百八十度ノ魔女裁判   作:ミズハ

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のあのへや

 私たちはまず、ノアとアンアンが利用している監房を訪れた。優先順位からくる道筋としては正しい判断だろう。

 ノアの芸術作品の出来には興味がないが、食事の際に食堂に集合しない、スプレーで共同生活をおくる場所を汚す等、ノアは話を聞く限りかなりの問題児のようだからだ。

 規律を守らないようなら、しつけが必要になるかもしれない。

 

 監房内を見るとノアは地面にスプレーで絵をかいていたようなので、声をかける。

 

 「ノアさん、こんにちはー!」

 「邪魔をさせてもらうよ」

 「ふんふんふーん♪ふんふんふーん♪」

 

 私とシェリーが声をかけると、物音に気付いたノアは顔を上げた。

 

 「あ、シェリーちゃんだ!それと……ええっと」

 「ヒロだ。私の名前は、二階堂ヒロ」

 「……そうそう、ヒロちゃん!……ごめんね、まだのあは人の名前と顔が一致していないんだ」

 「構わないさ……君の名前は城ケ崎ノアだったね」

 「なんで知ってるんだろ……?ヒロちゃんすごいね!」

 

 目をばちくりとさせ、少し驚いている様子のノア。

 会話の主導権を握ったようなので、さっそく本題に入ることにする。

 

 「……魔女図鑑にあったのでね。食事は済ませたのか?」

 「うん!レイアちゃんが持ってきてくれたの!のあはそんなにいらないんだけどね」

 「……酷い味なのは分かるが、栄養補給は必要だ。かかさず食べるように」

 「はーい」

 

 こちらの話を聞くつもりがあるのかないのか。ノアの様子はどこか他人事のようだった。

 

 「……食事の時間に、食堂にくるつもりはないのか?規律を守らないのは正しくない。それに……このスプレー缶は刺激臭がひどい、アンアンに本当に許可を取れたのか?」

 「……アンアンちゃん、良いって言ってくれたもん。そもそもアンアンちゃん、ずっと医務室を利用してるから」

「……!」

 

 ノアのあまりにも周りのことを考えていない態度に、私の語気が自然と荒くなる。

 

 「同居人を追い出しておいて、その態度か。もっとアンアンに感謝した方がいい。

きみの絵がいかに美しいものであったとしても、周りにとってみれば迷惑行為でしかない!」

 「……でも!アンアンちゃんとレイアちゃんは分かってくれたもん!のあが血を蝶に変えた時だって、みんなのあのこと、褒めてくれた!アンアンちゃん、あの時に体調を崩したんだよ!だからのあが魔法をかけたんだ。血の赤いのはみんな、蝶の絵にな~れって!」

 

「……ッ!」

 

 (エマが死んだ時か……!)

 

 私は頭を殴られたような気分になった。

 

 食堂でのレイアの話から、ノアの魔法は液体をどうにか変化するものだという推察はついていた。

 食堂でアンアンに許してもらったとはいえ、アンアンの体調不良の体調が私にあり、そしてノアがアンアンを助けていたのであれば、確かにノアからしてみれば私に怒られる筋合いはない。

 

 レイア達がノアにある程度甘い理由も納得できた。

 

  「……済まなかったね、ノア。心の底から謝罪するよ。アンアンにも、後で謝っておく」

 「……いいよ。ヒロちゃんがのあのことも大切に思ってくれてるのは、なんとなく分かったから。……でものあはお絵描きをしていないと、どうにかなっちゃうんだ。放っておいてくれないかな」

 

 言うことを聞かないノア相手に、私は一呼吸おいた。

 

 「……残念だがそれはできない。レイアと話をした後、許可を得ることができればまたきみを正しにくる。食堂にこないことも、絵のことも」

 

 今の自分には、ノアを止めることはできないことを理解できた。

 そうであれば、正しい方法を使って再度ノアを止めるだけだ。

 

 「……頑固なんだね、ヒロちゃん」

 「生まれつきのものでね」

 

 ぷくっと頬を膨らませるノア。彼女の価値観からすると理不尽なことを言われているというのに、なぜだか想像より穏やかな様子だ。仲の良い友達にからかわれたような反応を見せるノアに、少しだけ、軽い頭痛を覚える。

 

 (……ノアは、ユキに似ているのかもしれない)

 

 「ヒロちゃん……?」

 

 軽く頭を抑えた私に、心配そうな様子を見せるノア。

 ノアは私に声をかけようとしたようで―――

 

 「バルーン?」

 

―――それを塗りつぶすようなシェリーの喜びの声に、言葉が止まった。

 

 私が声の出どころを確認すると、シェリーは私たちの会話を聞いておらず、地面に描かれたキリンの絵を見て気分が高揚しているようだった。

 

 「ヒロさん、ノアさんの正体はバルーンかもしれませんよ!世界的に有名なスプレーアーティストです!高まってきちゃいました~!」

 「……!」

 

 ぴょんぴょんと跳ね回るシェリーに唖然とした。

 確かに、ノアの描いた絵は素晴らしいものに思える。

 とはいえ、バルーンは知らない一般人は少ないレベルの著名人だ。本当にそのような偶然があるのだろうか。

 

 「……本当なのか?」

 「そうだよ~!えへへ~照れるな~!」

 「すごいすごいすっごーい!ノアさんサイン下さい~!」

 

 にへらと笑うノアに、詰め寄るシェリー。

 私は心の中で大きくため息をつく。

 

(……レイアを説得するのも、その後にノアを説得するのも骨が折れそうだ)

 

 「……シェリー。一緒に探索するのなら、そろそろ次の場所に向かうとしよう」

 「え~!ひどいです!」

 

 あまりシェリーがノアの絵を褒めると、説得の成功が遠のくだけだ。

 私は暗雲がたちこめ始めた未来を嘆きながら、名残惜しそうなシェリーを引きずりその場を立ち去った。

 

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