百八十度ノ魔女裁判   作:ミズハ

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地下の捜査

 事件現場に何かの燃え跡があったので、私は手がかりを求めて地下1階の焼却炉室に来ていた。

 

 「……チッ」

 「出会うたびに舌打ちをするのは、正しくない」

 「うるせえよ優等生、ウチの勝手だろ」

 

 残念ながら、先客の不良少女には良い顔をされなかった。

 

 (……アリサにとってはこれが平常運転だろう。相当気が立っているようだが)

 

 アリサは先ほどレイアと揉めて周囲から不信がられたこともあって、かなり神経を張り詰めさせてピリピリとさせているようだった。

 

 「……二階堂がここに来るってことは、炉の中身が気になったのか?」

 

 とはいえ捜査状況が気になるのか、チラチラとこちらを見る様子は紅い瞳も合わさって、小動物のウサギのように感じられる。

 

 (……それでも私の動向には興味があるのか)

 

 「それもあるんだが……現場に小さな何かを燃やした跡が発見されてね。その手がかりがこの炉にあるかもしれないから、足を運んだ」

 

 「……!」

 

 よほど衝撃的だったのか、アリサは体をビクンと震わせて私の発言に分かりやすく動揺している。

 少しの間が空いて、改めて聞いてきた。

 

 「……それは、マジなのか」

 「本当だよ」

 「……」

 

 (……なにを悩んでいる……?)

 

 アリサは黙り込んで、なにやら挙動不審に葛藤しているようだった。

 私はアリサがそのような仕草をしている様子に最初思い至れなかったが、すぐに気が付いた。

 

 (ああ、そうか……考えてみれば、単純なことだった。アリサは私がゴクチョーからアリサの魔法を聞いたことを知らないのか。とはいえ、悩んでいるようだがこの場で打ち明けてくるとも思えないな。それよりも、私は正しい行動をしなければ)

 

 アリサを放っておいて焼却炉に近づく。中身を覗くと、少女たちの捨てられた私物が乱雑に捨てられているようだった。上の階で脱衣所で捨てられた服が、ここに落ちてくるらしい。

 

 「確か土曜日に、自動で中身が焼却される仕組みだったな」

 「……そういえば、ウチらが来てからまだ一週間たってねえのか。中身は燃やされてないみてえだ」

 「……なるほど。一応証拠が残っているかもしれないから、写真を撮っておこう」

 

 (……時間で機械が作動する仕組みのようだ。そもそも、まだ一度も稼働していない。どうやらここから火を持ち出すことは、不可能のようだな。それにしても……)

 

 「……きみにそこまで嫌われる覚えはないのだが」

 

 用事が済んだ後も、アリサは殺意すら感じる眼差しで、私を睨みつけ続けてくる。

 流石の私も、少し呆れるほかなかった。

 

 「先ほどの件がなくとも、きみは第一発見者だ……疑われる立場だろう。そのような態度のままでは、裁判で孤立するぞ」

 「ラウンジであんな発言をした二階堂に言われたくねえよ……余計なお世話だ……!蓮見が嘘をついてるのは分かってる。ウチがあのいらつくツラを暴いてやるよ……!」

 

 指を鳴らすアリサは、シンプルに怖い。年頃の少女にとっては中々に刺激的だった。

 

 (……ハンナがこの場にいたら、泣き出すかもしれないな……どうやら、このまま居続けていても、八つ当たりされるだけのようだ)

 

 私が立ち去ろうとすると、アリサが小さく呟く。

 

「橘は部屋でよく、ウチに話しかけてきた……しつこいと怒鳴っても、何回も。

ウチはいつも、あいつのことはニヤニヤ笑ってる、気持ち悪い奴と思っていたけどよ……それでも、殺されていいような奴なんて、思ったことはねえよ」

 

 「……」

 「……あいつと一緒に暮らすのは、嫌いじゃなかった」

 

 黄昏れた様子のアリサを置いて、私は静かに部屋を出た。

 

 私は焼却炉から、そのまま手がかりを求めてシェリーの部屋に向かう。

 シェリーとアリサの部屋は、焼却炉室を出て目の前だ。

 中に入るとその場にはレイアとノアがいて、私を発見すると笑顔で駆け寄ってきた。

 

 「あ、ヒロちゃんだ!」

 「ヒロくんも、捜査中なのかな」

 

 向日葵のような満面の笑顔を見せるノアと、一枚の絵そのもののように微笑み続けるレイアの様子は相変わらずだった。

 

 「……二人とも、捜査はいいのか?」

 「自室でショックを受けているノアくんを発見してね。私はいても経っても居られなかったんだよ……それに向かい側に、アリサくんがきたから、私たちは動けなかった」

 「シェリーちゃん、死んじゃった……いっぱい、ノアの絵を褒めてくれたのに……!」

 「ノアくん、悲しむのは当然のことだ。悲しいのならば、いつでも私に頼ってくれたまえ。私が胸を貸してあげよう」

 

 こらえきれずに泣き出したノアの背中を、レイアは優しく撫で続けている。

 

 (……そういえば、シェリーが私の次に親交があるのはノアだったな)

 

 ノアもまた、シェリーの死にとてもショックを受けている人物の一人に見えた。

 

 私の目の前でノアは泣き続けていて、言葉も出せずまともに会話ができないほどだ。

 見ていられなかったのだろう。レイアが少し気まずそうに、躊躇いながらも私に声をかけてくる。

 

 「すまない、今はそっとしておいて貰って構わないだろうか。ノアくんが不安定で、ずっとこんな様子なんだ」

 「……そうだね。この部屋には、特に手がかりはないようだ。一応確認するが、すぐに失礼させてもらうよ」

 

 私は最後に、シェリーの部屋を少しだけ見回っていった。

 

 (なぜだろうな……意外にも、あまり私物がないシェリーの部屋のことを、今はとても彼女らしいと思えるのは)

 

 最後の会話で、シェリーがほんの少し見せた自己嫌悪。

 人を殺したことがあるという発言。

 私の脳裏にはあの時の後悔と共に、衝撃と向けられた殺意が未だに残り続けている。

 

 結局、シェリーの謎は謎のままだった。

 

 (……シェリー)

 

 「大丈夫かい、ヒロくん」

 

 レイアが、ノアを慰めながらも心配そうに私を見つめてくる。

 

  「ヒロくんも、だいぶ参っているようだ。ノアくんと同じく、それも当然だと思う。今の君は周りの人間を疑うばかりで私の声は届かないかもしれないけれど、私が犯人を突き止めてみせる。頼りにしてくれたまえ」

 

 「ああ、きみには期待しているよ、レイア。きみのことはずっと、私は心の奥底で優秀なリーダーだと思っている」

 

 レイアに笑顔を向けた私に、レイアは意外そうな、しかしどこか照れたように頬を赤らめた表情を見せた。

 

 「本当かい!?それはとても喜ばしいよ!」

 「もちろんだ……邪魔をしたようだ。失礼するよ」

 

 (意外だったよ……きみはそんな顔もできたのか、レイア)

 

 泣いているノアと嬉しそうなレイアを置いて、私は部屋を去った。

 

 

 私は部屋を出た後に、監房の中央付近にあるゴミ箱の中と、その付近の写真を撮っておいた。

 

 (後捜査すべきところは……想定では、もしかすれば、2ヵ所程でいいかもしれない。とはいえ、証拠が見つからない可能性もあるし、新たな証拠を発見できる可能性もある。時間に余裕を持たせた方がいいだろう)

 

 私は止まらずに歩みを進めていった。

 

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