この国の学校に通ういつもの朝になりつつあったある日。
私は、いつものように、リディアン音楽院へと続く道を歩いていた。
天気は良好、空気もおいしい。こんな日は、絶好の歌日和だ。
だが、
「少し疲れてるかもな・・・私。」
私は昨日、ある大きな火事の現場に鉢合わせた。
近くの消防士が、建物に数名、民間人が取り残されていると聞いてしまった時、私の体は、勝手に動いていた。
そして、使ってしまった、〈力〉を。
「・・・・・・・・」
うつむきながら、私は登校する。
その時だった。
「おはよう!真理さん!」
後ろから、最近になって聞き覚えのありすぎる声がする。
「っ・・・!」
私は、早歩きで、その場を離れようとする。
「真理さん!待って!」
聞き覚えのある声の主は、私の手を強く握ってくる。
「やめて・・・離して・・・!」
私はその手を振りほどこうとする。
しかし、振りほどけば振りほどこうとすると、その力は強くなっていく。
「ごめんね、真理さん。今日は、離したくないんだ。」
手を握っている太陽の化身、立花響は、少しだけ、握る手を緩めた。
「・・・・!」
彼女は、手を握りながら無理に引っ張ろうとしなかった。
私の意志を汲み取ろうとしてくれていたのだ。
「響さん・・・」
それに、彼女の手は、とても温かかった。
まるで、心の氷を、解きほぐしてくれるみたいに。
「真理さん、お話したいことがあるんだ。お昼にでもどうかな?」
「・・・実はね、私も話したいんだ、あなたと。」
私は、立花響が嫌いなわけではない。
立花響と一緒にいる小日向未来、安藤創世、板場弓美、寺島詩織。
彼女たちが、立花響と一緒にいるとき、その場は、とても温かくて楽しい雰囲気になっていた。
私は、彼女たちと距離を置きながらも、心の何処かで、そっちに行きたいと思っていた。
「っ!真理さん!」
私は誘いを了承した。その瞬間、立花響の顔は、パッと笑顔に変わった。
私は、お昼に、立花響たちと出会う約束をし、その場を後にした。
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リディアン音楽院での昼休憩。
私は、立花響に場所を指定し、待ち合わせることになった。
待ち合わせの場所に来たのは、立花響本人と、小日向未来、そして、銀髪の少女、名前はたしか、一つ上の学年にいる、雪音クリス先輩だ。
彼女たちは、私のところまで来ると、お弁当を広げ、話し合いの席を設けた。
「ごめんね。こんな薄暗いところを選んで・・・」
「ううん!気にしてないよ!」
「ここは涼しくて気持ちいいから、私も来たかったんだ。」
「まぁ、ここなら、バカの頭も冷えるだろうからな。」
「ちょっとクリスちゃん!言い過ぎだよ!」
「ふふ・・・」
私はすこし、立花響と雪音クリスのやり取りを微笑ましく思った。
「あ、やっと笑ったね。真理さん。」
「ホントだよ!未来!やったね!」
私の笑顔を見た二人は、優しく、微笑んだ。
「じゃあ真理さん!話したいことがあるなら、どんどん話してみて!なんでも聞くよ!」
立花響は、私を中心に、話をすることを勧めた。
「そうだね・・・これは、あなたたちが、聞きたいことにも重なるかもだけど、昨日のことを話したいかな、なんて・・・」
「っ・・・!気づいてやがったのか・・・!」
「ただの勘だよ。雪音先輩。昨日の私の行動には、誰かが気づくはず・・・それは、国の機関だったりの監視体制からでもわかることだよ。」
都内にある無数の監視カメラと、エネルギーの検知器。
私の昨日の行動を鑑みれば、気づかれるのも無理もないことだとわかっていた。
そして、次の日になって、私を必死で引き留めようとする人間がいれば、それは、国に関係しているといっても過言ではないと思っていた。
「昨日の人は、やっぱり真理さんで間違いないんだね。」
「うん。そうだね・・・」
「響から聞いてるよ。昨日、とってもかっこよくてミステリアスな人を見たって。それが、真理さんのことだとは思いもしなかったけど。」
「正直、アタシは、今でも昨日の現象が信じられねぇ。いったいどうやったんだ?」
「そうだね・・・今は、私は特異な能力を持っているとしか話したくないかな・・・私はね、自分の力を誰かに役立てたいだけなんだ。人助け、とかね。」
私の〈力〉は、とても危ないモノだ。
それは、私が身にしみてわかっているつもりだ。
「真理さんも、助けを求めている人を放っておけないんだね。響と一緒だよ。」
「響さんと?」
「ああ。こいつはな、超がつくほどのお人好しだ。殺しに来た敵もドン引きするくらいのな。」
「そうなんだ・・・」
立花響が、優しい性格なのだとは気づいていた。
だが、二人が言うには、彼女は、自分が思っている以上に、優しすぎる性格のようだ。
「私はね、人助けが趣味なんだ!だから、同じ志を持っている人に出会えて嬉しい!私は、これからも真理さんと仲良くしたいな。」
「響さん・・・」
立花響のまっすぐで誠実な瞳が、私のことを見つめる。
「そうだね・・・私も、響さんと仲良くしたい。もちろん、今日この場にいる小日向さんと、雪音先輩とも・・・ダメ、かな・・・?」
わたしは、恐る恐る三人のことを見つめた。
「真理さん・・・!やったよ未来!またひとり友達ができたー!」
「よかったね響!私も嬉しい!」
「これからよろしくな。真理。まあ、お前のことは、追々で良いから、ゆっくり教えてくれよな。」
「うん・・・ありがとう・・・」
それから、私たちは、昼休憩が終わるギリギリまで話し込んだ。
自分の好きなものを、心ゆくまで話し合った。
その時間は、とてもかけがえのないものだった。
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放課後。
私は、校門を出て、一人寮に向かっていた。
響さん、未来さん、雪音先輩は、別件の用事で、一緒には帰れなかった。
なんでも、響さんの課題が溜まっていて、それが追いついていないんだとか。
あんなに優しい人でも、抜けているところがあるんだと思った。
まあ、響さんぽいって言われれば、そうかもしれない。
私は、そんなことを思いながら、一人、帰路を歩いていた。
そんな時だった。
突然、黒いセダンの車が数台、私の目の前に止まった。
車の中からは、数人のサングラスをした黒服の男たちと、リーダー格であろう、短い茶髪で整った顔立ちの男性が降りてきた。
「田中真理さんですね?」
「そうですが?」
「私は、国の機関の者で、緒川と申します。あなたを連行するため、まかりこしました。」
予想はしていた。
やはり、国の機関が、私の行動に勘づいていた。
「なるほど、やっぱりそうなりますか・・・」
「はい。申し訳ありませんが・・・」
緒川と名乗る男は、申し訳なさそうに、私に同行を求めた。
「いいですよ。貴方がたに従います。」
「ご協力感謝します。すみませんが、規則によってあなたを一時的に拘束します。よろしいですか?」
「かまいません。」
私は、両手を引っ付けて目の前に差し出した。
「失礼します。」
緒川の指示で、黒服の男たちに拘束用の手錠をかけられる。
私は彼らに連れられ車に乗り、そのまま国の重要機関へと移送された。
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