行くぜ? スタート!!』
開始の合図がかかったとほぼ同時に駆け出した飯田くんは、お互いの間合いに入る直前。
「レシプロバースト!」
掛け声と共に急加速した。
Side 飯田
火を吹かれるか、引き寄せられるかの二択を迫られれば、判断が鈍る。なら、こちらから攻めて、引き寄せる効果に注意し、火は避けるのみ。
レシプロバーストによるエンジン停止まで約10秒。タイムリミットまでの時間を最大限活かすには、ギリギリまで近づいてからの。
「レシプロバースト!」
僕の家系は、走力特化。その源である脚は、攻撃においてさらに速度を増し、威力を引き上げるんだ!
宙を舞いつつ放った、速度の乗った右からの蹴り。その軌道に割り込もうとでもいうのか、緑谷くんの左腕が動くのが見える。
「いくら緑谷くんでも! 片腕の力で防ぎ切れるわけがない!」
次の瞬間、僕の脚は、空を切っていた。
「躱された!?」
いや、躱したってことは、防げなかったということだ! 即座に判断を終えた僕は、着地から跳ねるように脚を振り上げつつ、急旋回。身体を捻っての変則踵落とし!
「また!? なにが!」
再び空を切り、地面に叩きつけそうになっている脚から力を抜く。振り子の如く、背後に放り投げるようにしてステージとの衝突を避けると共に前宙! そのまま斜め軌道で繰り出す浴びせ蹴り!
「これなら!」
その瞬間、何が起きていたのか、僕は初めて目にした。緑谷くんは、ただ優しく手を添えるようにして、僕の力を流していたんだ。なんて精密で素早い動きと、見切る目。そして技術!
「これが、武術か!」
体勢が崩れ過ぎている、仕切り直しが必要だ! 叩きつける反動と、身体のバネを活かして、バク宙で一度離脱するしかない!
「三度目の正直」
緑谷くんの言葉が聞こえた次の瞬間、思っていたよりも遥かに軽い二度の衝撃と、急速に移り変わる視界。
「え?」
「続ける?」
背後から聞こえる声。目の前のステージ。僕の身体は、ステージに押さえ込まれていた。そして、タイムリミット。
「いや、時間切れだ。降参する」
ふっと背後の重みが消えると、まるで魔法のように僕の身体は操られ、気づけばステージに立っていた。
「ありがとう、飯田くん。君が全力を尽くしてくれたから、私はまた少し成長できたよ」
ああ、これは完敗だな。僕は、緑谷くんを倒そうとしたけど、彼女は違った。
緑谷くんは、一度も攻撃していない。僕をヴィランに見立て、無傷で捕縛しようとしたからだ。それは、ヒーローとしての心構えが見せた戦い方。
三度見逃されたんだ。そして、もっとも体勢が崩れて無理をかけようとした瞬間、僕の力の流れを制御して、器用に押さえ込んだんだろう。
気づけば押さえ込まれ、難なく立ち上がらせてくれた技術。おそらく合気道だろうな。
『開始から僅か15秒! しかし、その中身は、濃密ぅ!!
飯田天哉の素早い連続攻撃を、全て躱した緑谷ひびきが、一瞬で押さえ込んでの勝利だ!』
『こいつらは1年の中で、スピードにかけてはトップの二人だからな。
飯田は、速さだけでなく、学ぶべき技術があると知れた。
緑谷姉は、攻撃だけがすべてではないと、見た人間に突きつけた訳だ。
俺としては、緑谷姉の対処法は、合理的だと判断するがな』
解説が続く中、僕らは向き合う。
「僕は、全力を尽くした。そこに後悔はない。
だけど、意識が間違えている。もっと様々な手段がある。そう行動で示して、気づかせてくれたんだね」
その言葉に、緑谷くんは頷いて。
「わかってくれたみたいで嬉しいよ。だからさ、今度、一緒に鍛錬しようか」
微笑みながら、そういってくれたのだった。
Side 私
飯田くんの攻撃は、空中で放った右からの蹴り、変則踵落とし、そして浴びせ蹴りの計三回。
想像以上に、蹴り脚が伸びてきたけど、勢いを殺さずに活かして、すべて逸らすことに成功した。
また、ひたすら受けに回ったのは、対ヴィランを見据えた対応であり、技術向上のためでもある。この辺は、飯田くんにも上手く伝わったみたいで、やった甲斐があったね。
そして、最後の攻防。
受け流すのに添えた手で、足首を柔らかく掴み、運動ベクトルを回転させる力に変えて投げる。
ステージに激突する寸前に、頭を足の甲でカバーしつつ、腕を引き上げて衝撃を殺し、背中で優しく受け身を取らせた。その後、そこからうつ伏せへ身体を回転させると、腕を極め切らない程度に固めつつ、体重をかけて押さえ込んだというわけ。
声をかけて、飯田くんが降参しなかったら、しっかり極めて勝負アリ。
今回は、状況を察した飯田くんが降参してくれたので、特に荒れることなく終了。これが爆豪くんなら、なめんなとかいって延長戦に突入したかもね。
さて、勝者として手を挙げたりとファンサしてたけど、次の試合のためにそろそろ場所を空けようかな。
そう思った私は、四方を順に向いてはお辞儀して、その後に手を振り、最終的には会場出口で一礼してから、ここを後にしたのだった。
Side 轟
緑谷姉は、身体能力と技術が突出している。
上鳴の電撃を防ぎ、身を隠すため、ステージを砕く程の脚による攻撃。背後を取れるほどの跳躍力と、気絶させた技術。
飯田の高速攻撃を見切る目に、攻撃をいなし、押さえ込んだ技術。そして、それが可能な速度。
加えて緑谷弟曰く。
「火を吹けて、物を引き寄せられる個性、か」
今回も、火は吹かなかった。引き寄せる効果は、食らってみなければわからねえ。
「それでも俺が勝つ」
個性では、負けてねえ。それは、緑谷弟との試合で証明済だ。
「近づかれるとマズイな」
俺は、考える。緑谷姉を近づけずに、勝つ方法を……。
Side 八木
「並の速度では、緑谷少女に届かないというのはわかっていたが……」
修練のアドバイザーになってから、ピンポン球を投げて、躱すか受け止める訓練に参加した事がある。
緑谷少年は、緑谷少女が担当して、初動が見えてからでも十分動ける距離で。
緑谷少女は、私と緑谷少年の二人が、1m程度の距離且つ両手に持ったピンポン球を、ランダムで投げて行ったが……。
「緑谷少女は、そのすべてを処理してしまった」
その目が、飯田少年の動きを見切り、鍛え上げた肉体と技術で、捌き、押さえ込んだ。
「緑谷少女が攻撃したのは、脳無を除いて、すべて無機物」
攻撃するより、守る方が。守るより、無傷で抑える方が難しい。
「だが、次の試合は……」
轟少年の個性は強力で、氷・炎共に遠近両方で攻撃できる。
それに対して、個性のない緑谷少女には、サポートアイテムがない限り、遠距離攻撃手段はない。そして、個人戦において、緑谷少女はサポートアイテムを使用しないと聞いた。勿論、申請も出ていない。
「どう攻略するつもりなのだろうな」
私ならパンチの風圧で無効化できるが、果たして緑谷少女にそれが可能なのか。
だが、これまでも見せてくれた人の持つ“可能性”と、緑谷少女の強い意志が、私に期待させる。
「最後まで見届けるとも」
それが、緑谷少女との約束。そして、アドバイザーであり、教員でもある私の勤めなのだから。
●オリ主
飯田と試合して、勝利。高速戦闘経験を積めた。
●飯田
レシプロバーストで頑張るも、自力の差で負けた。
●轟
次の試合に向けて、情報収集・戦闘プラン構築に動いている。
●八木
オリ主が飯田に勝つと予想し、予想以上の手段で勝ったことを賞賛したい。
次戦の厳しさと危険性を気にしているが、反面期待もしている。
◼️原作乖離・フラグ要素
オリ主 二回戦突破し、三回戦へ
飯田 二回戦で敗北
轟 三回戦の相手が、飯田からオリ主に変わった