百八十度ノ魔女裁判   作:ミズハ

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強気

 私とシェリーは、レイアとココが先ほど配信をしていた場所である焼却炉室へとやってきていた。

 

 「あれー?レイアさんとココさんの姿が見えませんね。別の場所に行ってしまったのでしょうか?」

 「……私たちは放送が終了するまで時間をつぶしていたのだから、おかしな話ではないさ。ノアとアンアン相手に交わした約束は、食事の時間にでも改めてレイアとしておこう」

 

 (……それに、親睦を深めることができたのか怪しいところだっただろうからな。むしろ、遭遇しなくて良かった可能性は否定できない)

 

 あえて口には出さなかったものの、それは私の、現状の率直な見立てでもあった。

 

 私はレイアの能力と人格を好ましく思っているが、そのレイアは私を警戒しているようだし、よくレイアと共に居るココは明確に私を嫌っている。焼却炉室で遭遇をしなかったことで、重要な話し合いの前に、レイアを刺激する可能性があった未来を免れたとも言えるだろう。

 

 (親睦を深めることは、後でもできるからな)

 

 優先順位を明確にしておけば、正しい行動ができる。

 私は気持ちを整理し終わって、焼却炉室を軽く見渡した。

 ……とは言っても、この部屋はゴミを燃やすための空間でしかないのだが。

 

 「ここは毎週月曜日の15時に、焼却が行われるようですね。証拠隠滅をするにはピッタリかもしれません!」

 「……物騒なことを言うな、縁起でもない」

 「探偵なので、事件が起こる前に怪しい所には目を付けておくんです!」

 「……きみには、何を言っても無駄なようだな」

 

 シェリーの無邪気さは、人を不安に陥れようとするマーゴとは別の方向性でたちが悪い。単純に事件が起こるのが楽しみで、縁起でもないことを口走っているからだ。

 

 だが、他の人間からは口論しているように映るかもしれないやり取りの最中でも、不思議と私とシェリーの間に険悪な雰囲気はない。

 

 (……やはり、私とシェリーは根本の感覚が合っていないな。それにも関わらず、私はそのズレを受けいれようとしている……人の縁というものは、分からないものだ)

 

 

 私とシェリーは焼却炉室を出て、階段を上がっていく。

 

 

 

 地下一階から出た私たちは、驚愕に目を見開いた。

 看守がアリサを抱えていたからだ。これにはシェリーも、思わず驚きの声を漏らす。

 

 「おー!アリサさん、連行中みたいですね!」

 「おい!てめえ!離せよ……!ハエ女も楽しそうにこっち見んな!ちくしょう!」

 

 看守と、看守に捕まりじたばたともがいていたアリサは、私とシェリーを通りすぎて地下へと向かっていった。

 一瞬の出来事であったため、少し戸惑いを覚えてしまうほどだった。

 

 (アリサは、何か規則違反をしたのか……?)

 

 疑問が思い浮かんだ私とシェリーの耳元に、バサバサとかすかな羽音が聞こえた。

 音の方向を確認すると、ゴクチョーが飛んできている。

 

 「おや。二階堂ヒロさんに、橘シェリーさんですね」

 「……!」

 

 警戒心を強める私を守るかのように、シェリーが前に出てきた。

 

 「ゴクチョーさんとお会いできるなんて、ラッキーです!先ほどのアリサさんはどうしてしまったのでしょう!?」

 

 シェリーが率直に疑問をぶつけ、ゴクチョーは丸い首を軽く、ぐるりと回した。

 どうやら返答を考えているようだ。

 

 数秒ほどの後に、ゴクチョーが広げていた羽を閉じる。

 

 「そうですね……かわいそうなので、特別に教えてあげましょう。アリサさんは塀を魔法で燃やそうとして、懲罰房送りになりました。ヒロさんと同じく、2日間は出すつもりがありません。規則を破ったのですから、当然のことです」

 

 (アリサの魔法は、炎を生み出すものなのか)

 

 私は思わぬところで情報を手に入れてしまい、喜びより戸惑いの気持ちのほうが強かった。

 ゴクチョーは勝手に囚人の魔法を明かしてしまったが、悪びれた様子はない。

 少女のプライバシーなどは管理者側からしてみたら、どうでもいいことなのかもしれなかった。

 

 ゴクチョーはその後も隣人の噂話をするかのような気安さで、淡々とアリサについて話している。

 

 「前回懲罰房に入ってから1日も経っていないというのに、嘆かわしいことです」

 「……まて。アリサは、以前に懲罰房に入った経験があったのか?」

 「……めんどうですね。詳しいことはシェリーさんに聞けば、分かる話ですよ」

 

 私がシェリーを見つめると、シェリーは満面の笑みを浮かべる。

 

 「私に詳しいお話を聞きたいみたいですねヒロさんー!……と言っても、今回の出来事とそれほど変わりません。脱獄を試みたアリサさんが、1日だけ拘束されたってだけですよ!」

 「ま、そんなとこです」

 「……なるほどね、理解したよ」

 「それならなによりです。では、わたくしはこれで失礼します」

 「ありがとうございました!ゴクチョーさん!」

 

 ゴクチョーは面倒そうに、のそのそと体を起こすと、懲罰房の方に飛び去っていった。

 

 私はシェリーがゴクチョーに大きく手を振っているのをぼんやりと見つめながら、思案を巡らせていた。

 

 (……わざわざシェリーに説明させずとも、直接ゴクチョーが返事した方が早かっただろうに。どうやらゴクチョーは、相当ものぐさな性格をしているようだ……それにしても、アリサが2日間の拘束か。レイア達との話し合いへの不安要素が減少したということだけなら、追い風かもしれないが……)

 

 私は、自らが懲罰房で受けた、数々の屈辱的な羞恥と暴行を思い出していた。

 耐えられるものではあったが、だとしても決して甘いものであった訳でもない。

 率直に言ってしまえば、懲罰房行きは二度と経験したくはなかった。

 

 (とても喜ぶ気持ちには、なれないな。むしろあの拷問に耐え抜いた後で、再びすぐ脱獄を企てるアリサの根性に感嘆しているぐらいだ……どうやらアリサは、口調だけが強い人間ではなかったらしい。その精神力の強さは覚えておこう)

 

「……アリサが無事で済むことを祈っておこうか」

「そうですね!」

 

 私は内心で少しだけアリサの評価を上げ、他の場所を探索することにした。

 

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