皆さん毎度誤字報告ありがとうございます
ちょっとチートにしすぎたかな・・・?
2006年9月、呪術高専東京・京都姉妹校交流会 二日目 個人戦の部
対戦相手を決めるくじには事前に運営側から一つの細工がされていた。
呪術的に実力の高い者が後回しにされるという無害なもの。
これにより一方的な虐殺を可能な限り防ぐと共に、実力者を後回しにして試合会場を可能な限り無事に使い切るためのものだ。
例えば一番最初に特級同士がぶち当たったら、間違いなく試合会場≓校庭は滅茶苦茶になる。
なんだったら戦闘の余波で敷地内の全ての建物が消し飛ぶ可能性もある。
試合会場の整地どころか復興工事が必要な事態が普通に考えられるので、この様な仕組みが導入されているのだ。
結果、当然の如く五条と粒来は最後、その一つ前が夏油と直哉で試合が組まれた。
なお、非戦闘員や巻き添えを怖れた呪術師達は既に高専周辺から退避済みである。
何だったら呪術総監部もこの日ばかりは仲良く京都方面へ退避している。
残ったのは両校の学長と担任達、そして生徒達だけだった。
そこまでするより交流会中止したら?という意見もあったが、メロンパンの裏工作に反五条で一致した各派閥の意見もあって続行が決定された。
そうして午前中から始まった計5試合は大凡の予想通りだった。
第1~2試合は順当に東京校が勝ち、第3試合は冥冥が100万円で相手に買収されかけるハプニングが起きるも結局は「100万ぽっちじゃ足りないなぁ」と勝利を捥ぎ取っていった。
そして第4試合、夏油vs直哉では先日の星漿体護衛失敗から禄に強力な呪霊の補充が出来ていない所を更に消耗させられた事、任務失敗の件から精神面でのダメージが抜けていない事、何よりあの伏黒甚爾とよく似た顔立ちの直哉相手に気負ってしまった事から夏油は精彩を欠いていた。
一方の直哉は入学当初よりも術式の拡張に成功した上であっち側二人に良い所を見せようと気合い十分だった。
万穂と出会った当時と比べ、直哉は幾つもの壁を越えてきた。
投射呪法によるスタンで大気を板状に固定して1秒限りの足場にする事で空中も移動可能になっている他、対象を従来の視界内の指定した物質から視界内の全てにする事に成功している。
更に奥の手としてスタンして板状になった対象をページに見立て、集中線やスピード線、漫符の様な様々な表現を追加し、その描写通りに対象へと影響を与える。
ドーム状の結界に術式を刻む領域展開に比べれば消費は軽いし簡単だろうと仮定した万穂立案で厳しい修行を行い、遂に直哉が手にした新たな拡張術式である。
未だ領域展開や術式反転には成功していないものの、高専一年生で一級術師として登録されているだけの実力とセンスが確かにあった。
無数の呪霊、しかし格下ばかりで操る術師本人も精彩を欠いていては、最速の術式を更に先へと磨いている最中の直哉に勝てる道理も無かった。
亜音速戦闘機動に翻弄され、時に一撃を貰い、カウンターも決められず、最終的に夏油本人と呼び出した呪霊全てが直哉の視界に収められた時点で勝敗は決していた。
全ての呪霊と夏油が1秒スタンを食らったと同時、その全てに向けて直哉の渾身の黒閃が決まった。
親友の、学友達の前で何も出来ずに倒されてしまったという事実に、夏油の心には再び大きな罅が入ってしまうのだった。
「硝子、傑の事頼んだ。」
「任せな。」
「オレはちょっと本気で暴れてくる。」
「おう、行ってこい。」
「ナイス直哉。ちゃんと成果出せたね。」
「おう、万穂のお陰やで。そっちこそ気張り。」
「あたぼうよ。」
にっと少年らしい笑みの直哉とハイタッチを交わし、万穂は意気揚々とヤる気満々の五条悟の立つグラウンドに出た。
「よぉ雑魚女。用足しは終わったか?」
「・・・・・・・・・。」
ガラの悪いチンピラそのままの言葉に、万穂は言葉を返さない。
ただ静かに五条の呪力の変化を注視し続けている。
「爺共に貢ぎ物して取り入ってるって聞いたが、お情けで特級にしてもらった気分はどうだよ。」
「・・・・・・・・・。」
いらついている様に見える五条だが、その罵詈雑言の割に内面は静かだった。
ここまで愚弄すれば若い術師となればそれなりに動揺が呪力操作か肉体に出るのだが、万穂からはそれが一切無い。
本当に何も、微塵も反応がないのだ。
まるで人形と相対しているかの様な気分だった。
なお、観客全員が五条の発言にドン引きか怒り心頭だった。
夜蛾先生?勿論後者です。後で生徒指導な。
「んー・・・夏油傑か。」
唐突に万穂がわざとらしく顎に人差し指を当てて、独り言の様に呟いた。
「術式は強いし体術もそれなり。でも、根本的に呪術師への適性が低いね。あれじゃ駄目だよ。」
その言葉に、自分と並ぶ親友を愚弄する言葉に、五条悟は殺意と共に蒼を叩き込んだ。
(厄介だな、これは。)
その一撃を紙一重で回避し、続けてひらりひらりと呪力の予兆で不可視の筈の無下限呪術の順転「蒼」を回避しながら、万穂は思考する。
(分解で取り込もうとしたら、外側しか無理だった。中身まで分解しようとしていたら死んでいたな。)
無下限呪術とは本来至る所にあるという「無限」を現実に持ってくる術式だ。
術者の周囲に呪力で「無限」を具現化させる事であらゆる干渉を防ぎ時空間を支配するこれは攻防の他、移動も両立する凄まじく格の高い術式となっている。
その真価を最大限発揮するには原子レベルでの呪力の観測と操作を可能とする特異体質「六眼」の保有が必須となる。
そんな無限を六眼も無下限呪術も持たない者が分解して吸収しようとしたのなら、文字通り無限の情報量によって脳を破壊されてしまうだろう。
分解で出来る事は精々無限に纏わり付いている呪力の奪取による指向性の解除、これによる無力化しか出来ない。
無限そのものの解析は今すぐは無理だと割り切ろう。
(となれば、展延で殴るのが一番か。)
Q、相手が面倒なギミックを持ってますがどう対処しますか?
A、ギミック無視して真っ正面から物理で殴りましょう。付き合うな、持ち味を活かせ!
「蟲の鎧、展開。」
開始から僅か数十秒で、万穂は奥の手の一つを切った。
嘗て平安時代において、あの呪いの王両面宿儺を近接戦闘で圧倒した特級呪具を出したのだ。
「特撮もののつもりか?日曜朝にでも出演してろよ。」
蟲に酷似した大鎧が白衣を纏う姿に五条が吐き捨て、同時にその指先に赫い無限の光が収束する。
無限に「発散」の効果を付与することで小さな虚空を生み出し、その虚空を衝撃波として放つのが術式反転「赫」だ。
その閃光を蒼と同じく表層だけ分解し、呪力を奪取しようとし・・・伸ばした副椀の爪先が僅かに削れた。
(分解の処理能力を超えた?凄まじい出力と密度。さっきの蒼の倍近いな。)
蟲の鎧の機能の一つ、気門を用いた圧縮空気の噴出による高速機動によってSF染みた空中機動を披露しながら、万穂は詰め方を考えていく。
一応宿儺の伏魔御廚子を受けた時も、必中効果を無効化してもその無数の斬撃によってこちらの処理能力を飽和させられた事はあったが、一撃でこれは想定以上と言える。
ちなみに宿儺の「解」と「捌」だったら素の呪力防御である程度耐えられたりするがさておき。
(情報では領域対策はしていても、領域展開はまだ習得していない。ならばいけるな。)
方針は固まった。
故に全身の気門を一斉に全力噴射、ぶつかる音速の壁を大気を分解する事で無効化しながら突撃した。
(うっそだろオイ。)
一方、五条悟もまたこの高速戦闘の中で驚愕に包まれていた。
最強の無下限呪術と六眼の併せ持ちたる自分が、それも死に直面して覚醒した自分がこうも決め切れない。
その事実に驚きと、同時に楽しさが湧いてきた。
(あのゴリラ以来だな、こんなに死が近いのは!)
伏黒甚爾、嘗て自分を一度は殺した男。
それに近い、否、相手が手を抜いている事を考えれば、それを超えた実力者。
そんな奴とこんな場所で出会うとは!
(相手の術式反転、分解か。蒼は無力化、赫は僅かだが通る。)
なら、「茈」で消し飛ばせる。
「虚式「茈」。」
最速で最適解を導き、指先を音速を超えて向かってくる強敵へ向け照準し、放つ。
相手が見た事の無い呪力の出力と動きをしているが、それすら上から捻じ伏せるとばかりに紫色の極光が放たれた。
「蒼」と「赫」を衝突させる事により発生した仮想の質量を押し出す、最低でも蒼の倍の威力を持つ赫とすら比べ物にならない破壊力を持つ無下限呪術の奥義が衆目に初めて晒された瞬間だった。
(うん、計算通り。)
そんな絶望の具現を前にしてなお、万穂の反応はフラットだった。
コンマ数秒遅れれば塵一つ残さず消滅するしかない現状、即ち死が間近に迫った中で万穂は嗤った。
「天眼 五髻 北の極星」
上の副腕2本で掌印を結ぶ。
両掌を合わせる様に組み、中指だけを上に伸ばし、先端を触れさせる。
これは文殊菩薩の行法の時の印だ。
鍛冶・金工を司る天目一箇神を指す天眼、文殊菩薩の天真爛漫な性質を表す五髻(ごけい)、そして目的を達成するために困難へ挑み続ける精神性を表す北の極星。
「無の構築」
文字通り、無が広がった。
視覚的にはただ黒い、ひたすら真っ黒な球体が万穂の前に浮かんでいた。
一切進みも広がりもしない其れに、直進していた茈が命中する。
しかし、無はただ小揺るぎもせずそこに在り続けた。
何せ無である。
指向性を持たせて放とうにも、自らに掛かるあらゆる存在を無へと帰す其れにどうやっても干渉する事は出来ない。
ただ何者からの干渉も許さず、そこに在り続けるだけだ。
命中した茈とて例外ではない。
その強力無比な威力を解放する事なく、ただ無に触れ、消えていった。
「・・・!」
自らの持つ術式の奥義を初めて破られたと知った時、流石の五条悟と言えども刹那、精々が数フレームの動揺が起きた。
だが、それだけで十分だった。
万穂が無を迂回して至近距離での白兵戦へと踏み込むには十分な隙だった。
「ッ!」
それでも最強、流石は五条悟。
自身に不利な間合いに踏み込まれても尚、無下限を展開した上で体術でも攻撃を防ぐつもりで動き、
「何だ、これは見た事ないのか。」
領域展延を纏った拳が無下限の守りを貫き、防御の上から突き刺さった。
捌き、反らし、受け止めても、圧倒的筋力と手数で放たれ続ける打撃の豪雨を前にしては一応人類の五条にも全てを対処しきれず徐々にダメージが入っていく。
6本の腕による猛烈なラッシュは一撃一撃が並みの特級呪霊を即死させる威力を持っている。
格上の得意とする距離で、その全ての攻撃を防ぎ切る余力はこの時代の五条には未だ無かった。
「っぁぁぁぁ!!」
無下限術式、解除。
脳にかかる膨大な負荷を反転術式で無視したとしても、肝心要の処理能力を圧迫している事に変わりは無い。
どうせ無効化されるのなら、術式無しで呪力強化に全振りして近接に専念する方が遙かに勝率がある。
「判断が雑。」
だが、そんなものは想定済みだ。
無下限が解かれたと同時、蟲の鎧の正面装甲が爆発、無数の破片となって放たれた。
呪力による発動ではなく、呪力が込められた素材なだけで単なる物理的な機能でしかないギミックを、六眼は見逃していた。
至近距離から放たれた1000近い破片の雨を防ぐ手段もなく、五条の身体を無数の破片が切り刻んだ。
それでも六眼だけあり、呪力防御に加えて咄嗟に両手を交差して顔面を守り切る。
だが、それは余りにも無防備だった。
ずぶりと、五条の腹に歪な形の短刀が突き刺さった。
つい先日五条を一度殺した男が持っていた天逆鉾、そのコピー品だった。
その効果は術式の強制停止という強力無比な特級呪具の一角。
これにより術式の行使は不可能となり、無下限呪術は使用できない。
「経験不足と自信過剰だ。」
先の件からの動揺と術式の停止のダブルパンチに僅かな動揺が起こるも、それでも呪力による身体強化を目一杯回して反撃に転じようとする五条。
だが、ダメ押しとばかりに更に2本の天逆鉾が右肩と左太股へと突き刺さり、同時に全身へ呪詛師拘束用の注連縄が巻かれていく。
完全に勝負は決まっていた。
「勉強代を貰うぞ。」
「がぁ!?」
五条の左の眼窩へと指が突き入れられ、その世に二つしかない六眼を掴み・・・
「丁度欲しかったんだ。悪く思ってくれていい。」
ぶちぶちぶちと、視神経ごと引きずり出した。
「がああああああああああああああああ嗚呼ああア亜アッ!!」
瓦礫だらけとなったグラウンドに、五条の絶叫が鳴り響いた。
余りの破壊規模、余りの凄惨な光景に退避していた周囲の呪術師達も顔を青ざめさせた。
「ふむ、これが六眼か。」
抉り出した眼球を宝石を見るかのように掌に乗せてころころ転がしながら、万穂はほうほうと品定めしていく。
「良いな。申し分ない。」
検分を終えたと同時、六眼を分解し、己の中へと取り込んだ。
また周囲に飛び散った大量の五条の血肉も同じく副腕で集め、極めて貴重なサンプル兼リソースとして分解し、取り込んでいく。
「よっと。」
衝撃の余り誰もが何も言えないまま、万穂は更に凄惨さを上塗りしていく。
ぶちゅり、と今度は素手で自分の左目を抉り、眼球を握り潰したのだ。
「ふむ・・・よし、遺伝子と血液型とサイズ変更完了。」
そして、あろう事か空いた左の眼窩へと手を当てて、
「構築、完了。」
そこには、新たな六眼が存在していた。
「ありがとう、五条悟君。今後の研究のために丁度分解能の高い観測機器が必要だったんだ。お陰で助かったよ。」
にこやかに、まるで落としたハンカチを拾ってくれた人へお礼を言うかの様に、粒来万穂は五条悟へと感謝を示した。
「、て、めぇ・・・!」
「安心してほしい。君の身体はその眼を含めてちゃんと治療するよ。明日には元気に登校できる。」
だから、今はお休み。
それだけを最後に告げて、万穂は五条の意識を刈り取った。
翌日、言葉通りに五条が元気に起床した時、既に京都校の生徒達は京都へと帰った後だったという。
これが「六眼違法コピー事件」、後に最悪の姉妹校交流会と言われる2006年度姉妹校交流会で起きた事件の顛末だった。
無・・・世界斬対策。世界をページの様に切ってくるなら全て消し去ってやるわ!
六眼コピー・・・研究進めるために分子レベルでの呪力の観測・操作が必要だったから
五条の血肉・・・無下限対策に必要だから
勿論大問題になります。