百八十度ノ魔女裁判   作:ミズハ

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二人の犯人候補

 

 「……さて、シェリーちゃんが自殺ではないと分かった所で、議論を続けましょう♡」

 「つっても、何から話すん?」

 

 「【ならば、そろそろアリサの意見を聞いてみようではないか】」

 「【レイアに何か言いたいことがあるのだろう】」

 

 「やっとウチが話せるのか……遅えんだよ。下らない議論に時間使いやがって」

 「あなた、もう少し口を慎むことはできませんの?」

 「あ?」

 「……なんでもございませんわ!」

 

 (……おそらくここが、この裁判における重要な局面の一つになるだろう)

 (集中しなければ)

 

 「……つっても、ウチが言いたいことは難しいことじゃねえ」

 

 「昨日の夜……橘はウチの部屋に戻ってきてねえんだよ」

 

 「……!」

 

 (全員の顔色が変わったか……無理もないことだ)

 (仮にアリサの証言が真実ならば、裁判の前提が覆るかもしれない)

 

 「蓮見は、橘の死亡推定時刻が今日の朝食後だと割り出した。でも橘は、昨日の夜から監房に戻ってきてねえ……だからウチの予想では、橘は昨日の夜に死んでいるはずだ……どうなんだ、蓮見」

 

 (皆、レイアの方を不安気に見ているな……)

 (死亡推定時刻が分かるのが一人だけなのだから、無理もない)

 

 「……おや、なにやら皆に注目されてしまったようだね。しかし安心したまえ。アリサくんと他の少女達に宣言しておこう、私には犯行は不可能なんだ……だって私は、昨夜監房の鍵が閉まる直前まで、皆の部屋前の廊下で見回りを行い続けていたんだからね!!」

 

 「……レイアさんの証言は本当ですわ。だからわたくしがレイアさんを疑っていませんの」

 「のあも見たよー。レイアちゃん、うろうろしてた」

 「おじさんがレイアちゃんと同じ部屋なんだけど、仮に昨日の夜にシェリーちゃんが死んでいたとしても、レイアちゃんに犯行を行うことはできなかったと思うな……」

 

 「そして今朝も、私にシェリーくんの殺害を起こせるタイミングはなかった……なにやらアリサくんは無意味に私に怒り続けているみたいだけど、これで理解して貰えたかな?」

 

 (レイアと関わりが薄いハンナとミリアがレイアを擁護している時点で、レイアの主張には信憑性があるだろう……おかしな点もない。つまり、絶対的なアリバイがあり、レイアにはシェリーを殺害することはできないということだ)

 

 「なんだと!?……ウチが嵌められてるのは分かるが、どうなってやがる……!?」

 「どうやら、怪しいのはアリサちゃんの方のようね♡」

 「……そうね。そしてもう一つ、私は紫藤アリサの疑わしい証拠を見つけている。それを提出させて貰うわ」

 

 「……ッ!」

 

 「事件の現場付近には、証拠品と思われるものを燃やした焼け跡があった……そして私は紫藤アリサが、脱出のために、塀に炎を放ったことをこの目で確認している」

 

 「紫藤アリサ、観念することね」

 

 

 「一応確認しておくけれど……紫藤アリサの魔法は火を生み出し、操れる……この認識で相違ないかしら」

 

「……ああ、魔法は黒部の言う通りだよ。だがウチはやってねえ!

 

「でもレイアちゃんに犯行は不可能みたいだし、現場の焼け跡は私とナノカちゃん、ヒロちゃんで確認しているわ。現状で怪しいのはあなたの方よ♡」

 

「……いいご身分だな。ウチを犯人にすれば全て丸く収まる。全員そう言いたげな顔をしてやがる……!」

 

「コワ―。八つ当たり、やめてくれます?」

 

「……ともかく、他の人間が容易く火を起こすことができない以上、医務室から睡眠薬を盗んで犯行に及ぶことができたのは、紫藤アリサ……あなた以外に考えられないわ」

 

「もちろん私も異論はないよ……どうやら、簡単な事件になってしまったようだね!」

 

「【もう処刑しても構わないだろうか】」

 

(……皆、アリサを疑うことが前提になりすぎて簡単なことを見落としてしまっているな)

(皆が語る容疑の中で、明らかにおかしな前提条件があるというのに)

 

 「そこまでだナノカ……アリサが睡眠薬を盗んで犯行に及んだ?いやいや、それは100パーセントありえない。いいかい、絶対にだ」

 

 「……どうしてかしら。現場の焼き跡も見ているし、紫藤アリサには不審な点が多いわ」

 

 「……たしかにこの局面なら、皆がアリサを疑うのも理解できる。ただ、みんな、時系列を思い返してみてほしい……睡眠薬がメルルによって盗まれたと分かったのは、一昨日の夕方だった。でも、アリサが懲罰房から解放されたのは、昨日の朝なんだよ」

 

 「あっ!」

 

 (いつも飄々としているナノカに似合わない、間の抜けた声が聞こえたが……もしかして素で忘れていたのか?)

 

 「私が聞いたゴクチョーの証言によると、アリサはこの牢屋敷に入れられてから、一度脱獄を試みていて、その時は一日懲罰房に入れられただけだった。しかしその後も塀を燃やそうとして、再度二日間懲罰房に入れられている……きっとナノカがアリサの魔法を目にしたのは、その時なんだろうな……話を戻すと、アリサが睡眠薬を盗んだとするのならば、どう考えても時系列が合わないんだ」

 

 「……二度目の脱走を試みる前に、紫藤アリサが睡眠薬を盗んだという線はどうかしら?」

 

 「それが苦しい言い分だと、ナノカは分かっている筈だ。結局、犯人が強力な睡眠薬を盗んだ理由は誰かを殺害するためだったのだろうし、現場の状況もそれを物語っていた。ずっと警戒していたメルルが、2日間薬の紛失に気付かないとも考えずらい。そして睡眠薬を盗んだのなら、自分のために使ったのだとしても、他人に使うためだったのだとしても……その上で再度の脱出を行い、拷問された行動の説明がつかない」

 

 「……なるほど。確かに、紫藤アリサが睡眠薬を盗んだ線は薄いようね。……私が悪かったわ、ごめんなさい」

 「……ッチ」

 

 (アリサ……相当鬱憤が溜まっているな。無理もない)

 (ともあれ、これでアリサの容疑を一部晴らすことはできたか……?)

 

  「……」

  「けどさー。アリサが犯人じゃないって、まだ決まってなくね?」

 

  (なに……!?)

 

  「もしシェリーが睡眠薬を盗んだ犯人だったら。そして、シェリーの方がアリサを中庭で襲ったんだとしたら」

 

  「もしそうならさ……現場のあの状況になるんじゃねーの?」

 

 

 「現場から何かを焼いた跡が見つかってるのは確かな訳じゃん?」

 

 

 「……んで、睡眠薬を盗んだのは誰か分からない訳っしょ?」

 

 「……なるほど、盲点だった。ココくんの推理にも一理あるようだね。睡眠薬を持ち出した可能性があるのは犯人か……もしくは、シェリーくんだろう」

 

 「そゆコト。シェリーが中庭にいたアリサに襲い掛かり、アリサが反撃した。魔法を使った激しい戦闘になりでもしたんじゃねーの?」

 

 「その結果、壁は血まみれになり、地面には何かが焼けた跡ができたわけね♡」

 

 「【まるで決闘が起こったようだな】」

 

 「どうよ!あてぃしの推理完璧っしょ!なんかシェリーの行動か、アリサの行動に文句あるー?」

 

 「……お、おじさん、決闘とか怖いよ……!」

 

 「わたくしも想像したくありませんわー!」

 

 「お嬢ども、うるせー!」

 

 (……ココの説を、完全に否定しきることは難しいかもしれない)

 (しかし、シェリーが被害者である以上、シェリー本人が睡眠薬を盗んだという説は、他の少女からしてみれば、アリサから襲った説と比較すると納得はしずらい説の筈だ)

 (ここは根拠が薄くとも、毅然と反論しよう)

 

 「【シェリーの行動】か……仮にシェリーが2日前の夕方に睡眠薬を盗み、計画性を持ってアリサを襲ったとするのならば、おかしな点がいくつか出てくる」

 「いちいち文句つけんなよー!別に変じゃなくない?」

 

 「理由は三つほどあるが……まず、シェリーは、私に手紙を残している……先に明言しておくが、あれはシェリーの筆跡だ」

 

 「私とメルルくんが発見した手紙だね。確かヒロくんへ……というだけの内容だったはずだけれど?」

 

 「あの手紙は血に濡れていなかった……つまり、手紙が書かれたのは中庭での犯行前。ココの説が正しいのだとすると、あの手紙は元々、シェリーが残した偽装工作だったということになるはずだ……そして、そうだと仮定するのならば、あの手紙はあまりにも中途半端と言わざるを得ない」

 

 「【なぜだ?】」

 

 「簡単な話だよ……私に疑いを向けたかったのなら、『ヒロさんへ』ではなく『ヒロ』とだけ手紙に書いておけばよかった。シェリーがアリサを殺害するつもりだったのなら、私に疑いを向けて損はない。しかも本文も書きかけだったために、あの手紙を材料として皆私を疑わなかった。

シェリーが犯行を企んで、私に罪をなすりつけようとしていたのだとするのなら、あまりにも中途半端だ」

 

 「……そうかな?犯行前に、何かあったときのことを考えて犯人が手紙を残そうとする心理自体は、普通に思えるけどね」

 

 (そうだ、これだけでは根拠が薄い。しかしシェリーが犯行を企んでいない裏付けは他にもある)

 

 「レイアの言うことはもっともだが……しかし、シェリーがアリサを襲った場合、他にも妙な点はある。現場のビンは空っぽで、そしてシェリーに使用されていたようだった。そうだとするならば、アリサがシェリーからビンを奪い取って、それを飲ませたことになる……怪力の魔法を持つ、シェリーからだ」

 

 「……うぐうっ!」

 

 「そう……困難と言わざるを得ないだろう。ココの予想通りだとしても、簡単な戦いで済む訳がない。もっと中庭に、戦闘が激しく行われた証拠である、燃えた跡があってもおかしくないはずだ……だから、あのビンは元々犯人が持っていたものだと私は思う」

 

 「た、確かに……なんとなくですが、ヒロさんの主張の方が、自然に思える気がしますね……!なんとなく、ですけど……」

 

 「……ついでに言うのなら、そもそもシェリーには、当時懲罰房に入っていたアリサを殺害する動機は薄い……あのタイミングで睡眠薬を盗んだ意味も分からなくなる……まだシェリーには、関りのあって、昨夜喧嘩をしている私を殺害する動機の方があるぐらいだ」

 

 (そうとも……私にはこの事件に対する、責任があった……それは確かだ)

 (だからこそ、この事件の犯人は必ず私の手で処刑しなければならない……!)

 

 「シェリーちゃんが誰でも良いから殺害したかった、……という可能性はあるけれどね♡」

 「へえ、面白い意見だね。そういうきみはそうなのかい、マーゴ?」

 「怖いわね……冗談よ。ちゃんと推理を聞いて納得できたわ、ヒロちゃん♡」

 

 (本当に良い趣味をしている……とはいえ、ここからが問題なんだが)

 

 「じゃ、じゃあ……誰が犯人なのか分かりませんわ!振り出しに戻っただけじゃありませんの!?」

 「ここまで話して怪しい人物の一人も見つけられないってマジ!?」

 「わ、私も死体は調べてみたのですが……死体は温かすぎず、冷たすぎずという感じでよく分からなかったんです……レイアさんの死亡推定時刻が正しいかどうかは……」

 

 (みんな、道しるべを見失ってパニック状態になっているようだ)

 

 「皆、大丈夫だよ……私には、もう犯人が分かっている。私も素人の見様見真似だったからね……アリサくんの言うことが正しいのならば、昨日の夜にシェリーくんが死亡していた可能性はある。すまなかったね」

 

 (……!)

 

 「だから……残念ながら犯人はシェリーくんと仲が良いヒロくんか、もしくは昨日の夜、就寝時間間際まで医務室でアンアンくんの看護をしていたメルルくん。そのどちらかになるだろう」

 

 「シェリーくんと仲の良い友人関係である二人のどちらかがそんな凶行に及んだなんて、私は信じたくはないけれどね」

 

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