百八十度ノ魔女裁判 作:ミズハ
私も登場人物全員好きなこともあって進みが遅いですが、なんとかゆっくり進めます。
「あ、ヒロさーん!お疲れ様です!結局ヒロさんに悩みを相談してきた方は居たんですか?」
メルルと共に食堂に向かう途中で、シェリーと合流した。
大きく手を振りながら、こちらにかけてくる。
シェリーはいつも通りの呑気な表情だったが、私とメルルの雰囲気を見て異変に気付いたらしく、おずおずと切り出してきた。
「……もしかして、何か良くないことでもあったんでしょうか?シェリーちゃん、とっても気になっちゃいますね!」
「医務室の睡眠薬が盗まれた。メルルが数回確認したから、間違いない情報だ。廃棄しようと思ったほど、強力なものだそうだ」
苦々しく吐き捨てるように語る私とは対照的に、シェリーは瞳を輝かせた。
「おおー!ついに殺人事件が起こるんですかね!?高まりますねー!」
楽し気な表情にカチンとくる。
私としてもシェリーの性格は熟知しており分かりきっていた反応だったが、それでもどうしても苛立ってしまった。
「……シェリー。私はきみの欠点以上にきみの魅力を知っている。しかし、他の牢屋式の少女はそうではない。……このままでは、ずっときみは他の少女達から悪印象をもたれたままだぞ」
「えー!ひょっとして、口説いてくれてます?照れますねえ!……大丈夫ですよ!今日色々な所に行ったんですけど、既に私、みなさんからかなり嫌われてるようなので!」
私が忠告しても、暖簾に腕押し。シェリーはずっと、どこか他人ごとのようだった。
(まずいな……私は信頼回復のために行動しているが、シェリーはその気配がない。結果、原因の私の方ではなく、最初に、悪印象を持たれてしまったシェリーだけが孤立してしまっている。一番の問題は、当事者のシェリーがそれを受けいれていることだ。結局は本人が改善するつもりがないのなら、どうにもならない)
「もうすぐ夕食ですし、食堂のみなさんに報告しに行くんですよね?ヒロさん、メルルさん、行きましょう!」
難題に頭を抱える私を放っておいて、シェリーは先に食堂に踏み入ってしまった。
私とメルルは食堂に入り、食堂で睡眠薬の紛失を告げた。
疑心暗鬼が起こる可能性があるので苦渋の決断だったものの、事件が起こる可能性が出てきたために、秘密にしておく選択肢は私にはなかった。
案の定、少女達の表情は蒼白だった。
「それは本当なのかい、ヒロくん、メルルくん?なにかの間違いということはないだろうか」
「厳重に保管していたそうだし、数回確認したらしいからその可能性は低い……とはいえこんな環境だ、眠れないことを理由に強力な睡眠薬を欲しがる理由自体はあるよ」
私は皆を安心させるために、微笑を浮かべて見せた。
(我ながら無理がある言い分だ……だが、互いが互いを過剰に疑い出すと、この出来事が逆に殺人の火種になりかねない。とはいえ、全く無警戒なのもまずい……このぐらいの主張にとどめてしまうのは、仕方のないことだろう)
案の定私の言い分は少女たちに受け入れられなかったようで、少女たちの表情はどこか暗い。
どこか楽しそうなのは、シェリーとマーゴくらいだ。
「皆、この状況下で不安に思うのはよく分かるが、ヒロくんの言う通りだ。神経を張り詰めたままにしすぎる必要はないよ」
「……私は明日からしばらく牢屋敷の見回りをすることにする。勿論スマホでの相談はいつでも歓迎のままだ、安心して欲しい」
「何も、起こりませんわよね……大丈夫、ですわね……?」
「よしよーし、大丈夫だよハンナちゃん、おじさんがついてるからね」
ミリアが優しくハンナの頭をなでている。
場はざわめいたままだが、レイアと私の発言によって少し少女たちは、気を取り直したようだ。
(あいにくだが、私はこの状況下でおとなしく待っているほど甘い性格はしていない。……誰かが殺人を企んでいるとするのならば、阻止させてもらおう)
夕食を食べ終わった私は、心に炎を灯し新たに決意を固めていた。
翌日の朝食時、皆が食事をしていると。
「……!」
「優等生、じろじろ見るな。ウチは見世物じゃねえぞ」
アリサがふらつきながら懲罰房から帰ってきた。汗を体中にかき、肩で息をするほどに憔悴している。
アリサは目立った肉体の負傷はないものの、懲罰房で拷問を短期間の間に二度受けたことにより、かなりまいっている様子で血走った眼をしていた。
「ゴクチョーから事情は聞いた。……ウチがいない間に、ずいぶんとやっかいなことになってるみてえじゃねえか」
「……まだ、眠れない少女が原因の可能性はある」
「二階堂も、本当はそう思っていないんだろ?もしこの中の誰かがウチを襲ってくるならいつでもそうしろ……!返り討ちにしてやるからな!」
アリサの粗暴な口調と振る舞いに、食堂の少女たちの表情も更に暗くなっていく。
昨夜レイアと私が疑心暗鬼の危険性を忠告したにも関わらず、気づけば少女たちは互いが互いの心の奥底を測るように、伺い見ていた。
(まずい……食堂の雰囲気は最悪だ。それに、今のアリサは本当に返り討ちにして殺害を犯しかねない危うさがある)
「アリサ……反撃はいいが、殺害まではしないでくれ。誰もきみを裁判で処刑など、したくないのだからね」
「ふん、どうだかな……!どうせ最初から、ウチなら人を殺しかねないって思ってるんだろ!」
私は思わず唇を噛んだ。
せめてもの私の説得も、拷問の影響でフラフラとしているアリサの耳にはあまり届いていないようだった。