百八十度ノ魔女裁判 作:ミズハ
「……ふう」
ゴクチョーが知らせをよこすことがなく、扉が開き開放される。
二日間に渡る懲罰房の仕置きは、私の想像よりは軽いものだった。
(出遅れたことにはなるが、取り戻せないミスでもないだろう。エマとは同じ部屋だった。エマが生きている限り、私はストレスに苛まれ続けて最後にはエマを殺害していたに違いない。私はそういう人間だ)
(……ならば裁判にならなくて、よかったと思うべきなんだろうな)
知らされたルールは、全て暗記しており問題ない。
そう、何の問題もないはずだ。
……なぜか、私の心は未だにひどくよどんでいる。
ユキの幻聴のせいだろうか、それとも。
(私がエマの死を悲しむ?いやいや、そんなことはあるはずがない。だが……)
エマはなんの打算もなく、自らの命を投げ捨てて私を助けた。幼少期からのわざと気を引く行為が、私の勘違いとするのならば。少しだけそう考えてしまう。
(……感傷に浸るなんて、私らしくもない)
朝食の時間帯だ。皆が集まっているだろう。私は軽く息を吐いて、食堂に向かった。
想定した通り食堂では、温かい歓迎とはならなかった。
少女たちは、私にぎょっとした視線を向けてくる。
……血まみれの私を思い出しているのだろうか。
シェリーとメルルは、同じテーブルについており手招きしてくれた。
「ヒロさーん!おかえりなさい!無事で良かったです!」
「だ、大丈夫ですか……?怪我とか、していないですか?」
「……心配をかけてしまったようだね、私は大丈夫だ。心身ともになにも問題ないよ」
二人は私を相当心配していたようで、心身の無事に安心してほっとした表情になった。
「よかったです~!」
「あ、あまり無茶をしないで下さいね……」
「反省はしているよ……食事にしようか」
テーブルに着く前に周囲をさっと見渡す。
レイア、ココ、マーゴ、アンアンが同じテーブル。
ハンナ、ミリアが同じテーブル。
ナノカとアリサは一人で座っている。
(レイアに主導権を握られている。こうなってしまった今、私が皆に規律を呼びかけても、意味はないかもしれないな)
やはりレイアはリーダーとして優れているのだろう。
ハンナはレイアのことを苦手としているようなので、ミリアと共にいるのも納得できた。
ある程度の状況確認を済ませた私に、罵声を浴びせかける少女がいた。
「二階堂……なんでお前が何食わぬ顔で食堂にきてるんだよ!?お前のせいで人が一人死んでんだぞ!?」
「……反省する時間は十分にあったとも。それに、私はエマに大切な親友を殺されているようなものだ。それほど非難されるいわれはない」
眼光鋭く睨み返す。アリサの鬼気迫る感情論の押し付けは、私にとっては慣れたものだった。いくつものトロフィーを獲得し、学年トップを続けてきた時点で、沢山人を踏みつけてきている。恨みは貰い慣れていた。
「わかんねえな……今なら何とでも言える。死人に罪をかぶせてる可能性もあんだろ。ウチには二階堂が血も涙もない冷たいやつにしか見えねえ!信じられねえんだよおめえはよ」
「アリサの言うことも分かるな~。あてぃしもエマっちみたいに巻き込まれて死にたくないし。あ~コワ」
「……どうやら、本当にきみたちには信用されていないようだね」
(底意地の悪い二人にやり玉にあげられている、レイアも何も言わない……これはまずいな)
経験上、集団をまとめるために共通の敵を作る方法は、人心掌握の中で、有効な定石のようにある。そもそも私は、過去の経験でいじめがいかに簡単に、日常的なものに変化してしまうかを知っている。
どうにかこの空気を変える必要があった。反撃を開始しようとするが、擁護の声のほうが早かった。
「拷問を受けて帰ってきたばかりの女の子にする仕打ちとは思えませんね~?シェリーちゃんはどうかと思います!」
「おじさんもね、こういう集団が一人で……とかはどうかと思うんだ。心が痛くなるっていうかさ……ねっ、ご飯を美味しくたべよう!?おじさんはそれがいいと思うよーあはは……!」
「……一人称おじさんの変なヤツに免じて許してやるか。でもあてぃしを危険にまきこむなよ!あてぃしは推しの元に帰るんだから!」
「……分かった。だがよ、ウチは二階堂のこと信用しねえからな」
そろそろ頃合いだろう。私はレイアに声をかける。
「本当に悪かったとは思ってるとも。許してくれるかな、レイア」
「……そもそも私はヒロくんを過剰に責めるつもりはなかったよ。反省を受け取ろうじゃないか!」
はっきりとリーダーに謝る。レイアが私の謝罪を受け取ると共に場の空気が緩んだ。
どうやら急場は凌げたようだ。
「一件落着、ね♡改めて仲良くしましょ、ヒロちゃん♡」
【許す】
「ああ、改めてよろしく頼む」
(まだ誰がどの魔法を持っているのか判明できていない以上、多数の少女たちを敵にまわしたくはないからな)
「よかったですね、ヒロさん!皆、思ったより優しかったみたいです~!」
「シェリーはもう少し、言動をオブラートに包むことを覚えた方がいい。きみが悪意の標的になるぞ?」
「え~!それは勘弁してください~!」
「ご、ご飯が冷めてしまいますよ……?」
「元々おいしくないんですし、温かさなんて関係ないのでは?」
「「……」」
……正直シェリーは、あまり私が仲良くしたいタイプの人間ではない。
自由奔放といってもユキのそれとは違って、規律を軽んじているきらいがあるからだ。
しかしシェリーの、その場の空気を破壊する強引さに救われたのは事実でもある。
嫌いなレベルではないため、おそらくこれからも行動を共にする可能性は高い。
……とはいえ、通す筋は通させてもらうが。
「……いくら美味ではないとはいえ、料理人に敬意は払うべきだ。後、私は食事中に私語を慎むようにしている」
「分かりました!メルルさんと話してますね!」
「……もちろん先ほど庇ってくれたシェリーとミリアには、感謝している。……頂きます」
黒い不健康になりそうなパンを手に取る。先行きは不安だが、今はこの不味い食事と格闘するとしよう。
「いや~いいですね!メルルさんとヒロさんとは、とても仲良くなれる気がしてます~!」
……無言なのをいいことに、距離を詰めてくるシェリーには、やはり後でしつけが必要かもしれないが。
ナノカ(一人でいるとはいえ少しはみんなとお話したかったけど、タイミングがなかったわね……)