呪術廻戦で万にチート転生   作:VISP

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第二十三話 悲嘆

 

 『五条さん!夏油さんに渡していた通信用呪具の反応が途絶しました!福島原発周辺の呪力反応も異常値を検出!特級呪霊、それも複数です!』

 「ごめん行ってくる!」

 

 その知らせを伊地知から聞いた瞬間、実家に戻っていた五条は共にいた婚約者にそれだけを告げて即座に転移した。

 と言っても、余り細かい所までは制御できないのがこの長距離転移なのだが、それでも親友の危機とあれば五条も必死になる。

 

 (大雑把なら上空に転移して、その後に目的地まで加速する!)

 

 即座にそう切り替え、五条は福島県上空に転移した後、沿岸部の福島原発へとかっ飛ぶ。

 

 「・・・ッ!?」

 

 だが、そこは地獄絵図だった。

 万を超える程の無数の呪霊の波が福島原発周辺から全方位へと押し寄せ、全てを薙ぎ倒しながら広がっていた。

 その見覚えのある呪霊達が何処から、否、誰の中から来たのか、五条は一目で分かった、分かってしまった。

 

 「くっそがァ!!」

 

 苛立ち紛れに呪霊の津波へと赫を雨霰と放ちながら、その六眼で必死に夏油の痕跡を探す。

 しかし、何も見つからない。

 尽きる事なく暴れ狂う呪霊の海の中に親友の残穢も呪力も、何の痕跡も見当たらない。

 これが意味する事を、五条は誰よりも理解していた。

 

 呪霊操術の術者の死亡、それによる使役されていた呪霊の解放である。

 

 つまり、五条の親友たる夏油傑は死んだ、死んでしまった。

 きっと遺体も残っていないだろう。

 自由を得た呪霊達に踏まれ、潰され、残った肉片もきっと腹いせとばかりに呪霊に喰われた可能性が高い。

 或いはミンチになって土と混ぜこぜになったか。

 もう五条が夏油にしてやれる事は何も無い。

 なら、五条家当主である呪術師の自分がすべき事、出来る事は一つだけだ。

 可能な限りこの呪霊の津波を叩き潰し、周辺への被害を減らす事。

 

 「虚式【茈】」

 

 ごそりと表情の抜けた容貌とは裏腹に限りない怒りと憎悪を載せて、最大出力の茈が大地を蹂躙した。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 夏油傑特級術師の死亡は瞬く間に呪術界を席巻した。

 特級術師の死亡、それの意味する所は単体で国家転覆可能な戦力を討てるだけの呪霊又は呪詛師が何処かに存在する事を意味する。

 これにはマジビビりした総監部が動かせる人材総出で捜査したものの、証拠らしい証拠は全く出なかった。

 当然である。

 何せ現場は万単位の呪霊の暴れた痕跡とそれを消し飛ばした茈の痕跡しか残っておらず、夏油と彼を殺害したであろう存在の痕跡は何一つ残っていなかったのだ。

 また、現場が大事故の起きた福島原発付近である事も相まって、常人(術師含む)ではとてもではないが長居できない環境だったのも大きい。

 それでも五条は連日連夜その場を離れず(勿論不可侵に放射線を適応させての事だが)、ずっと犯人への手掛かりに繋がる証拠や痕跡が無いかを探し続けた。

 或いは親友が死亡した等と信じられない彼なりの現実逃避だったのかもしれないが、それはさておき。

 

 「まっさか夏油君がなぁ・・・。」

 

 震災発生から半年、漸く総監部は緊急事態宣言を解除、通常営業へと戻る事となった。

 特級術師の一角の死亡というとんでもないハプニングこそあったものの、呪霊の湧きが想定の範囲内にまで落ち着いた事もあり、一応事態は終息したと判断されたのだ。

 まぁやる事は新たな分含めて山積みになっているのだが。

 

 具体的には浴槽型呪具とその応用及び情報漏洩しやがったお馬鹿ちゃん達の処分と追及してくる政府関係者(国防・医療·農業関係含む)への対応とかが!!

 

 大政奉還前、未だ呪術師と幕府の関係がズブズブだった頃に比べ、文明開化に伴って物理法則のみの西洋思想にかぶれた民衆及び政府は呪術界にとって手を組むに値しない者達だった。

 特に一般出の術師未満の者に対してイチャモンつけてインチキ扱いする事例も多数あったため、呪術界は明治維新以降は政府とはがっつり距離を取って存続していた。

 そのままだったら何時かは近付く事もあったのかも知れないが、よりにもよって外国と幾度も戦争した挙げ句に負けて国内焼け野原にされて呪霊大増殖した事もあり、呪術界でも古株とされる者達、つまりは総監部にとって現在の政府、特に軍関係者とは手を組むに値しないと見られていた。

 下手に呪術師の力を見せても、魔女狩りだ異端狩りだ祟りだと非術師に攻撃される事例は今現在すら割と有るため、距離を置いて仕事だけ貰うのが程良い関係と言えた。

 そんな所に例の浴槽型呪具の規則違反である。

 おまけに応用で研究中だった+の呪力での作物の育成促進効果の暴露ときたものだから、総監部はカンカンである。

 理由が理由だったため、五条閥中心に若手が庇ったために始末書&仕事大量追加、更に縛りで以後の情報漏洩を禁止したものの、庇われなければ間違いなくそのまま秘匿死刑か女性ならば母胎コースだった。

 

 「是非あの特殊な野外入浴設備について、防衛省へ情報開示を願います。」

 「厚生労働省です。是非ともあの入浴設備についてお話をさせて頂きたく。」

 「農林水産省としても是非ともお話を。」

 

 なお、この連絡を受けた高専の事務方は「自分達では判断しかねる」として上、つまり高専上層部含む総監部及び御三家へと丸投げした。

 勿論会議は関係各位が頭を抱えながら紛糾し、モメモメし続けて踊るばかりになるのだった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 一方その頃の禪院家

 

 「ただいまー。」

 「おかえりなさい。」

 

 漸く長期出張から帰ってきた直哉を万穂は暖かな笑みと共に出迎えた。

 共に風呂に入り、本番数歩手前位のイチャイチャをして軽く食事を取った後、私室にて真面目な話し合いをする事にした。

 

 

 「夏油君の事、誰がやったか心当たりあんの?」

 「黒幕は間違いなく羂索。実行犯は知らない。」

 

 直哉の問いかけに対し、万穂(妊娠8ヶ月の姿)ははっきりと答えた。

 

 「呪霊操術は悪用の幅が広い術式だからね。アイツならそれでやりたい放題すると思う。」

 「アイツかー。」

 

 納得と顔に書かれた直哉はしかし、少し疑問に思った。

 

 「計画した主犯はあの縫い目の奴やとして、実行犯は?」

 「先日、総監部に提出していたオリジナルの呪具ベルトの反応が消えた。」

 「はぁ!?」

 

 その一言に思わず直哉は声を荒げた。

 自分も万穂も使っている超特級呪具とも言える代物が、消えた???

 明らかに総監部の責任であるが、どういう事だろうか。

 流石に腐った蜜柑の巣窟と言えども楽巌寺学長を筆頭にまともな人材もいるのだし、むざむざ超特級呪具を政敵の暗殺に使用するだろうか?・・・やりそう、いや、やるわアイツらなら(確信)。

 

 「盗難防止用で現在位置が特定可能なものにしていたんだけど、その反応も消えた。恐らくだけど、その部分だけ巧妙に破壊したんだろう。」

 「つまり呪具にも万穂並に精通してると。うーん流石はマッドやなぁ。」

 

 伊達に呪術界三大マッドの中でも最長老、技の一号とは呼ばれていないのである。

 脳内で両手にピースしてくる縫い目のマッドの姿を幻視しながら、直哉は今後の動きを考える。

 

 「これからあいつ、どう動くんやろ?何するつもりなんやろな?」

 「んー・・・間違いなく特級術師でも手を焼く様な隠し球を出すのが中長期目標。それを揃えた上で何をしたいかは・・・呪力の最適化、かな。」

 

 過去の羂索の発言から、万穂はその狙いをかなり正確に見抜いていた。

 

 「最適化?」

 「あらゆる人間が呪力に適応した世界、とでも言うべきかな。羂索も九十九も、違う方向でそれを目指していた時期があった。」

 

 羂索は全ての人類を呪霊又は呪術師化する事で、九十九は全ての人間から呪力を取り上げて代わりにフィジカルギフテッドにする事で、互いに全人類の呪力の最適化を図っていた。

 どちらにせよ、それが成れば人類は呪霊の脅威から脱却し、新たな世界へと進む事となる・・・・・・それが良いか悪いかは分からないが。

 なお、全人類甚爾君化計画な九十九の計画に直哉はソワァ・・・っとしたが、嫁と真面目な話をしているので我慢した。

 

 「とは言え、私が風車呪具を開発した事で九十九は方針転換し、羂索も様子見していた筈だったんだけどね。」

 「なんか他に面白いことでもできたんやない?」

 「かもね。」

 

 二人してはぁ~~~~~・・・と深々と溜息を吐く。

 マッドの面倒さをよく知る二人である。

 今後するだろう苦労を思うと、そりゃ溜息も出るってもんである。

 

 「今できるとしたら・・・戦力増強が最善手?」

 「そうだね。それが一番やられたくない事だと思う。」

 

 実際、特級術師4人とか如何に過去の呪術師を呪物化して受肉させられると言えども、対抗可能な大駒となると極少数しかいない。

 一人減ったとは言え、特級やそれを支援できる優秀な術師が多ければ多い程に羂索が大っぴらに活動する事は難しくなっていくのは間違いない。

 とは言え、千年も溜め込み続けた呪物や呪霊、そして本人の実力は凄まじく、苦戦を強いられる事は間違いないだろう。

 

 「まぁ暫くはこっちで万穂の出産に備えておくのがいっちゃん大事やな。」

 「そうだね。幾ら私でも出産中は動けないしね。」

 

 同じ布団に入り、お腹の大きくなった愛妻の身体を腕の中に納めるようにして、直哉は目を瞑った。

 この世で最も安全な場所と相手に触れ合えた事で漸く張り詰めていた気が抜け、汚泥の様に降り積もった疲労に誘われて数分とせずに眠りに落ちていった。

 

 「お休み直哉。良い夢を。」

 

 こうして、一組の夫婦が安らぎの夜を迎えた。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 「硝子・・・。」

 

 夏油の任務中行方不明、即ちMIAを受けて一ヶ月、東京校の保健室に戻った硝子の所に同期の片割れ、五条悟が現れた。

 

 「なんつー顔してんだ、お前。」

 「ごめん・・・今だけ・・・。」

 

 婚約者の、家の者達の前では五条悟は彼らの求める理想の当主として振る舞わなければならない。

 勿論、そこに一族の、家族としての愛情が無い訳ではない。

 しかし、徹頭徹尾個人としての自分を出せるのは親友の夏油傑、次いで家入硝子、そして恩師の夜蛾先生と同格の禪院夫婦の二人しかいない。

 それだけいれば上等?せやね。

 だが、その中で一番大事な親友が失われてしまい、五条の心は散々に乱れていた。

 

 「はぁ~~~~~・・・お前、婚約者はどうした?」

 「そっちに弱った所見せたくない・・・。」

 「ちゃんと見せてこい。特級術師で当主様じゃなく、お前個人を見てくれそうだから婚約したんだろ?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・うん。」

 「はぁ~~~~~・・・。」

 

 弱りに弱り、無遠慮に抱きついてくる同期の姿に、硝子はクソ長溜息を吐くしかなかった。

 

 「今晩ここで一晩休んだらちゃんと婚約者の所にいって弱み見せてこい。縛れ。」

 「縛る。」

 

 その後、保健室の扉に「本日営業終了」の札を掲げてから、そこには誰も近付く事はなかった。

 なお、保健室は血等で汚れたり、緊急時には缶詰になる事が想定されるため、シャワー室や仮眠室が備わっていたりする。

 翌日、五条が帰宅するまで保健室には誰も近付く事も、出てくる事も無かった。

 室内で何が起きていたか、それは当人達しか知らない事だった。

 

 

 




メロンパン「やったぜ★」
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