百八十度ノ魔女裁判   作:ミズハ

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著名人

 (ようやく掃除が終了した。かなり埃が溜まっていたが、これで問題ないだろう……私の割り振られは二段ベッドの上だから、生活において無駄が多い。エマの分のベッドをどうするかは、ゴクチョーに確認しておくとしよう)

 

 私は自室の清掃を終えて、牢屋敷に来る以前からの習慣である、日記制作に取り掛かった。

 なぜかユキに渡したはずの万年筆が胸ポケットにあったので、字を書くために形見とも言える思い出のそれを使用している。

 

 【牢屋敷生活三日目。

 

ようやく懲罰房から解放された。他の囚人ともある程度の交友関係を築けたと言えるだろう。記憶から抜けない内に、現在判明している少女たちの魔法をここに記載し、確認しておくことにする。

 

メルルの『治癒』

シェリーの『怪力』

ノアの『液体操作』

アンアンの『洗脳』

アリサの『発火』。

 

他の少女たちの魔法が判明した場合は、この場所に書き加えておく。】

 

 美しい、正しい書き順で文字を書いている間に、思考を整理していく。

 

 (……おそらくは、マーゴの魔法は直接戦闘には向いていないことが推測できる……だが彼女は聡明だし、演技の可能性もゼロではないか。とはいえ、ある程度魔法の情報は判明してきたな。あまり考えたくはないが、万が一殺し合いや、裁判になった際に推理のための情報源になる)

 

 次に考えることは、今後の展望について。

 

 (ここからの私の行動だが……)

 

 (本来ならば魔法の情報は全員に共有されるべきだと思うし、それが正しい行動だ。

しかし、現在の状況下ではそれは悪手と言える。)

 

 (まず私は少女たち全員の連絡先を知らず、そのための交換の提案もやりづらい立場にある。それに加えてレイア達のグループが中心となって主導権を握っている立場であるために、情報の優位性まで渡したくはない。)

 

 (魔法を全員に共有した場合、レイア達のグループに属していない私、シェリー、ミリア、ハンナ、ナノカにおいてはデメリットが大きすぎる。平等な状況でないのならば、うかつな行動は正しくない。また、他に私個人として少女たちと交流を深める手段は持っておきたい……策を考えておこう)

 

「……そろそろ夕食の時間か」

 

 長々とした思考を整理し終わった私は、日記を書き終わり閉じた。

 自室から出て、食堂に向かうことにする。

 

 食堂への階段へと向かう途中で、遠くからブンブンと手を振るシェリーと合流することができた。

 

 「あ!ヒロさーん、ナノカさんに会えましたよ!」

 「ご苦労、シェリー」

 「上から目線でありがとうございます!」

  「これまでなにかを教える立場が多かったものでね。……ナノカの様子はどうだったのかな。また銃で撃ち殺されそうになるのは、勘弁しておきたい」

 「あんまりお話をしてくれませんでした。ヒロさんへの衝動は我慢すると言ってましたが……まあ、食堂でもお話しなければ大丈夫でしょう!」

 「ありがとう。……先行きが不安だが、どうにかナノカと接触してしまった際には、刺激しないようにしなければならないな」

 

 とはいえ遠慮をして食事を取らないという選択肢は、元から私にはありえない。

 話をしているうちに食堂に着いたので、中に入る。

 

 同じテーブルに既にレイア、ココ、アンアンが揃っていたので、声をかけながらつかつかと、歩み寄った。

 

 「レイア、少しいいかな」

 

  皆の注意を引くように少し高めでの呼びかけに、レイアも同程度の声量を返してくる。

 

 「ヒロくんとシェリーくんか……ノアくんの件だね。既にアンアンくんから話は聞いているとも。明々後日の打ち合わせをしておこうじゃないか」

 「話が早いようで何よりだ。皆がノアに感謝をしているのは分かるけれど、これは正しくない状況だ。塗料の匂いが気になる少女もいるだろうからね」

 「耳が痛いね……実はアンアンくんも気にしていたと知って、私も配慮不足だったと自分の行動を反省している所だったんだ。ヒロくんの行動力で状況が改善されるというなら、私には願ってもないことだよ」

「レイアにそう言ってもらえると、私としても助かる」

 

 王子様のような微笑みを浮かべるレイアは、状況の変化を喜んでいるようだ。

 ここで皆のまとめ役であるレイアに拒絶された場合が面倒だったので、私からすれば本当に助かったと言えるだろう。

 

 【もう少しだけ、わがはいの体調とわがままに付き合ってくれ。三日後の朝食にわがはいと、ノアと、レイアと、ヒロで話をする。わがはいとノアは友達だから、ノアも少しは言うことを聞いてくれるはずだ】

「いいとも!アンアンくんの提案を受け入れようじゃないか!ノアくんの芸術の才能は、芸能人の私から見てもかなりのものがあるからね!のびのびと絵を描いてもらいたいものだし、なんとかいい落としどころを決めてみせるとも!」

「二人とも、問題がないようだね。では三日後の朝ということにしよう」

 

 私が話を締めくくろうとすると、シェリーが唐突に話に入ってきた。

 空気を読まない言動は、いつものことではあるのだが。

 

 「レイアさん、良い読みをしていますねー!実はノアさんの正体は、あの『バルーン』なんですよ!本人に聞いたんですから間違いありません!」

 

 シェリーの爆弾発言に、話をしていた少女たちが一斉に黙り、食堂がしんと静まり返った。

 

 『バルーン』は有名なストリートアーティストで、気ままに、様々な所にスプレーで芸術作品を描き、その作品には億単位の値が付くと言われている。

 少なくともSNSに触れているのならば、その名を知らぬ者はいないだろう。

 

 一瞬の間を置いて、わっと、歓声のようなものが集まっている少女たちの間から湧き出した。

 

 「あのバルーンがこの牢屋敷にいやがりますの!?しかもその正体が、ノアさんだったなんて!」

 「マジで……!?ノアっち、そんな超大物だったん!?頼んだら後からサインもらえるかな!あてぃし、コラボしたい~!」

 「ふふーん!大スクープですよね!でもこれは間違いない情報なんです!夕食前にも少し見たんですけど、ノアさんの絵は、とてもすごいです!」

 

 シェリーに集まる少女たちに対して、シェリーはどこか得意気な様子だ。

 とっておきの情報を自慢したいのだろう。

 止める者のいない、ノアの話題を中心とした、和気藹々とした空気が食堂に広がる。

 

 (明々後日の話し合いとは別に他の少女たちのストレス緩和のための提案をしようと思ったが……こうなってしまったからには明日の朝食までもちこしか。それに、怖がられていたシェリーが少しでも皆と距離を縮め、交流できる機会がきたと考えるのであれば、悪くはない。ここは邪魔をしないでおくことにしよう)

 

 私はシェリーと少女たちから離れ、メルルの近くに座る。

 メルルは他の少女と違い、『バルーン』の人気に戸惑っているようだった。

 とはいえシスターの囚人服が似合っており、治癒の魔法も使えるメルルならば、求道者のような生活をおくっていることに違和感はなかった。

 

 「少し騒がしくなってしまったが、私たちは食事を取っておこうか」

 「ひ、ヒロさん、そうですね……」

 

手を合わせ始める私に、熱気についていけずおどおどするメルル。

 

(レイア達との約束の日程が決まったし、特に問題はない。食べるとしよう)

 

私はいつもより騒がしい食堂内で、黙々と食事を取り続けることにした。

 

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