百八十度ノ魔女裁判   作:ミズハ

19 / 19
二階の捜査 捜査終了

 「ヒロっち、どしたん?そんな睨むなし。キモッ」

 

 私が食堂を訪れると、椅子に座ってテーブルに額を密着されたココを見つけた。

 本人の事前の発言通りどうやら本当に捜査をサボって、だらけているらしい。

 

 (最初からココの推理に期待している訳でもないし、別にいいが……)

 

 それでもどうやら知らず知らずのうちに、非難の眼差しで見てしまっていたようだ。

 何かを察したのかココの口からは、私への文句が溢れるばかりに出てくる出てくる。

 

 (逆に才能すら感じるな……よく悪口をこれだけ思いつけるものだ)

 

 私はおさまらないココの悪口を遮って、食堂に来た理由を話すことにした。

 

 「事件現場で燃え跡が見つかったから、何か食堂に火元の手がかりでもあるかと思ってね」

 「だるー。看守の目を盗んでとか、そんなの無理っしょ」

 

 私が厨房を見ると、看守が料理を作っている最中だった。

 黒い手を器用に使ってフライパンを持ち上げている。

 料理をしながらも、看守は周囲の警戒を怠っていないのか鎌を器用に持ち続け、手から放していなかった。

 

 「……どうやら、そのようだな」

 

 (これ以上の手がかりを得るのは、難しいか……?だが他に心当たりはない。謎の究明はしておきたいが……)

 

 悩んでいた私の耳に、鳥の羽ばたく音が聞こえてきた。

 

 「うげっ」

 「おや、ココさんに、ヒロさんではないですか。かわいそうに……一生懸命頑張って捜査しているみたいですね。」

 

 青ざめるココを横目に、ゴクチョーが私たちの目の前に降り立った。

 

 「……私は今とても必死で機嫌が悪い。冷やかしなら帰ってくれないか」

 「そう睨まないで下さいよ。反抗的なのは困りますねえ」

 「これでも規則や規律には厳しい人間だから、言われなくともルールは守る。そもそも私は今死ぬ訳にはいかない」

 「それならば、面倒事が少なくて済みそうでけっこうです。……ただでさえ最近食堂で問題が起こっているので、あまり私の手を煩わせないで下さいね」

 

 (問題……?ゴクチョーの苦労話はどうでもいいが……少し気になるな。一応、聞き出しておこう)

 

 「それで、問題とはなんだ?」

 

 「いえですね、最近食堂の調味料が盗まれるという事件がおきてまして。塩、胡椒にハーブ、唐辛子などの香辛料などがいつの間にか消えているんですよ。一体誰の仕業なのやら……補充する側の気持ちになって欲しいものですよ、やれやれ」

 

 (……なるほど)

 

 汗をかきながらくるくる首を回転させ考えるゴクチョーは不気味だったが、私は逆に脳内の疑問が急速に氷解した感覚だった。

 

 「……大丈夫だ。その悩みの理由は、裁判で明かそう」

 「えー、なんでそれが火に繋がるワケ?ヒロっちの頭どうなっとるん?」

 「なにか原因に思い当たる節があるのですか。めんどうですが、盗人を見つけて下さるならありがたいですね」

「 ああ。ゴクチョーにとっても有意義な裁判となるだろう……それでは、失礼する」

 

 個人的にあまり長い間、共に居たい二人でもない。

 私は足早に食堂を後にした。

 

 

 私は医務室に到着した。中にはまだ話していなかった、三人の少女が集まっていた。

 

 「ヒ、ヒロさん……お疲れ様です。まだ捜査途中ですか?ゆっくり休んで下さい!今、気分が良くなるお茶をいれますね……!」

 

 わたわたと心配気に駆け寄ってきたメルルに、自然と笑みが零れる。

 

 「ありがとう。確かに息抜きも大切だな」

 

 礼を述べた私はメルルが差し出してくれたハーブのお茶を飲んで、少しだけ一息つくことにした。

 

 「アンアンの具合はどうだ?」

 「ミリアさんと私が交代で容体を見ていたのですが、少し落ち着いたみたいです……!」

 【わがはいは大丈夫だ。裁判には出られる】

 「それは何よりだ。とはいえ、長時間の話し合いは今のきみには負担が大きいだろう。

今のうちに英気を養っておけ」

 【ああ、万全で挑む。ヒロとシェリーは、とても仲が良かったからな。わがはいも心が痛んでいる】

 【事件が終わったら、また四人で改めて話し合いをしよう】

 「……ああ」

 

 

 【約束だ。あの時間は、本当に楽しかった】

 「私もだよ」

 

 若干血の気が引きながらも少し頬を赤くして、アンアンは喜んでいるようだった。

 近くのミリアも、私とアンアンのやり取りを微笑ましく見ており、目を細めた。

 

 「……おじさんはさ、この牢屋敷で本当に、100%シェリーちゃんを嫌ってた人なんて、いなかったと思うんだよ。少なくともおじさんには、シェリーちゃんが悪い子には見えなかったから……いつもしている言動だって、シェリーちゃんなりに精一杯、場を明るくしようとしてくれただよきっと!」

 

 (……ほう。案外ミリアは、周りをよく見ているんだな)

 

 私は少しだけ、驚いた。

 

 「……私も同意見だ。それでも、事件は起こった」

 

 非情に、冷徹に現実を突きつけると、ミリアは顔を伏せて歪ませた。

 

 「おじさんはね。おじさんたちの中に犯人が居るなんて、思いたくないんだ」

 「……残念ながらそれはきれいごとだし、理想論だよ」

 「それでもおじさんは、そう信じていたいんだよ」

 「……そうか。きみの思想は理解できた。意思は堅いようだし、あえて否定はしない。その道を行くといい」

 「うん……!」

 

 考えを強く否定したものの、このやり取りで私のミリアへの評価が低くなった訳ではなかった。

 

 (曲げない意思の強さには、好感が持てる。実は、ミリアは他の少女たちと少し違った強さを持っているのかもしれないな……それでは、最後の用事を済ませよう)

 

 ミリアから視線を逸らして、メルルに呼びかける。

 

 「メルル……ここから犯人によって持ち出されたと思われる、強力な睡眠薬について改めてもう一度詳しく教えて貰えないだろうか」

 「ヒ、ヒロさん!分かりました……!」

 

 とてとてと、慌ててメルルが駆け寄ってくる。

 

 「そんなに焦らなくても大丈夫だ。時間はまだある」

 「い、いえ!ヒロさんのためですから……!」

 

 (今更だがメルルは人のために無償で全力を尽くすことが習慣となっているようだが……少し、心配だな。気にかけておこう……それはそれとして、だ)

 

 「具体的にあの薬を大量に摂取すると、どんな作用が現れる?」

 

 「そ、そうですね……あの睡眠薬には即効性があるので、少量でも飲むとすぐに気絶して、昏睡状態になります。まるでお医者さんに手術される患者さんみたいに、無防備になってしまいます……。

そして、量が大量の場合は、そのまま起きることがなく、一時間もかからない僅かな時間で死亡してしまうかと」

 

 メルルのとんでもない薬の説明に、私は思わず額を押さえた。

 

 「強力すぎてほぼ劇薬……毒薬に近いものだな、それは……メルルがゴクチョーに廃棄を申し出たのも分かる」

 「はい……却下されてしまいましたが……そもそも、もっと、私が強くゴクチョーさんに詰め寄っていれば、こんなことにはならなかったかもしれません……うう……」

 「……きみには責任はない。責任があるとすれば、犯人だけだ」

 「そうかもしれませんが……シェリーさん……ヒロさん……ずっと私達三人で楽しく、仲良く過ごしていたのに、どうしてこんなことになってしまったんでしょう……」

 

 私がメルルを励ましても、顔色は明るくならず、泣き出しそうな暗い表情のままだ。

 親しい人間の死に、ショックと彼女なりの責任感を感じているのだろう。

 私も、メルルにつられるように今までの思い出が蘇ってきてしまっていた。

 

 「……私も時間を戻すことができたら、どれだけいいかと思っている……必ず、裁判で犯人を見つけよう」

 

 「……はい!」

 

 真剣な表情でメルルが差し出してきた手を握り、硬く握手をした。

 

 

 私はその場を去り、医務室を後にして―――

 

 ―――バンッ!

 

 そのまま私は、周囲に人が居なくなったことを確認し、通路に入った所で右手を壁に叩きつけていた。

 唐突な奇行の理由は明確だった。

 

 (必要に迫られたとはいえ、先ほどまでの自分の言動に虫唾が走る……!私は上手く殺意を隠しきれただろうか、普段通りに振る舞えただろうか……犯人の目の前で)

 

 かなり早い段階で、犯人の目星がつけることができていたからだ。

 だから私は、捜査中はあえてある程度思考を自ら殺して、誰に対しても友好的な態度で接することを心掛け続けた。

 

 (そうとも。仕方がない。犯人に悟られず、警戒させないためには、必要なことだった)

 

 荒い息を落ち着けるために、一度深く呼吸をする。

 

 (落ち着け、冷静になれ……ことは簡単な話ではない。私だけが犯人を分かっていた所で、他の十人を納得させることができなければ意味がないからだ。私は私に誓ったはずだ……どんなことをしても、必ず犯人を処刑台に送ると)

 

 「お前は私が処刑する……!」

 

 爪が僅かに硬くなっていくのを感じながら、私は通路でしばらくドス黒い怨念の殺気を犯人に向け続けていた。

 

 

 牢屋敷に、荘厳な鐘の音と連絡の鳥の鳴き声が鳴り響いた。

 

 その音は平等に。感情を静めようとしている二階堂ヒロの耳に、少女たちの耳に、犯人の耳に届く。

 

 『魔女裁判の時間になりました。皆さん、速やかに裁判所に集合して下さい』

 

 殺し合いの犯人を特定する殺し合いが、始まる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

洗脳少女ノ魔女裁判(作者:大正エビフライ)(原作:魔法少女ノ魔女裁判)

もし、夏目アンアンが学校に通っていて、エマと同じクラスで、彼女たちと友人関係だったら?▼そんな世界線での本編を妄想し、書き始めた作品です。▼初めてのネットへの小説の投稿故に不定期投稿だったり、文章に拙い部分もあるかもしれませんが、ご了承ください。▼本作のアンアンは原作とは設定が違う為、原作とは大きな乖離があります。▼また、本作は最初の時点で魔法少女ノ魔女裁判…


総合評価:311/評価:8.89/連載:8話/更新日時:2026年03月04日(水) 06:00 小説情報

パーペトレイターズ・ギルト(作者:【自爆】)(原作:魔法少女ノ魔女裁判)

またの名を、激鬱エマ。▼何故か未来の記憶を持ったエマが、自身の存在しない罪を償おうとする話。▼軽い性格改変があります。


総合評価:1706/評価:9.05/連載:12話/更新日時:2026年05月26日(火) 04:15 小説情報

原罪:自称ニセモノ名探偵  (作者:三日月ノア)(原作:魔法少女ノ魔女裁判)

虐待施設での惨劇事件を起こした橘シェリー。▼職員は殺害したものの、頭部に衝撃を受け、感覚を遮断できないほどの痛みのあまり気絶してしまう。▼ しかし意識を失った彼女は目覚めることなく・・・・・・▼代わりに目覚めたのは橘シェリーの身体に成り代わった一般社畜男性だった。▼思い出す。▼明日リリースされるはずだったゲーム、▼この世界は『魔法少女ノ魔女裁判』 だと。▼「…


総合評価:1516/評価:8.94/連載:29話/更新日時:2026年05月24日(日) 20:00 小説情報

従順少女ノ魔女裁判(作者:夏目)(原作:魔法少女ノ魔女裁判)

【感覚操作】の魔法を持つ少女・尾形(おがた)トウカは、目を覚ますと見知らぬ牢屋敷に拉致されていた。▼ トウカをはじめとした14人の少女に、不気味なフクロウ・ゴクチョーが淡々と告げる。「面倒なことに、そのうち囚人間で【殺人事件】が起こる」と──。▼ 魔法のせいで嫌でも感じ取る凄惨な事件の気配。冷え切った関係。嫌疑の視線。秘めた怒り。潜めた息遣い……。トウカは直…


総合評価:2050/評価:9.29/連載:21話/更新日時:2026年04月10日(金) 19:01 小説情報

魔法少女ノ魔女裁判 ─君の為に〇ぬ時─(作者:プッチーノ)(原作:魔法少女ノ魔女裁判)

▼ 「人の命は一度きり」▼ とある人物の一つの言葉。▼ 殺された被害者はもう▼スポットライトを浴びることはできない。▼ この物語は、そんな被害者達の▼「死後の抵抗」を記した──▼ 知ることはなかったであろう……舞台裏の物語。▼


総合評価:508/評価:8.57/連載:33話/更新日時:2026年04月29日(水) 10:16 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>