インフィールド   作:キュリオシティ

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夏の始まりは青春の終わり

「七番、セカンド、平石君」

 

ウグイス嬢の澄んだ声が、球場いっぱいに響き渡った。

高校野球夏季東京予選大会準決勝。観月雄大の所属する東都学院高校と帝成高校の一戦は、一対三と帝成がリードしたまま、ついに最終回ツーアウトを迎えていた。

 

東都学院のベンチには、すでに涙を流している選手もいれば、体を前のめりにして必死に声援を送る選手の姿もある。その中で雄大は、ベンチの最前列に腰を下ろし、ただ静かにグラウンドを見つめていた。

 

一球目は高めに大きく外れ、ボール。

二球目、外角低めの変化球に平石のバットが空を切る。カウントはワンボール、ワンストライク。

 

そして三球目。

 

ゴーン——。

 

鈍い金属音とともに、力のない打球がふわりと宙に舞い上がった。セカンドの選手が声をかけながら落下地点へと入り、難なくその打球を処理する。

 

その瞬間、雄大は視線を落とした。

もう一度スコアボードを見上げ、そこに表示された数字を見て、敗北を改めて噛みしめる。

 

——終わった。

俺たちの高校野球が、終わってしまった。

 

一年前の夏頃から、自分たちの代になって以降、練習中に何度も想像してきた光景だった。だが、いざ現実としてその瞬間を迎えると、全身から力が抜け落ちるような、不思議な感覚に包まれた。

 

「ゲーム!」

 

主審の声がグラウンドに響くと同時に、スタンドから割れんばかりの拍手が湧き起こった。

 

試合後、スタジアムを出ると、父兄や吹奏楽部、チアリーディング部、さらには他部活の生徒たちが待ち構えており、再び大きな拍手で迎えられた。主将の猶原拓巳を先頭に、挨拶が始まる。

 

「本日は、応援本当にありがとうございました。最後はベスト4という結果に終わり、目標だった甲子園出場には届きませんでしたが、自分たちの夢は後輩たちに託したいと思います。そして、この二年半で得た経験を活かして、次のステージでもそれぞれ頑張っていきます」

 

涙を浮かべながら、拓巳はそう言い切った。

最後に全員で深く頭を下げ、挨拶を終える。

 

帰りのバスに乗り込み、あたりを見渡すと、先ほどまで泣いていたチームメイトたちの表情は、どこかやり切ったものへと変わっていた。

 

家に帰ると、雄大はYouTubeにすでにアップされていた今日の試合のハイライトを再生した。今大会、雄大は全試合で四番を任され、打率、打点ともにチームトップの成績を残していた。

 

それでも、胸の奥に残るモヤモヤは消えない。

 

——やっぱり、不完全燃焼だ。

このままじゃ、終われない。

 

そう心に決めた瞬間、雄大の足は自然とリビングにいる両親のもとへ向かっていた。

 

「父さん、母さん。俺、このままじゃ野球終われない」

 

覚悟をにじませた表情で、そう言い放つ。

両親は一度顔を見合わせ、少し間を置いてから言った。

 

「なんとなく、そう言い出すんじゃないかと思ってたよ」

 

はにかむようなその言葉に、雄大の胸は一気に熱くなる。

 

「見ててよ! 大学ではもっとすごい選手になって、日本一になるから!」

 

そう言って、雄大は笑い返した。

 

一晩明けた翌朝。

雄大は昨日決めたことを伝えるため、監督にメッセージを送った。

 

『観月雄大です。進路のことについて、監督とお話ししたいことがあります。お時間をいただけないでしょうか』

 

送信する前に何度も文面を確認し、雄大はようやく送信ボタンを押した。

 

雄大が所属していた野球部の監督は、東京でも有名な強豪大学でレギュラーとして活躍していた人物だ。大学野球について相談するには、これ以上ない相手だった。

 

ただ、この日は祝日だったため、なかなか返信は来ない。

監督からの返事が届いたのは、時刻が19時を回った頃だった。

 

さらに十数分後、雄大は通知に気づき、スマホを開く。

 

「わかった。なら、御両親とも話しておいたほうがいい。来校できそうな日時を聞いておいて」

 

その内容を確認し、雄大は少ししてから、

 

『承知しました』

 

とだけ返信した。

 

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