主人公の個性奪っちゃったみたいだから返すね 作:しおんの書棚
Side 私
『第一種目は、障害物競走!』
ミッドナイト先生の競技説明が続く中、いくつか考えていたプランの中から、この競技で可能なプランを一つ、速やかに選択する。
『スタート!!』
いの一番に飛び出した轟くんが先頭に立ち、直後足元を襲う寒波の如き冷気。それは、地面を伝い周囲を襲う氷による妨害。けれど、
『第一関門は、ロボ・インフェルノ!
先頭に立った轟焦凍の氷による妨害を、選手達が続々と乗り越えて進んでいくぅ!!
ん? おいおい、なんか問題発生かぁ!? 選手宣誓した緑谷ひびきが、全く動いてないぞー!!』
先程選んだプランは、この競技中に生徒達が行う行動から追加で情報を得るというもの。今までで得られたのは……。
轟くんについて、個性は半冷半燃のはずだけど、これだけ氷を使っておきながら、いまだに炎を扱ったのは見たことがない。切り札的な扱いか、扱いが苦手か、それとも……といった感じ。
爆豪くんについては、一応長い付き合いだし、出久から聞いてもいるから、それこそ確認。
見たところ爆破反動によって空中機動もできそうで、轟くんの行動に即応したことから相変わらず反射神経がよく、勘もかなり鋭いうえに、天才的センスを持つこと。やだなあ、天才はその場で一気に伸びることがあるから。
とにかく、まずは目的に沿って、やるべきことをやろう。
「じゃあ、確認から」
混雑が解消し出した頃、トコトコと歩き、凍結した地面に近づいて、そのまま踏みつける。瞬間、その場から周囲に走る亀裂。そして、氷はアッサリと砕けた。とはいえ、これからの行動が可能なのは、
「妨害程度の氷では、最高硬度は測れないだろうけど、参考にね」
『なんだかわからないが、凍った地面を砕いて納得してるぞぉ!? ありゃ、なにしてんだ?』
『強度確認といったところだろう。だが、一体何をするつもりだ?』
おお、流石は相澤先生、よく見てらっしゃる。じゃあ、ご期待にお答えしましょうか!
本来ヒーロー科は、強力な個性持ちが多いことから、体育祭でのサポートアイテムの使用を大きく制限されている。
ただし、青山くんのように個性の都合上、事前申請して許可されるケースがあり、私自身は無個性ゆえにサポート科に準じて一つだけ許可を得られた。
ちなみ八木先生経由での申請なので、もしかしたら八木先生が融通を利かせてくれた“可能性”は否定できないけどね。
「よっと、ツインエッジ!」
とにかく、一緒に作った発目明ちゃん曰く指導作成型ドッ可愛いキミのベイビー1号を、約束通りお披露目すべく、軽く前方へ跳躍。声紋認証型の音声入力で、シューズの裏から幅広の刃を文字通り二つ出して、着氷の勢いそのままに氷の上を滑走し始める。
『コイツはビックリだぜ!
緑谷ひびきが、轟焦凍と同じように氷の上を滑っていくぅ! だが、スピードがダンチだ! コイツはCOOL!!』
『あのシューズは、サポートアイテムのようだな。たまたま状況に合致したと考えるのは難しい。ある程度の状況に対応できるマルチアクションシューズってことだろう』
『流石は入試主席、準備は万全ってことだな!』
いい感じに会場は盛り上がっている。
それじゃあ、さらなる情報収集と勝利のためにも、トップが完全に見えなくなると意味ないし、轟くんの氷が溶ける前に追いつくとしようか!
私はさらにスピードを上げて、追跡を始めた。
遠目に見えてはいたけど、凍りついた入試の時の巨大ロボット。迂闊に壊したり倒せば、誰かが巻き込まれて怪我をしたり、場合によっては死者が出かねない。
「まあ、私は氷上を活かしたパルクールすればいいんだけどね」
巨大ロボットを潜り抜け、妨害を避けつつ生徒を躱す。刃が二本あることを活かして、鋭角かつ最小限の軌道で滑り、生徒をも利用したアイスダンスとパルクールアクションで先頭に追い縋る。
『おいおい、なんだあの動き! 一人だけ世界観が違わねえか、あれ!?』
『スケーティング技術とパルクールの動きといったところか。
単純な上下左右への動きでは回避が難しいケースも、相手の身体を軸にアイスダンスの如くスピンや自力でリフトして、ほぼほぼ減速なく通り抜けられるとは。以前から思っていたが、あいつは本当に多芸だな』
私は、身体操作技術を磨くにあたり、足元が不安定なケースの一つとして、氷上訓練を取り入れていた。その時に使用した一つが、アイスダンス用のシューズ。バランス感覚を鍛えるのに打ってつけだったこともあり、今やスケーターとして一家言ある程度には滑り慣れていた。
観衆が楽しめて、移動速度も出せる。通過ついでに情報収集も行えて、私の目論見は果たせつつあった。
Side 轟
上手くスタートダッシュを決められた俺は、地面を凍らせて妨害したが、爆豪はそれを避けてついてきた。例の0ポイントロボを回避しつつ凍らせて、さらに後続へと妨害を仕掛けたが、相変わらず追尾してやがる。だが。
「緑谷姉は、どこに消えた?」
「知るかよ、んなこと! それよりいつまで俺の前にいるつもりだ、半分野郎!」
やかましい、独り言に一々反応するな。だが、お前に構ってる暇はない。
クソ親父、しっかり見てろよ。俺は、母さんの個性だけでNo.1になってやる!
「なんだ?」
随分と盛り上がって、騒いでいる観客に気がつく。爆豪をあしらいながら周囲を伺った、その瞬間。
「私が来たってね! そろそろ混ぜろよ!」
「テメェ! どこから来やがった、没個性女!」
一瞬で真後ろにつかれたか。
緑谷弟の会話から漏れ聞こえた内容によると、二人の個性は、火を吹けて、物を引き寄せられるというものだったはずだ。よく考えれば、コイツらもある意味では、個性婚の例なんだな。
「相変わらず爆豪くんは、口が悪いね。ご両親が、教育できてないって悪く思われるよ?
で、普通に滑ってきただけだけど?」
「ウッセー! 親とか知ったことかよ!
てか、お前も半分野郎みたいなことしやがって!」
その言葉に、緑谷姉の足元を見れば、氷上に靴底がついていない。
「スケートシューズを準備していたのか」
「轟くん、爆豪くんに追い回されて大変だったね、お疲れ様。
スケートシューズは準備してないけど、代用品で氷を利用させてもらった感じだね」
「追い回してんじゃねえ! 邪魔されてんだ、コラァ!」
緑谷姉は、普段からサポートアイテムを多用する傾向にある。ワイヤーアンカー然り、小太刀然りな。そのシューズも、その一つなのだろう。
そういえば、俺は緑谷姉が、明確に個性を使ったケースは知らないな。まあ、物を引き寄せる効果は、ワイヤーアンカーを操るのに活用されているんだろうが。
ただでさえ、恐ろしい速度で動ける彼女。火を吹かれれば、火力次第ではあるが、俺の氷も危うい。引き寄せられれば、打撃の威力が上がるし、コイツは自分自身をよくわかって鍛えている。
だが、わかっていれば対策は取れるし、利用することもできる。
とにかく、まずはこの障害物競争で勝つ!
Side 私
轟くんは馴れ合わず、一人を通している。
そこにはきっと何か理由があるはずで、踏み込まれたくないのだろうと、必要最小限しか接触してこなかった。
さっきのは会話というより、轟くんが漏らした独り言に答えた形。
別に好きも嫌いもないけれど、クラスメイトだ。彼さえ望んでくれるなら、他のみんな同様には接したいし、短い高校生活が後に与える影響を前世で知るだけに、彼にも色々な意味で味わって欲しかった。
『第ニ関門は、ザ・フォール!』
なるほど? 点在する島をロープで繋いだステージ。落下すれば、遥か下方に見えるネットにかかるけど、一応戻っては来れると。
「ま、私には関係ないけどね! リターン!」
二本の刃を収納して、ロープを走り抜ける。バランス感覚を鍛えるのに行った訓練で、平均台から派生し、スラックラインをやっていたから余裕。そもそも私は身軽さが売りなので、軽技が生きる場面にめっぽう強い。これだってパルクールみたいなものだ。
ということで、軽々と第二関門をクリアして行く。
『こいつはシビー! 緑谷ひびきには、簡単すぎたかあ!? 一度も止まることなく駆け抜けて行くぅ! 轟焦凍も爆豪勝己も遅れまいとついて行くぞ!』
『まあ、元々身軽さに定評のある緑谷姉だ。多少の邪魔があっても、あの通り軽くあしらえるだけの身体能力を持っているから、余裕だろう。轟と爆豪は、個性を上手く活かしてるな』
うーん、相澤先生からの信頼が厚い。USJでの一件だけが理由ではなさそうだけど。
「二人とも流石だね」
「あったり前だわ、クソボケが!」
「……」
相変わらず、爆豪くんは元気が有り余ってるね。轟くんは、前を見据えて黙すと。
『第三関門は、地雷原だ!』
地雷、ね。丁度いいブーストアイテムになりそうだ、どう思う?
私は、そんなことを考えつつ、二人と競うようにして、観客が盛り上がるように先頭争いを続けた。
Side 出久
なんとかここまで上がってきた。これも姉さんと八木先生が鍛えてくれた身体があってのこと。
「地雷原か。姉さん達はあんな前に!」
僕は必死に考える。なにかこの状況を覆す、起死回生の一手を打たなければ、勝利はない。
姉さんは、僕がNo.1ヒーローになれるって、昔から信じてくれた。サイドキックになって、僕を守りたいって言ってくれた。そんな姉さんは、あんなに強くて、僕の前にいる。
「僕は証明するんだ、姉さんの言葉を。そのためにも勝ちたい!
とにかく考えろ! 地雷源、地雷、地雷? そうだ!」
僕は地雷原を観察する。よく見れば、地雷の在処がわかるようになってるじゃないか!
すぐに地雷を慎重に掘り出して、数を揃えて行く。追いついてきた人達には、怪訝な目で見られたけど、これは必要経費だって割り切った。
「よし、これだけあれば!」
姉さんを見てきたからわかる。
姉さんは、僕が追いつくと信じて、この方法を取らなかったんだ。サポートアイテムを使いこなす姉さんが、地雷の活用法に気づかない訳がないんだから。
Side 私
出久は、理論派だ。
ヒーローノートもそうだけど、よく見て聞いて、観察して、考察してと、最終的に理解することで情報を活かす方法を考えつく。なら、この状況に、爆豪くんの個性の使い方と動き、ここに存在する
後方で響く、一際大きい爆発音。まるで複数同時に爆破したような、それこそが証明。
「大・爆・速! ターボ!!」
直後聞こえてきたのは、やっぱり出久の声で。
「来たね、出久!」
じゃあ、お姉ちゃんも行くよ! 二人でワンツーフィニッシュって。
「二段加速!?」
直後、慌てて速度を増したけど……。
『さぁさぁさぁさぁ! 序盤の展開から、この結果を予想できたヤツがいたかぁ!?
今1番に! スタジアムに帰ってきたのは、この男!! 緑谷出久!
そして! 最下位からここまで来た僅差の二位! 緑谷ひびき!
なんとなんと! 雄英高校史上初の! 双子の姉弟によるワンツーフィニッシュだー!!』
私は早いし、体力だって出久を大きく上回ってる。けど、いつまでも最高速が出せる訳じゃない。戦闘時の速度と、持久走的速度には差が出るものだ。
加えて、今後を考えれば
ともかく今は、心から出久の勝利と成長を祝おう! 予想以上の結果を齎した健闘を讃えよう!
「おめでとう、出久! 学校始まって以来の双子によるワンツーフィニッシュだって!」
「ありがとう、姉さん。姉さん達が鍛えてくれたおかげだよ」
うーん、いつまで経っても出久は可愛いなあ!
「そう? まあ、いいじゃない。今は、素直に賞賛されときなよ。きっと母さん達も喜んでくれてるよ?」
そういった私に向けられたのは、最高に輝く笑顔。
うん、観客も盛り上がったし、魅せることもできて、出久の笑顔も見れた。
情報の追加と確認も取れたし、この競技で狙った結果は、順位も含めて上々。じゃあ、次に備えますか。
「出久、手早く状況を確認して、次に備えるよ。怪我があれば、リカバリーガール先生のところ、わかってるよね?」
「うん、いつでも何があっても対応できるように、常に備える常在戦場の心得。やむを得ずトラブルを抱えたなら、早期解消に動け、その時が来て後悔しないように、だよね」
その言葉に頷くと、出久は早速行動に移す。八木先生も交えた修練の成果や、その時に与えた薫陶が生きているようで、私は少しだけ安堵した。
「じゃあ、私もしっかり休憩して備えるとしますか!」
芝生に座った私は、メンテナンスのための柔軟を行いながら、次の競技に備えつつ、休憩に入ったのだった。
高評価・温かい感想ありがとうございます。
そのおかげと、たまたま時間が取れたのもあって書けました。
●オリ主
正々堂々と、一切妨害せず、それでいて魅せプした。
障害物競走は、パルクールみたいなものなので余裕だった。
●原作主人公
結果は同じだが、思考に差が出たのと、身体能力向上により状態は良い。相変わらず、無茶はする。
ちなみに個性を名付けるなら、半冷半燃に倣って、火吹牽引(かすいけんいん)あたりかと主は思っていたり。
●轟アンド爆豪
順位を除けば、基本的には原作通り。そこにオリ主への対抗心が加わった。
●プレゼントマイク
おもしれーのがいると、オリ主に目をつけた。
雄英高校史上初の双子によるワンツーフィニッシュに驚く。
そもそも双子でヒーローになった人間が日本にいないし、同時に在籍したことすらないともいえるが。
●相澤
やると思った奴がやったのはいいが、予想外の奴が上がってきて、原作同様驚いた。
◼️原作乖離・フラグ要素
オリ主 二位になった・めっちゃ盛り上げた
轟 三位に降格
爆豪 四位に降格
◯ネタ
そろそろ混ぜろよ 麻雀漫画「咲」に登場する風越女子高校の池田華菜が、
長野県大会決勝戦で役満を上がった際に発したセリフ。