主人公の個性奪っちゃったみたいだから返すね 作:しおんの書棚
普段の1.5倍程度の文字数になった例。
Side 私
八木先生と別れて、家に帰った私を待っていたのは、出久と私の活躍でテンションの上がった引子母さんだった。
録画した映像を見ながら、興奮気味に捲し立てるという非常に珍しい様子の引子母さんは、我が子の活躍がよっぽど嬉しかったんだろうね。
「私より、出久のこと褒めてあげてね」
「姉さんが帰ってくるまでは、僕の番だったよ。心配もいっぱいかけちゃったけどね」
ああ、そうだったんだ。
照れながらも、ちょっと疲れたように笑う出久は、いつまで経っても私の可愛い弟のままで。
とはいえ、出久が強くなるのは一向に構わないし、出久の夢からいっても必要なこと。
さらにいえばメタ的な話になるんだけど、体育祭が身の危険という意味では割と平穏だったから、その反動というか物語の展開的にというか、今後はかなり荒れそう気がするんだよね。
そんなことを踏まえて、色々と考えつつ振替休日に突入し、いつも通り日課の鍛錬を行いつつも、十分に身体を休めて迎えた登校日。
「朝から疲れたね、姉さん」
「有名税だから仕方ないかな。ヒーローになったら、もっと騒がれるだろうし、慣れないとね」
出久は、満員電車の中でテレビ中継を見た方々から、揉みくちゃにされたらしくお疲れ気味。
私? 私は、みなさんが気を使ってくれたのか、物理的に程よい距離があったよ。女性専用車両だったからだと思うけど。
それでも当然のように話しかけられて、男女比的には多少数の劣る女性ヒーローの候補だからか、体育祭優勝の効果か、期待度は高く感じたね。
そんな感じで登校し、今日の授業は、ヒーロー情報学。内容は、コードネーム、いわゆるヒーロー名をつけるというもの。
これは、来る職場体験に向けての準備。
振替休日中に集計されたプロヒーローからのドラフト指名があり、その中からヒーロー事務所を自分自身で選んで、後日職場体験を行うんだけど、その時に名乗るための必須事項なんだとか。
ミッドナイト先生監修の中、みんなは次々と名付けを終えていく。
そんな中、出久は、デクをヒーロー名にした。ああ、お茶子ちゃんのあの言葉が胸に響いたんだね。いいと思うよ、うん。
そういう私のヒーロー名は、スフィダンテ。意味は、フランス語で、挑戦者。
“可能性”を信じて、諦めることなく、最後まで挑み続ける人間であれ。
そういう想いをヒーロー名に込めて、いつまでも初心を忘れないようにしたい。そう伝えれば、ミッドナイト先生には好評だったね。
そして、放課後。三度、八木先生から呼び出された私は、お馴染みになりつつある生徒指導室へと向かったのだった。
Side 八木
OFAについての調査は、グラントリノから伺ったお師匠の話や、急な相談に応えてくれた塚内君のお陰で、速やかに終えることができた。
であれば、早急に伝えることが私の示す誠意。そんな想いから、今日の機会を設けた訳だが……。
待つことしばし。いつものように、ノックが3回響く。
「緑谷です、入室してよろしいでしょうか?」
「ああ、入ってくれるかな」
ドアを開けて、そう伝えながら迎え入れると、入室した緑谷少女。しかし、その目は、私以外に注がれている。
「……はじめまして、サー・ナイトアイ。もう御一方は、大変失礼ながら存じ上げませんが、緑谷ひびきと申します」
「ああ、ナイトアイだ。よろしく頼む」
「なるほどな……。ワシは、グラントリノじゃ」
いきなりのことに驚いただろうが、即座に立て直して冷静に対処したな。グラントリノは、私と同じでお師匠を思い出したんだろう。ともかく、これなら二人に悪印象は与えていないはずだ。
二人が座り、私も席に着くと、緑谷少女もそれに倣い。
「俊典、始めるぞ」
お師匠の盟友であり、かつての師であるグラントリノ。
OFAを巡って袂を分かった、元サイドキックのナイトアイ。
八代目OFA継承者である私こと、オールマイト。
三者三様の想いを持つヒーローと、次代候補である緑谷少女との話し合いが始まった。
Side 私
入室して、すぐに只事じゃないと察した。
サー・ナイトアイ、グラントリノ、オールマイトという3人のヒーローに囲まれた私。これはもしや、AFOについてなにかわかったとかで、早急な引き継ぎが必要になったのかな?
そう思って、口を開こうとしたんだけど、八木先生が先手を打ってきた。
「緑谷少女、ここにいる全員がOFAの存在を知っていてね。
君の推論から調査した結果を伝えるにあたって、私が同席を願い、来てもらった訳さ」
「グラントリノは、先代である志村菜奈さんの盟友だと伺いました。
サー・ナイトアイは、オールマイトの元サイドキックですから、知っていてもおかしくはないでしょう。
そして、関係者を集めるくらいですし、相当な内容だとは察しました。どちらの話かは、判断がつきませんが」
そう返せば、八木先生は一つ頷き、続ける。
「一つずつ話を進めよう」
一つずつということは、まさかのOFA&AFO揃い踏みってことか……。
「まず、OFAについて。
私を除く継承者は、全員個性持ちでね。初代は不明だが、その他は一人を除いて、AFOとの戦いで亡くなられている。
唯一の例外が四代目。40歳という若さであったにも関わらず、検死の結果は老衰だった」
「つまり、私の予想通り、OFAを個性持ちが引き継ぐことに、大きなリスクがあったということですか」
「そうなるね」
不意に私から逸れた八木先生の視線が、サー・ナイトアイに注がれているのが見える。
「それが私を、この場に呼び寄せた理由。ミリオには引き継げないと、納得させたかった。そういうことですか、オールマイト」
「正直にいえば、君に伝えるつもりはなかったんだ、ナイトアイ。
けれど、グラントリノから指摘されてね。お前のことを想って動いてる人間に不義理はするな、筋は通せって、叱られちゃったんだ」
えっと、ぜんっぜん話が繋がらないんだけど。そもそもミリオって何処の何方?
そんな私の雰囲気を察した八木先生は、私の方を向いて話し出す。
「すまない、緑谷少女。説明が足りていないな。
ミリオというのは、雄英の三年生で、透過の個性を持つ通形少年のことさ。ビック3と呼ばれる優秀なヒーローの卵、その一人でもある。
そして、ナイトアイが、OFAの後継者に推薦している人物なんだよ」
「肉体・精神共に、次代を担うに相応しい人物だ。だが……」
「寿命を犠牲にしてまでの継承など認められんわ、逼迫してる時ならともかくの」
なるほど。つまりは、こういうことかな?
「サー・ナイトアイは、忙しすぎるオールマイトに代わって、個人的に後継者を探し続けていた。
そうして見つけた通形先輩を推薦しましたが、断られてしまったということですか?」
「ああ、次代は自分で見つけたいと言われたが、諸般の事情から納得できずに交渉していたところで、今回の話だ。
まあ、候補が君ならば、即座に納得はできずとも、それなりの理解は示したはずだ。
そもそも体育祭を見て、完全には使い熟せていないが、引き継ぎ済だと把握した。リスクの件を含めて、怪我の功名といえるだろう」
「まあな。アレを見れば、知ってる奴は気づく」
ん? もしかして、二人とも勘違いしてる? 今後の話に影響するから、ここでしっかりと訂正しておこう。
「お二人とも勘違いなさっているようですが、私は引き継いでいません」
そういった瞬間、石化したかのように、二人は動きを止めたのだった。
Side 八木
まさか勘違いしているとは、思ってもいなかった。どうにも話が噛み合わない感じがあったが、そうであれば納得だ。
「俊典、今の話は本当か?」
「ええ、グラントリノ。
緑谷少女は無個性のまま、鍛え上げた肉体と磨いた技術を駆使して、強豪犇く体育祭で優勝したんですよ」
私が後継にと期待をかけた緑谷少女は、想像以上の人物になった。そんな彼女を、二人に自信をもって紹介できることが、我がことのように嬉しい。
「なあ、緑谷。どんな経緯でこうなってんだ?」
「一度目のお誘いは、入学の約10ヶ月前。家族第一の私は、絶対に家族を優先します。そんな私は、希望の篝火を宿すのに相応しくないと判断してお断りしました。
二度目のお誘いは、体育祭の前。自分自身の“可能性”を信じると共に、無個性でもやろうと思えばやれるんだと証明して、無個性差別に苦しむ人達へ希望を齎せればとの想いからお断りしました。その際は、体育祭の後に、もう一度話し合うと約束し、納得してもいただきました。
三度目のお誘いは、体育祭の後。約束の機会でしたが、OFAの持つリスクを懸念して、調査が終わるまで返事を保留させていただきました」
沈黙。けれど、否定的な空気は無い。
「……緑谷は、個性が欲しくはないのか?」
「私がヒーローを目指すのは、No.1ヒーローを目指す弟が、孤独にならないように支えるため。
個性があれば様々な場面で選択肢が増えるでしょうし、より一層家族を守りやすくなるとは思いますが、是が非にでも欲しいかと問われれば、否と答えます。
個性に限りませんが、あるなら、あるなりに。無ければ、無いなりに、一生懸命生きる。それが人間という生き物だと、私は思っていますので」
グラントリノが、笑みを浮かべて、緑谷少女を見ているが……。
「……いいじゃねえか、俺は気に入ったぜ。
先代も、家族を大事にするイイ女だった。コイツは、きっと強くなる」
それを聞いたナイトアイも、一つ頷いて。
「強さは、無個性としては破格。心根も、家族想いで善良。思想に、嘘偽りや邪さが感じられない。
そして、私達ヒーローが取りこぼしてきた、無個性の人達への想いと、現状をより良く変えようという意志。
OFA継承条件である無個性でもありますし、私も異論はありません、オールマイト」
誰に反対されようと譲渡するつもりではあったが、軋轢はない方がいいに決まっている。それに、この二人の理解を得られれば、緑谷少女にとって心強い味方となってくれるだろう。
「二人に納得して貰えて良かった。それでは、次だ」
OFAの継承条件について話を終えた私は、最大の問題であるAFOについて、話題を移したのだった。
Side 私
OFAのリスクについての話を終え、次の話題に移る。つまり。
「以前、災害救助訓練に現れたヴィラン連合。その時に戦闘し、確保した脳無という存在がいる。
私と互角のパワーを誇り、衝撃吸収と超再生という二つの個性を持つ存在。今はまったくの無反応で、身動き一つしないんだが……。
DNA鑑定の結果、行方不明のとある個性持ちと合致。しかも、複数人のDNAが混ざっているとの結果が出た」
「混ぜこぜのDNAなんて人間が、まともな訳もねえ。しかも個性が二つだと? クソッ、そういうことか!」
黙って考え込んでいたナイトアイ。そして、話しながら思考をまとめていたグラントリノ。その双方が理解したみたい。
「ええ、アレはAFOが関与して生み出された存在。ヤツは、生きて活動を続けている。ヴィラン連合とも繋がっているのは、間違いない」
そういうと八木先生は、私に向き直って、話を続ける。
「緑谷少女。以前伝えたように、AFOは絶対に倒さねばならない存在だ。私は、全身全霊をかけて、ヤツを倒すために動く。
しかし、私は万全とは言い難く、過去の継承者同様、万が一に備えねばならない」
OFAのリスクを把握したし、八木先生の身体についても知っている。今までの経緯もあるし、こんな状況で継承を断るようなら、私は人間として最低だ。
……本来なら、無個性だったはずの出久が、入学前にOFAを引き継いで紡ぐ物語。
だが、
そして私は、可愛い弟を死地に送らなくてすむならば、“可能性”を信じて鍛え続けてきた力を、家族を守るため振るうことに一切の迷いはない。
「オールマイトと共にAFOを倒すため、私にOFAを継承させて下さい」
私の選択は、成った。
Side 八木
聡い緑谷少女のことだ。AFOが、OFA継承者を狙うことは、とっくに理解していただろう。
そして、もしも継承を断った場合、次の候補は、緑谷少年。試した訳ではないが、二人の間であれば、個性の移動実績がある。今度は、緑谷少年から緑谷少女に戻せばいいのだ。
そのうえで緑谷少年にOFAを継承すれば、OFAの緑谷少年と、彼から取り戻した本来の個性を持ち、彼を守らんとする緑谷少女の強力なタッグチームが生まれるだろう。
だが、AFOの矢面に立つのは、緑谷少年。そんなことを、家族想いの緑谷少女が、絶対に許すはずがない。加えて、私自身の状況も、彼女の決断に影響を与えてしまったのは事実だ。
半ば誘導したも同然であり、ある意味で卑怯だとは理解している。それでも緑谷少女は、自分の意思で守るための力として、OFAを欲した。
すでに継承は済み、校舎から離れた屋外演習場に、全員で場を移した。これから初回のコントロール訓練に挑むのだ。
「緑谷少女。以前伝えたように、しっかりとコントロールしなければ、四肢が爆散しかねない。
相当鍛えられている緑谷少女でも、少しのミスで筋肉の断裂や骨折すらありうる。慎重にね」
目の前で、柔軟体操を行なっている緑谷少女に注意喚起して、様子を見守る。
「はい、八木先生」
非常に落ち着いた声だ。
OFAが見せる、あの超パワー。誰が引き継いでも、憧れや期待感から、かなり気分が高揚するはずだ。しかし、緑谷少女に、そういった変化は見られない。
準備が終わったのか立ち上がった緑谷少女は、ゆっくりと演舞を始め、その速度が徐々に引き上がっていくのが見て取れる。身体が温まったということだろう。
「では、始めます」
そんな緑谷少女は、まるでいつもと変わらぬ様子で、そういったのだった。
Side 私
3人に見守られる中、OFAの適応状態を確かめる。
八木先生もナイトアイも、
検査を受けた一回しか使ったことのない個性だからこそ余計にわかるんだけど、本来無意識で使えるモノ。この世界の個性とは、ただの異能であり、手足の延長でしかない。
そう考えれば、自分の力を調整できるのは、当たり前のこと。ただの力加減で、必要なのは慣れだ。
「10%」
演舞を再開し、動きの中で確かめる。うん、素の身体能力が高めの私とはいえ、10%とは思えないほどに加速してるね。なるほど、こんな上昇倍率か。加減が難しいけど、動きながら調整する方が、加減が掴みやすい。その方が、変化に気づきやすいからだろうね。
「20%」
上がり幅が思ったより大きい。比例のような直線的な上がり方じゃない。解放するほどに、加速的に効果が上昇するんだね。そうやって、10%刻みで試し続けていく。そして。
「50%」
ここで、明らかに身体が張り始めた。筋肉が膨張しつつあるね。これが100%になったら、オールマイトみたいになる訳か。とはいえ、私は女性だからか、あそこまでではないみたいけど。
「緑谷少女、ストップだ」
ああ、集中し過ぎて、周りが見えてなかった。徐々に倍率を落としていくと、思いの外、消耗していることに気づく。
「初回にしては見事なコントロールだ。それ以上無理する必要は、今はないだろう」
吹き出す汗が凄い。若干、筋肉痛気味でもある。冷静なつもりだったけど、多少は高揚してたし、ミスを犯せないという意味での緊張もあったんだろうね。
「5割でここまでとはな、俊典以上の適応率だ」
「OFAが、継承期間で力を蓄積するならば、オールマイトの力が長年蓄積された結果でしょう」
「素の身体能力が、破格なのも影響しているんだろうね」
オールマイトの全盛期を、真近で見てきたヒーローの言葉が持つ意味は、非常に重いものだ。ならそれに従って、今は5割も引き出せれば十分。しばらくは慣らしに徹して、無意識に扱えるようにしよう。
それにしても私でこれなら、次代はどんなとんでもないことになるのか、想像もつかないね。まあ、私達でAFOを倒すから、特に理由がない限り、引き継がれないかもしれないけど。
時期が来たら、出久に引き継ぐのがいいかな? それならしっかり教えられるように、色々と経験しておかないとね。
今の出久なら、いいところ10%までってところだし、慣らすには相当苦労しそうだ。
「緑谷。お前さんは、思った以上にやれそうだが、無理はするなよ。
俺達を、必要以上に心配させる俊典は、悪い例だ。反面教師にしておけ」
ニヤリとした笑顔を残して立ち去るグラントリノ。
「その点は、グラントリノに同意する。
なにか相談があれば乗ろう、連絡してくるといい。後日、ミリオに会うのも、双方に益がありそうだ」
「よくぞ決断してくれた。これからも期待しているぞ、緑谷少女!」
「ご期待に添えると断言はしません。ただ、
八木先生にそう返せば、ひどく嬉しそうで。
あっ、そういえば、ナイトアイについて気になったことがあったね。八木先生に、聞いておこうか。
「そういえばナイトアイと握手しながら話してる途中で、ちょっと固まったんですけど、私なにかしたでしょうか?」
「ナイトアイがかい? ……いや、
ん? ちょっと間があった気がするけど、問題があれば指摘してくれたはず。気にするほどでもない、か。なんだかんだとリスクがある個性で、慣れないことをしたから、色々と敏感になってるのかもね。
「とにかく今日は早く帰って、ゆっくり休みたまえ。明日以降も、放課後は此処で、コントロール訓練を続けよう」
「わかりました。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
八木先生に一礼して、その場を去り、シャワー室で汗を流した私は、随分と濃い顔合わせだったな、なんて思いながら帰宅する。
そして、いつものように明日に備えて就寝した。まさかあんなことが起きるなんて思いもせずに……。
●オリ主
調査結果からOFAのリスクを把握した。
AFO打倒と出久を想って、OFA継承。初回50%達成。
就寝後、何かあった模様。
●八木
OFAが継承できてご満悦。
想像以上に効果が増したOFAに驚き、50%で止めた。
●グラントリノ
見た目と想いが、想像以上に志村菜奈に似ていて、驚きつつも気に入った。
●ナイトアイ
OFAを、個性持ちに引き継ぐリスク把握。ミリオへの継承断念。
会話を重ねた結果、一応後継者に認め、オールマイトを想って、協力を決めた。
ずばり、見たでしょう!
◼️原作乖離・フラグ要素
オリ主 OFA継承・グラントリノとナイトアイに面識ができた
八木 原作より一年遅れで譲渡・ナイトアイと和解
夜目 オールマイトと和解