クレーターと化した東京校跡地の復興に関係各位が頭を抱える中、在校生及び所属人員はある程度の建て直しが完了するまで京都校に数年程間借りする事となった。
それが意味する所は・・・
「直哉ーお前の嫁さん何処いったよ?模擬戦しよーぜ。」
「まだ嫁ちゃうて。五条君こそもう少し大人しくしてくれへん?家の人から色々呼ばれてるんやし。」
「いーんだよアイツらは。まだ当主じゃないし負けた六眼になんて従うかって言ってる自分で何もしない雑魚連中、一々相手にしてられるかっての。」
「うわぁ・・・命知らずだらけやね五条家。そんなんが過半じゃない事だけ祈っとるわ。」
「いやー京都は余り来ないから色々新鮮だね。流石観光名所。」
「夏油、お前こっち来てないで五条止めろよ。直哉が気の毒だろ。」
「今私が行ったら余計拗れそうだし無理かな。3人で暴れて良いのなら行くけど。」
特級問題児4名が一カ所に所属する事になったのである!
なお、万穂は厄介事を察知して1人呪具工場で呪具作りに専念してたりする。
適材適所なのだが、面倒事を相方に投げる辺りこいつも立派なクズである。
「お主ら頼むから暴れてくれるな。京都校まで消えたら流石に業務に支障を来す所ではないのだぞ。」
「五条、暫くは模擬戦は禁止だ。特にお前は破壊規模が大き過ぎる。」
楽巌寺学長と夜蛾教諭(学長内定済み)の2人に諫められ、流石の五条も矛を収めた。
「んじゃ術式無しの肉弾戦の稽古なら良いだろ?傑ー直哉ーグラウンド空いてるからやろうぜー。」
「せやったら行くで。」
「あんまり燥いで大穴空けちゃ駄目だよ悟。」
「分かってるって。」
なお、良いのを貰った五条が黒閃キメてグラウンドに大穴を空けるのは一時間後の話である。
頑張れ夜蛾先生と直哉!京都校の安全は君達の頑張りにかかっているぞ!
「いやー総監部も酷いよね。」
「確かに分身したら出来るけどさー。」
「だからってノルマ4倍は流石に酷い。」
「私達が壊した東京校の建て直し費用稼げって言われたら断れないけどね。」
一方その頃、呪具工場では万穂がぶっ壊した東京校の建て直し費用を稼ぐために呪具作りに精を出していた。
まぁ全力で風車呪具を1000個位作ればいけるだろうが、それだけだと残った人員が過労死しかねないので呪具ベルトと合わせて今の内に作り置きしておくのだった。
「万穂様、追加の呪力タンク持ってきた。出来た奴はこれか?」
「うん、納品チェック終わったらいつもの出荷待ち倉庫に置いてきて。」
「万穂様、出来ました。」
「真依ちゃんの方は・・・うん上出来。これなら完璧だね。後は数作れれば良いんだけど・・・。」
「頭、痛いです・・・。」
「そっか、じゃぁ今日はもう上がって良いよ。冷えピタか氷枕はいる?いらないのね。真希ちゃん、真依ちゃん無理そうだから今日はそれ終わったら上がっていいよ。」
「はーい、お疲れ様でしたー。」
「でしたー。」
京都の郊外、周囲に人も畑も無い様な山間部の一角にひっそりと存在する呪具工場。
此処は三交代制で動く不夜城と化しており、現在も多くの呪具師やその見習い、構築術式の持ち主が多数の呪具を量産している。
従業員のみで日産100程の風車型呪具を生産し続けている他、余裕がある時は呪具ベルトの外郭やケモ耳呪具等も作っている。
現在、此処には万穂がほぼ常駐しており、日々3桁4桁の呪具を作り続けている。
なお、材料の呪力に関しては罰なので本人の自前である。
(さて、呪具の生産は良好。後はもう少し仕込みをしておくべきか。)
現状、万穂は自分のリソースに即時変換可能な呪具の生産を行う事で、もしもの時のリソース確保を行っていた。
というのも、あの技の一号こと羂索が積極的に活動し、目の上のタンコブ扱いしていた天元の同化の阻止に成功したせいだ。
十中八九何か大それた事をやらかすという確信がある。
10年先か20年先かは知らないが、そう遠くない未来にそれは起こる。
羂索を知る関係者ならば「あーあいつならやるわ」と納得する程度には条件が揃い過ぎている。
呪いの可能性の探究に一切の手段を選ばず、それでいて時にドジったり楽しんだりする。
それが羂索という現代よりも倫理観の緩い平安においてもなおド外道とされた呪術師、否、呪いの在り方なのだ。
(国内は無理。天元と羂索双方の目が有り過ぎる。となれば国外か。)
幸いと言うべきか、万穂の作った風車呪具により日本国内の電力供給量は空前絶後というレベルで増え続けている。
日本国政府の、というよりも呪術総監部こと腐った蜜柑達の頑張りと災害支援において実績を積んだというのが大きい。
既存電力会社各社は今後増える電力供給に合わせた送電網の増設・維持管理業務にシフトしていく予定だ。
その中には呪術界の息の掛かった人材が多数存在し、既存の発電手段は徐々に消えていくだろう。
電気代の大幅値下げは一般市民のみならず企業、特に電力を一度に大量に消費する工業系が大きく影響を受ける形となり、それはつまり商品の製造コストの低下、つまり価格の圧縮に繋がる。
未だ商品の運輸は既存のそれだが、それとて何れ呪力発電による電動モーター主体へと切り替わっていき、コスト圧縮に繋がる事だろう。
これにより起きるのが経済の活性化、好景気である。
そして、先進国の中で一国だけ電気代ほぼゼロなんてチートを実現した日本を諸外国、特に三大陸国家や日本を敵視している特定アジア諸国が許す訳がないのだ。
だが、彼らが幾ら諜報活動を活発化させた所で技術流出に関しての心配はゼロだ。
何せ既存の科学技術ではなく、呪術という全く独自の技術体系の産物なのだ。
例え彼らが自国に在住の呪術師に解析と生産を依頼(という名の恐喝)した所で国毎に呪術の下地となる文化も違うし、大量生産なんて人数の関係で絶対に不可能だ。
例え日本の呪術師の、その中でも呪具師や構築術式の保有者を誘拐した所で絶対に呪術界は気付くし、その程度で確保できる人数では大量生産は出来ない。
そして、もし出来た所で大気中の非活性呪力の密度も量も圧倒的に足りない他国では日本程の発電量は見込めない。
この三重のセーフティにより、呪力発電は日本の独占技術であり続けるだろう。
別の道として、日本に息の掛かった企業などを送り、その恩恵を僅かでも得ようとした所でそれもキツいだろう。
何せこの世界の日本の過密具合は凄まじい。
土地の購入・利用申請はかなり厳密に規定され、特に国外企業や団体からの審査は極めて厳重に審査される。
少しでもおかしな事があれば、その時点で審査を撥ねられ、一定期間は再度の審査を受け付けてくれなくなる。
実際、この世界における諸外国は大体万穂の読み通りだったりする。
彼らは自らの息の掛かった人員や団体から何とか情報を収集しようとしてた。
しかし、元々呪術界は閉鎖的かつ腐った蜜柑や名家達による謀略が活発な業界な事もあり、情報収集は上手くいっていないのが実情だった。
であればと強引な手段に出た所で、相手は基本的に呪術師である。
普段から糞ヤベー呪霊や呪詛師相手に切った張ったするのが生業の彼らに、たかが日本国内で証拠隠滅が出来る程度=携行可能な火器類しか装備できない工作員(しかも目的は基本生け捕り)が多少多めに襲いかかってきた所で苦戦や戸惑う事はあっても負ける事は無い。
呪力の運用が可能な時点で大体の携行火器類は無効なのだ。
何せ呪力の籠っていない武器では呪力による守りは基本的に突破できない。
一応ミサイルだとか戦車砲とか、最低でも対物ライフルならば防御の薄い呪術師ならば通るかもしれないが、基本は無理である。
もしフリーの術師や呪詛師などが拠点を割られて薬を盛られたというなら話は別だが、そういう人材は持っている情報もたかが知れているので何も問題は無い。
なので、日本国内で活動中の外国勢力はとても情報に飢えていた。
それこそ分かりやすい餌と分かっていても飛びついてしまう程度には。
ちなみにこうした情報は総監部から注意事項として万穂に伝わってきている。
うっかり間違って非正規とはいえ他国の軍人を「ミンチよりひでぇや」にしてしまっては困ると判断されたが故だった。
今回は裏目に出てしまったが、判断自体は正しいと思われる。
「うっし、今日のノルマ終わり!少し呪詛師狩りしてくるかなぁ。」
そんな態とらしい独り言を言って、万穂は呪具工場を後にした。
目指すは東京都、港区赤坂である。
道中、出来るだけ外国人が多く、それでいて治安が比較的悪いエリアを通りながらだが。
まるで誘蛾灯の様に、高専の黒い制服の上から白衣を纏った特級呪具師は新たな保険を作りに動き出した。
・・・・・・・・・・・・・・・
「やぁミス、お待たせしてしまって申し訳ない。」
「いえいえ、こちらこそ急に来てしまって申し訳ありません大使殿。」
ニコニコ、にこにこ
知らない人も多いが、大使館というのは入国のためのビザやパスポートの申請に海外でのトラブルでの対応等で一般人でも入館が可能だったりする。
勿論厳重な警備体制が敷かれている。
特にアメリカ大使館は伝統的に武装した精鋭の海兵隊保安警護隊が警備に就いている。
なので、万穂が入館する事自体は何処にも違法性は無い。
加えて、道中絡んできた外国人、それも米国籍を持っている者に予約をお願いしたので会談はスムーズに始まった。
米国籍以外?
普通にボコって警察に引き渡しましたとも。
「そちらからの友人がはしゃいでしまって大変でしたよ。こちらとしては日本を楽しんでくれるのは喜ばしい事ですが、刑法に触れる様な事は謹んでほしいものです。」
「それは大変申し訳ない事をしてしまった様ですね。日本とはこれからも良い友人でありたいと願っていますから、彼らには私の方からも注意しておきましょう。」
にこにこ、ニコニコ
互いに笑顔だが目の奥は生き馬の目を抜く外交の場で戦う漢と悍ましい呪いの世界で生きている当代最強の呪術師の圧があった。
「結構結構。大使殿からの言葉なら彼らもきっと反省してくれるでしょう。」
「いえいえ。ミスの身に何かあったら大変ですからね。」
にこにこ、ニコニコ
ここまでジャブでしかないのだが、耐性の無い者ならば既に胃を痛めてしまう様な重苦しい空気が沈殿していた。
「そう言えば、粗品と言ってはなんですがそちらの友人方が探していたものをお持ちした。お土産にでもして頂くと助かります。」
「おぉ、それは大変助かります!しかしよろしいのですか?随分と奥まった場所にしか無いと聞いていたのですが。」
ほんの少し、大使の言葉が震えた。
万穂はそれを特段突く事もなく、ただ要件だけとっとと済ませようと話を進めていく。
「構いませんよ。確かに貴重と言えばそうですが、我々にとってはまた作れば良いものに過ぎませんし、これはもしもの時のためでもあります。」
「もしも、ですか?失礼ですがそれは一体・・・?」
如何に本物の魑魅魍魎渦巻く呪術界と言えども、その諜報技術自体は通常の科学技術とそう大差は無い。
寧ろノウハウの共有とかが出来ていない分、こちらの方が劣っているとも言える。
そのため、上空からの視線や監視カメラ等、後は遠隔視等の術式や千里眼などの眼に気をつけておけば、追跡や監視を振り切る事は訳は無い。
「我々が機能不全に陥った時、誰かがその役目を引き継がなければなりません。その時、何の情報もなく対策も出来ていないのでは話になりません。」
「・・・貴方方の所属とは、一体何処なのですか?普段は教えてくれる友人達ですら誰もが口を閉ざしてしまった。我々は貴方方の事を何も知る事が出来ていない。唯一、あの奇妙な風車を開発した者達としか知る事は出来なかった。」
「それは良い事です。その方がきっと平和で穏やかに暮らす事が出来るでしょうから。」
ごとり、と万穂は何処からともなく呪具ベルトからベルト部分を取り除いた、バックルだけにした呪具をその場で構築した。
「こ、これは!?今、何も無い場所から現れたように見えました!魔法ですか!?」
「これは呪いの一つです。」
「の、呪い?」
「マジックではなく、カースです。本来なら触れない方が良いものです。しかし、そうも言ってはいられない状況になりつつあるので貴国に託します。」
ごくり、と大使は驚愕と戦慄、何かが変わるという予感と共に目の前の少女を見つめた。
アジア系らしいオリエンタルな美しさと危うげなエロティックを併せ持つカースの使い手。
まるで少年に戻ったかの様な胸の動悸を抱え、大使はその奇妙なオブジェクトを手に取った。
「取扱説明書はこちらを。可能な限り急いで本国へと持ち帰って開封してください。新型発電技術を含め、貴方方が知りたいと思っている事、その全てを知る事が出来ます。」
「これ一つで、ですか。電子情報媒体ではないようですが・・・。」
何処か生物の様な独特の湿り気と甲殻を持ったオブジェクトに触れながら、大使は必死に状況を飲み込もうとしている。
彼女の言っている事から、日本にはカースを扱う集団が存在し、それが何かの拍子で限定的ながら表社会に出てきた事が分かる。
しかし、こちらも詳細不明だがカースを扱う集団内でトラブルが発生、日本国内では危険なので米国に機密物資を預ける事にしたらしい。
余りにも情勢が不透明だが、あの奇妙な風車を用いた新型発電技術の情報も含まれるとならば、背に腹は代えられない。
「分かりました。色々と聞きたい事は沢山ありますが、それは言えない事情があるご様子。しかし我が国を頼ってくださった貴女のご好意に報いたいと思います。」
「ありがとうございます大使殿。詳しい情報は全てそれに保管されていますが、詳しい説明を出来ない我が身の不徳を改めて謝罪させて頂きます。」
こうして、アメリカ政府は密かに呪いの存在を知る事となる。
学生時代でやりたい事はこれにて終了
後は卒業式兼宴会位かな