百八十度ノ魔女裁判 作:ミズハ
私はその後、応接室での相談の受付は続行することを少女たち全員に伝えた。
そして二日ほど時が経った後も、ココを中心としてラウンジは熱気を見せていた。
私の勧めの結果私、ココ、ミリア、ハンナの四人で集まり配信活動をすることが習慣となってきている。
「そんじゃ、今日も本番だと思って、盛り上がるための配信練習いってみよー」
ココがテンション高く録画開始のボタンをつける。
「やっほ~!ココたんだよ~!今回は、なんと話題沸騰中の二人に来て貰ったよ!
まずは……皆が憧れる、頼れる新リーダー!二階堂ヒロ!」
私はスマホの録画カメラの前で爽やかな笑顔を作った。
「みんなおはよう。今日も正しく生きようか」
「続いて……実はおっさんだった謎少女!佐伯ミリア!」
ミリアが顔をこわばらせる。
「え、え……?おじさんは、ミリアちゃんだよー!よ、よろしくねー!」
ココが無言で録画停止のボタンを押した。
呆れた様子で首を横に振ってミリアにダメ出しを行う。
「おっさん、演技下手すぎ……もっとヒロっちみたいに自然に『正しい』とかキャラ立てないと人気配信者になれないって」
「……え……!?えっと……おじさんは、人気配信者になるつもりないんだけど……」
目をぱちくりさせた様子のミリアに、ココが人差し指を左右に振ってみせる。
「そんな考えでは甘いっ!例えゲストであっても……いやゲストだからこそ、配信を盛り上げるために全力を出すべし!コレ、あてぃしの配信者としての心得だから」
(配信者側の意見としてはそうだろうが……人気実況者にならないというミリアの主張は、どうやらココの耳に入っていないようだ)
私はココの配信論について少しだけ考えつつも、それはそれとして明確な暴言を聞き逃さなかった。
「ココ……!私の正しいという口癖は、安易なキャラ立てなどでは断じてない。訂正してもらおうか」
「え、まさかヒロっちがそんなにキレるなんて……自覚なかったん?狙ってないのならむしろよりヤバめだけど」
「な……!?」
なにやら驚いているココだが、私が憤慨して周りの意見を聞こうとするとミリアとハンナも私から全力で目を逸らしており私は愕然とした。
ちなみに私たちのこの会話はラウンジで行われている。人が自然に通りすぎる場所であり、当然数日間他の少女が足を止め、私たちのやりとりに耳を傾け笑顔になる機会が増えた。一見ふざけ、じゃれ合って遊んでいるようにしか見えないような他愛ないやりとり。そのやり取りこそに私の狙いはあった。
(少女たちのミリアへの態度は、次第に軟化しつつある……ミリアがどこか可愛らしい、ユーモラスな仕草と立ち振る舞いを続けていることも大きい。人間、ずっと怯えたままの人物を警戒し続けることは難しいものだ)
私は目論見が上手くいっていることを実感しながら、ココに少しだけ角度を変えた話題を切り出した。
「……ところでココの配信活動の同接人数には、良い変化はあったのかな?」
「まあ、少しね……ヒロっちが宣伝みたいなのしてからちょくちょく見に来てくれる人は増えたけど、大体ずっと同接人数は2~3人ってトコ」
以前より多少増えたとはいえ、ココはこの同接人数に満足していないのかどこか不機嫌そうだった。
「でもお嬢とおっさんは、たまに配信見に来てもあてぃし無視してコメントでいちゃついてて……ナノカはずっと見てるけど、どう考えてもおっさん監視してるだけだし……案外純粋に見てるんって、ちらちらとだけどしっかり見てくれるメルちゃんぐらいだわ」
「メルルは、ゲストとしてココの配信に出演してくれたりもしたな」
「メルちゃん、涙を流して喜んでくれたよなー。あんだけ喜んでくれたら配信者冥利に尽きるっつーの」
けらけらとココが笑っている。私が露骨に持ちあげてから、ココは最近機嫌が良いようだった。
(……配信活動は、ココの精神を保つ心のオアシスなのかもしれないな……まて)
私はココの先ほどの発言に一つ、違和感を覚えた。
(牢屋敷が搭載した配信用のアプリ……コメントをするまでは、誰がココの配信を見ているのか分からないはずだ……なぜ、ココはナノカがココと私達の配信を監視していると分かった?)
私の疑念が膨らんだ心中も知らずに、ココが文句を垂れてくる。
「つか肝心のヒロっち、あんまりあてぃしの配信見てないじゃん……あんなに褒めたの嘘だったん?」
「……すまない。リーダーである以上、どうしても忙しくはなってしまう」
(やはりおかしい。私が配信について詳しくないから、見落としがある可能性も否定できないが……これはココの魔法か……?少し親しくなった今なら、良いタイミングかもしれない。聞いてみるか)
私はココに探りを入れようと口を開きかけたが、タイミング悪くマーゴがラウンジにやってきた。
「ヒロちゃん……ヒロちゃんとの二人きりのデートの日程を、今日にして貰えないかしら。その方がきっと、ヒロちゃんも都合がいいでしょう♡」
(こ、こいつ……!)
マーゴのとんでもない爆弾発言に、ラウンジ内で黄色い声が上がる。
「ヒロさんと、マーゴさんが……ででで、デートですって!?は、はれんちですわー!」
「おお……最近の子達は、進んでるんだね!そういうことなら、おじさんたちには構わずにヒロちゃんはマーゴちゃんと楽しんでくればいいよ!」
「これスクープにしたらバズるくね?」
「……ちがう。単なる牢屋敷の散策だから、君たちは勘違いをしないように……特にココ」
「うんうん、まーあてぃしは分かってるから」
得意気に頷くとても分かっていなさそうなココを白い目で見て、私は改めてマーゴを睨んだ。
マーゴは口元に手を当てて、とても楽しそうに笑っている。
(どいつもこいつも……何を言っても無駄なようだ)
苛立つが、自己弁護をしてもこのような場ではヒートアップさせるだけだと経験則が言っている。これ以上はどうにもならなそうだと私は悟った。
「分かった……約束だからな……マーゴと牢屋敷の中を見て回るとしよう。悪いが、失礼する」
私はココたちに軽く頭を下げると、マーゴに向き直る。
「ヒロちゃんは、しっかりエスコートしてくれるのかしら」
「いいや……君は、自分の足で立つ姿の方が似合っているよ。きっとその方が美しい」
「あら、殺し文句は、デートの最後に持ってくるものよ?それじゃあ行きましょうか」
「……マーゴ。後で覚えていろ」
「あら、怖い♡」
まだココもハンナもミリアも黄色い声をあげ続けていたが、私は少女たちの好奇の視線を断ち切るようにマーゴとその場を後にした。
私は歩きながら無言で怒りを全身で表現していたが、なおもマーゴは煽るように話しかけてくる。
「素晴らしい手腕だったわね、ヒロちゃん。ここ数日でミリアちゃんの孤立を防ぎながら、ヒロちゃんのリーダーとしての立場も確立させられたんじゃないかしら」
「……忌々しいが、この程度ならレイアの方が早くできただろう。それに、地盤固めを優先した結果、アンアンやアリサ等の問題児との交流を後回しにしてしまった。散々好き勝手言ってくれたのだから、他の人間との緩和剤になることで私の役に立ってもらおうか、マーゴ」
「安心していいわ♡私、縁の下の力持ちは得意だから」
(人間関係を破綻させることも、得意そうだな……)
澄ました顔のマーゴに不安が募りながらも、私は牢屋敷の探索を開始した。