2、3時間も歩けば、町に辿り着いた。
町といってもそれほど規模が大きい町ではないようだ。
木の柵で囲われているが、仰々しい門があるわけでもない。
すんなり中に入れたので、まずは泊まれるところを探そうかな。
村でやったのと同じように、適当な人を捕まえて聞いてみる。
さすがに宿屋はあるようだ。
早速部屋をとり、亭主にも話を聞いてみる。
この規模の町では武器屋や防具屋といった取り扱いはないようで、鍛治師で装備を見繕うらしい。
大きめの雑貨屋でも多少取り扱っているようだが、メインは買い取りで欲しいものがあれば鍛治師がいいと勧められた。
革製品も取り扱う工房といった出立で、町の規模に比して大きい。
主はこれぞ異世界といった様相の、髭面筋肉ムキムキチビ爺さんだった。たぶんドワーフだよなこの人。
「初顔だな。何が欲しい」
「色々欲しいんですけど、まずはこの剣の手入れ用具。片手で扱える短い得物とナイフ。それと槍。防具も欲しいんですが、こっちは詳しくないのでお勧めとかあれば嬉しいです。この予算でどこまで揃えられますかね?」
「ああん?これだけじゃ全然足りんぞ。剣があるなら防具優先だろ。防具は革製、兜は銅製。盾は木製ってところだな」
「なるほど。革製の動きやすさを重視した最低限だとどうなりますか。兜は視界が狭まるので今回はいいです。盾も使い慣れてないので要らないかな…」
「それなら、ショートソードとナイフ、もしくは槍のどっちかはつけてやってもいいが。手入れ用具はまけといてやる」
「助かります!なら、槍の方で。稼いだらまたお世話になりますね」
「身を守るものに妥協してちゃ、長生きできんぞ。出来損ないのナイフもつけてやるから、精々がんばって稼ぐんだな」
口は悪いが優しい主に礼を言って装備を購入した。
所持金がガクンと減ってしまった。まあ槍があれば稼ぐことはなんとかなるだろう。
雑貨屋ものぞいてみた。盗賊の言っていたポーションも置いてあったが、たっけえ。
患部にかければ異世界不思議パワーでみるみる傷が塞がるとのことらしい。是非一つは手元に置いておきたかったが今は手が出せない。
今日くらいはゆっくりしようと思っていたが、すぐにでも稼ぎにいかないとまずそうかな…。
薬は諦めて安い服などの日用品を揃えた。
町だけあって、村とは違い討伐依頼も複数でていた。
だが、どれも町をでて少々歩くことになるらしい。
この辺の地理も把握できていないし、対象を探すために調査も必要になる。陽が落ちて帰れなくなってしまったら死にかねない。
ここはダンジョンに行ってみるべきか。
幸いこちらは町にかなり近い。
普通はソロで挑むような場所ではないらしいが、運が良ければ宝箱から色々なものが手に入るそうだ。ゲームっぽい。
俺ならドロップでの稼ぎも期待できるだろう。倒せるならば。
行くだけ行って無理そうなら即撤退って感じで。
槍を担ぎ直してダンジョンに向かった。
教えてもらった道の通りに進めば、ダンジョンらしきものはすぐに見つかった。
黒い扉のようなものが宙に浮いている。なにこれ怖い。
めちゃくちゃビビりながら黒い空間を潜ってダンジョンに侵入した。
通り抜ければ、そこは唐突に広い洞窟のような場所に繋がっていた。
振り返ると、入り口と同じ黒い扉がある。
全体的に謎のぼんやりとした明かりで光源が保たれている。
上下にも広い空間のため、槍の取り回しには苦労しなさそうだ。
ダンジョンには階層があり、深ければ深いほど魔物は強力で宝の見返りも大きいそうな。
逆に言えば低階層なら魔物もそれほど強くない。ソロでも慎重にやればなんとかなるだろう。なんとかなるといいな。
感覚を強めながら、少しづつ歩を進めていった。
しばらく進むと、動く物陰を捉えた。嗅覚には覚えのある匂い。
岩陰に潜み様子を窺うと、そこにはゴブリン達がいた。3匹。
チュートリアル的な配置でありがたいことだ。3匹ならなんとかなるだろう。
ほうっと一息をつき、こちらへ歩いているゴブリンを監視する。
奴らも嗅覚がいいようで、時折立ち止まり辺りを見回すような動きをしている。目はそれほど良くないことは、森での戦いで確認している。
だいぶこちらへ近付いた。飛び込めば槍の間合いにはいる。
ここまで近寄れば俺が近いこともわかったはずだ。立ち止まって辺りをキョロキョロする数が増えた。
3匹ともこちらへ背を向けた状態になった。オマケでもらったナイフを投擲。こちらから見て一番奥側の獲物。
突然目の前の同胞の後頭部にナイフが突き立ったのをみた2匹がギョッとする。
岩陰から踊りだし、素早く槍を手前のゴブリンの首に突き立てる。
最後の1匹がこちらへ振り返る頃には、既に手元へ引き戻した槍が振り返ったゴブリンの喉元を捉えていた。
崩れ落ちた死体の側に銅貨がドロップする。
できれば死体は消えてくれる仕様だと嬉しかったんだが。
そこまでゲーム仕様ではなかった。
1匹が短い棍棒を持っていたのでいただいておく。
槍だと間合いが長く取れて楽だ。相手の数にもよるが、先手を取れれば問題にならないだろう。ナイフを回収しながら戦闘結果を振り返っていた。
と、奥から物音が響いた。感覚を強める。
ゴブリン。鳴き声を上げながらこちらへ向かっている。
物音と、血の匂いで気付いたかな?数は…おそらく4。
死体を引きずって纏める。
死体に群がった時に背後を取れるような岩陰に再び身を潜めた。
息を潜めて待っていれば、死体を発見したゴブリン達が足早に死体に群がった。コイツらは共食いもするらしい。マジでキモい生き物だな。
ぎゃっぎゃと騒ぎながら死体に齧り付く。その背後に音を立てず忍び寄り、槍を突き刺して回った。
銅貨を回収すれば再びゴブリンの気配。おかわりがきた。
今度は3匹だった。これだけ同族の死体があれば警戒されても仕方ないと思ったが、どうやら食欲優先のようで同じ手口で狩ることができた。
入れ食い状態で、繰り返すこと数度。
たまに警戒からか、死体に食い付かず立ったままの個体も現れたが、問題なく槍の餌食になった。
棍棒を転がしておけば、死体に食い付かずともそちらを拾おうと身を屈めるので隙だらけに変わりはない。
中途半端に知恵があっても楽なもんだ。血の匂いが強すぎるのか、俺の匂いに気付きそうなヤツもその後現れなかった。
おかわりが来なくなったので先に進んでみると、また黒い扉のようなものを発見する。
先の階層に進めるのか、もしくは非常口?試しに潜ってみると、またしても洞窟が続いている。どうやら先の階層らしい。
うーん。なんかいけそうな気もするが。
ただ無理することもないよなー。どうしよう。
一階層はほとんど分かれ道もなかった。帰り道は把握できている。
血の匂いを辿ればいいので簡単だ。
奥に進むのは、一階層を回りきってからにしようか。俺はRPGでマップをくまなく埋めるタイプだった。宝箱の取り逃がしとか悔しいじゃん。
けっこうな稼ぎにもなったことだし、今日はこれで退却するとしよう。
そのまま無事ダンジョンを脱出し、陽が落ちる前に町へと戻っていった。
宿の食事は村よりだいぶマシなものだった。
シチューには肉もたっぷり入ってる。たぶん羊?味は悪くない。
日本の食事が恋しいが、これくらいの飯ならなんとかやれそうだ。
陽が落ちてしまったので、装備の手入れをするのに灯りが必要だった。
亭主に金を払い、湯も一緒に注文する。
身体を清めたら洗濯と装備の手入れ。帰り道でも遭遇したが、剣は結局抜かなかったな。槍は強い。突いてよし、斬ってよし、払ってよし、叩いてよしだ。
整備が終わればできることもないので早めに床につく。
寝ながらステータスを眺めれば、レベル2に上がっていた。
経験値効率の高い俺があれだけ狩っても2ってことは、レベル上げはけっこうしんどいらしい。
体感では若干強くなったような気がしないでもない。気のせいといえば気のせいと言えるかも。狩ってる時に、おや?と感じた時には上がっていたのでおそらく強くなってはいそうだけど。
なんというか、調子のいい時の動きみたいな感じ。
妙に調子が良く感じたので、朝から歩きっぱなし戦いっぱなしでも疲労をほとんど感じなかった。
明日はもう少し早く切り上げることにして、朝一番から動くようにした方が良さそうだな。
だいぶ稼げたので、取り回しのいいショートソードも買えるだろう。
投げる専用のナイフも複数購入したい。
心地よい疲労感の中、明日の予定を考えながら微睡んでいるうちに意識は薄れていった。