ひよりが泣き疲れて眠ったあと、私はしばらくその寝顔を見つめていた。
涙の跡がまだ頬に残っていて、まつげは少し濡れている。
寝息は静かで、胸が上下するたびに布団がわずかに揺れた。
その姿は、普段のひよりとはまるで違って見えた。
ひよりは強い。
誰よりも前向きで、誰よりも努力家で、誰よりも優しい。
でも、強い人ほど、限界を超えるまで誰にも頼らない。
ひよりはいつも「大丈夫」と笑って、自分の痛みを隠してしまう。
その強さが好きだったけれど、今はその強さがひよりを苦しめているように思えた。
――私は、ひよりを守りたい。
胸の奥で、静かに、でも確かにそう思った。
ひよりが泣きながら「怖い」と言ったとき、私は初めて気づいた。
ひよりは強いけれど、壊れないわけじゃない。
誰かに支えてほしいときだってある。
その『誰か』に、私はなりたいと思った。
翌朝、様子を見にひよりの家に行くと、まだ少し目を腫らしたひよりが玄関から現れた。
私の顔を見て、無理に笑ってみせた。
「休んだほうがいいよ」
私は思わず言った。
ひよりの足の怪我も、心の傷も、まだ癒えていないのがわかっていたから。
「行く。真白と一緒にいたいから」
その言葉に胸が熱くなる。
ひよりは私の存在を必要としてくれている。
それが嬉しくて、でも同時に胸が締めつけられる。
ひよりが無理をしているのが、痛いほど伝わってきたから。
学校に着くと、ひよりはいつも通り笑っていた。
友達に声をかけられれば明るく返事をし、授業中も真面目にノートを取っていた。
周りから見れば、ひよりはいつものひよりだ。
でも、私は気づいていた。
その笑顔の奥に、まだ痛みが残っていることを。
ひよりの目の奥にある影は、昨日より薄くなったようで、でも完全には消えていなかった。
昼休み、ひよりが席を立とうとしたとき、足を少し引きずった。
その瞬間、胸がざわっと波立つ。
「ひより……!」
思わず声が出た。
ひよりは驚いたように振り返り、すぐに笑ってみせた。
「大丈夫。ちょっと痛むだけ」
「無理しないで」
「無理してないよ」
ひよりは笑ったが、その笑顔は薄かった。
ひよりの笑顔は本来、太陽みたいに明るいのに、今は曇り空のように弱々しい。
その違いが、胸に痛いほど突き刺さる。
放課後、私はひよりの手を取った。
ひよりの手は少し冷たくて、指先がかすかに震えていた。
「温室、行こう」
ひよりは驚いたように目を瞬かせたが、すぐに頷いた。
その頷き方は、どこかほっとしたようにも見えた。
ひよりも、きっと誰かに寄りかかりたいのだ。
その『誰か』が私であってほしいと、心から思った。
温室へ向かう廊下を歩きながら、私はひよりの手を離さなかった。
ひよりも離そうとしなかった。
その温もりが、これからの私たちの決意を静かに確かめ合っているようだった。