生体融合式呪具
それが粒来万穂特級呪具師によって開発された、新たな特級呪具の名前である。
その外見がベルト状である事から「呪具ベルト」と通称されている。
これを装備し、肉体と融合させる事で非術師を呪術師へと変化させる事が出来る。
そんな大層な呪具なのだが、使われている術式や技術は兎も角としてその原理はとても簡単だったりする。
非術師に呪術師の脳を模した外付け回路を取り付ける。
基本、非術師は呪術師に比して呪力が少なく、制御できずに垂れ流しになっている。
これが呪霊発生の原因の一つ、非活性呪力の源の一つであり、呪術師の仕事が減らない理由の一つなのだがそれはさておき。
ベルトのバックル部分に備えられた宝珠とその左右の小型風車型呪具、それらを囲む甲殻状のパーツ。
この宝珠部分こそが心臓部、超簡易ながら呪術師の脳を再現した有機CPU(バイオコンピューター)である。
その左右の小型風車型呪具は周辺の発電ではなく、回転して周囲の大気を吸引する事で非活性呪力を集めるためのものであり、どうしても呪力が少なめとなる装備者の欠点を補うための機能だ。
そして、それらを覆う甲殻状のパーツはそれらを守るための装甲であり、攻撃を受けた際には自動的に防具膜を展開して宝珠部分を守る事が可能となっている。
この呪具を装着した際、ベルトの内側から疑似神経節が触手の様に延びて体内に侵入、装着者と生体融合を行い、完全に一体となる。
外科手術で外す事は機能向上のための縛りによって不可能となっており、使用する際は一生を呪術師として生きる事をよくよく覚悟しなければならない。
また、非術師として生きてきた装着者には呪力への耐性が著しく低い事が考えられるため、この呪具の起動時はデフォルト設定では衣服及び全身の皮膚が構築術式によって分解・再構成され、特有のデザインの戦闘形態へと変身する。
この変身時の姿は個々人の性質や適性によって異なり、蟲型や動物型、植物型や機械型と様々なものが想定される。
基礎的な呪力操作の他、呪力の流動や残穢の知覚、反転術式の行使、簡易領域(ではなく実は原型の彌虚葛籠)の展開すら可能としている。
初期変身時のスペックは平均的な2級術師に相当し、変身・戦闘の回数を重ねていくと疑似神経節が徐々に体内全体へと延びていく。
これにより肉体はベルトとの親和性を高めていき、徐々に呪力の行使に適した肉体へと変異していく。
変異が一定以上進行すれば、一級上位にも比肩する身体能力に達する見込みとなっている。
なお、術式に目覚めたり、そこから上の特級にいけるかは完全に本人の資質となっているため、検証は困難である。
この他にも戦闘補助機能として宝珠による戦闘予測及び最適な動作への誘導により素人でも「何となくどう動くべきか分かる」仕様となっている上、脳内麻薬の分泌による闘争心の励起や五感の鋭敏化、痛覚の鈍化などが同時並行で行われる。
欠点としては生得術式は非搭載(反転術式は可能)、宝珠の破壊時は安全のために緊急停止するため戦闘能力を喪失する事、理論実証のために生産された「ケモ耳型呪具」の3倍近い製造コストが挙げられる。
呪術師を増やすだけならばケモ耳型呪具の方が有用であるがあくまで呪力の運用が可能になるだけであり、反転術式や領域対策等の本人の鍛錬やセンスに頼る部分がとても大きい。
これでは性能不足であり、即戦力を求める総監部からの要望に応えた結果、どうしてもコスト増になってしまった結果である。
ちなみに犬神憑き等の原理を応用したケモ耳の方と違って、子孫に呪術師適性が遺伝するかは未だ不明である。
「これが余計な機能を省いた正式量産版で、本命のオリジナルがこっちになる。」
真・生体融合式呪具
こちらこそが本来目指したオリジナルである。
基礎構造こそ量産版と同じであるものの、こちらの有機CPUには術式が刻まれており、呪力操作を始めとした各種補助の他、これ単体で術式の行使を可能とする。
また、装着者が呪術師である場合、二つの脳で二つの術式をそれぞれ独自に行使可能になる。
コピーや略奪、支配系の術式が複数の術式を行使する事は可能だが、同時に複数の術式を行使する事は呪具を使う場合を除けば長らく不可能とされていた。
しかし、その不可能の壁はこの呪具の開発によって破壊された。
だが、当然の結果としてその分燃費は悪くなったりもしている。
逆にどちらか一方の術式を使わず、片方の術式の行使に集中する事で高い演算力を活かして術式の拡張や応用を行う事も可能になっている。
また、ド本命の機能として「装着者の自己進化」がある。
先の正式量産版の常識からちょっと外れた程度の成長や適応ではない。
文字通りの自己進化である。
あらゆる環境において、装着者が求める形で自己を進化させていく。
それに上限は無く、何処まで成長し、強くなっていくのか、はたまたそんな次元ではない変質に至るか、それ以外の何かに成り果てるのか、それすらも全くの不明である。
また、宝珠の数を増やした強化型も鋭意開発中である。
なお、この肝心要の宝珠部分を開発するに辺り、100人近い呪詛師や一級以上の呪霊がリソースだったり実験台だったりにされてたりするが、必要な犠牲だったので気にしてはいけない。
「以上が完成版生体融合式呪具の全容になるね。」
「「おおおおおおおおおッ!!」」
何かもう何かある度に開かれるマッドの会にて、遂に完成した生体融合式呪具の説明会が行われた。
今回も大盛況であり、スタンディングオベーションしたメロンパンと九十九はサンプルとして持ってきた正式量産版とを手に取りやいやいと議論を重ねていく。
万穂お手製の激ウマ黒蜜入りゆべしと最高級玉露を堪能しながら、その場にいた直哉は思う。
あぁ、何か今日も人の心の無さそうな技術が開発されとるな、と。
でもとても大事な情報なのでちょっと死んだ目になりながらちゃんと聞き続ける直哉なのだった。
「で、オリジナルは?量産版じゃないオリジナルは?」
「それが材料の関係で三個しか作れないんだよ。んで、二個はもう使う人が決まってるから渡せない。最後の一個は総監部行き。」
「「ええ~~!!」」
ブーブー!と文句を言う二人のマッドだが、マジで素材が貴重過ぎて作れないので仕方ない。
「その素材って何なん?」
「天元。」
「「「ブー!?」」」
余りの解答に疑問符超えて宇宙猫顔になる直哉。
Tengen? てんげん? 今天元って言った?
呪術界の生きた柱石を何だって???
「いやさ、天元は同化できなくて進化しただろう?そして、人から外れてしまった。仙人の様に天地と合一するのか、呪霊の様に呪力ベースの非実体となるのか、それとも実体を持つ人外となるのか興味があったんだ。」
とは言え、薨星宮へ踏み込む訳にもいかない。
そのため、東京校やその周辺、及び近場の霊地で密かに分解を用いて調査を行った。
結果、僅かながら呪術的な変質を観測でき、これが天元ではないかと当たりを付けた。
更に調査を進めるため、分解によるサンプルの確保を目論んだのだが・・・
「それ以来、私が分解しても差異が見られなくなってしまったんだ。」
「恐らく警戒されたんだろう。君は天元に手が届き得る存在だと判断されたんだ。」
「変な所で小心者なのは変わらないな。変化を嫌い、今を生きる者へと丸投げする。そんなだから停滞するのさ。」
「これにより、天元は天地と合一する神仙に近い存在になったと推測される。結界術を応用した呪力による知覚は世界中に及ぶだろうね。超広範囲型の土地神にも似ている。」
「ん?なんでそれがベルトの素材になるん?」
直哉の疑問も尤もなので解説していく。
天元の術式は不死化術式という。
その名の通り術者は不死となるが、不老ではない。
一定以上老化が進むと術式の効果によって肉体が進化を始めてしまうのだ。
人間から「より高次の存在」へと進化すると彼女自身の意思は失われ、最終的には「天元が天元ではなくなってしまう」。
すると天元による結界運用や強化が失われるばかりか人間の敵となる可能性まで発生する。
人間で居続けるには定期的に肉体をアップデート、星漿体と言われる天元と適合する肉体の持ち主と同化する必要がある。
「この自己進化の要素だけを取り出し、搭載したのが真・生体融合式呪具なのさ。」
「どうやったのコレ!?材料にはなるだろうけど、それだけじゃ無理でしょ!」
「縛りを結ばせた。他の結界術や不死化の部分を削除して進化だけを残した。」
「・・・まさか、簡易とは言え呪術師の脳なんだから自分で縛りを結ぶ事も出来るのか!?」
制作時、呪具師が特定の用途に特化させるために他を切り捨てる事を縛る事もあるが、それだけでは緻密な呪力操作や術式の一要素の抽出には不足だった。
故に万穂は呪具そのものに縛りを結ばせる事でその辺の問題を強引に克服させた。
「うっそだろオイ。ほぼ人工知能の類じゃん!」
「いや、自立式の式神だっているんだ。有り得ない訳じゃない。」
「えぇ・・・じゃぁこのベルト生きてるん?」
「そうだよ。だからしっかり気遣ってあげなよ直哉。」
「まじ?」
「直哉君に使用するのかい?彼、禪院家の相伝だろう?十分じゃないのかい?」
「本人たっての希望だからね。」
マッド二人が驚きの目線を直哉に向ける。
それを受け、直哉はふふんと胸を張って答える。
「将来お嫁さんにしようって女の作ったもんを信じられんで結婚なんて出来へんわ。」
「うわぁ・・・惚気だぁ・・・。」
「命知らずだけど命短し何とやらって言うしね。」
ドンびく二人に対し、直哉も理性ではヤバくない?とは思ってる。
しかし、完成品と銘打って万穂が呪具関連で失敗した事は無い。
例えあったとしても必ず事前に説明責任を果たす。
その辺への信頼があるからこそ、直哉は踏み込む事を選んだ。
「後、レプリカ六眼の移植手術も同時にするけど・・・本当に良いの?私と違ってオンオフ出来ないよ?」
「かまへんよ。オレが特級になるには、どないしても必要な事や。」
「ん、五条家との確執とかの話でもあるんだけど・・・まぁ良いか。念のため胃の中空っぽにして明日の午後にでも来てね。」
「おおきに。これでオレも漸くこっち側の住人やな。」
「修練が大前提だからそこはしっかりね。一応目隠し用の眼帯も付けるから多少はマシになると思う。」
「うーん青春。いや、愛かなこれ?」
「愛だねぇ。まさか万穂君がこれ程素直に好意を見せるとは・・・。直哉君は理性持つかな?」
「無理じゃない?呪術師は命の危機あってなんぼの職業だし、その分仕事以外ではわりかし下半身緩いもん。」
「そこ、五月蠅い。」
「まぁまぁ、いつもの事やし。」
やかましいマッド共を黙らせるべく構築した呪具を構える万穂を見て直哉が止める。
だってまだこの中じゃ自分が一番弱いのだ。
もし大暴れとなったら巻き添えでの死亡率が一番高いのも自分なので、そうとは見せずとも必死に止めねばならない。
そろそろ夏も盛りを過ぎる頃、交流会の時期が近づいていた。
マッド1「発想と技術力両方で負けた!」
マッド2「素晴らしい!これなら理論上あらゆる人間が術式を用い、進化する事も出来る!」
マッド1&2「どうにか量産しよう!手始めに天元とっ捕まえよう!」
マッド3「何度も言うが人手が足りないんだよ!風車型呪具で手一杯だ!」
天元「どうしてこんな事になってしまったんだ・・・!」AAry