呪術廻戦で万にチート転生   作:VISP

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第十話 三つの試練 一部修正

 2006年 10月某日

 

 禪院家本邸に直哉と万穂は呼び出しを受けていた。

 というのも、万穂が以前直哉に頼んでいた事が原因だった。

 即ち、若手や向上心のある呪具師や構築術式の遣い手の勧誘だった。

 目的はただ一つ、このままでは生涯呪具プリンターで丁寧に使い潰されて終わりかねない万穂の手伝いを少しでも出来る人材の確保である。

 特に今後は需要が尽きる事の無いだろう非活性呪力変換風車型呪具、略称風車呪具の大量生産が必要となっているので、一人でも人手が欲しいのが正直な所だ。

 金に困らないのは良いのだが、製造業で一生を終える気は無いのだ。

 そういう意味でも人手を集めて既存の個々の工房体制から工場制手工業へと発展させる意義は業界全体でも大きい。

 更には熟練工は独立させて新たな呪具職人にするも良し、そのまま給与をUPして雇い続けるも良しだ。

 成功すれば、呪術界としても経済界としても美味しい結果になる。

 そう、この件は総監部からの要望でもあった。

 

 現在、呪術界は今までにない程に表側からの干渉が激しくなっていた。

 

 というのも密かに総監部肝いりで試験していた風車呪具による発電の試験が終了、その結果が呪術界に衝撃を齎した。

 何せ人口が最大でも数千程度の小さな地方都市で発生する呪力をほぼ全て電力に変換した場合、その都市で消費される年間電力消費量の1割程度がたった一日で稼げてしまったのだ。

 テストという事で本数も少なく、改善点もあるだろう状態でだ。

 

 Q、未採掘の金鉱脈が目の前にあります。腐った蜜柑はどうするでしょう?

 A、ヒャァ!我慢できねぇ!採掘だぁッ!!

 

 この瞬間、腐った蜜柑達の古びた脳髄が冴え渡る。

 本業の呪術師としても空気中の呪力を減らして呪霊災害を減らせるのなら万々歳だ。

 更に副業として電力会社を経営する事で懐が温かい所か発火する勢いで儲ける事が出来る。

 しかし、電力市場は基本的に大手による寡占市場であり、腐った蜜柑達が満足する程の大規模な新規参入はこの時代ではまだ極めて困難だ。

 

 であれば、国を味方に付ければ良い。

 

 この時、腐った蜜柑達の脳は冴え渡っていた。

 彼らの権力基盤たる呪術界は昔から時の権力者に雇われる呪術関連専門の外部治安維持組織であり、各呪術名家は御三家を筆頭にマジカル極道とも言える性質が強い。

 その性質上、日本の古くからの有力者とは良い関係()を築いている事から、政府中枢や官僚らにも相応に影響力を持っている。

 特に長年呪術界に巣くっているメロンパンなどはその第一人者と言えるがそれはさておき。

 

 新規参入が難しいなら国に働きかけて法改正してルールを変えれば良い。

 その上で圧倒的発電量から来る低価格でライバルは叩き潰す。

 

 真面目に頑張ってる各電力会社皆殺し作戦が始まった瞬間である。

 だが、各電力会社の経営陣もまた優秀だった。

 水面下で動き出した法改正及び巨大な金の動きをキャッチすると、今後も自分達の縄張りが手出しされないようにと法改正の内容を自分達に有利に変えようと動き出したのだ。

 お金の動きは術師だろうが一般企業だろうが正直で嘘がつけないので、そりゃ分かる奴には分かるのである。

 そして勿論大企業なので現ナマ実弾が幾らでも飛び出す。

 そして総監部からも当然の様に撃ち返す。

 結果、まだ本格量産体制が整ってないのに早くも日本全土を巻き込んでの利権争いのゴングが鳴った。鳴ってしまった。

 経済戦争において、術師も非術師も関係ない。

 仁義もクソもなく、ただ銭闘力こそが物を言うのが市場という名の戦場だ。

 今、腐った蜜柑(呪術界)VS腐った蜜柑(大企業群)の戦いが始まろうとしていた。

 流石にまだ一般人やマスコミにまで漏れてはいなかったものの、呪術界の存在を知る有力者は挙って探りを入れる程度には大事となっていた。

 これを見たメロンパンはゲラゲラ爆笑し、万穂は頭を抱え、九十九は「え、怖」とドン引きした。

 そんな経緯で風車呪具の量産は何としても成功させねばならない最優先事項となってしまったのだ。

 流石腐った蜜柑共、酷い話である。

 

 「何としても粒来特級呪具師は風車呪具の早期量産を行うべし。」

 

 正式な命令が届く程度にはど偉い事になっていた。

 あの、これから大気中の非活性呪力低下の影響とか調べる長期調査とか残ってるんですよ??? 

 後戻りできる段階で調査しっかりすべきですよね?

 え、いいからヤレ?

 もう準備段階で現ナマ多数発射で止まる事は許可しない?

 端的に言って正気ではなかった。

 あんたら取らぬ狸の皮算用って知ってる?

 だがしかし、色々考えてる万穂の思惑にも合致する動きなので、背に腹は代えられぬとデスマーチ覚悟で動き出す事にしたのだった。

 具体的にはその日のうちに近隣の呪霊・呪詛師を全て分解してリソースにした上で自分の呪力も使って1万本もの風車呪具を納入してみせた。

 だがしかし、日本全国に設置するにはもう2桁足らんと言われたので涙目になる万穂だった。

 幸い、総監部の最優先命令という事で加茂家とその系列は協力的で落伍者や構築術式持ちに見習い呪具師などを寄越してくれるとの事だった。

 そのため、残る人材の当ては禪院家となった。

 五条家?いやーキツいっす。

 寧ろ嬉々として工作員入れてくる様子しか見えないので声もかけてません。

 だってあそこ未だに刺客雇って狙ってくるし無駄無駄。

 次期当主の六眼抉って無許可コピーしたから残当?それはそう(納得)

 

 「あー気ぃ重い・・・。」

 「おや、君の実家じゃないか。悪い噂しか聞かないが。」

 「あそこはなぁ・・・呪術師育成するんは良えんやけどそれ以外良い所がなぁ・・・。」

 

 直哉の足取りは重い。

 トン単位あるんじゃないかって位は重い。

 そりゃーそうである。

 業界でも随一のドブカスの巣窟、それが禪院家である。

 そうでない者も僅かながらいるにはいるが、そいつらだって結構影響受けてたりするので世間一般からすれば立派なドブカス予備軍である。

 そんな連中の舵取りと跡取り息子の教育と呪術師としての業務の三重苦で当主である直毘人の飲酒量は増える一方であった。

 しかし、最近では大分直哉の行状がマシになったので少しだけ減ってたりする。

 本邸へ入るとザクザク無遠慮な視線が突き刺さるが直哉が睨むとすごすごと退散していく。

 使用人の案内で通された応接室には豪放磊落に見えて海千山千の呪術界を泳ぎ切るだけの老獪さを兼ね備えた禪院家当主が待っていた。

 

 「お初にお目に掛かります。粒来万穂と申します。」

 「禪院直毘人だ。何でも呪具関連の人手が足りんらしいな。」

 「えぇ、総監部からの命ですが私共の細腕ではとてもとても。故に是非ともお力添えを頂きたく参じた次第です。」

 「ふん、どうせ面倒なだけだろう。が、こちらとしても利権に噛めるなら悪い話ではない。呪霊を祓えん者でよければ人は出してやろう。所でだな」

 

 万穂は嘗ては人を挟んでとはいえ宮仕えだったため、こういう事も卒なくこなせる。

 別に直毘人としては優先度は低かったが、禪院家としては莫大な利権に絡める事は重要だし、非戦闘員の家以外での働き口確保としても意義は大きい。

 何より、現代最強の特級に確定で貸しを作れるのが大きい。

 その上、もう一つ欲しいものが直毘人にはあった。

 

 「直哉の嫁に来んか?お前なら誰も文句は言えまいよ。」

 

 ぶぼ、と直哉が吹き、万穂が???と疑問符を飛ばした。

 

 「ご当主殿はこう言ってるが直哉、君って「男を立てて三歩後ろを歩く女」が好みじゃなかったっけ?」

 「あの当時の事は忘れてくれへんか・・・。」

 

 直哉は羞恥と後悔の余り顔を両手で覆って倒れてしまった。

 こんにちは黒歴史!フ○ッキュー黒歴史!

 懐かしいね論外の男だった頃の自分!過去に戻ったらブチコロ確定ですよ!

 直毘人はそんな若人のやり取りにゲラゲラ笑っていた。

 人の性癖なんて幾らでも捻じ曲がるものであり、同時に本当の性癖を知ってか知らずか秘密にするのはよくあるけど、ここまでブーメランも珍しいな、と。

 呪力や術式関係なく強さこそを尊び、甚爾を信仰までして家中に敵ばかりの直哉に頭を悩ませてきたが故、直毘人は跡取り息子が漸く心から安らげる相手を見つけた事に嬉しくなった。

 

 「今夜は泊まっていけ。部屋を用意しておく。」

 「ありがとうございます。」

 

 こうして禪院家にお泊まりになったのだが・・・

 

 「まぁそうなるよねぇ。」

 

 寝込みを襲ってきた刺客をさくっと分解してリソースにする。

 まぁこいつも所詮は下っ端なので余り意味は無いのだが、それでも示威行為にはなる。

 

 「すまんねホンマ。」

 「直哉、もう少し家中の統制はしてくれるかい?私だって面倒事は可能な限り避けたいんだ。」

 

 直哉と万穂が結婚すれば、禪院家の次期当主夫婦として確定する。

 そうなって欲しくない者はごまんといるし、直哉に個人的に恨みを持つ者はその過去の行状からして多いだろう。

 つまり、直哉へのとばっちりで万穂は狙われたのだ。

 

 「ホンマにすまん。後できっちりケジメつけとく。」

 「頼むよ本当に。多少寝なくても生きられるけど、疲労自体は蓄積するんだからね。」

 

 原作五条よろしく脳を一から作り直せばその限りではないが、そんな事したら完全に馬車馬化不可避なので万穂としてもしたくはない手段だった。

 

 「取り敢えずここじゃない寝床とか無い?」

 「それやったら良え所あるで。」

 

 そして案内されたのは直哉の部屋だった。

 繰り返すが、直哉の部屋だった。

 

 「男女七歳にして席を同じゅうせずって知ってるかね???」

 「知っとる知っとる。言うて流石に深夜に布団新しくは出されへんよ?」

 「おらよ。」

 

 そんな時こそ構築術式。

 これ一つであら便利、何時でも何処でも快適な生活が!(なお難易度と消費呪力)

 あっさりと干し立てのお布団をお出しされて、直哉はやっぱりかーと項垂れた。

 

 「うーん残念。ほならオレは隣で寝とるから何かあったら起こしてーな。お休みー。」

 「お休みー。」

 

 そういってあっさりと万穂は布団に入った。

 余りにも無防備だが、二人の実力差を考えるとまぁそうなる。

 

 「なぁ万穂。」

 「んー・・・?」

 

 眠そうな、年相応な少女の声。

 こんなんでも自分とタメのガキなんよなぁ、と直哉は思う。

 その細くしなやかな五体にどれだけの力と負担が掛かってるのか、直哉はこの1年でずっと側で見ていたからよく分かっている。

 余りに強く、鮮烈で、人生を楽しんでいる万穂の姿は甚爾や五条悟と同じアチラ側だという事もあって、直哉の脳を一年かけてジュゥジュゥと焼いてしまった。

 以来、直哉の意識はずっと万穂から離れていない。

 だから、他人から見れば些細な、本人からすれば大きな勇気を振り絞って直哉は声をかけた。 

 

 「嫁入り、考えてくれへん?」

 「条件が三つー。」

 

 意外にも即効で断られる事は無かった。

 その事実にほっとしつつ、続きを待つ。

 

 「1、家継ぐのなら内政手腕。手ぇ抜くと反乱されて後ろから刺されたり毒杯呷る羽目になるからね。」

 「言うてオレ人気ないねん。自業自得やけど。」

 「それならご当主殿に改めて習いなよ。その上で自分でこの家の何処の誰に何が必要か考えてみるといいよ。」

 

 さらっと正解への最短ルートを示されて、直哉は算段を立てていく。

 どうやら結婚願望が無い訳ではないらしい。

 少なくとも相手側から真剣に求められれば吝かではないようだ。

 尤も、それは研究や趣味を邪魔しなければ、と付くだろうが。

 にしても何処の誰に何が必要かと考えると、これは目下の者にも配慮しろという奴だろうか。

 禪院家は基本全員陰キャでコミュ障だしね。

 呪術界全体がそう?まぁはい。

 

 「2、私の趣味や研究の邪魔しない。」

 「まぁ当然やな。」

 

 言うまでも無い事だった。

 万穂の構築術式を用いた呪具の生産や量産だが、元を正せば万穂の術式や呪具の研究開発に端を発する。

 毎週の様にうん十億単位の取引を無造作にしているのを見ると、良い所のボンボンである直哉ですらクラッとしそうになる。

 それを邪魔するとか言うまでもなくトンデモねぇ馬鹿なやらかしである。

 万穂とのワーストコンタクト以来、馬鹿から脱却中の直哉としては絶対邪魔しないと縛っても良い位には当然の話だった。

 

 「3、私をある程度掣肘できる程度の実力を身につける。」

 「んん?元々上目指していくつもりやけど、どういう意味なん?」

 

 直哉としても自らの手でアチラ側への扉を開くつもり満々である。

 モチベーション、才能、環境の全てを持つ今の直哉ならば遠からず至る事は間違いない。

 だが、万穂を相手に掣肘できる実力となると、話は大きく変わってくる。

 

 「私がよく会ってるマッド共がいるじゃない?」

 「あぁ、うん・・・。」

 「私もそうだけど何時呪詛師指定されてもおかしくない程度には倫理観の無い事してるからね。私とアイツらがやらかしたりその場に居合わせた場合、殴ってでも止めたり捕らえたりする人が必要なのさ。」 

 「五条君やったらいかんの?」

 「彼には彼の理想があるからね。頼れるなら頼るけど、何時でも何処でもって訳にはいかないよ。」

 

 直哉はよく3人集まっては倫理観0な話をしているマッド共を思い出して、あれが仮想敵かぁ・・・と内心項垂れた。

 仮想敵が全員特級術師かそれ相当とか無茶が過ぎひん???

 余りの難易度にクリアするなら呪いの王でも連れてこないと無理ちゃうかコレ?とすら思った。

 

 「なので是非とも頑張って強くなってくれ。最大限手伝いはするからさ。んじゃ今度こそお休みー。」

 「ん、お休みー。」

 

 そこまで言って、ふと直哉は思った。

 あれ?そこまで手伝ってくれるって事はもう実質OKじゃないんかコレ?

 その夜、直哉は寝付きが悪くなり、寝不足になってしまったそうな。

 

 

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