呪術廻戦で万にチート転生   作:VISP

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第三話 北へ行った末

 二度目の死を迎えた後、気付けば万は港にいた。

 

 雑踏と人々の話す喧噪こそ感じ取れるものの、具体的な内容は一切聞こえず姿もないという不思議な空間で、万はここが何なのか即座に理解した。

 死後の魂の岐路。

 ここで何処に向かうかを決める事が出来る。

 南行きの船は何処か穏やかな気配がし、逆に北行きの船は厳めしい印象を受ける。

 ここできっとやり切った、或いはもう沢山だと思った人は南へ行くのだろうか。

 或いは善人や善良な事を成した人は南へ行くのだろうか。

 逆にもっともっとと望む人、まだだと足掻く人は北へ行くのだろうか。

 はたまた罪人や悪人こそが北へ向かわされるのか。

 万には分からなかった。

 一度死に、平安の世で自らの求める快適な生活のために必死に生きて、多くを踏み躙った(前世比)彼女はどちらかと言えば罪人だろう(なお周囲からの評価)。

 だが、呪術面は兎も角文化面においては当代において比類無き功績を持ち、それを惜しげも無く広めた彼女ならば、悪人とは言い切れない。

 故に、彼女の死後は彼女自身の選択に委ねられた。

 

 「では、北へ。」

 

 万は迷わなかった。

 状況を理解した後、真っ直ぐ北行きの船へと向かった。

 北へ、北へ、北へ。

 歩む彼女の背にいかないで、こっちに、ずっといっしょに、そんな声が掛けられた気がした。

 彼女に助けられた者達か或いは彼女に殺された者達か定かではない。

 だが、そんなささやきを耳にしつつも一顧だにせず、万は北行きの船へ乗った。

 

 「北へお願いします。」

 

 恐らくはいるだろう姿無き船頭へ向けて、万はきっぱりと告げた。

 平安の世にて、確かに彼女は文化面、特に食文化と食料生産において比類なき功績を挙げ、朝廷に雇われた呪術師としても数多の功績を挙げた。

 彼女のお陰で多くの者達の生活が向上し、飢え死にを免れた事だろう。

 万の関わった分野では最低でも江戸時代、一部では昭和初期レベルにまで文化が進歩したのだ。

 チート込みであったとしても、彼女の功績によって助けられた人間は死後も含めれば10万では利かないだろう。

 

 しかし、それらは彼女の求める水準には到底届いていなかった。

 

 彼女の脳裏に焼き付いた平成・令和の記憶。

 それと同等の文化水準に至るまで、彼女の歩みは決して止まらない。

 国民であれば誰もが文化的で健康的な最低限度の生活を送る事の出来る権利を保障された時代へ至り、そこで穏やかに暮らす事。

 それが極めて過酷で困難な道程であったとしても、彼女は決して諦めない。

 二度目があったのだ、三度目があったとしても不思議ではない。

 その三度目が平安時代よりマシである保証なんて一つも無いのだ。

 ならば、自らの望みを果たすためにも歩みを止める訳にはいかない。

 故に北へ、北へ、北へ。

 万の胸には決して尽きる事無き不撓不屈の意志があった。

 そして、万が乗って間もなく北行きの船が出航した。

 雪の降る中、万以外誰も乗っていなくとも船は進む。

 それはまるで無人の荒野を行くが如き静かな、しかし力強いものだった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 史実の平安時代の文化は遣唐使廃止後に中国文化と融合し、日本独自の「国風文化(藤原文化)」が花開いた時代だった。

 仮名文字の発達による文学(源氏物語、枕草子など)や和歌、大和絵、寝殿造、雅楽などが特徴で、現代にも続くひな祭りや日記、琴・琵琶、猫のペット化などの習慣の基礎が築かれた。

 更にこの世界においては万の功績により食文化は極めて大きく発展した。

 元からあった鉄製農具の普及と同時に千歯扱きなどの新たな農具や肥料の開発、養蜂を含めた農法の改良にため池や水路等の灌漑設備の設置、更に作成が絵付きかつ仮名文字で書かれた書物が各地に広まった事により現場での正確な知識・技術の伝播が行われた事が止めとなって、収量と美味さが以前と比べ劇的に向上したのだ。

 更に元からあった長期保存可能な発酵食品類も製法が改良され、より安定かつ美味なものが生産されるようになった。

 

 そして、今までにない美味かつ多量の食材を元にした料理は新たな文化として瞬く間に広まった。

 

 この平安時代の文化的発展は藤原氏による摂関政治の行き詰まり、律令制の崩壊、地方の統制力低下と武士の台頭、そして末法思想の広まり等による貴族の衰退が始まるまで続き、後の日本の歴史に多大な影響を及ぼした。

 結果、この世界の日本の食文化は史実日本のそれに比肩、一部では凌駕する勢いで発展していく事になる。

 皆美味しいものは大好きだからね、仕方ないね。

 その陰の立役者が実は転生チート呪術師とそのちょっと所ではなくアレな協力者である事を知る者は当事者と全てを見ていた天元しか最早知らない事だった。

 それから時代は鎌倉、室町、安土・桃山、江戸、明治、大正、昭和、平成と推移していくのだが・・・当然ながら万による一人劣化緑の革命の影響は大きい。

 何と世界全体と比較しても土地面積当たりの食料生産効率は世界一位だったりする。

 史実では大災害や天候不順による飢饉が幾度も発生したものだが、農業による食料生産効率が史実の比ではなく高いために人口が増えに増えた。

 その数、実に史実の3倍であり、戦乱や疫病などで2倍にまで落ち込む事もあったが、時には3倍強まで増えた時期もあった。

 狭い島国にそれだけの人口が増えたものだから、当然ながら土地や各種資源を巡る争いも結果的に激化して戦乱が大規模化した。

 特に地球全体が寒冷化していた頃は燃料消費が増加傾向にあり、各地で平安の京都周辺以上に薪や炭が必要とされた。

 これにより山地の無秩序な乱開発や伐採が行われ、各地で水害が激増する事となった。

 農業以外では僅かにしか無かった万の研究資料より、山地の土壌流出や水害対策の植林の資料から各地で植林が推奨され、全国に普及するまでこれは止まらず、結果として水害に関連する強力な呪霊が各地で誕生する事態ともなった。

 結果、呪霊が大発生する事態が度々起きており、これに対応する形で呪術師の人口も増え、人手不足から非術師を利用する事も以前より増えていく。

 メロンパンからすれば結果的に万は死してなお呪いを世に満たすために役立ってくれた得難い協力者だった。

 なおこうした変化の結果、文明開化からの帝国主義全盛期の世界においては、工業力こそ英国に劣るもののそれ以外では島国の国力ランキング2位を誇る列強の一角となった。

 だが、明治政府が平安時代以来の呪術師の政府による統制を図ったものの失敗してそっぽを向かれた結果、太平洋戦争期においては米軍との戦闘以外で多数の呪霊・呪詛師被害を出す事になり、結果として敗戦の一因になったとも言われている。

 だが、飯ウマの因子は死滅しておらず、相変わらず狭い島国で戦中にも関わらず土地面積当たりの食料生産効率は世界一位のままだった。

 そして戦後においては、現代の呪術総監部による緩やかな統制と御三家の強権で成り立つ原作に近い制度となるのだった。

 なお、科学技術や衛生管理の手法の発達と国民の美味い飯を望む声により、世界の美食国家ランキングTOPをフランスと常に争い合う美食国家となっていた。

 

 そんな日本の基礎を形作る事となった二人が再会するのは平安の世から実に千年、平成時代になるまで待たねばならなかった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ふと目が覚めた様な感覚を得た。

 何の事はない、脳髄が前世の記憶を受け止めるだけの成長を遂げたお陰で思い出しただけの事だ。

 常人ならば物心付いた程度の頃合いだが、生憎と魂に関しては随分と異質だと自認済みだ。

 

 「呪力と術式・・・問題ないか。」

 

 目の前を飛んでいた蠅頭を分解してリソースとし、単なる飴玉へと再構成する。

 それを含んでカラコロと舐めながら、思考を回す。

 

 (部屋の様子から間違いなく現代、多分昭和最後期から平成半ば位か?良い時代に生まれたものだ。)

 

 かつて平安の世に転生し、万という名で美食と快適な生活を追い求めた呪術師はこの現代において再び転生したのだ。

 またも呪力に満ちた、平穏とはほど遠い世界である事は不満だが、前世での経験が役立つのは+とも言える。

 

 (家族構成及び家庭状況は完全に一般人。穏やかな一般家庭で助かった。少なくとも食うに困る事は無い。)

 

 前世では食うに困った時は術式反転でそこらの呪霊や呪詛師を分解してリソースにした上で食料に再構成して飢えを凌いでいた頃もあった。

 まぁその頃は術式の精度の甘さと知識不足もあって構築した食料はどれも不味くは無い程度のものだったので死ぬ気で修行する原動力の一つにもなった。

 

 「取り敢えず自宅周辺の掃除からだな。」

 

 またも飛んできた蠅頭をリソースにして今度は自分の呪力も合わせて蜂型の式神へと再構築、周辺の呪霊を狩り尽くすべく飛び立たせた。

 

 「おかーさんおかわりー。」

 「あら、今日はいっぱい食べるのねぇ。」

 

 戻ってきた母と共に昼食を取る。

 まだ保育施設に預けるには幼い自分を専業主婦の母はつきっきりで面倒を見ている。

 母が家事をしている時にはTVや新聞を見る事で詳細な社会情勢を確認していく。

 生まれたのは西暦1989年、昭和64年にして平成元年だ。

 前々世とほぼ同じ時期の生まれに歓喜しかない。

 いや、もう10年後の方がネット文化が花開いているだろうからそちらの方が嬉しかったか。

 兎も角として、既に通常人類の科学文明は大きく花開き、世界中で大繁栄している事は間違いない。

 学ぶべき事、学びたい事は数多く、更に平安では望むべくもなかった願いが生まれながらにして叶うのは望外の喜びだった。

 何れ国民であれば誰もが文化的で健康的な最低限度の生活を送る事の出来る権利を保障された時代へ至り、そこで穏やかに暮らす事。

 平安時代における大願が来世にて叶うとは・・・善行を積んでおいて正解だった。

 私の行動や呪術師の影響でどれだけの変化が起きているかは未知数だが、それを知る事もまた一興。

 私はこの時代においても精一杯生きていく事を改めて誓った。

 

 「粒来 万穂か・・・。」

 

 今世の名前、読みはつぶらい まほで性別は前世と同じく女。

 年齢は4歳で宮城県仙台市に在住。

 父はサラリーマン、母は専業主婦と極普通の一般人。

 そして東北地方でも随一の大都市にして人口密集地である事から呪霊と呪詛師には事欠かない。

 

 「とは言えまだ幼女。狩れる相手は小粒を選ばないとね。」

 

 先に作った蜂型の式神で得たリソースを用いて増産していく。

 現在の数は7体で両親に2体ずつ、自分の側に1体、近所を巡って呪霊狩りをしているのが2体だ。

 

 「さぁ折角念願の現代へ転生できたんだ。思う存分快適な生活環境を構築しようじゃないか。」

 

 万もとい粒来 万穂は呪術師らしく、幼女にそぐわない攻撃的な笑みを浮かべた。

 

 

 




【悲報】仙台市さん、またも特級がポップ【速報】

なお、その気になれば何時でも全盛期の肉体へと再構築できる模様。
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