百八十度ノ魔女裁判   作:ミズハ

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娯楽

 私とシェリーは、娯楽室に向かっていた。

 シェリーによればこの牢屋敷は精神が摩耗する環境なこともあって、娯楽室は少女たちが利用する頻度が高い部屋なのだという。

 

 (医務室、図書室と、ある程度確認しておきたい場所は周り終わった。

ならば、優先度は低いために後回しにしていた、他の少女と遭遇するために動いてみよう)

 

 私とシェリーが部屋に入ると、そこではミリアとハンナが同じソファで、仲良く並んで腰掛けていた。二人の距離は近く、ゆったりとスクリーンに映された映画を見ているようだ。

 

 「ミリアさん、ハンナさん、お邪魔しまーす!」

 「……シェリーさん、ですの……ひっ」

 

 シェリーが2人に声をかけると、ハンナは体をこわばらせながら私たちの方に向いた。

 私が視界に入った途端、小さく悲鳴をあげている。

 

 すかさずミリアは、映画を一時停止した。再生機器は古い時代のもののようだが、操作は手慣れているようだ。

 

 「ぶー、ハンナさん、そんなに怖がらなくてもいいじゃないですかー!酷いです!」

 「べ、別に怖がってないし……ちっとも怖くなんてありませんから!」

 「……説得力がまるでないようだが」

 「うっせーですわ!」

 

 ハンナは言葉だけ私に強気だったが、体はソファから立ち上がり場所を変える。

 私とシェリーから見て奥側に座りなおしてミリアにしがみつき、ミリアの陰に隠れてしまった。

 

 「こ、これって役得ってやつ?おじさんなんか興奮してきちゃたな……!」

 

 ……なぜかハンナにしがみつかれたミリアも、緊張したように体をこわばらせている。

 しかし小声でなにかをぶつぶつと呟いており、よく聞こえない。

 

 「……ミリア、声が小さすぎて何を言っているのか分からない。会話は正しい声量で行うべきだ」

 「う、うん!その通りだよねーあはは!うんうん、正しさは大事だよね!」

 

 

 ミリアはなにやら挙動不審だ。美人でなければ不審者になりえるかもしれないレベルであった。

 

しばらくわたわたしていたようだが、ごほんと空気を変えるように咳ばらいをする。

 

 「……ヒロちゃん、シェリーちゃん、ごめんね……ハンナちゃんには、もう少し時間が必要みたいなんだよね。少しトラウマになっているみたいなんだ。PTSDっていうほどは酷くないみたいだけどね」

 

 「確か、PTSDは治療が困難でしたけれどトラウマは克服できる可能性があったんでしたっけ!少しだけほっとしました!ハンナさん、早くメンタル治してください~!」

 

 「ぴっ!」

 

 シェリーがなれなれしくハンナに近づいたが、ハンナはそれに比例するかのように短い悲鳴をあげ、顔色がどんどん青くなっていく。

 

 (ハンナの私たちへの警戒は、緩まる気配がないな……どうしたものか。アリサやココのように、直接苛立ちをぶつけてきてくれた方が、まだ対話ができる可能性があるのだが……しかし、これが普通の女の子の感性なのかもしれないな)

 

 この牢屋敷の少女たちは全員十五歳前後のはずであり、その年頃であれば、猟奇的な笑みを浮かべて火かき棒を血まみれで振り下ろし続けた私のことを恐怖し、関わりたくないと遠ざけることは、一般的な感性とも言えるだろう。

 

 (……他の少女たちとの会話で、感覚が麻痺していたのかもしれないな……注意しておこう。……と考えている場合ではないな。シェリーを止めよう)

 

 「シェリー、今はあまりハンナを刺激するべきではないよ。彼女のメンタルを悪化するだけのようだ」

 「……そうですね、わかりました!」

 「今の私は、借金を背負っている立場だからね。足首を切り裂かれているのに無理に走ろうとした所で、傷口が開いて転ぶだけだ。今は元の姿に戻るための治療に専念させてもらうよ」

 「実はヒロさんのまわりくどい例え話、けっこう好きですよ!」

 「……全く褒められている気がしないんだが」

 

 「……騒がしい人たちですわね」

 

 私とシェリーの漫才じみたやり取りを見て、ほんの少しだけハンナの表情が緩んだ。

 毒気が抜けたのか、それともなにか心動かされるようなことを私が言ったからなのだろうか。

 

「……少しだけ。ほんの少しだけですけどヒロさんに興味がわきましたわ。でもごめんなさい。今は、顔を見たくありませんわね」

 

 「本当にごめんねヒロちゃん、シェリーちゃん!ハンナちゃんも悪気があるわけじゃないんだよ」

 「分かっている。映画鑑賞の邪魔をしたようだし、これで失礼するよ」

 「ハンナさん、ミリアさん!お邪魔しました!」

 

 (少しだけとはいえ、ハンナとの関係が改善されただけでもよしとするか)

 

 私とシェリーが部屋から立ち去ろうとすると、服のポケットの中から振動があり、支給されているスマホが鳴り始める。娯楽室の他の少女たちも反応した。どうやら私だけではなく、鳴っているのは少女たち全員のスマホらしい。

 

 (なんだ……?ゴクチョーからの伝達事項だろうか)

 

 私がスマホを操作していると、ミリアが喜びの声をあげた。

 どうやら、悪いしらせではなかったらしい。

 

 「ハンナちゃん!ココちゃんとレイアちゃんの生配信、始まるみたいだよ~!」

 「べ、べべ別に、お二人の配信なんて!興味がございませんわ!!」

 「ほっぺたが赤くなってるよ~!ほれほれ~!」

 「やめろ~!ですわー!」

 「よいではないか~!よいではないか~!」

 

 ミリアは、ハンナのほっぺたをつんつんしてからかっている。

 この二人は、相当関係が深まっているようだ。

 

 「……ハンナさんとミリアさん、仲睦まじくて何よりですね!」

 

 シェリーの声を聞きながら、私もスマホに視線を落とす。

 

 『やっほー!ココたんだよー!今日はあの超大物芸能人、蓮見レイアとのコラボ雑談回だよ!』

『……よく来てくれたね。キミたちだけの!麗しきリーダー、蓮見レイアだ……!』

 

 (……仕草が大袈裟すぎやしないか。いやこれは、芸能人としてのサガなのかもしれないな)

 

 レイアは開始の挨拶では決めポーズまで用意しており、明らかにココより張り切っている。

 ココも同じことを感じたのだろう、画面の向こうで早速レイアの気合の入りようをいじり始めた。

 

 『レイア、テンション高いじゃん!もしかして、ココたんに新たなライバル登場か~?』

 『そうだとも!友との高めあいがより人を華麗に、美しくするのさ……!』

 

 (……実はレイアは、愉快な性格をしているのかもしれないな)

 

 レイアは、ココと普段見せないような、軽快なやり取りをしている。私が意外なレイアの一面に驚いていると、レイアは改まり、本題を話し始めた。

 

 『……団結のために、これからは私も定期的に配信をしておこうと思う!皆、絶望してはいけない。この牢屋敷の理不尽から逃れることが必ずできると、私は信じているよ』

 

 画面の前で、微笑みを見せるレイア。

 

 (ギャップでカリスマを魅せる手法か……くっ、目が離せない。顔もいいようだ。……何を言っているんだ私は)

 

 『同接ヤッバ……ほぼ全員見てるじゃん!』

 

 

 ココもレイアのカリスマと、少女たちのレイアの人気に驚いているようだった。

 レイアはその後も牢屋敷の少女たちを励まし、元気付け続けて配信は終了する。

 

 「いや~!よかったね~!おじさん感動しちゃったよ!」

 「……そうだね。レイアの話術は見事だった」

 

 ココとレイアの配信は私にとってインパクトがとても強く、特にレイアに対してはやはり人望を集めてきたリーダーなだけのことはあると実感できた、大きな出来事だった。

 

 「ま、まあ、暇つぶしにはなりましたわね」

 

 (頬を赤らめて、必死に画面に食いついていたようだったが……深くは追及するべきではないな。私も人のことは言えない)

 

 「きみたちとも良い思い出ができた。今度こそ失礼するよ」

 「はい!高まりましたね~!レイアさんとココさんは、焼却炉室で配信していたみたいですね!会えるかは分かりませんが、次はそこに向かってみましょう!」

 

 「おじさんも楽しかったよ~!」

 

 私とシェリーは大きく手をふるミリアと、ミリアにつられて少しだけ、小ぶりに手をふるハンナと別れその場を後にした。

 

(以前から疑問に思っていたが、ミリアはなぜ一人称がおじさんなんだ……?)

 

 ……ほんの少しだけ疑問が生まれたが、それは気にしないことにしておいた。

 

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