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1話
リディアン音楽院に春がやってきた。
生徒にとっては、何もかもが新しくなる季節だ。
「皆さん、席に着いてください。」
リディアン音楽院のある教室で、担任の教師が生徒に着席するように促す。
「この度、リディアンに新しく編入してきた転校生を紹介します。」
教師からの転入生の知らせに、教室はざわめいた。
「未来!どんな子なのかな!?」
「仲良くできるといいね。響。」
リディアンに通う二人の生徒。立花響と小日向未来は、転入生のことで、興味が熱くなっていた。
「はい!静粛に!じゃあ、紹介しますね。入ってきてください。」
教室の生徒たちが、一様に、入り口を見る。
そこから、一人のリディアンの制服ではない服を着た女子が入ってくる。
その子は、褐色の肌にウルフカットの髪型、そして、一段と目を引く頬の大きな傷があった。
「じゃあ自己紹介を、お願い。」
「はい。皆さん初めまして、田中真理といいます。よろしくお願いします。」
「はい!みなさん拍手!」
教室中に、拍手の音が鳴り響いた。
「じゃあ田中さん。奥の立花さんの隣に座ってください。」
「はい。」
田中真理は、指定された席へと歩みを進める。
そして、立花響の前に来ると、一度お辞儀をした。
「よろしくね!真理さん!」
「よろしくお願いします。立花さん。」
「も〜〜〜堅いよ〜〜〜真理さんだって、私と同い年なんだし、気軽に響って呼んで!」
「は、はい・・・よろしく、響さん・・・」
田中真理は、立花響の明るい勢いに押され、少し困ったような表情で応えた。
「響。初対面の人にがっつきすぎだよ・・・」
「アハハ・・・それでも、とにかくよろしくね!真理さん!」
「ゴホン!親睦を深めるのは、授業の後にお願いします。立花さん。」
担任教師が、立花響を注意する。
教師の注意に、立花響は謝罪の一礼をした。
田中真理は、立花響の隣に座り、カバンから教科書と筆記用具を取り出す。
そして、田中真理にとっての、リディアンでの初めての授業が始まった。
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1日の全ての授業が終わり、放課後の時間となった夕方。
カバンを下げた立花響は、田中真理を探していた。
「あれ〜〜?どこに行ったのかなぁ真理さん。」
「ホームルームが終わってからは、確実に隣にいたのにね。」
「そうだよ未来〜〜。真理さん一瞬で消えちゃうんだもん!真理さんて、忍者の末裔かなにかかなぁ〜〜」
「忍者の末裔かどうかじゃなくて、響は少し真理さんの距離感を考えたほうがいいんじゃない?最初からあんなにひっつこうとしたら誰だって困っちゃうよ?」
「そんなものかなぁ〜〜〜」
「そんなものだよ。どうするの?まだ探す?」
「ごめん未来。もうちょっとだけ探してもいいかな?」
「いいよ。響のことだからそう言うと思ってた。」
「ありがとう未来〜〜!」
2人は、田中真理の姿を再び探すため、学校中を探索し始めた。
教室、職員室、家庭科室、学校中のありとあらゆるところを探した。
そうやって田中真理を、探し始めて、3時間近くが経とうとしていた。
「これだけ探してもいないんじゃ、真理さんはもう寮に帰ってるんじゃない?」
「そうなのかな〜〜?私の勘が、次はこっちだって言ってるんだけど・・・」
「はあ・・・もう帰ろうよ、響。また明日になったら会えるよ。」
「う〜ん、それもそうかぁ・・・。わかった。今日は、帰ろう未来。」
立花響が、田中真理の捜索を諦めようとしていた時だった。
「これは・・・歌?」
どこからともなく、歌声が聞こえてくる。
今いる棟のとなりの棟から聞こえる。
微かだが、ギターの音色も聞こえている。
「この声、真理さんだ!やっと見つけた!」
立花響は、歌声に導かれるように走り出した。
「響!もう〜~・・・」
小日向未来は、立花響に呆れながらも、その後を追った。
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私は、歌うことが、なによりの生きがいだ。
誰にも邪魔されず、ただ一人、歌いたい歌を歌う。
それが何よりの幸福だった。
今日までは・・・
「ふぅ・・・」
私は歌い終わると、一息つき、ギターを置いて、誰もいない第二音楽室の椅子に座る。
今日はなんだか疲れている。
太陽のような女の子に追いかけ回され、私の時間が、奪われているような気がした。
だけど、不思議と嫌いにはなれない子だった。
その理由がいったい何なのかは、わからないが。
「・・・・・・帰るか。」
私はギターを持ち、そっと椅子から腰を上げようとした。
「歌!とっても上手だね!真理さん!」
音楽室の外から声がした。
立花響だ。
「っ・・・見ら、れた・・・聞か、れた・・」
私の鼓動は高鳴り、冷や汗が体を冷やす。
私は、持っているギターを素早くケースにしまうと、その場から離れようとした。
「ま、待ってよ!」
立花響は、私の手を握ろうとしてくる。
「っ・・・!や、やめて・・・!」
私は、手を払いのけるようにし、音楽室の窓から飛び降りた。
「えええ!?」
私の背後からは、立花響の驚愕した声だけが、響いていた。
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