2007年初頭 禪院家にて
「で、どうにかならん?」
「天与呪縛と双子の重ね掛けかぁ。」
禪院真希と真依という禪院家宗家で生まれた一卵性の双子の女児。
姉の真希はあの甚爾と同じく天与呪縛のフィジカルギフテッド・・・なのだが、一般人よりも少ない程僅かながら呪力があるためにその真価を発揮できていない。
そして妹の真依は構築術式を持っているものの、呪力も少ないしセンスもそれ程高い訳でもない。
年末年始は呪術師にとって繁忙期(大体常にそう?それはそう)なので、先日のお泊まりから随分と日が空いてしまったが、派遣予定の人材の一人かつ直哉から見てやってほしいという事で今日の面談となった。
「どうにかする方法はあるけど、二人への説明義務と同意の上ならって条件付きだね。」
「真希ちゃん真依ちゃんそれでえぇか?」
「うん」「お、おねがいします」
さて、万穂が予定している二人への施術だが、事前準備は兎も角としてする事は割と簡単である。
1、特級呪具「縁断ち鋏」を用意します。 ※材料は縁結び系産土神
2、縛りで「真希は全ての呪力を真依に渡し、双子の縁を切る」、「真依は真希の呪力を全て受け取り、双子の縁を切る」事に同意する。
3、二人の間の双子の縁を切る。 ※姉妹の縁でない事がミソ
以上である。
この結果生まれるのは呪力0で天与呪縛が真価を発揮する真希、呪力と操作センスがちょっと向上した真依である。
二人と一応同席してる直哉の許可を貰い、さくっと処置していく。
「あ・・・。」
「うおおおおおおおおお!!今ならあのボケ共殴れる!行ってくるわ!!」
「お、お姉ちゃん!?」
身体の奥の奥、とても深い所で何かが切れた感覚を双子は感じた。
その直後、突如として真なるフィジカルゴリラと化した真希は今まで受けた鬱憤を晴らすべく、修練場の方へとかっ飛んでいった。
道中目に付いたあらゆる物をなぎ倒しながらである。
うーんとてもゴリラ。
もう少し色々感慨に耽る位はしてほしかったな・・・と真依は思った。
「では真依君、今後は京都校の近くの工場で勤務になるからよろしく。」
「は、はい。何卒よろしくお願いします。」
真希と違ってゴリラでも鼻っ柱が高くもない真依は現代最強にして最高の構築術師という、自分と同じ術式を持ちながらも遙か遠き憧れの人の微笑みにドギマギしていた。
「とは言え、本格的に就業するのはまだまだ先の話だ。表向きの企業との関係もあるし、学校には行っておいた方が良い。諸々の手続きは高専の方でしてくれるだろうから、先ずはそっちと進路相談になるからね。」
「は、はい!」
「真希君は・・・呪霊退治かな?呪具は私の方で用意しておくから、後で取りに来るよう言っておいてほしい。」
「・・・大分先になりそうですね。」
何か遠くから爆音や轟音、悲鳴に怒声が聞こえてるが、真依は努めて無視した。
「直哉、適当な所で対応よろしくね。」
「あぁもう!世話の焼ける子ぉやな!」
いよいよ破砕音が激しくなっているが、本当に大丈夫なのか心配になる真依だった。
その後、真希は直毘人と直哉にきっちり締められたものの、上機嫌で稽古を願い出るのだった。
与えられた呪具?一先ずは量産型一級各種3個セットからです。
特級はやらかした場合が怖いのでまだ駄目です。
・・・・・・・・・・・・・・・
一方、年明けから謀略を巡らせる腐った蜜柑達は一世一代の大勝負にて順当に勝ち始めていた。
何せ長年呪術界の権力者として君臨してきた爺共である。
謀略に陰謀に悪巧みでは永田町の官僚達に並ぶ、日本でも最上位の連中である。
如何に大企業連合と言えども個々で立ち向かう事は難しく、連携しようにも業績の下の方から切り崩しや吸収で離反していく始末であった。
余りの強引な行動に関係者や協力者達からも苦情が出たが、蜜柑達とその協力者達からすればちゃんと考えがあっての事だった。
史実と違ってこの世界の日本は3億人弱もの人口を持つ、立派な地域覇権国家の一角である。
対岸の大陸に二カ国も覇権大陸国家がいて、そうしないと吸収されてただけという説もあるがそれはさておき。
しかし、狭い島国らしくその莫大な人口を賄うだけの食料生産が追いつかず、エネルギー消費量も凄まじいものがある。
そのため、どうしても食料や発電所の燃料を初めとしたエネルギー資源は毎年莫大な量を輸入していた。
これによる輸出入格差は長年財務省と外務省の頭と胃を痛めてきた問題だった。
経済産業省の資源エネルギー庁が何とか国内の様々な研究機関へと掛け合って長い事研究しているが、未だに抜本的な解決策は見つかっていなかった。
それでも必要な事と割り切ってきたが、輸出入格差から来る貿易摩擦は努力空しく増えるばかり。
遂にはそれを利用して外交面で譲歩を迫ってくる某大国とか、本当に頭にくる事も多かった。
だが、その辺りの事情の結構な割合を解決する新しい発電方法があれば話は色々違ってくる。
呪力発電。
それが日本を救い得るだろう新たな発電方式の名前だった。
呪力という人の負の感情から来る精神エネルギーを電力へと変換する事で、十分な人数さえいれば燃料費0で発電可能という嘘の様な話。
だが、実際にそれをやってのけた天才と、その技術のある程度の量産が可能となった時点で、それは嘘でも夢でもなくなった。
ものを作る技能労働者や事務方、小型発電機を設置・点検・修理する技術者、送電網を設置・維持管理・整備点検する技術者、設備投資こそ相応に莫大な資金と時間が必要だが、それに100倍以上のリターンがあると分かっているのなら何も問題は無い。
繰り返すが、腐った蜜柑とその仲間達は彼らなりに日本の事を考えての行動だった。
そう、決して甘い汁を啜るためだけの行動ではない。
例え本業よりも遙かに純利益がドドドドデカい副業だろうとも、日本を思っての行動なのである!
だからちゃんと政府筋にも相応の見返り()や心付け()を届けて根回しもした!
まぁそれはそれとして甘い汁はジョッキでぐびぐび行くのだが。
なので2007年度から操業開始した風車呪具工場の従業員、特にコア部分を担当する呪具師見習いや構築術師らは給与や福利厚生等で凄い厚遇を受けている。
幸い、風車呪具は極めて簡素かつ簡単な構造をしているため、多少図面と睨めっこすれば直ぐに作れるようになる。
とは言え、元々の人数の少なさから日間生産数は精々100であり、年間で約3万程度しか作れないので、更なる人員の拡充が求められていた。
勿論、事の始まりである粒来特級呪具師には一日あたり500本のノルマが課されている。
一日あたり一万本とかいう馬鹿みたいなノルマは如何に総監部でも課してこなかったが、それでも結構な負担ではある。
万穂は早まったかなぁ・・・と思いながら、頑張って風車呪具を量産するための新たな技術開発及び呪霊・呪詛師のリソース化のために任務に出るのだった。
「ふふふ、これで更にボーナス追加♥」
そして、どう考えても呪術界のみで全ての業務を担う事はできないと早々に諦めた。
というか、呪術界に属する全人口使っても賄いきれないと計算が出てしまったし、そんな事する前に本業の方が破綻するのが目に見えていたのだ。
なので、既存の電力会社を無理矢理にでも吸収合併してほしい人材とノウハウだけチューチューするべく工作を開始した。
具体的には調伏した呪霊や式神、操作可能な動物類を用いて既存電力会社やその子会社に対して嫌がらせを開始した。
過去にあった事件や悪い噂などを積極的に流し、呪霊や式神などで残業やワンオペ中の社員にホラーな体験を提供する。
止めに朝見つかるよう小動物や鴉の死骸を設置したり、真っ昼間の仕事中にいきなり鴉が窓ガラスへ激突して死亡等、本業でよく知られる「やられたら嫌すぎるホラー」を繰り返していく。
するとあら不思議、「この職場やべぇ」「もう嫌!」「流石に無理」と若い者から順に、最後にはどんな熟練社員だろうと顔を青くして退職していくのだ。
これも日本のため、お金のため、仕方ないネ。
なお、呪術規定的には限りなくブラックよりのグレーである。
おまけに特に活躍しているのは今年高専東京校4年の冥冥である。
黒鳥操術って素晴らしいよね、都会に幾らでもいる鴉でこんなに色々できるんだから。
彼女自身も固定給の他にボーナス追加でそりゃもう熱心にお仕事中である。
何だったら本業よりも稼げているのでるんるんステップ踏んでおられるし、既に総監部が作ってる電力会社の株もかなりの数を購入している。
い、インサイダー・・・!
そんなこんなで多くの(鴉の)血と(電力会社関係者の)涙を流しながら、呪術界は日本を新たな時代へ引っ張り上げるべく裏工作に勤しむのだった。
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「いやもうどうしよっかなー。」
メロンパンこと羂索は悩んでいた。
そうとは見えないが、それはもう滅茶苦茶悩んでいた。
「機ではある。でもやると万がなー。でもやらないと宿儺がなー。」
平安二強を明確に敵に回す事態は避けたいのが羂索の本音だった。
しかし、計画している過去の術師達の受肉は何れ実行すると縛っている。
特に宿儺と従者の裏梅は再び万に出会うため、その宿儺の願いを叶えるために呪物化を受け入れているのだ。
もし万が転生した事を隠し、彼女や六眼世代が亡くなった後に受肉させた上でバレてしまった場合、宿儺は間違いなく全力でこちらを殺しにかかるだろう。
そして、他の受肉した術師達が大人しくしているかと言うとそんな訳がない。
昔の価値観を持ってる、倫理観ぺらぺらの呪術師なんてどう考えても暴れるに決まっている。
それで日本の治安が乱れ、快適な現代生活が送れないとなれば、今度は万がキレる(確信)。
つまり羂索は今、どっちのルートを選んだ所で平安二強のどちらかを確実にキレさせてしまう状況にいた。
「でもなー今本当に良い機会なんだよなー。」
何せ六眼の妨害を退けて、遂に念願の天元の同化阻止に成功し、更に呪霊操術持ちが六眼の親友であり、更に更に一般人ですら抜け出せない程に呪力の恩恵が得られそうになっていて、止めに一般人を安定的に呪術師にする手段が開発された。
どでけぇリスクはあるものの、千年に一度あるかどうかのもの凄い好機だった。
「おや、万からとは珍しい。」
ふと着信を知らせる電話を見ると、万からのメールだった。
「は」
そして、その内容はとてもとても素晴らしいものだった。
「あっはははははははははははははははははは!!マジか!?マジかよッ!!」
腹を抱えて羂索は嗤う。
この世で最も邪悪な呪詛師は、腹の底から爆笑していた。
こんなに心を揺さぶられたのは何時ぶりか、本当に分からない程に愉快だった。
「全く!万、君は私を喜ばせるのが本当に上手だよ!!!」
ばんばんばんと地面を叩き砕きながら、羂索は笑い転げる。
あぁ、あぁ、やはりやるしかない!
こんな愉快な出来事、私一人で独占するなんて勿体ない!
「皆で呪って、呪って、呪い合おう!千年ぶりの同窓会だ!!」
げらげらげらげらげらげらげら!!
無人の山中に、悍ましい嗤いが響き渡った。
万穂からのメール、そこには短くこう書かれていた。
曰く、例の呪具が完成した。量産型は近日納入予定
呪術の歴史がまた1ページ進んだ日だった。
次の次当たりから原作軸突入