ひよりと気持ちを確かめ合ってから数日。
私たちは以前のように一緒に登校し、昼休みも隣に座り、放課後は温室で過ごすようになった。
ひよりが隣にいるだけで、世界が少し明るく見える。
歩く速度も、話す声も、笑うタイミングも、自然と合ってしまうのが嬉しかった。
――幸せだ。
そう思う瞬間が増えた。
ひよりの笑顔を見るたびに胸が温かくなり、手が触れそうになるたびに心臓が跳ねる。
こんな日々が続けばいい、と素直に思えた。
けれど、ひよりの笑顔の奥に、時折ふっと影が差すことに気づいていた。
ほんの一瞬、表情が曇る。
視線が遠くへ向く。
そのたびに胸がざわついた。
まるで、私の知らない場所へ心だけが置き去りにされているようで、不安が小さく膨らんでいく。
ある日の放課後。
温室でスケッチをしていると、ひよりがぼんやりと外を見つめていた。
夕陽がガラス越しに差し込み、ひよりの横顔を淡く照らしている。
その横顔はどこか寂しげで、胸がきゅっと痛んだ。
ひよりの肩越しに見える夕焼けは美しいのに、ひよりの瞳にはその色が映っていないように見えた。
「ひより?」
声をかけると、ひよりは少し肩を揺らし、我に返ったように瞬きをした。
「……あ、ごめん。ちょっと考えごと」
ひよりは笑ってみせたけれど、その笑顔はどこかぎこちない。
ひよりの笑顔はいつも太陽みたいに明るいのに、今日は薄い雲がかかったようだった。
「最近、疲れてる?」
思わず問いかけると、ひよりは首を振った。
「大丈夫だよ。真白といると元気になるし」
その言葉は嬉しかった。
でも、胸の奥に小さな不安が残る。
ひよりは強い。
誰よりも前向きで、誰よりも頑張り屋で、誰よりも優しい。
でも、強い人ほど、誰にも言えない悩みを抱えてしまう。
ひよりが無理をして笑っているのだとしたら――そう思うと胸が痛んだ。
私は筆を置き、ひよりの隣に座った。
ひよりの肩が少しだけ揺れ、驚いたようにこちらを見る。
「無理しないでね。ひよりが辛いときは、ちゃんと言って」
ひよりは目を瞬かせ、少しだけ目を伏せた。
その仕草が、ひよりの心の奥に触れたようで、胸が締めつけられる。
「……真白って、ほんとに優しいね」
その声は、どこか寂しげだった。
ひよりの笑顔の裏に隠れている影が、ほんの少しだけ見えた気がした。
私はそっとひよりの手に触れたくなったけれど、触れたら泣いてしまいそうで、そっと拳を握りしめた。
――ひより、何を抱えているの?
その問いは胸の奥に沈んだまま、言葉にならなかった。