百八十度ノ魔女裁判 作:ミズハ
「ヒ、ヒロちゃん……!?のあはそんなことしてないよ?考えすぎじゃないのかな?」
「ノアさんが犯人ですって……!?でもノアさんは、昨夜レイアさんの見回りを見ていたと証言していましたわよ?」
「違うね、それはノアとレイアにとって都合のいい、一方的な証言だ。なぜなら同室のアンアンが医務室にいた時点で、ノアが部屋に居続けていた証明にはならないのだからね」
「レイアが、なぜ最初にシェリーの死亡推定時刻を朝食後だと嘘をついたのか……その理由は、ノアに完璧なアリバイを作りたかったからだったんだ」
「今朝に明確なアリバイがあるのは、会議を食堂で行っていた私、レイア、アンアン、ノアだ……そして昨夜のアリバイについて、レイアとノアが互いに庇いあえば、ノアのアリバイを疑う人間は居なくなる」
「ヒロくん……なにを言い出すかと思えば……やはり、私とノアくんの名声に嫉妬しているだけのようだったね!」
「そうね……少しだけ私が図書室で煽りすぎて、疑心暗鬼を強めてしまったかしら?ごめんなさい。他の子にも似たことはしているから、気にしないで頂戴ね♡」
「のあは『バルーン』だし、レイアちゃんも有名人だから……そういうの、よく見るかな……のあ、知ってる。他のひとがうらやましい時はね、かがみを見てじぶんみがきするんだよ?」
「……ご高説、痛み入るよ」
(やはりとても厳しい状況だ、しかし……)
「色々な可能性を考えるべきだと思うわ。二階堂ヒロの主張が正しいのか、城ケ崎ノアの主張が正しいのか……まだ私たちには、判断材料が足りないわね」
(……ナノカの発言は、現時点での中立の少女達の総意だろう)
(アリサとメルルは私を信じてくれているようだが、未だに状況は芳しくない……いや、むしろ形勢はこちらが悪いと判断するべきだろう)
(残酷なようだが、人の命というものは平等ではないからだ)
(一人一人が、レバーに手をかけた状態のトロッコ問題……世界に誇る著名人2人と無名の女子学生を、皆は今天秤にかけている。このままでは……私は負ける)
(私が今回の裁判で戦う相手はトリックではない……『芸能人のレイア』と『バルーンのノア』そのものだ。これをひっくり返すには、通常の方法では難しい……ならば、この際手段は選んでいられない)
(レイアとノアへの心象を私の域まで下げるためになら……嘘もついてみせよう)
(正しい議論をさせてもらう……正しい結末に進むために!)
「嘘をついているのは間違いなく、君たちのほうだ……なぜ私が、早い段階でノアとレイアを疑うことができたと思う?」
「それは……ヒロくんが、犯行可能な人間を状況証拠から分析した結果だろう?」
「違うね……私がノアの犯行とレイアの共犯に確信をもっていた理由は、ノアが自分の部屋から抜け出したことを、私が昨夜のうちに知っていたからだ!」
「なん……だって……!?」
(もちろん、そんな事実はない……ただの揺さぶり、ハッタリだ)
(だが、これで食いついてくれれば……!どう出る、レイア)
「……今度は何を言い出すかと思えば。私は悲しいよ、ヒロくん」
(……!)
「皆、私の話を聞いてくれるかな?損はさせないよ。ヒロくんの推理には穴がある上に、誰にでも理解ができる、大きな嘘までついている。その嘘を、じっくり暴かせてもらうとしよう!」
「ヒロくんは先ほど、ノアくんが昨夜自分の部屋から抜け出したことを知っていたと発言したよね」
「ああ。その証言を撤回するつもりはない」
「しかし、よく考えて欲しい……皆、私が夜間の見回りを抜かりなく行っていたことは既に皆が確認しているんだ……それはミリアくんや、ハンナくんの証言から判明している事実」
「そうですわね……当時、わたくしは歩いているレイアさんが気になって、通路を何回か確認していましたわ」
「おじさんも、レイアちゃんの動向は気になってたかな……時間が遅かったからね。万が一、鍵が閉まる前にレイアちゃんが部屋に戻れなかったらと思うと、気が気じゃなかったよ」
「ノアちゃんが階段を使って一階に上がるためには、私とナノカちゃんの部屋の前を通る必要があるけれど……昨夜、私とナノカちゃんもノアちゃんは見ていないわよね?」
「……ええ。蓮見レイアと宝生マーゴの意見に間違いはないわ」
「どうだい、ヒロくん……多数居る少女の中でキミだけが、ノアくんが部屋から出て、廊下を歩いて一階に上がった所を見たと証言している……それはキミにとって都合の良すぎる話ではないかな?」
「私には、キミが滑稽な嘘をついているようにしか思えないんだが……いかがだろうか?」
(レイア……ハンナとミリア、ナノカを丸め込もうとしているな)
(確かに、こうなった以上はそれが戦術的に正しい行動に違いない……それだけで、君は勝てると思っているのだろう)
(だが、その戦術ができるのは君だけではない……こちらも相手の陣地に切り込む時がきたようだ)
(他者を扇動するそのやり方に乗じて、こちらも味方を増やす!)
「いいや……ちがうねレイア。曲解しないで、しっかりと聞いて欲しいものだ。私は直接、ノアが部屋を出た所を見た訳ではないし、廊下を歩いている所も見ていない」
「……えっ?何を言うんだい、ヒロくん。キミは先ほど、ノアくんが昨夜部屋から抜け出したと知っていると言ったじゃないか」
「ああ、そうだよ……私は知っていた。だって昨夜、私はシェリーと喧嘩した勢いで気が高ぶっていたんだ……だからね、聞こえたんだよ。押し殺していたようだがね……隣のアンアンとノアの部屋から、誰かが部屋を去る足音が!」
「……えっ!?」
(一瞬固まったな、レイア……やはり、そうか!)
「ココ、捜査時間に、食堂でゴクチョーから聞いたことを覚えているかな?」
「い、いきなりどうしたんだよ!確か、誰かが盗んだのか知んないけど、よく食堂から調味料がなくなってるんだっけ。覚えてるけど、それなんか関係あるん?」
「関係、大有りだよ……看守の目を盗んで調味料を盗んでいた犯人、それはレイアだったんだ」
「……ぐっ!」
「……マジ?」
「レイア……君は、他者の意識をある程度誘導できる魔法を持っているな?」
「……そんなことはないよ。どうしてそう思うんだいヒロくん?私の持っている魔法は魅了の魔法にすぎない。他の人間がほんの少し私に惚れやすくなるだけの、些細な魔法さ」
「簡単な話だよ……私が以前、娯楽室でハンナやミリアと共にレイアとココの配信放送を見ていたとき、不自然なことに画面から目を逸らすことができなかった……私もハンナもミリアもシェリーも、完全に意識を画面に向けさせられていた」
「そ、それは、私の勝手に溢れ出てくるオーラがそうさせるだけだ……!」
「あの時の私達四人は、話し合っている最中だった。それにあの場にいた四人はレイアと親しかったわけでもない……それなのに画面に集中し、他のことができなかった。今考えると、不自然ではないだろうか」
「……そういえば、今考えたらおかしかった気がしてきましたわ」
「おじさんは……よく、分からないかも」
(ハンナは……自分に自信がないだけか)
(ミリアはまだ迷っているようだが……少し、視界は開けてきたかもしれない)
「人の意識を他に誘導する魔法が使えれば、看守がいた厨房から調味料を盗み出すことができるし、それにノアが抜け出す際と部屋に戻る際、他に意識を向けさせて誰にもノアを目撃させないことも簡単だ……だが、どれだけ意識を他に集中させても『音』は消せない。ノアが部屋から去る気配を、私は音で察することができた。これが真相だ」
「そ……そんなことを言うのなら、調味料が盗まれていたことに関しては魔法が分からないヒロくんにも、似たことができるかもしれないじゃないか!私よりヒロくんの方が怪しいはずだ!」
「いや、この状況で怪しいのはレイアの方だ……ロジックの問題だよ。図書室で、私は調べものをした時に知った……ストレスが高まった場合、魔法が思わぬ方向に成長することもある。とね」
「魅了の魔法も、結局は意識をレイアの方に向けさせる類の魔法だということは変わりないんだ。レイアが元から嘘をついている可能性……魔法が進化した可能性……どちらにせよ、ゴクチョーが調味料の紛失を証言している時点で、現状怪しいのはレイアの方なんだよ」
「グッ……!」
「もしかすると、レイアは事前に他のグループの少女にこう言っていたのではないか?『裁判の時や、投票の時にはなるべくグループ内でかばい合い協力し合うように』と。確かに、この魔法と合わせて他者と共犯まですれば、無敵に近いだろうな……だが、いま一度考えて欲しい。友達が殺人犯と判明していて、それでも庇うのが、本当に正しい道なのだろうか」
「……レイアからそんな話があったことは、あてぃしも認める。ただ、まだヒロっちのことは信じられない」
「……!」
「マジ、ですの……!?」
「レイアちゃん投票の時にも、みんなで、裏でそんなことしようと考えてたんだ……!」
(ココは食堂からゴクチョーの話を直接聞いているから、説得できるかと思ったが……そう期待通りにはいかなかったか)
(ただ、グループの内情を教えてくれたのは、この場面ではとても大きい。これでハンナとミリアの、レイア達への心象は一気に悪化しただろう)
「……でも、少し怖くなってきた。ヒロっちはあてぃしたちの秘密も見抜いてたみたいだし、本当にノアが犯人なんじゃないかって」
「それに、もしレイアが本当に視聴者に向けてずっとイカサマしてたなら、あてぃしとしても許せんワケ。……だからさ、もう少し聞かせてよ、ヒロっちの推理」
「……あーあ。ヒロちゃんの変な嘘に、みんな騙されててかわいそうだと思うな」
「レイアちゃんの言う通り。魔法が分からないヒロちゃんの方がずっと怪しいって、なんで分からないのかな」
(ついに、痺れを切らしたか)
「ノア……!」