主人公の個性奪っちゃったみたいだから返すね   作:しおんの書棚

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二次日間最高3位、週間11位、ご愛読ありがとうございます。


雄英体育祭の第三種目:ガチバトルの前にね

Side 私

 

出久を生贄に戦略的撤退をきめた私だけど、爆豪くんからは見えない位置で、休憩しつつ待っていた。そして、待ち人来たる。

 

「ごめんね、爆豪くん押し付けちゃって」

 

「気にしないでよ、姉さん」

 

そう、あの別れは演技。ああでもしないと、私も出久も爆豪くんに絡まれ続けるから、仕方なくね。

 

「ありがとね。じゃあ、昼食にしようか」

 

「うん、どこで食べよう?」

 

基本的に、我が家のお弁当は私が作っている。といっても、父さんは長期出張中だし、母さんは自宅にいるから、今は自分と出久の分だけだ。今日はある意味で運動会だから、定番である重箱のお弁当持参というわけ。

 

「ここにいたか」

 

不意に聞こえた声。振り向けば、そこにいたのは轟くん。

 

「二人とも、ちょっと付き合ってくれ」

 

そういった轟くんの目には、覚悟が見えるような気がした。

 

 

 

Side 轟

 

今日までの二人を思い返せば、圧倒的な身体能力に加えて様々な技能を駆使する姉と、一般水準を超えた身体能力と個性を活かす弟。

 

そして、この姉弟は、明らかにオールマイトに目をかけられている。客観的に見ても強個性の俺や爆豪ではなく、なぜこの二人が。まあ、俺がどう思おうと現実は変わらないんだがな。

 

それなら、クソ親父をお母さんの個性で超えることで見返し、No.1ヒーローのオールマイトに、俺の方が相応しいと認めさせるためにも勝って証明する。そのためには、認めることはしっかり認める必要があるだろう。

 

「俺は……。今のところ、一度もお前達に……、勝ててねえ」

 

「……僕は、そう思ってないよ。障害物競走は、工夫はしたけど運が味方したって思うし、騎馬戦で鉢巻を取られてるから」

 

「いや、出久。轟くんは、そういう意味で言ってない。そうだよね?」

 

緑谷姉は、俺の内心を……。完全には、さすがに無理だろうが、な。そう思いながら頷くと、話を続ける。

 

「知ってるかも知れないが……。俺の親父は、ずっとNo.2のフレイムヒーロー、エンデヴァーだ。

 で、個性婚って知ってるか?」

 

二人が頷きで答えた。なら、話は早い。

 

「親父は、オールマイトをテメェで超えられねぇから、母親の持つ氷の個性に目をつけやがった。そして、どんな経緯があったか知らねえが、二人は結婚した。まあ、親父が汚ねえ手を使ったと俺は思ってる。

 そうして生まれたのが、狙い通りの個性を宿した俺。親父が育てた俺が、オールマイトを超えることで、テメェの欲求を満たそうってわけだ」

 

二人は何も言わず、俺の話を聞いている。

 

「記憶に残るお母さんは……、いつも泣いていた。親父と同じ赤髪。俺の左側が醜いって、煮湯を浴びせたんだぜ?」

 

沈痛な表情、それはお母さんに対してか、それとも……。

 

「俺は、そんなクズの道具には! クソ親父の思い通りには、絶対にならねえ!

 だから、お母さんの個性が宿る右側だけで。クソ親父の力が宿る左側は使わないで上り詰めて、あのクズを完全否定する!」

 

息が荒くなる。クソ親父のことを考えるだけで、こんなにも腹が立つ。

そんな俺に何をいうでもなく、二人は黙って、聞き続けてくれていた。こんなの家庭の事情で、個人感情丸出しな、決して気分のいい話じゃないのにな。

 

緑谷姉の手に、ふと視線が吸い寄せられる。ああ、いまさらだが、二人で弁当を食べるところだったのか。それは悪いことをした。俺だって、お母さんや冬姉の弁当なら……。とにかく、さっさと終わらせたほうがいいな。

 

「お前ら二人は、実力以上にオールマイトに目をかけられてると、俺は思ってる。

 お前らが、オールマイトにとって、どんな存在なのか詮索するつもりはないし、そんなお前らを目の敵にしていることも否定しねえ。

 けど、覚えておいてくれ。不愉快かもしれねえが、俺は、そんなお前らを必ず超えていくぞ」

 

ずっと沈痛な表情を浮かべていた緑谷姉が、この話が始まって初めて口を開いた。

 

「嫌なら無理に答えなくていいんだけど……。今、お母さんと話したりは?」

 

「精神を病んで、病院に入院してる。俺は、もうずっと会ってないな」

 

二人の表情が、目に見えて曇る。そうだよな、普通はそうなんだよ、クソ親父!

そして、意を決したように、緑谷姉は話し始めた。

 

「うちはさ、家族仲が良い方だと思う。

 個性的には、轟くん家の個性婚に結果的とはいえよく似てるけど、なにかを強制されたことは一度もないよ。

 だからさ、お母さんの個性だけを使って、父親であるエンデヴァーを超えて、見返したいっていう轟くんの想い。それを経験していない私には、安易に否定できない」

 

まあ、そうだろうな。逆に知ったように言われても、ムカつくだけだ。

 

「ただし、ライバルとしては、認め難いかな。

 そして、ヒーローとしては……」

 

なんだ? なぜそこで言葉を切った? そう思った瞬間、発せられたのは。

 

「どんな理由であろうとも、絶対に認められないよ。

 そんな人間は、ヒーローたり得ないし、轟くんのいうエンデヴァー以上のクズだって、誰もが思うと断言するね」

 

「うん、僕も姉さんと同意見だよ、轟くん」

 

「なに?」

 

ライバルは、まだわかる。全力で競ってないってのは、俺自身に置き換えても、確かに納得できないかもしれねえ。特に、それで負けたなら。

だが、ヒーローとしてと言われれば、俺の望みを全否定されたようなもんだ。

 

「理由をいえよ!」

 

「当たり前じゃないか。

 轟くんは、炎の個性を使わない。それは、炎の個性を使えば救える命を、絶対に見捨てるってことだよ?

 それに、そんな場面に遭遇して、仮に使ったとするよ? でも、鍛えてれば救えた命を、鍛えてなかったせいで取り零す可能性だってあるんだ」

 

「そういうことだよ、轟くん。

 エンデヴァーを見返すのと、炎の個性を使わないのは、イコールじゃないと、私は思うよ。

 それにさ、私達に喧嘩を売った時点で、もう勝ったつもりなの?」

 

まだ気持ちの整理はついてない。怒りだって収まってなかった。だから、その言葉に睨み返そうとして。

 

「安心しなよ、轟焦凍。君は、全力を出さざるを得ない。だって、それでも()()()()()んだから」

 

「僕だって、今までずっと誰かに助けられてきたんだ。だから、今度は僕の番だ。轟くんに、()()()()()()よ」

 

その目に宿る強い意志に、気圧される。なんなんだよ、お前達は。そんな視線に耐えられなくなった俺は、何も言わずに振り向くと、その場を去った。

 

「……それでも!」

 

人気にない道を歩きながら、俺は吠える。

 

燻り続ける怒りに背中を押された俺は、氷の個性だけで戦うという強い意志を、この時、変える気にはなれなかったんだ。

 

 

Side 出久

 

轟くんとの話が終わって、口数少なく移動した僕達は、昼食の準備を始めた。

 

「出久。轟家について、轟くんの言葉だけで判断しちゃダメだよ。

 お母さんとは、いつからかわからないけど、話していない。エンデヴァーとは拗れてるから、まともな話し合いにならないし、何を言われても決して素直に受け取れない。

 轟くん自身もそうだけど、私達にはわからないことが、彼以上にあまりにも多すぎるからね」

 

「うん。僕達にできるのは、轟くんが、自分自身を取り戻す手伝いだけだ」

 

そういうと、姉さんは嬉しそうな笑顔で、大きく頷いてくれる。

 

「まあ、難しく考える必要はないよ。私達が勝つから、そんな拘りは、今日でおしまい。

 さ、今は美味しく食べてさ、午後からに備えよう! 今日はね、卵焼きと唐揚げが上出来でさ」

 

「そうだね、今日も美味しそうだよ!」

 

今はただ、美味しいお弁当を、姉さんに感謝して食べよう。午後に待つ個人戦への英気を養いながら、僕はそう思ったんだ。

 

 

Side 私

 

昼食も終わりが近づいた頃。

 

「いたいた! ひびきちゃん、急いで!」

 

「え? なにを急ぐの?」

 

慌てた様子で走ってくるのは、クラスメイトの女子一同。

 

「えっとね、上鳴くんと峰田くんから聞いたんだけど、女子はみんなチアガールの格好で、応援合戦するんだって」

 

「相澤先生からの伝言だと、仰っていましたわ」

 

まったく聞き覚えがない話だし、そもそも服がない。

 

「コスチュームは、学校が準備してくれたの?」

 

「いえ。わたくしが、個性で準備しましたわ」

 

おかしくない? ちょっと聞いてみようか。私は、徐にスマホを取り出すと、コール。

 

『もしもし、八木です。緑谷少女、珍しいね』

 

「忙しいところ申し訳ありませんが、こんな話を知ってますか? 側にいれば、相澤先生にも確認していただければと」

 

そこから経緯を説明して、八木先生経由で相澤先生にも確認すること、しばし。

 

『電話を代わった相澤だ。俺は、そんな伝言を頼んでいない。そもそも午後からの競技を考えても、合理的じゃない』

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

『ああ、二人には後で罰を与える。お前らは、午後からに備えろ』

 

相澤先生の言葉を最後に、電話は切れたわけだけど。

 

「結論から言うと、嘘だったね。相澤先生に確認済みだよ」

 

「そんな! またしても、わたくしは……」

 

崩れ落ちる百ちゃんと、ブーブー文句をいうみんな。うーん、ちょっとコレは、流石にいただけないなぁ。

 

上鳴くんだけだったら、ガチバトルの番外戦術による疲弊狙いって線も考えられた。百ちゃんの脂質を減らせば、個性による創造容量も減るから、それで少しでも優位に立つとか、ガチバトル出場女子の体力を少しでも奪うとか、ね?

 

でも、峰田くんも一緒だと、そうは考えにくい。これは、お調子者の上鳴くんと、エロに忠実な峰田くんが組んで、ただ欲望に走った結果としか、私には思えなかった。

 

「とりあえず、良かったら少し食べてよ。ちょっと作りすぎちゃったし。ね、出久」

 

そう言って、出久に視線を向ければ、以心伝心。

 

「姉さん、張り切ったよね。いくら僕でも食べきれないよ」

 

「ほら、百ちゃん、お口開けて」

 

そう言って、唐揚げを放り込めば。

 

「ちょっ!? お、美味しいですわ!」

 

「え、いいの? じゃあ、遠慮なく」

 

そうして、ガチバトルに出れない女子が意図に気づいて勢いをつけ、出る女子の遠慮を無くし、さっきまでのトラブルを忘れさせる手伝いをしてくれた。

 

本当に素晴らしい同級生に恵まれたよね。

まあ、出久は、女子に囲まれてワタワタしてたけど、それもまたいい思い出になるよね、きっと。

 

それはそれとして、だ。

 

私は第三試合で、対戦相手は、上鳴電気くん。ちょっとお姉ちゃんは、お怒りです。

 

「覚悟してね? ふふふっ」

 

小声での呟きは、喧騒に紛れて、宙に消える。

 

会話に加わりながらも、明るい声が聞こえる中、試合に向けて柔軟を始めた私だった。




諸般の事情で仕事を休んでいるのと、モチベーションのお陰でなんとか書けました。
出社したら、なかなか書けないと思います。

●オリ主
轟家の事情と、本人の目的を聞かされた。
手段と目的について、分けて考えるように諭してみるも、すぐに解消するとは微塵も思っていない。
キミが! わかるまで! 殴るのをやめない! くらいの気持ちはあるし、出久と一緒なら心を溶かせると思ってる。

上鳴と峰田の企みを粉砕し、上鳴は試合で、峰田は後程制裁する予定。
百や三奈、お茶子をケアして、欲望による上鳴優位だけは、絶対に許さない所存。

●原作主人公
轟家の事情と、本人の目的を聞かされた件は、姉に完全同意。
上鳴・峰田の件は、姉に巻き込まれて、ワタワタした。
お弁当は相変わらず美味しい。

●轟
緑谷姉弟に、事情を話し、宣戦布告した。
一理あると思いつつも、過去の柵からは逃れられなかった。

●1-A女子達
恥は晒さずに済んだし、お弁当は超美味かった。

◼️原作乖離・フラグ要素
オリ主 轟と姉弟で話した・チアガールの件を阻止
出久  轟と姉弟で話した・姉と昼食
轟   姉弟で話したが一部否定された
上鳴  事前にバレた・罰の予定あり
峰田  事前にバレた・罰の予定あり
相澤  嘘を知った
八木  巻き込まれた
1A女子 チアガール無し・お弁当GET・疲弊回復
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